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一の罪状
エリミネーター
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************
夜の街路樹を歩く幸人の姿。まだこの時間帯は街灯もちらほら見える。
だがそれでも幸人の姿は、自然な程に闇に溶け込んでいた。
「もうすぐ冬とはいえ、この時間帯は冷え込んでくるぜ……やだやだ」
幸人の左肩に乗ったままのジュウベエが、溜め息混じりにそう呟く。
“猫は寒いのが苦手”
“猫は炬燵で丸くなる”
非日常な一点を除けば、ジュウベエは普通の黒猫にしか見えない。
「…………」
幸人は無言で歩みを進める。
本当に寒い夜だった。
季節は十月の半ばに差し掛かっており、秋も終わりに近付いてはいるが、その冷え込みは冬の到来と言って差し支えない程の。
“だがこの寒さは果たして季節のせいだけ?”
それはまるで、これから起こる事を暗に示すかの様に。
************
幸人は町外れの廃校、その正門前で歩みを止める。
「相変わらず不気味なとこだな……。こんなシケたとこでやんなくてもいいのにな」
ここは二人がいつも訪れる場所。だがいつ来ても愉快な場所で無い事は、ジュウベエの反応からしても明らかだ。
その荒れ具合から、廃校になってゆうに十年以上は経過しているだろう。
地元では有名な心霊スポットとして、また呪われた校舎として近寄る者はいない。
幸人は特に臆する事無く、校舎内へ歩みを進める。
行き先はいつも決まっていた。
「やれやれ……虎穴に入らずんば、鬼を得ずってか?」
「……虎穴に入らずんば、虎子を得ずだ。まあ……あながち間違ってはいないがな」
冗談混じりに入口に向かう二人(否、一人と一匹か)
不気味にそびえ立つ二階建ての木造校舎が、二つの黒い存在を更なる闇で呑み込む様に、徐々にその姿を掻き消していくのだった。
************
室内に足を踏み入れた幸人は、眼の瞳孔のみで辺りを見回す。
室内は闇に覆われ、内部の全貌は視覚出来ない。
恐ろしい程の暗黙の静寂(しじま)
ただ、月明かりに照らされた僅かな残光を背に、奥にある長机に肘掛けた何者かが鎮座しているのが見える。
「ようこそ闇の仲介所へ……」
闇を纏いし何者かが、これまでの静寂を打ち破るが如く口を開く。
「お待ちしておりました。如月……幸人さん」
声帯から女性と思わしきそれは、明らかに幸人に向けて放たれているものだった。
「ん? いつもの奴と違うな……。また変わったのか?」
囁く様に呟くジュウベエのそれは、目の前の人物に見覚えが無い事を意味している。
「……新規か?」
それは幸人も同感だったらしく、警戒心を解かないかの様な口調で訊ねていた。
その顕れとして、その間には約二メートルもの空きがあった。お互いすぐに手を出せる距離には無い。
「この業界での御仕事は大変ハードなものですし、前任者は一身上の都合により解任と“なりました”」
解任したでは無く、なりましたと。
そう意味深な説明口調で呟きながら、机上のノートパソコンを開き、目まぐるしく操作している女性と思わしきその人物。
机から垣間見える組み込んだおみ足は、見事な曲線美を描くだけでなく、妖艶な淫靡さまで醸し出している。
ビジネススーツを着用し、パソコンに向かうその姿は一流のキャリアウーマンを連想させた。
だがその口調とは裏腹に、幸人達を認識しているのか皆目伺えない。
何故なら。
「なあ幸人……なんか胡散臭くねえか?」
その人物は操作していた手を止め、液晶画面を注視していたと思わしき顔を上げる。
「あぁ申し遅れました。私(わたくし)……今回より後任として仲介役を務めさせて頂きます――」
艶やかで直線的、腰まで届きそうな長い黒髪。
だがその妖艶かつ、蠱惑的な出で立ちには余りにもそぐわない――
「消去代行請負組織“狂座”仲介部門所属。コードネーム『琉月(ルヅキ)』と申します。以後お見知りおきを……」
琉月と名乗り出たその人物の表情を覆い隠す様な、無機質な笑みの白い仮面が印象的だった。
「ああ、やだやだ! せっかくスタイル抜群なのに、仮面が台無しにしてるじゃねえか勿体無い……」
ジュウベエが琉月の仮面姿に、不満の意を述べる様に捲し立てる。
「いや待てよ? 仮面の裏には絶世の美女が! いや逆も有り得そうだな……」
それはおよそ猫とは思えぬ思考回路。
「ジュウベエ……少し黙っててくれ……」
そんなジュウベエを、呆れた様な口調で幸人が諭す。
「いいじゃねぇか。どっちにしろ分かりゃしねぇよ」
“他には分からない”
それは猫の言語が漏れても、問題では無い事を意味しているのか?
「フフフ……」
二人のやり取りを、表情こそ分からぬが、微笑ましいものを見るかの様な口調で琉月が微笑の声を漏らす。
「噂には聞いていたのですが、貴方は動物と心通わせ、会話出来るというのはどうやら本当みたいですね。その黒猫ちゃんは、どんな事を話しているのでしょうかねぇ……」
そう悪戯っぽく二人に向ける琉月。
どうやらジュウベエの言葉は、琉月やその他には分からず、これは幸人のみが通じるものらしい。
「そんな事より、人と話す時は仮面位外したらどうなんだ?」
「おっ! 分かってるね幸人。やっぱ気になるんだろ?」
茶化すジュウベエを無視するかの様に、幸人は琉月に素顔を見せるよう促していた。
だがそれは下心からでは無い。
仮面のままでは、信用に値しない“何か”を、感じとっていたからなのだろう。
「人は誰しも仮面を付けて生きているもの……。貴方もそうでしょう? 幸人さん……いえ――」
琉月は仮面を取る事を拒否しているだけでなく、逆に幸人へ問い返す。
「執行部門かつ、狂座の象徴たるエリミネーター……」
その意味深な単語と含みを幸人へ向けて。
「消去人……コードネーム『雫(シズク)』さん?」
夜の街路樹を歩く幸人の姿。まだこの時間帯は街灯もちらほら見える。
だがそれでも幸人の姿は、自然な程に闇に溶け込んでいた。
「もうすぐ冬とはいえ、この時間帯は冷え込んでくるぜ……やだやだ」
幸人の左肩に乗ったままのジュウベエが、溜め息混じりにそう呟く。
“猫は寒いのが苦手”
“猫は炬燵で丸くなる”
非日常な一点を除けば、ジュウベエは普通の黒猫にしか見えない。
「…………」
幸人は無言で歩みを進める。
本当に寒い夜だった。
季節は十月の半ばに差し掛かっており、秋も終わりに近付いてはいるが、その冷え込みは冬の到来と言って差し支えない程の。
“だがこの寒さは果たして季節のせいだけ?”
それはまるで、これから起こる事を暗に示すかの様に。
************
幸人は町外れの廃校、その正門前で歩みを止める。
「相変わらず不気味なとこだな……。こんなシケたとこでやんなくてもいいのにな」
ここは二人がいつも訪れる場所。だがいつ来ても愉快な場所で無い事は、ジュウベエの反応からしても明らかだ。
その荒れ具合から、廃校になってゆうに十年以上は経過しているだろう。
地元では有名な心霊スポットとして、また呪われた校舎として近寄る者はいない。
幸人は特に臆する事無く、校舎内へ歩みを進める。
行き先はいつも決まっていた。
「やれやれ……虎穴に入らずんば、鬼を得ずってか?」
「……虎穴に入らずんば、虎子を得ずだ。まあ……あながち間違ってはいないがな」
冗談混じりに入口に向かう二人(否、一人と一匹か)
不気味にそびえ立つ二階建ての木造校舎が、二つの黒い存在を更なる闇で呑み込む様に、徐々にその姿を掻き消していくのだった。
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室内に足を踏み入れた幸人は、眼の瞳孔のみで辺りを見回す。
室内は闇に覆われ、内部の全貌は視覚出来ない。
恐ろしい程の暗黙の静寂(しじま)
ただ、月明かりに照らされた僅かな残光を背に、奥にある長机に肘掛けた何者かが鎮座しているのが見える。
「ようこそ闇の仲介所へ……」
闇を纏いし何者かが、これまでの静寂を打ち破るが如く口を開く。
「お待ちしておりました。如月……幸人さん」
声帯から女性と思わしきそれは、明らかに幸人に向けて放たれているものだった。
「ん? いつもの奴と違うな……。また変わったのか?」
囁く様に呟くジュウベエのそれは、目の前の人物に見覚えが無い事を意味している。
「……新規か?」
それは幸人も同感だったらしく、警戒心を解かないかの様な口調で訊ねていた。
その顕れとして、その間には約二メートルもの空きがあった。お互いすぐに手を出せる距離には無い。
「この業界での御仕事は大変ハードなものですし、前任者は一身上の都合により解任と“なりました”」
解任したでは無く、なりましたと。
そう意味深な説明口調で呟きながら、机上のノートパソコンを開き、目まぐるしく操作している女性と思わしきその人物。
机から垣間見える組み込んだおみ足は、見事な曲線美を描くだけでなく、妖艶な淫靡さまで醸し出している。
ビジネススーツを着用し、パソコンに向かうその姿は一流のキャリアウーマンを連想させた。
だがその口調とは裏腹に、幸人達を認識しているのか皆目伺えない。
何故なら。
「なあ幸人……なんか胡散臭くねえか?」
その人物は操作していた手を止め、液晶画面を注視していたと思わしき顔を上げる。
「あぁ申し遅れました。私(わたくし)……今回より後任として仲介役を務めさせて頂きます――」
艶やかで直線的、腰まで届きそうな長い黒髪。
だがその妖艶かつ、蠱惑的な出で立ちには余りにもそぐわない――
「消去代行請負組織“狂座”仲介部門所属。コードネーム『琉月(ルヅキ)』と申します。以後お見知りおきを……」
琉月と名乗り出たその人物の表情を覆い隠す様な、無機質な笑みの白い仮面が印象的だった。
「ああ、やだやだ! せっかくスタイル抜群なのに、仮面が台無しにしてるじゃねえか勿体無い……」
ジュウベエが琉月の仮面姿に、不満の意を述べる様に捲し立てる。
「いや待てよ? 仮面の裏には絶世の美女が! いや逆も有り得そうだな……」
それはおよそ猫とは思えぬ思考回路。
「ジュウベエ……少し黙っててくれ……」
そんなジュウベエを、呆れた様な口調で幸人が諭す。
「いいじゃねぇか。どっちにしろ分かりゃしねぇよ」
“他には分からない”
それは猫の言語が漏れても、問題では無い事を意味しているのか?
「フフフ……」
二人のやり取りを、表情こそ分からぬが、微笑ましいものを見るかの様な口調で琉月が微笑の声を漏らす。
「噂には聞いていたのですが、貴方は動物と心通わせ、会話出来るというのはどうやら本当みたいですね。その黒猫ちゃんは、どんな事を話しているのでしょうかねぇ……」
そう悪戯っぽく二人に向ける琉月。
どうやらジュウベエの言葉は、琉月やその他には分からず、これは幸人のみが通じるものらしい。
「そんな事より、人と話す時は仮面位外したらどうなんだ?」
「おっ! 分かってるね幸人。やっぱ気になるんだろ?」
茶化すジュウベエを無視するかの様に、幸人は琉月に素顔を見せるよう促していた。
だがそれは下心からでは無い。
仮面のままでは、信用に値しない“何か”を、感じとっていたからなのだろう。
「人は誰しも仮面を付けて生きているもの……。貴方もそうでしょう? 幸人さん……いえ――」
琉月は仮面を取る事を拒否しているだけでなく、逆に幸人へ問い返す。
「執行部門かつ、狂座の象徴たるエリミネーター……」
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