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こちら付与魔術師でございます 戦争と商売拡大編

こちら付与魔術師でございます Ⅶ メイス納品とルイス領からの撤退 Ⅳ

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 さて、移動の日なのだが昼前までが忙しかった。
 今までの知り合いは全員が行動を共にすることを決めてくれた。現在、大急ぎで荷物の積み込み作業が行われている。

 「あー、その荷物はその馬車へ、そっちのはこっちの馬車へ頼む」

 私の指示のもと、20を超える竜牙兵が馬車へ荷物を運び込んでいた。あれから作業効率を上げるためさらに数体の竜牙兵を作成している。
 この竜牙兵、私が改良を加えたもので実に便利な代物だ。本来の竜牙兵は一度作成したら元に戻せないのだがこの竜牙兵は元の牙の状態へと戻すことが出来る。簡単に言えば都合が良い造りとなっているのだ。
 竜牙兵がちょこまかと動き回り荷物を運んでゆく。メイスは、作成を終えたゴーレムたちが次々と馬車へと積み込んでいる。5本ずつ収められた木箱が60箱。最初は竜牙兵にやらせようとしたが重すぎた。50kgほどの箱だから抱えられないことはないのだが如何せん効率が落ちる。それならばメイスも作成が終了したので役割を変えてみた。
 ちなみにここ数日徹夜続きだったミュールはすでに馬車の中だ。馬車に入った瞬間あっさりと寝落ちした。
 今、バスティとフォルテは自分の家に荷物をとりに戻っている。ミルトは眠たそうなユーリカと買い物に出かけさせた。4人とも途中で役所に寄り、市民権の返上をしてくるようにと伝えてある。ルールウは自宅の荷物を引き上げてきており、現在積み替えの真っ最中だ。
 そして……

 「カーソンさ~ん! 来たよ~!」

 元気の良い声が聞こえてきた。大きめのリュックを背負ったルーミィが歩いてくる。リュックの横にはいくつかの鍋やヤカンなどがぶら下がっているように見える。

 (う、うちに集まる女性たちはどうしてこう……)

 私はすぐに竜牙兵を呼び寄せ、ルーミィの元へと走らせた。突然走り寄ってきた竜牙兵に数歩後ずさり、慌てて回れ右をして走り出すルーミィ。それを追いかけるような形になった竜牙兵を見ながら私は大きなため息をついた。

 「ルーミィ、それは私のゴーレムだ! 逃げないで止まってくれ! 荷物を運んでくれるから!」

 私の大声にルーミィはこちらを見て急に止まる。当然後ろを走っていた竜牙兵は急には止まれない。

 ガシャーン かしゃーん

 二つの大きな音が響くそこには、リュックに括りつけた鍋などを撒き散らし荷物の下敷きになっているルーミィと、尻餅をつき鍋を頭にかぶった竜牙兵がいた。
 ゆらりと立ち上がる竜牙兵は鍋をかぶったままルーミィを助け起こす。ルーミィは背中にしょっていたリュックを下ろして竜牙兵に手渡しながら……大声で笑い出した。

 「あ、あはははははは、あはは、し、しぬぅ、あ、あははははは」

 腹を抱えるように笑うルーミィを見ながら首を傾げる竜牙兵。私はそっと竜牙兵に近づくと黙って頭の鍋をはずし荷物を運ぶように指示を出す。
 竜牙兵は私の指示に従いそのまま馬車のほうへと歩き出した。その前ではルーミィがまだ笑い続けている。
 私は笑い続けているルーミィの頬っぺたを伸ばすように引っ張った。

 「い、いふぁぃ、いふぁぃよ」

 突然の痛みに困惑するルーミィ。私を見つめてくるルーミィに私は真剣な目で語りかける。

 「なぁ、ルーミィ。竜牙兵はゴーレムとはいえ私の家族でもある。確かにいきなり骸骨が走ってきたら驚くのは無理もないが……、それでもその後に笑うのはどうかと思うが? 確かに面白い状況にはなっていたがな」

 「う、ごめんにゃしゃぃ……」

 ルーミィは私に頬を伸ばされたまま謝罪の言葉を述べる。私はそれを聞いてルーミィの頬から手を離した。

 「ま、今回は私も悪かった。急に竜牙兵を向かわせたのだからな。とりあえず後で彼に謝っておくようにな」

 私の言葉にルーミィは目を丸くする。

 「え、あ、あの骸骨、意思があるの?!」

 大声を上げるルーミィに私はキョトンとする。そういえば竜牙兵に意思を持たせる付与魔術師って私か師匠くらいだよなぁ……。

 「ああ。一応意思はあるぞ。自我って程ではないがそこそこの知恵はあるなぁ。ここにいるゴーレムや竜牙兵達はほとんどが意思を持っているぞ。そして、この後はアラクネたちとも合流するから心しておいてくれよ」

 私の言葉にさらに目を丸くするルーミィ。

 「あ、アラクネって魔物じゃない!? どうやって意思疎通するの?」

 ルーミィの言葉に私は頭を抱え込んだ。そういえば普通は魔物と言葉を交わしたりはしないのだった。もしかして私がおかしいのだろうか?

 「あ~、ん~、まぁ、普通に話せると思うがなぁ……」

 私の返答に【そんなわけあるか……】と半ば諦めたというか呆れた表情を作るルーミィ。

 「まぁ、なんにせよさっきの竜牙兵には謝っておいてくれたらありがたいな。それと骸骨じゃあないからな。あれも長く生きた竜の牙だ。そこいらの冒険者なぞ相手にならないくらいの手錬だからな。」

 「ごめん、区別が付かないよ~……」

 ルーミィは忙しく走り回る竜牙兵たちを見ながら涙目になっている。私は一つ溜息をつく。

 「わかった。ルーミィの専属の護衛にするから、後で向かわせる。そのときにでも……な」

 私の言葉にルーミィは黙って頷いた。

 「よし、じゃあルーミィはこの間店に連れてきた女性、ルールウというが、その女があそこらへんでぎゃあぎゃあやっているからそっちを手伝ってやってくれるか?」

 ルーミィは【うん!】と大きく頷いて笑顔を浮かべながらルールウの馬車のほうへと走り出した。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 それから夕方前までにすべての積み込み作業を終わらせ、全員が家の前へ集合した。当然私も暇を見つけてルールウ、ルーミィと役場へと行き出奔の手続きを済ませている。
 同時に約束のストーンゴーレム10体を引き連れて行ったのだが、街の人々の注目を思いっきり集めてしまった。
 そのときの視線はとても微妙なものだった。どうやらこの街から引き払うことはすでに街中に広がっており、ほとんどが引き止めたいという視線と同情の視線だ。私たちはその視線をあえて気に留めないようにしながら役場へと行進をした。
 役場に付くと受付に着いたとたん数人が部署を離れてゆく姿が見えた。
 私たちはそれぞれ手続きを済ませたのだが、何故か受付の女性が手続きを遅らせる。その後フェルナンデスと数人の役人が現れ、そこから半刻ほど説得される羽目になった。そのフェルナンデスの懇願に近い説得を完全に論破して現在に至る。

 「さて、最後の仕事をしようかねぇ」

 私は万物を分解する魔法を唱え自宅を徐々に元の資源へと返還してゆく。半壊した自宅は徐々に地上から浮き上がり、木材、鉄、石、藁に分類されそれぞれの山になった。

 「ねぇカーソン。それってさ、とてつもなく便利な魔法じゃない?」

 ルールウが呆れたような声を出す。自宅が解体されてゆく様子を眺めていた皆の表情はさまざまだ。バスティとフォルテは【まぁ、やりそうなことだなぁ】という顔。ミルトとルーミィは呆れて口を開いたままだ。そして弟子?であるユーリカはうんうんと唸りながら何かをブツブツとつぶやいている。そしてミュールは相変わらず眠ったままだ。

 「ん? まぁね。 これを師匠と開発したときはこれで食べていけそうな気もしたんだけどな。諸事情によりよっぽどのことがないと使わないように師匠から釘を刺されているんだ」

 この分解魔法、魔力の籠め方によって威力が変わる。今回はそれほど魔力を籠めていないので素材レベルまでしか還元していない。私が魔力を最大でかけると塵のレベルまで解体することができる。何故使わないように言われたか。開発した頃、師匠が実験で魔物にかけたことがあった。そして……、あぅ。
 ということが起きた。そう完全に解体されるまで視覚的にえらい事になるのだ。その日はさすがの師匠も夕食は抜きにした。ちなみに私は三日ほど食べることができなかった。

 私が遠い目をしているとローブの端がちょぃちょぃと引っ張られる。視線を落とすとそこにはバスティが私を見上げていた。

 「ねぇ、そろそろ出発しないと街から出られなくならない?」

 確かに日も徐々に傾いてきている。まだ時間は有るがそれほど余裕もなさそうであった。

 「そうだな、そろそろ出発するとしようか」
 
 私はそう呟くと馬車毎に竜牙兵を2体ずつ御者台に乗せる。全員が乗ったのを確認しながら私は最後尾の馬車にたどり着いて動きを止めてしまった……。

 「……何をしているんだ?」

 御者台に座る竜牙兵とその横に座るルーミィを見て私はそう呟き溜息をつくしかなかった。ルーミィの横に座る竜牙兵の頭には先ほど不慮の事故?でかぶってしまった鍋が乗っているのだ。しかも取っ手の部分にしっかりと皮紐がかかり、竜牙兵の顎にきっちりと固定されていた。

 「ん? なんか気に入ってくれた?みたいで上げたの。 でもそのままだと落ちそうだから固定してみた! 何かまずかった?」

 ルーミィの無邪気な笑みを見て、私はそのまま竜牙兵へ視線を移す。竜牙兵の空洞の眼は私の視線を受けるとやや頭を動かし視線を逸らしたように見えた。

 「まぁ、問題は……ないけどなぁ」

 唯一問題になるとすれば街中を馬車で走るとき、街を出るときにフードを被らせる予定が狂っただけだ。1体だけなので問題は無いような気はするのだが……、気はするのだが何故か納得がいかない私がそこには存在した。

 「ね---~、出発しようよ~」

 先頭にいるルールウからお呼びがかかる。私は大きく溜息をつき、なるべくフードを被るように指示を出すと先頭の馬車へと戻ってゆく。

 「さぁて、では出発するかな」

 私の合図で最終的に20台近くになった馬車の車列がゆっくりと動き出した。その車列を街の人たちは複雑な視線で見送っていた。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 「とっ、止まれ!」

 ルイスの街の門へと近づくと衛兵数名が声をかけてきた。私は炎の矢を上空へと放つ。それを合図に車列はゆっくりと停止する。

 「これはこれは、お役目ご苦労様です」

 私は駆け寄ってきた衛兵ににこやかに声をかけた。衛兵たちが数名集まり車列の多さに呆れたような表情を造る。

 「この時間から、この車列で外へ出るのか?」

 衛兵の中で一番偉そうな男が一歩前に出て話しかけてくる。甲冑に入った線を見ると小隊長を示していた。

 「ええ、急いで出ないとルイス公爵に叱られますからね」

 ルイス公爵の名前が出たので小隊長は一瞬ひるむ。

 「ということは、君がカーソンという魔術師か?」

 「正確には付与鍛冶師? う~ん、違いますね。 まぁ、付与魔術師ですねぇ」

 私の返答に小隊長は呆れた表情を浮かべる。私は挑発したつもりだったのだが相手は何故か乗ってこなかった。

 「で、通りたいのですが手続きをお願いしたいのですがね」

 私の言葉に小隊長は大きく溜息をつく。

 「分かったよ、手続きを始めよう。一応ここで最後の税金のチェックなどをするから降りてくれ」

 私は他の者達に馬車を降りて手続きをするように言う。街に住むために付けた指輪を解除する必要があるからだ。

 「そっちのフードの連中は何故降りない?」

 小隊長が私の所に歩いてくる。私は一体の竜牙兵にフードを外すように言う。

 「おっ、おわあ」

 竜牙兵の顔を見た小隊長が慌てて剣の柄に手をかける。当然竜牙兵達は一斉にフードを外し臨戦態勢に突入し、馬車から次々と飛び降りた。
 二十体を超える竜牙兵に囲まれた門の守備隊の者達はすでに及び腰だ。

 「ほら、引け。問題はない」

 私の言葉に竜牙兵達が三歩下がる。

 「隊長さん、竜牙兵は問題ないですよね。チェックが必要ならゴーレムも起こしますが?」

 小隊長は剣の柄に手をかけたまま、声を絞り出す。その声は若干震えていた。

 「も、問題はない。・・・・・・正直、君には感謝しているんだ。それを役人の馬鹿共が出て行かせるような事を言うとはな。このルイスの街の損失というものだよ」

 そう言って小隊長は力なく笑い手続きを済ませに掛かるのであった。
 
  
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