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こちら付与魔術師でございます 戦争と商売拡大編
こちら付与魔術師でございます Ⅷ さらばルイス
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そこからの小隊長の動きは速く、本来なら全員の税金のチェックが終わってから馬車を城壁の外へ出すのだがそれを無視し、馬車のみを先行で出してくれた。竜牙兵達は護衛に数体が残っただけで後は馬車と共に外へ出ている。
もっとも更に数体が門の扉が閉じられないように門の下に待機しているのだが・・・・・・。
「隊長さん、良いのですか?」
私の問いに小隊長は苦笑して答える。
「まぁ、な。正直あんたがいなければこの街は略奪され、破壊されていただろうからなぁ。街の破壊に関してはまぁ・・・・・・」
少しだけ小隊長は街の中心部に目を向ける。
「それに急ぐのだろう? ルイス公爵からは話は聞いている。本当は素通りでも良いのさ。ただなぁ、馬鹿な役人共が圧力をかけてきていてな、我々はしがない衛兵に過ぎないからな。お仕事さ」
私はやはりこの街を離れる決断をしたのは正解だったと思った。カサンドラ公爵が帰ってくれば色々と変わってくるのであろうがどこかでほころびが生じるはずだ。その時は今回程度の面倒で済むわけが無い。
「さて、あとはあなただけだ」
他の仲間達は私が小隊長と雑談をしている段階で手続きを終わらせている。みんなには支払う額が高くてもこちらで補填するのでトラブルは起こさないようにと言ってある。もっとも出入国の税金に関しては魔道具が優秀すぎて手を加えることが出来ないのだが・・・・・・。
若干一名、払えそうに無い者が居そうな気がしたので予防策として伝えていたのだ。
全て問題なく終わったみたいなので最後に私の番になった。算定された税金の額は金貨2枚。私はすぐに金貨2枚を出して支払う。指輪が徐々に色褪せ、ただの鉄の指輪へと変化した。
「いつもながら不思議な仕組みだ。付与魔術師としてはこの仕組みを解明してみたいものなのだがなぁ」
私の呟きに小隊長は苦笑する。
「それやってしまうと国単位で追われるぞ・・・・・・」
このシステム、確認されているほとんどの国で採用されている。しかしこの魔道具を作成した人物は名前すら公表されていない。
数千年は無故障で稼働していると言われるシステム、そして各国の税の仕組みを網羅しているシステムだ。数カ国を除いて。
なのでこのシステムの仕組みを知ろうとすること自体が重犯罪になる。解析を試みた者は捕らえられる。しかも戦争中だろうが関係無しで全国家が手を組み指名手配が掛かるという徹底ぶりだ。過去に数百人が解析しようとしたが容赦なく潰されている。
国家が介入しようとしたこともあったらしいが、その国は周辺国の連合軍により一夜にして滅び去ったそうだ。
カーソンはこの仕組みを解析しようとしたことは無い。リスクが高すぎるのだ。
もっともカーソンが知らないだけで本当は比較的身近な人物が構築したシステムなのだが・・・・・・。
「無茶なことは忘れな。さぁ、手続きは終了したぞ。あなたがこの街を去るのは残念だが良い旅をな。
そして我々一同、あなた様方には感謝しているということを心の片隅にでも止めておいてくれたら嬉しい」
衛兵詰め所にいた全員が出てきて私に敬礼をする。私はその様子に頭を掻きながら一礼をしてルイスの街を後にするのであった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
中央平原。
この国の半数近い戦力が集まっている。その本陣には4大将軍が集まっていた。打開策を探るためだ。もっとも誰しもが沈黙している段階で何も案は浮かんでいないのだが・・・・・・。
「で、ルイス公爵。打開策になりうる魔道具が届くのはいつなのだ?」
北を治める公爵、この2軍集団の総司令が低い声を上げた。相手は最低でも1個軍団を潰す程の戦力を持っているのだ。霧の中から時折現れるはぐれの集団は警戒中の騎士団が潰して回っているがそれは多岐の種族、生物の生亡き者であった。正直相手の戦力、構成が読めず対応が出来ていない。
今は2群集団の防衛陣地、ほとんど城塞都市と化しているが、を工兵隊と輜重隊が突貫工事中であり、それ以外に塹壕や簡易の堀なども張り巡らせられている。
「・・・・・・どうでしょうね。後2、3日だとは思うのですが・・・・・・」
カサンドラも平然とした表情で答えてはいるが実際は焦っていた。
(出来ている分だけでも取りに行かせるべきか・・・・・・)
元々各公爵軍から集めた精鋭300は別働隊として連携の訓練をさせている。それをルイスに向けて動かすだけだ。問題の可能性としてはカーソン達とすれ違うことくらいだろう。カサンドラはやはり動かすべきでは無いという結論に達し口を開こうとした。
「で、伝令御免!」
突然天幕の中に完全武装の騎士が飛び込んでくる。その後ろからは天幕を守護していた上級騎士が剣を振り上げていた。カサンドラは慌てて上級騎士と、伝令として駆け込んできた者の間に滑り込む。
「何事だ?」
総大将の声が天幕の中に響く。駆け込んできた騎士は息を切らせながらに言葉を発した。
「き、霧の中から・・・・・・我が王国の装備を着た者達が現れました。現在偵察の中隊と交戦中! 相手は、相手はゾンビです!」
絞り出すような声。天幕の中に最悪な空気が生まれる。誰も言葉を発しない。分かっていたことだが何とも言えない雰囲気がその場を支配し、駆け込んできた騎士の荒い息づかいだけが響いていた。
「構成と数は分かるか?」
総大将の声に伝令の騎士は歩兵のみだと応え、数は不明と答える。
「・・・・・・ルイス公爵、殲滅、もしくは押し返せるか?」
総大将の問いに答えを返す前にカサンドラは剣を帯びた。表情は険しい。相手の構成はともかく、数が不明なのだ。ただし此方の軍装と同じと言うことは王都守備隊から出て行方不明になった1個軍団、48000が最大だと考えていた。
「まぁ、それが私の役割ですので・・・・・・。それより陣地防衛の指揮をお願いいたしますよ。私達重装騎兵隊1大隊は集めた精鋭部隊を残して左側から突撃いたしますので」
カサンドラはそれだけ言うと突撃部隊の部隊長達と本陣の天幕を後にした。残された総大将と将軍達はすぐに駆け込んだ騎士を近くに呼び、陣地とその周辺の地図を拡げ進入経路の確認と防衛の方法を検討し始めるのであった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ゴトゴトと私達の馬車は夜道を進む。
普通の冒険者や商人、旅人達は夜間に移動したりはしない。夜はモンスターや死霊達の領域だからだ。そして人は夜間の戦いには向かない。ドゥェルグなどは夜目も利く。それでも圧倒的に不利だ。
しかしこの商隊は違う。夜の街道を馬車で全速力で走っているのだ。馬車の正面両端には煌煌と明かりが灯っている。しかしその明かりは多少の揺れはあるが街道を照らすだけだ。松明やランタンのように火が消えることも無い。
ルイスの街を出立して四刻。馬車は休憩無しで走り続けていた。当然御者たちも黙々と先を走る存在を制御している。
端から見たら恐ろしい景色だ。白い骨だけの馬が疲れること無く四本の足を動かし馬車を引いている。御者台には全身をお世辞にも上等とは言えない、寧ろボロのようなフードをすっぽりとかぶった御者が時折手綱を制御している。そして時折顔辺りのフードがはためき真っ白な貌が覗く。そこには肌が無く、肉すらも付いていない貌があった。もしこれが昼間だったら街道は大混乱になっただろう。そのような馬車が二十台程連なっている。
「ねぇ、カーソン。間に合うと思う?」
ルイスの街を出て暫くして、私達は馬を切り離した。
当然逃がしたわけでは無く、馬車を用立てた馬車屋と待ち合わせをしていたのだ。街道から少し外れたところで取引をする。二十台の馬車から切り離された馬は四十頭。馬車屋は【本当に必要ないのか?】と何度も聞き返してきた。
その心配してくれている馬車屋を安心させるため私は荷物の中から十数の袋を取り出し中身を地面に放った。袋の中身は大量の骨だ。
驚く馬車屋を尻目に私は魔術を行使してみせる。大量に蒔かれた骨は紡ぎ出す呪文によって徐々に姿を形成してゆく。私の呪文が途切れたとき、そこには八十頭以上の白骨化した馬が整然と並んでいた。唖然とする馬車屋を尻目に御者達が馬たちに手綱を付けそれぞれの馬車にひいてゆく。その御者達のローブの袖口からは白骨化した手先が覗いたとき、馬車屋達は何も語らず、黙って馬を引いてルイスの街の方へと引き返していった。
それからは一切の休憩は挟んでいない。
「んん、どうだろうな。期限的にはギリギリだろうなぁ。アラクネ達を拾う必要がなければ確実に間に合うのだがね」
夕方のやり取りを思い出していた私は馬車の天井を見上げる。
今、私達がいる馬車の中は二十m四方の広さがある。当然天井までは十m程ある。その中に私、バスティ、フォルテ、ミュール、ルールウ、ユーリカ、ミルトが各々好きなように座ったり寝転がったりしていた。因みにルーミィだけは別の馬車だ。
「今馬車が四頭立てで夜通し走っているからね、上手くいけば約束の日にギリギリかな? もっとも約束の日までに相手が動かなければなんだけどね」
そう、中央平原の謎に対して王国は精鋭用の武器を全て揃えてから霧の中へ打って出る事になっている。2軍集団が集結している為その陣容は広い。
また、駐屯地も砦程度では無く城塞都市レベルが建設される予定だそうだ。人足達も徐々に王国全土から集まっているという。
ただ、私はこれは悪手だと考えている。霧が覆った地域からは誰も戻ってきたり連絡が付いたりしてはいない。つまりその軍集団も集まっている人足達も同じ羽目になる可能性もあるのだ。
そう、20万近い人数が・・・・・・だ。
「相手が動くと厳しいだろうね。四公爵のうち三家が集まっているとはいってもね。それに相手の能力が見えない」
【りったいほろぐらふ】で正体は分かってはいるが能力までは分からない。あの後私は何度か【りったいほろぐらふ】を起動させ情報を探っていた。古代の知識の中にもその正体は明らかにされておらず、分かったことは神話に登場する存在だと言うことと、人工的に創造された神であるということのみであった。
「じゃぁさカーソン、あたしらは次にどこで商売をするんだい?」
ルールウが私の持ち込んでいる物を眺めながら脈絡も無く話題を変え、疑問を投げかける。
「あぁ・・・・・・、それなんだけどね、しばらくは行商をしようと思っているんだ」
私の言葉に馬車の中の全員がげんなりとした表情を浮かべた。馬車に揺られて気ままに旅をするのも良いと思うのだがね。
因みに現在の目的地でも商売をしようとは思っているが、少しだけ微妙なのでまだ伝えてはいない。今のうちに考えを伝えてみんなの意見を統一しておくべきなのかもとは思う。
「・・・・・・目的地も無しなのですか? アラクネ達も含めるとすごい数の移動になりますよね」
ミルトは手元に残した金貨を数えて積み上げては崩し、積み上げては崩しを止めずに問いかけてくる。
一度【飽きないのかと尋ねたところ、全く飽きない】という返事が返ってきたので放置することにした。商人としてはお金で遊ぶのは如何なものかとは思わないでも無いが人それぞれだからね。
因みにバスティは自らの得物を手入れしているし、フォルテとミュールは黙って眠っている。ユーリカは私から借りた魔道書を延々と読み続けている。
ミルトの問いに私は頭を掻く。
「それなんだよなぁ。先立つものも何とかしないといけないし、食料の確保、水の確保とやることが山積みなんだよなぁ。 最初の先立つものはカサンドラ公爵と話をして何とかしてみるけれどね」
私は懐からいくつかの牙を取り出した。ルールウがその手に握られている物をしげしげと眺める。金貨を数えていたミルトも興味が沸いたのか手を止め視線を移す。
「・・・・・・それって、竜牙兵?」
ルールウの問いに私は黙って頷く。
「カーソン・・・・・・、あんた武器商人やるつもり?」
ルールウが呆れたような声をあげるとその声に各人が反応し顔を上げ、私とルールウの方に視線が集中する。
「ん、ちょっと違うかな? どちらかというとレンタル業? 派遣業? かな?」
全員の顔に?マークが浮かぶ。
因みに【武器商人をやる?】と言われたのはスルーした。何しろ今現在武器を作成して届けている段階でその条件は満たしてしまっているからだ。
「いや、【りったいほろぐらふ】で知識を得ているときにさ、遙か古代では、物を相手に貸して金銭を受け取るという仕組みがあったようなんだ。何時間で幾ら、何日で幾らってさ。
ほら、大きな街でも娼婦が何刻で幾らって仕組みを使っているし、馬車何日で幾らって商売があるだろ? 当然傭兵なんかもそうだよね。規模がでかいだけでさ。
で、よく考えたら付与魔術で創り上げた竜牙兵やゴーレムを国家や戦場に貸し出すのも有りかな~って思ったんだよね」
「それってさ、傭兵業じゃないの?」
いつの間にか起きていたフォルテが欠伸を噛み殺しながら聞いてくる。
「まぁ、そうなるのかな?
唯さ、戦争が終わって回収するまでその場に留まらないといけないし、何しろ危険だから貸し出しか販売かで迷っているんだよね。
当然うちで働いていたゴーレムや、今、御者をやっている精鋭の竜牙兵みたいなのは売らない。売るのは完全に一般的な魔術師が使役できそうな下位の竜の牙で創った竜牙兵とかウッド、ストーンゴーレムまでだね」
私は先程みんなに意思を確認しようと思っていたから話の流れにその事を混ぜ込んでみた。私の答えにミュール以外の全員が考え込む。
ただ、私は自分の創ったゴーレム達を家族として見る癖があるので正直悩んではいる。
師匠からは【お前らしいよ。もっとも私はそこに惚れたんだがな】と言われた。
この悩みの件はまだ伝えない。これは私個人の問題なので彼女たちの決定や意見に狂いを生じさせたくないからだ。
「ま、まだ陣地に着くまでに時間はあるからゆっくりと考えるさ。目的地も決めないといけないからね。
みんなも何日か考えてみてよ。一緒に行ってくれると決めてくれたんだからみんなで意思を統一しよう。取りあえず今日は遅いからもう寝よう」
私は思い出した師匠との会話を頭の中から打ち消すように無理矢理会話を終わらせる。皆が各々自由に横になったのを確認して私は馬車の中の光を落とした。
薄暗い馬車の中には地を走る音と風の音だけが響くのであった。
もっとも更に数体が門の扉が閉じられないように門の下に待機しているのだが・・・・・・。
「隊長さん、良いのですか?」
私の問いに小隊長は苦笑して答える。
「まぁ、な。正直あんたがいなければこの街は略奪され、破壊されていただろうからなぁ。街の破壊に関してはまぁ・・・・・・」
少しだけ小隊長は街の中心部に目を向ける。
「それに急ぐのだろう? ルイス公爵からは話は聞いている。本当は素通りでも良いのさ。ただなぁ、馬鹿な役人共が圧力をかけてきていてな、我々はしがない衛兵に過ぎないからな。お仕事さ」
私はやはりこの街を離れる決断をしたのは正解だったと思った。カサンドラ公爵が帰ってくれば色々と変わってくるのであろうがどこかでほころびが生じるはずだ。その時は今回程度の面倒で済むわけが無い。
「さて、あとはあなただけだ」
他の仲間達は私が小隊長と雑談をしている段階で手続きを終わらせている。みんなには支払う額が高くてもこちらで補填するのでトラブルは起こさないようにと言ってある。もっとも出入国の税金に関しては魔道具が優秀すぎて手を加えることが出来ないのだが・・・・・・。
若干一名、払えそうに無い者が居そうな気がしたので予防策として伝えていたのだ。
全て問題なく終わったみたいなので最後に私の番になった。算定された税金の額は金貨2枚。私はすぐに金貨2枚を出して支払う。指輪が徐々に色褪せ、ただの鉄の指輪へと変化した。
「いつもながら不思議な仕組みだ。付与魔術師としてはこの仕組みを解明してみたいものなのだがなぁ」
私の呟きに小隊長は苦笑する。
「それやってしまうと国単位で追われるぞ・・・・・・」
このシステム、確認されているほとんどの国で採用されている。しかしこの魔道具を作成した人物は名前すら公表されていない。
数千年は無故障で稼働していると言われるシステム、そして各国の税の仕組みを網羅しているシステムだ。数カ国を除いて。
なのでこのシステムの仕組みを知ろうとすること自体が重犯罪になる。解析を試みた者は捕らえられる。しかも戦争中だろうが関係無しで全国家が手を組み指名手配が掛かるという徹底ぶりだ。過去に数百人が解析しようとしたが容赦なく潰されている。
国家が介入しようとしたこともあったらしいが、その国は周辺国の連合軍により一夜にして滅び去ったそうだ。
カーソンはこの仕組みを解析しようとしたことは無い。リスクが高すぎるのだ。
もっともカーソンが知らないだけで本当は比較的身近な人物が構築したシステムなのだが・・・・・・。
「無茶なことは忘れな。さぁ、手続きは終了したぞ。あなたがこの街を去るのは残念だが良い旅をな。
そして我々一同、あなた様方には感謝しているということを心の片隅にでも止めておいてくれたら嬉しい」
衛兵詰め所にいた全員が出てきて私に敬礼をする。私はその様子に頭を掻きながら一礼をしてルイスの街を後にするのであった。
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中央平原。
この国の半数近い戦力が集まっている。その本陣には4大将軍が集まっていた。打開策を探るためだ。もっとも誰しもが沈黙している段階で何も案は浮かんでいないのだが・・・・・・。
「で、ルイス公爵。打開策になりうる魔道具が届くのはいつなのだ?」
北を治める公爵、この2軍集団の総司令が低い声を上げた。相手は最低でも1個軍団を潰す程の戦力を持っているのだ。霧の中から時折現れるはぐれの集団は警戒中の騎士団が潰して回っているがそれは多岐の種族、生物の生亡き者であった。正直相手の戦力、構成が読めず対応が出来ていない。
今は2群集団の防衛陣地、ほとんど城塞都市と化しているが、を工兵隊と輜重隊が突貫工事中であり、それ以外に塹壕や簡易の堀なども張り巡らせられている。
「・・・・・・どうでしょうね。後2、3日だとは思うのですが・・・・・・」
カサンドラも平然とした表情で答えてはいるが実際は焦っていた。
(出来ている分だけでも取りに行かせるべきか・・・・・・)
元々各公爵軍から集めた精鋭300は別働隊として連携の訓練をさせている。それをルイスに向けて動かすだけだ。問題の可能性としてはカーソン達とすれ違うことくらいだろう。カサンドラはやはり動かすべきでは無いという結論に達し口を開こうとした。
「で、伝令御免!」
突然天幕の中に完全武装の騎士が飛び込んでくる。その後ろからは天幕を守護していた上級騎士が剣を振り上げていた。カサンドラは慌てて上級騎士と、伝令として駆け込んできた者の間に滑り込む。
「何事だ?」
総大将の声が天幕の中に響く。駆け込んできた騎士は息を切らせながらに言葉を発した。
「き、霧の中から・・・・・・我が王国の装備を着た者達が現れました。現在偵察の中隊と交戦中! 相手は、相手はゾンビです!」
絞り出すような声。天幕の中に最悪な空気が生まれる。誰も言葉を発しない。分かっていたことだが何とも言えない雰囲気がその場を支配し、駆け込んできた騎士の荒い息づかいだけが響いていた。
「構成と数は分かるか?」
総大将の声に伝令の騎士は歩兵のみだと応え、数は不明と答える。
「・・・・・・ルイス公爵、殲滅、もしくは押し返せるか?」
総大将の問いに答えを返す前にカサンドラは剣を帯びた。表情は険しい。相手の構成はともかく、数が不明なのだ。ただし此方の軍装と同じと言うことは王都守備隊から出て行方不明になった1個軍団、48000が最大だと考えていた。
「まぁ、それが私の役割ですので・・・・・・。それより陣地防衛の指揮をお願いいたしますよ。私達重装騎兵隊1大隊は集めた精鋭部隊を残して左側から突撃いたしますので」
カサンドラはそれだけ言うと突撃部隊の部隊長達と本陣の天幕を後にした。残された総大将と将軍達はすぐに駆け込んだ騎士を近くに呼び、陣地とその周辺の地図を拡げ進入経路の確認と防衛の方法を検討し始めるのであった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ゴトゴトと私達の馬車は夜道を進む。
普通の冒険者や商人、旅人達は夜間に移動したりはしない。夜はモンスターや死霊達の領域だからだ。そして人は夜間の戦いには向かない。ドゥェルグなどは夜目も利く。それでも圧倒的に不利だ。
しかしこの商隊は違う。夜の街道を馬車で全速力で走っているのだ。馬車の正面両端には煌煌と明かりが灯っている。しかしその明かりは多少の揺れはあるが街道を照らすだけだ。松明やランタンのように火が消えることも無い。
ルイスの街を出立して四刻。馬車は休憩無しで走り続けていた。当然御者たちも黙々と先を走る存在を制御している。
端から見たら恐ろしい景色だ。白い骨だけの馬が疲れること無く四本の足を動かし馬車を引いている。御者台には全身をお世辞にも上等とは言えない、寧ろボロのようなフードをすっぽりとかぶった御者が時折手綱を制御している。そして時折顔辺りのフードがはためき真っ白な貌が覗く。そこには肌が無く、肉すらも付いていない貌があった。もしこれが昼間だったら街道は大混乱になっただろう。そのような馬車が二十台程連なっている。
「ねぇ、カーソン。間に合うと思う?」
ルイスの街を出て暫くして、私達は馬を切り離した。
当然逃がしたわけでは無く、馬車を用立てた馬車屋と待ち合わせをしていたのだ。街道から少し外れたところで取引をする。二十台の馬車から切り離された馬は四十頭。馬車屋は【本当に必要ないのか?】と何度も聞き返してきた。
その心配してくれている馬車屋を安心させるため私は荷物の中から十数の袋を取り出し中身を地面に放った。袋の中身は大量の骨だ。
驚く馬車屋を尻目に私は魔術を行使してみせる。大量に蒔かれた骨は紡ぎ出す呪文によって徐々に姿を形成してゆく。私の呪文が途切れたとき、そこには八十頭以上の白骨化した馬が整然と並んでいた。唖然とする馬車屋を尻目に御者達が馬たちに手綱を付けそれぞれの馬車にひいてゆく。その御者達のローブの袖口からは白骨化した手先が覗いたとき、馬車屋達は何も語らず、黙って馬を引いてルイスの街の方へと引き返していった。
それからは一切の休憩は挟んでいない。
「んん、どうだろうな。期限的にはギリギリだろうなぁ。アラクネ達を拾う必要がなければ確実に間に合うのだがね」
夕方のやり取りを思い出していた私は馬車の天井を見上げる。
今、私達がいる馬車の中は二十m四方の広さがある。当然天井までは十m程ある。その中に私、バスティ、フォルテ、ミュール、ルールウ、ユーリカ、ミルトが各々好きなように座ったり寝転がったりしていた。因みにルーミィだけは別の馬車だ。
「今馬車が四頭立てで夜通し走っているからね、上手くいけば約束の日にギリギリかな? もっとも約束の日までに相手が動かなければなんだけどね」
そう、中央平原の謎に対して王国は精鋭用の武器を全て揃えてから霧の中へ打って出る事になっている。2軍集団が集結している為その陣容は広い。
また、駐屯地も砦程度では無く城塞都市レベルが建設される予定だそうだ。人足達も徐々に王国全土から集まっているという。
ただ、私はこれは悪手だと考えている。霧が覆った地域からは誰も戻ってきたり連絡が付いたりしてはいない。つまりその軍集団も集まっている人足達も同じ羽目になる可能性もあるのだ。
そう、20万近い人数が・・・・・・だ。
「相手が動くと厳しいだろうね。四公爵のうち三家が集まっているとはいってもね。それに相手の能力が見えない」
【りったいほろぐらふ】で正体は分かってはいるが能力までは分からない。あの後私は何度か【りったいほろぐらふ】を起動させ情報を探っていた。古代の知識の中にもその正体は明らかにされておらず、分かったことは神話に登場する存在だと言うことと、人工的に創造された神であるということのみであった。
「じゃぁさカーソン、あたしらは次にどこで商売をするんだい?」
ルールウが私の持ち込んでいる物を眺めながら脈絡も無く話題を変え、疑問を投げかける。
「あぁ・・・・・・、それなんだけどね、しばらくは行商をしようと思っているんだ」
私の言葉に馬車の中の全員がげんなりとした表情を浮かべた。馬車に揺られて気ままに旅をするのも良いと思うのだがね。
因みに現在の目的地でも商売をしようとは思っているが、少しだけ微妙なのでまだ伝えてはいない。今のうちに考えを伝えてみんなの意見を統一しておくべきなのかもとは思う。
「・・・・・・目的地も無しなのですか? アラクネ達も含めるとすごい数の移動になりますよね」
ミルトは手元に残した金貨を数えて積み上げては崩し、積み上げては崩しを止めずに問いかけてくる。
一度【飽きないのかと尋ねたところ、全く飽きない】という返事が返ってきたので放置することにした。商人としてはお金で遊ぶのは如何なものかとは思わないでも無いが人それぞれだからね。
因みにバスティは自らの得物を手入れしているし、フォルテとミュールは黙って眠っている。ユーリカは私から借りた魔道書を延々と読み続けている。
ミルトの問いに私は頭を掻く。
「それなんだよなぁ。先立つものも何とかしないといけないし、食料の確保、水の確保とやることが山積みなんだよなぁ。 最初の先立つものはカサンドラ公爵と話をして何とかしてみるけれどね」
私は懐からいくつかの牙を取り出した。ルールウがその手に握られている物をしげしげと眺める。金貨を数えていたミルトも興味が沸いたのか手を止め視線を移す。
「・・・・・・それって、竜牙兵?」
ルールウの問いに私は黙って頷く。
「カーソン・・・・・・、あんた武器商人やるつもり?」
ルールウが呆れたような声をあげるとその声に各人が反応し顔を上げ、私とルールウの方に視線が集中する。
「ん、ちょっと違うかな? どちらかというとレンタル業? 派遣業? かな?」
全員の顔に?マークが浮かぶ。
因みに【武器商人をやる?】と言われたのはスルーした。何しろ今現在武器を作成して届けている段階でその条件は満たしてしまっているからだ。
「いや、【りったいほろぐらふ】で知識を得ているときにさ、遙か古代では、物を相手に貸して金銭を受け取るという仕組みがあったようなんだ。何時間で幾ら、何日で幾らってさ。
ほら、大きな街でも娼婦が何刻で幾らって仕組みを使っているし、馬車何日で幾らって商売があるだろ? 当然傭兵なんかもそうだよね。規模がでかいだけでさ。
で、よく考えたら付与魔術で創り上げた竜牙兵やゴーレムを国家や戦場に貸し出すのも有りかな~って思ったんだよね」
「それってさ、傭兵業じゃないの?」
いつの間にか起きていたフォルテが欠伸を噛み殺しながら聞いてくる。
「まぁ、そうなるのかな?
唯さ、戦争が終わって回収するまでその場に留まらないといけないし、何しろ危険だから貸し出しか販売かで迷っているんだよね。
当然うちで働いていたゴーレムや、今、御者をやっている精鋭の竜牙兵みたいなのは売らない。売るのは完全に一般的な魔術師が使役できそうな下位の竜の牙で創った竜牙兵とかウッド、ストーンゴーレムまでだね」
私は先程みんなに意思を確認しようと思っていたから話の流れにその事を混ぜ込んでみた。私の答えにミュール以外の全員が考え込む。
ただ、私は自分の創ったゴーレム達を家族として見る癖があるので正直悩んではいる。
師匠からは【お前らしいよ。もっとも私はそこに惚れたんだがな】と言われた。
この悩みの件はまだ伝えない。これは私個人の問題なので彼女たちの決定や意見に狂いを生じさせたくないからだ。
「ま、まだ陣地に着くまでに時間はあるからゆっくりと考えるさ。目的地も決めないといけないからね。
みんなも何日か考えてみてよ。一緒に行ってくれると決めてくれたんだからみんなで意思を統一しよう。取りあえず今日は遅いからもう寝よう」
私は思い出した師匠との会話を頭の中から打ち消すように無理矢理会話を終わらせる。皆が各々自由に横になったのを確認して私は馬車の中の光を落とした。
薄暗い馬車の中には地を走る音と風の音だけが響くのであった。
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