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4 やはりギルマス
しおりを挟む「妻と長男は少し混乱しているようだ‥すまないなメルア。お互いに積もる話もあるだろう。そうだ!今日から我が家に住みなさい!いや、おかえり、と言ったほうがいいかな?」
父のわざとらしい表情にうんざりする。
そう考えてるのは俺だけじゃないようで、
俺のすぐ近くでギルドのおっさんが嫌な覇気を出した。青年の父親的ポジション。いや兄貴分か‥。相当お怒りのようだ。
父も父だ。一緒に住むなんて兄と母親が失神しそうになってるぞ。うわ、まためんどくさくなりそうな予感が。
「っいい加減に‥してくださいッ‥今までメルアくんがどんな気持ちでッ」
おっさんがプッツンするより先に、後ろで控えていた茶髪の少女が父の方へと歩み出てきた。
みんな元気があってよろしい。
だけど、敵は選んだほうがいいぞ。俺は冷や汗をかく。
父の目が笑っていない。
「っえ‥?」
俺はすぐさま少女の手を引いて彼女を背後に隠した。
「な、なにするんですか!」
「ちょっと黙ってくれる‥?」
「っ、」
声を低くして、ことの重大さを理解させる。
少女も周りの雰囲気に気づいたようだ。
自分よりも上の立場の人間の会話中に、下のものが割り込んではいけない。
貴族のお堅い決まり事。
貴族達のギラギラと光る目は品定めしてるようで、吐き気がする。
頭の中は次のティーパーティーで、この子の話題をもちだしたら盛り上がるのでは?なんてそんなところだろう。だけど父はそうじゃない。
例えギルドの人間であっても、父のターゲットにされれば、どんな扱いを受けるかは容易に想像できる。
にこやかで寛容に見える父だが、
一番厄介な人間だということをこの子は知らないのだろう。
「ミヤム‥その子、何かあったのかい‥?」
「‥はい。緊張してしまって、少し気分が優れないようです。」
「なっ!?むぐっ」
「‥そう、それは大変だったね。」
少女が反抗しそうになったところでギルドのおっさんが彼女の口を手で覆った。
焦った。ナイスタイミングだぜおっさん。
父が興味を無くしたように視線をメルア青年に戻す。
「どう、だろうか‥?私は家族として君を受け入れたいんだ‥」
青年は少し間を置いてから、
俺の背後でおっさんに口を塞がれている少女へと視線を向けた。
「ありがとな‥リリス。」
「っぷは‥、へ?メルアくん‥?」
少女に優しく微笑むメルアくん。
キリッと顔を切り替えて父の方へ真っ直ぐと向き合った。なにを見せられてるんだ俺は‥。
「‥わかった。‥俺は、俺の家に帰るーー。」
「俺の、か‥。ああ、もちろんだとも‥。では、パーティーが終わり次第迎えを手配しよう‥。」
「あぁ‥」
その言葉を最後に、クルリとその場を後にするメルアくん。
その後を少女が追いかけていく。
いやいや、素直に家に戻ってくるんかーい。頼むから断ってくれよ‥君絶対何かする気でしょ‥全く、
俺はギルドのおっさんと同時にため息をついた。
うお、目が合った。
「‥君も、大変だな‥。」
思ったより優しい声で話しかけてくるものだから驚く。
てっきり嫌われてるのかと思ってたんだが。
「‥あ、はい。まあ‥色々‥。貴方も大変そうですね。」
「‥まあ、色々、な‥。若いのは何を考えてるのか分からん‥ああ、すまん。つい愚痴を。」
「いえ、俺も同意見です。」
うわ、なんだこの懐かしい感じ。上司と初めて趣味が一致して打ち解けた時みたいな。こそばゆい。
「はは、君も若いじゃないか。ミヤムくんだったか‥さっきはその、すまなかった‥。」
さっきとは、俺が青年にご挨拶した後の嫌味の事を言っているのだろう。謝る必要はない。俺だってあの立場なら文句の一つや二つ口から漏れていたはずだ。
「いえ、お気になさらず。」
「ありがとう‥俺はドラゴクリムゾンのギルドマスターをしてるオイルドだ。」
お、やっぱギルマスかー。雰囲気あるもんね。
「オイルドさんですね。知っているとは思いますが、俺はミヤム•サファイアです。よろしくお願いします。」
「ああ。ミヤムくん‥あいつを‥メルアをどうぞよろしく頼む‥。」
ガシリと握手を交わし、真剣な眼差しでそう告げられる。すまん。俺に頼まれても、申し訳ないがあの父親には敵う気がしない。
それに、俺のオアシスを荒らすつもりなら、彼は俺の敵になる。
「‥できる限りはサポートします。でも、あとは彼の行動次第ですね。」
「そうだな‥」
またお互いにハアとため息をつく。
何やらやらかしそうな彼が心配なのだろう。分かるよその気持ち。
俺の天国が荒らされそうな予感。どうか何も起きませんように。
そう願いながら俺はパーティーを憂鬱に過ごした。
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