ハーレム系主人公の弟に転生した

1 転生したら癒し系アニマル異世界ライフだった！

急な話だがどうやら俺は31才の冬初めに、
過労死で死んだらしい。

彼女無し、有給も休日も実質無いに等しいブラック企業の会社員だった俺。


気づけば、アニメや漫画のような剣と魔法の世界に転生していた。


「ミヤム！こいつをなんとかしろ！」

ミヤム•サファイア。
それが今世での俺の名前。

思い出したのは6才を迎える春の誕生日だった。
階段で足を滑らせた際、頭を強打し、流れるように思い出される記憶の数々。日本という国での生活が、鮮明に蘇ったのだ。

初めはそりゃ戸惑った。だけど案外慣れてしまえばなんてことない。
寧ろ、物語の中でしか見たことのない生物や、魔法という力を目にすることができて胸が躍ったぐらいだ。


俺の生まれたサファイア家は、貴族の中でも上位の階級に位置していて、
王家との繋がりも深い由緒正しき侯爵家。

と、表向きはではそう謳われているが、
実際、公爵の座を手に入れるためならどんなことでもする残酷な一家だ。

父親がよく怪しげな集団と密会しているのを何度も見たことがあるし、
母親に恥をかかせた一族が、賊に襲われて滅んだ。なんて話もよく聞く。

今は王家の一人娘である王女様の婿の座に、長男を嫁がせようと全力を尽くしている最中だ。

サファイア家2番目の息子に生まれた俺。

両親は長男である兄につきっきりで、俺への興味は皆無に等しい。

性格が捻じ曲がった兄からの嘲笑や罵声もよく浴びていたが、
子どもだから仕方がないと軽くあしらってしまえば問題はなかった。

こちとら日本で過ごした31年の経験値があるんだ。ちょっとやそっとの事じゃ動揺しない。
ましてや記憶を思い出して以降、家族に対しての愛情なんてものは持ち合わせていないわけで、
放任された方が自由に過ごせてありがたい。


趣味は兄がおねだりして闇市から飼ったクリアドラゴンの世話だ。

子どもがよくしがちな、飽きて世話をしなくなるパターン。
両親は兄に甘いので兄を叱りもしないし、ドラゴンも痩せこけて放置されていたので、勝手に世話をしている。

生態が詳しく知られていないクリアドラゴン。
体を完全に透明化することが出来るらしく、冒険に出て出会っていたとしても、殆どがその存在に気づかない。

どういう経緯でこいつが捕獲されたのかは不明だが、
逃すにしても知らない土地で生き残れるのか心配だし、
大きくなって自立できるようになるまで育てようと決心した。
その先にどうするかは、こいつが自分で決めればいい。

尻尾や耳、足の先など、体の一部分だけ透けているこいつを、クリアドラゴンから取って、クリアとそう名付けた。

クリアはまだ幼竜らしく、図体は幼い俺と大差ない。
世話をするにもどうしていいのか分からず、何事も手探り状態だったけれど、
ドラゴンの本を読み漁り、なんとか無事に健康体重へと回復させることができた。

最初は警戒していたそいつも俺が無害だと理解したのか、周りに人がいない時は常にひっついてくる。
今では小屋を抜け出して、俺のベッドで寝ているぐらいだ。

メスなのかオスなのかすら、いまだに判別できないけれど、
親兄弟に対して接するようにこれでもかと甘えてくるものだから、どうしようもなく愛くるしい。

何はともあれ、俺は充実してこの転生した日々を過ごしていると思う。前世では働き詰めの地獄のような毎日だったけれど、今世ではのんびり気ままに生きたい。

当主の座は、兄に任せるとして、
俺はクリアと穏やかに過ごそう。
ゆくゆくは動物ランドでも作って、癒し系もふもふ異世界ライフとかさ。なにそれ最高じゃん。
そんなハッピーでもふもふなな夢を描いた6歳。


流れるように9年の時が過ぎ、現在15才の春。

俺はとある事実を知る事になる。


「俺に気安く触れるなっ！」

銀髪に赤の瞳。ミステリアスと儚さを兼ね備えた整った容姿。凄まじい能力を持ちながらも、驕らず秘匿し学園に通う‥
その姿、まさにハーレム系主人公ーー。

の弟に転生してしまったって事に。