こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます 戦争と商売拡大編

こちら付与魔術師でございます Ⅴ 反乱鎮圧

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ふぅ。

とりあえず、木炭の確保は出来そうです。

しかし、条件が反乱の鎮圧だけで良いとは・・・・・・。

美味しすぎですねぇ。

ただ協力が得られないので、こちらの戦力を徐々に削らなくてはいけないのが問題なのですが。

まぁ何とかなるでしょう。

あと5~600程度です。

城門壊しても良いでしょう。

きっと。

どうやって城門を破壊するかって?

作戦があるのですよ。

ふ・ふ・うふふふふふふ。

さぁ、一気に反乱軍を血祭りに上げて商売再開といこうではありませんか!

私の商人としての納品を邪魔した罰を受けてもらいましょう。

んあ? 木炭の手配ミスは私の失敗でしょ?

そ、そ、そ、それは言わない約束ですよぉ。

カサンドラ公爵にばれたら支払いを渋られるかも~。

絶対に内緒ですよ。

でわ!

-----北門奪還-----

 開放されていた東門を閉じた。正確には閉じきれなかったので無理矢理破壊して落としたというのが正解なのだが・・・・・・。
 ここの守りに2体のアイアンゴーレムと数体のバグベアードを残してゆく。命令は入ってくる奴は[全員殺せ]だ。シンプルな命令しか聞かないので仕方がない。問題が発生したら小型の竜型ゴーレムが知らせに来る手はずになっている。
 私たちは次の目標である北門へ向かっていた。アイアンゴーレムが地響きを立てながら歩いて行く。道を阻む者はいない。何者にも妨害されずに北門へとたどり着いた。バリケードは無い。エルートの高速部隊が入りやすいように障害物をどけているようだ。こちらとしては攻めやすくて良い。
 しかしこちらも戦力が減っていた。2体のアイアンゴーレムと天使が消えている。天使はミルトが召喚したものだが魔力切れで戻ってもらった。ミルトは魔石で魔力を回復しているが顔色は真っ青だ。わたしもバグベアードの複数召喚でかなりの魔力を消費している。
  
 「潰せ」
  
 私の言葉にアイアンゴーレム5体とバグベアード数体が向かってゆく。戦闘はすぐに終わった。先程と同じくアイアンゴーレムが守備をしている兵士を叩きつぶし、バグベアードが魔術師を狩ってゆく。今回は天使がいないため、弓兵をバスティに任せた。風の上位精霊ウェントゥスが呼び出され、街壁の上の弓兵を突風が襲う。そこに魔術師達を始末したバグベアードが魔法で襲いかかった。精霊魔法と通常魔法で徹底的に攻撃された反乱兵達はその骸を門の前に晒した。
 後は同じ処理で門を破壊し、アイアンゴーレム2体とバグベアード数体、そして竜型ゴーレムを配置する。ただし、今回は門の内側に殺害した反乱兵を積み上げ、バリケードとして利用した。この方法は東門へ竜型ゴーレムが伝えに行った。
 街壁から脱出しようとしていた市民はこの恐ろしい光景を黙って見ていた。門周辺には血肉が飛び散りとても近づけたものではない。
 私は少しやりすぎかとも思ったが市民にここへ近づいてもらいたくは無かったので惨状を創り出した。正直脱出のために門を開けられたら困る。そのための惨状でありゴーレムであり、バグベアードなのだ。
  
 私たちは少しだけ休憩を取る。私は魔石で魔力を回復し、バスティはウェントゥスと話をしている。ミルトは幾分ましになったようで食事を取っている。ルールウはそのような私たちの護衛をしていた。
  
  
-----攻城戦-----
  
 「では、城を取り返すかな・・・・・・」
  
 私の言葉に全員が腰を上げた。3体に減ったアイアンゴーレムを見ながらもう少し作っておけば良かったと後悔する。まぁ、城門を突破する手段は用意してあるので問題は無い。
 私たちが城の正門へ歩き出すとフォルミードが追いついてきた。フォルミードには東方面の偵察を依頼していた。
  
 「カナリノカズノキバタイガチカヅイテイル。アトニコクデココニタドリツクゾ」
  
 正直私の予想より遙かに速い。国境守備隊は簡単に突破されたのだろう。国境が広い分戦力も薄い。しかも中央のために戦力を引き抜いてある。とりあえず街門は全て閉じたのですぐには突破されないだろう。西門と南門はどうか分からないが・・・・・・。
 私たちは移動速度を上げる。エルートの高速部隊が来たときに城内から打って出られたらひとたまりも無いからだ。そして城門へと到達する。バスティがすぐにウェントゥスを呼び出し、暴風を起こす。これで弓兵は使えない。アイアンゴーレム達が門に近づこうとするが堀に阻まれて上手く近づけない。城壁からは石などが落とされ、ゴーレム達に降り注いだ。
  
 「やはり硬いなぁ、最終兵器を使うしか無いか・・・・・・」
  
 私はポソリと呟いた。アイアンゴーレム達はあと少しで跳ね上がった吊り橋へたどり着く。ここで手間取るわけにはいかない。あれは結構厚いのでモルゲンステルンでも叩き壊すのは難しい。しかも足場の悪い堀の中だ。
 竜型ゴーレムはミュールを呼びにやっている。ミュールには最終的な白兵戦に加わってもらう手はずだ。その前に城門を開ける必要がある。そうしないとミュールが城壁を破壊しかねないからだ・・・・・・。

 「フォルミーード!」
  
 私は大声を上げフォルミードを近くへ呼び寄せた。魔術師達の攻撃はバグベアードが防いでいるが徐々に数が減らされている。ここが攻め時だろう。
  
 「ナニカヨウカ?」
  
 フォルミードが私の頭上でホバリングしている。ルールウとバスティ、ミルトも側にいた。
  
 「フォルミード、特攻・・・・・・よ・ろ・し・く」
  
 私はそれだけを言った。周りのみんなの視線が・・・・・・あんた阿呆?と言っている。当然、当事者のフォルミードは金切り声を上げた。実際金属音なのだが。
  
 「オ、オ、オヌシ、ワレヲナンダトオモッテイル。ワレハナガクイキタ、コダイリュウフォルミードダゾ」
  
 「でも、今はゴーレムだよね。と・っ・こ・う、よ・ろ・し・く」
  
 私の言葉にフォルミードの鋼の身体が引きつったようにも見えた。
  
 「・・・・・・ワカッタ。ゼンリョクデユク。コウカイスルナヨ。ア、ジョウチャンタチハ、ジメンニアナホッテカクレタホウガイイゾ」
  
 それだけ言ってフォルミードは宙に舞い上がってゆく。かなりの高さまで上がり、街壁の外まで飛んでいった。
  
 (あいつは何をする気なんだ?)
  
 私はこのときフォルミードの意図を理解できていなかった。私は単純に門に体当たりしてくれるだけで良いと思っていたのだが・・・・・・。
 フォルミードの機嫌をかなり損ねていた事を知ったのは少し後の事だった。バスティは忠告に従い、地の上位精霊テッラを呼び出し地面に深い穴を掘っている。私は念のために堀の中を進むゴーレム達の身体に物理防御の魔法を最大限にかけた。
 上空を見るとフォルミードが旋回し、こちらに頭を向けた。私は危険を察知したルールウに無理矢理穴の中に引きずり込まれた。
  
----------!
  
 何かが近くを通り過ぎたような気がした。私が地面から顔を出すと跳ね橋に大きな穴が開いていた。
  
 「何やっているのだか・・・・・・。もう少し大きな穴を空け・・・・・・」
  
 そこで今度はバスティが私を穴の中に引きずり込んだ。すぐに耳を塞ぐように言う。全員が耳を塞いだので仕方なしに私も耳を塞いだ。
  
 どっっん!
  
 腹の底から沸き上がるような音が塞いだ耳の外から侵入し、腹の底に溜まる。地を抉るような衝撃と暴風が穴の中を襲った。それは竜巻のように吹き荒れ、掘り返された土を飛ばす。一瞬何が起こったか分からなかった。暴風と衝撃はすぐに消えた。頭上にはホバリングするフォルミードがいた。
  
 「コレデヨイカ? ゴ・シュ・ジ・ン」
  
 穴の中に潜った私たちは顔を出し、当りの惨状に目を覆った。フォルミードが通過したと思われる中央から200m程は地面がむき出しになり抉れていた。周囲に建っていた建物はほとんど倒壊している。城門と吊り橋も無い。正面の城壁もほとんど無くなっていた。それどころか反対側の街壁が遠くに見える。城の尖塔も相当破損している。
  
 「・・・・・・フォルミード、何をやった?」
  
 私の問いにフォルミードは笑いながら答えた。
  
 「ハハハハハ、ト・ッ・コ・ウ・ダヨ。アンシンシロ、ジュウミンハ、ガイヘキゾイニテレポートサセテアル。ジョウナイノミニヒガイハシュウチュウシテイル」
  
 私はがっくりと頭を垂れた。カサンドラ公爵に怒られる・・・・・・程度で済めば良いが。街に更地が出来てしまった。こんなもの賠償できない。
 
 「ヤレトイワレタカラヤッタダケダゾ。ワレニセキニンハナイ」
  
 フォルミードの言葉に私はさすがにキレてしまった。
  
 「あのな! 長い間生きてきたのにやり過ぎという言葉は浮かばないのか! だれが弁償するのだ!」
  
 穴から這い出してきたみんなも惨状を見て口が開いたままだ。どう言葉を発して良いか分からないようだ。私もこれ以上罵る言葉が出ない。
  
 「ゴシュジン~、スゴカッタネ~。アレハナニ~」
  
 破壊された街並みの側からミュールが姿を現した。全力で走ってきたようだ。全身が紅潮している。それと同時に城の方から悲鳴が上がった。ひしゃげた・・・・・ゴーレム達が堀を上り、生き残った兵士達を次々と襲い始めていた。もっとも抵抗する者は少なく一方的な殺戮となっているが・・・・・・。
 フォルミードを見ると奴はすでに上空へと舞い上がっていた。私は仕方なしに他のみんなに指示を出す。
  
 「このままではやばい。カサンドラ公爵に殺される。すぐにドロワを捕まえよう。・・・・・・生きていればいいがなぁ」
  
私たちは一気に城の中へ走り込んだ。
  
  
-----ドロワを捕まえろ-----

 ドロワは城の執務室にいた。正直城門を閉め、吊り橋を上げたので侵入はほぼ不可能だ。あとは侵攻部隊が来るまで守り切れば良い。さすがに疲れたのでソファーの上に転がり目を閉じた。
 その時突然城が揺れた。慌てて起き上がり窓から城門を見る。ドロワは目の前で起きていることが信じられなかった。ゆっくりと城門の中心から門と城壁が崩れてゆく。それは徐々に拡がり正面の城壁を完全に破壊していた。もう一度城が揺れる。一番城門に近い尖塔が崩れ出す。徐々に傾くのでは無く一気に崩された。
  
 (なんだ? 何が起こっている?)
  
 ドロワは執務室から飛び出し、警護している兵士の一人に確認にいくように指示を出した。もう一人には執務室に入り書類をまとめるように言う。兵士は慌てて書類を箱の中にしまってゆく。ドロワは宝物を袋の中に放り込んでいた。

 「報告します! こちらの兵は半壊しました。城壁も無くなりました。敵のゴーレム3体が侵入し味方を殺しまくっています!」
  
 恐怖を浮かべた顔で兵士が走り込んできた。しかし目の前で起こっていることに唖然とする。ドロワはこの段階で逃げだそうとしていた。宝飾品を持って。エルートの兵士は蔑みの目を向けながら何故逃げるという顔をする。もう少し粘れば本国からの高速部隊がやってくるのだ。
  
 「お前も詰めるのを手伝え。脱出する。高速部隊とは途中で落ち合う。これだけ被害が出ていればわざわざ城を守る必要は無い。先に落とした東門から出るぞ。護衛を集めろ。冒険者と魔術師は盾にする。急げ!」
  
 エルートの兵士2人は仕方なしに従った。これでも上官には変わりない。ある程度の整理がつくと兵士の一人がエルートの兵士を集めに外に出ていった。ドロワはもう一度外の様子を見る。城門の周りは血に染まっていた。動けない者達をゴーレムが無慈悲に叩き潰してゆく。
  
(くそっ、あと一息だったというのに・・・・・・。なんだあの魔法は、初めて見たぞ・・・・・・)
  
 暫く待つと数十人の兵士が集まってきた。負傷兵もいる。ドロワは負傷兵を連れてきたことに心の中で舌打ちし、とりあえず脱出するために部屋を出た。魔法が炸裂する音が聞こえる。魔術師ギルドの連中がやっているのだろうか? 
 とりあえず足止めさえしてくれればよい。それだけ考えドロワと兵士達は脱出路へと向かっていった。
  
  
 「ちっ、予想以上にルイスの冒険者達が寝返っている」
  
 バスティが声を上げながら冒険者数人を斬り倒す。ルールウも魔法使い数人を殴り殺していた。ミルトは再度天使を呼び出し、長距離攻撃をする者を見つけ出し始末している。目の前には100程の兵士と冒険者、魔術師がいるだけだ。しかしそれが中々減らない。
 ミュールの火炎魔法が城の庭を溶岩に変え、ゴーレム達がそこへ追い詰めてゆく。
 何度か降伏勧告は出したが応じる者はいなかった。全員が自らの立場を分かっているようだ。そのせいで私たちは先に進めないでいた。偵察用の竜型ゴーレムは城内に入り索敵をしている。私もバグベアードとヘルハウンドを数体ずつ呼び出し、城の中へ放った。しかしまだ見つけ出すことは出来ない。
  
 (・・・・・・もう逃げたかな?)
  
 私は少しだけ不安になった。これだけやって逃げられたら目も当てられない。このままでは一生借金を抱えた商人になってしまう。それだけは避けたかった。
 もう数体ヘルハウンドを呼び出そうかと思っていると、城内に50人ほどの集団が移動しているのを感じられた。1体のバグベアードが見つけたようだ。私は召喚したすべての魔物にその部隊を襲うように指示を出す。念でドロワの顔を送り、殺さないようにだけは指示を出した。移動していた者達の動きが止まる。戦闘が始まったようだ。しかしこちらの魔物の減り方の方が多い。仕方が無いのでバグベアードを監視用に1体下げる。
 
 「バスティ、ルールウ、見つけたぞ。魔物達で足止めはしているが長くは持たない。どうにかなるか?」
  
 2人は同時に首を横に振った。目の前には複数の冒険者達がいる。2人が動けないと合図するということは相当な手練れだということだろう。ここは私が行くしかないようだ。仕方が無いので動こうとすると空からフォルミードが降りてきた。こいつが戦闘に参加したら話が早いのだが・・・・・・。
  
 「テコズッテイルナ。マァガンバレ。ソレヨリモアト10kmテイドデ、ヒガシカラキバタイガツクゾ。イソゲヨ」
  
 それだけ言うとフォルミードはまた上空へと舞い上がっていった。私は悪態をつこうとしたが、フォルミードの身体に無数の細かいひびが入っていたので何も言わなかった。
  
 「さて、少し不味いので強力なのを出すかな・・・・・・」
  
 私は再度召喚魔法を唱え始める。ゴーレムと共闘していたミュールが私の前に立ち壁となった。かろうじて動いているゴーレムの1体が倒される。しかし、倒れ際に数名を道連れにしてくれた。魔法使いはミルトが天使を使い押さえているがあまり長くは持ちそうに無い。
 あのバスティとルールウも息が上がっていた。そして、街壁の外に土煙が舞い上がっているのが薄らと見えた。
  
 私とミュールの間に魔方陣が現れる。そしてそれは姿を現した。上半身は美しい女性、下半身は蛇、そして髪の毛も全て蛇。
  
 「全員、目を閉じろ!」
  
 私の声に全員が目を閉じた。一瞬でそれは魔方陣へと戻っていった。私は魔力をかなり消耗したのでバグベアードの監視以外の魔法制御が外れた。半分程に数が減った者達は城内を更に移動してゆく。
  
 「もういいぞ、私についてきてくれ」
  
 全員が目を開けるとほとんどの冒険者達が石と化していた。何が起こったか聞かれたが後で説明するとだけ言ってバスティとルールウをついてこさせる。ミルトとミュールにはこの場の殲滅、私たちと同時に目を閉じた者を殺すように指示を出した。
 私たちは最短距離で20名前後の集団に追いついた。ほとんどが何某かの傷を負っているが中央にいるドロワだけはぴんぴんしている。
  
 「逃がさんよ。ドロワ政務補佐官様」
  
 私の皮肉と同時に戦闘が始まった。最後のバグベアードも後ろから奇襲をかけさせる。護衛の力とバスティ、ルールウの力の差は歴然だった。一気に勝負は決した。20数名の護衛は前後からの攻撃に耐えきれず、全員が討死した。ドロワはバグベアードの金縛りで動けなくなっている。
これで攻城戦は終了した。後は高速で迫ってくる騎馬隊を止めるだけだ。

-----高速部隊-----

 私たちはドロワを城の外にひっぱりだすとへばっているミルトとゴーレムに護衛を任せて、東門へと走った。正直どれだけの戦力が来たのかは分からない。あとは視覚に頼るしか無かった。竜型ゴーレムを南門と西門へ伝令として送る。
 土煙が大きくなる。さすがに速い。あと2~3kmというところだろう。暫くはゴーレムが防いでくれるだろうが長くは持たないだろう。
  
 私たちが東門の街壁に上がったとき、相手の騎馬隊も東門の前に到着した。
  
 「あれ? なぁ、あれってうちの騎馬隊じゃないか?」
  
 私の声にバスティが頷いた。急いで走ってきたのでかなり息が切れている。ルールウも疲れた表情で目を擦っていた。
 騎馬隊の中から一人が出てくる。
  
 「よお、カーソン。生きてるか?」
  
 それは、カサンドラ公爵だった。
  
-----真相-----

 カサンドラ公爵は部隊を2つに分けた。1つは遠征のためにすぐに西へと移動していった。もうひとつの部隊1旅団はここルイスへと入った。さすがに城とその周辺の惨状にはカサンドラ公爵も頭を抱えた。旅団も呆然としている。
  
 「守ってくれたことと、ドロワを捕らえてくれたことには感謝する・・・・・・、感謝するがなぁ、やり過ぎだ!!」
 
 あ、やっぱり怒った。街の街壁に飛ばされた住民達も自分の家があったところへ戻り、呆然としている。泣いている者はいない。正直泣くことすら出来ないくらいの衝撃なのだろう。
 カサンドラ公爵は多分、自分の知っているだけの悪口雑言を私に浴びせかけた。私の仲間達は自業自得とばかりにそれに関してはまったく口を挟まなかった。
1人くらいかばってくれても良いのに・・・・・・。
  
 私はカサンドラ公爵がある程度落ち着いたのを見計らって、西に出ていった公爵が東から現れた経緯を尋ねた。
  
 「あぁ、ちょっとあるところから情報が入ったので隣国エルートまで行っていたんだ」
  
 どうやらエルートが攻め込んでくるという情報をどこからか得ており、それを止めに行ったということだった。その会話はドロワも聞いていたのでいきなり口を挟んできた。
  
 「カサンドラ、お前の出した軍で防げるはずが無い。10万規模の軍だぞ!」
  
 ドロワが喚いているのを五月蠅いと思ったのかカサンドラがドロワの顔面に蹴りを入れた。ドロワの顎が綺麗に真下に落ちた。
  
 「ふ・・・ん。たかだか十万だろ。1万の騎兵がいれば十分に撃破できる。ついでだったから首都まで入って半壊させてやったよ」 
  
 ドロワの目には[冗談じゃあ無い]という表情が浮かんでいる。それほどエルートとは弱い国だったのだろうか。私は隣にいるルールウとバスティに視線を向けた。2人とも複雑そうな顔をして目をそらす。
  
 「とりあえず。こいつを捕らえてくれて助かったよ。街のことは・・・・・・中央の戦が終わってからだな。逃げるなよ。それと早めにメイスの準備を頼む」
  
 そう言ってカサンドラ公爵はドロワを引っ張って半壊した城の中に入っていった。
  
 「あぁ、ついでに物騒なゴーレムがいたがあれも譲ってくれよな」
  
 私はカサンドラ公爵の言葉に逆らえない自分がいることを知った。
  
-----創られた神-----

 私は家に帰るとメイスの作成に没頭した。玉鋼の第二陣が送られてきたので1400kgの玉鋼を加工してゆく。戦闘用に開発したゴーレムは半壊していたものを修復して城の警備に当てた。余談だが南のアルドと西の指揮官は騎士爵を剥奪されたらしい。
 1日経った夜、カサンドラ公爵がやってきた。重装騎兵の護衛がついている。
  
 「しかしまぁ、派手にやられたなぁ。ここに住んでいるのか?」
  
 公爵は機能を果たしていない玄関から律儀に入って来た。今はバスティもルールウもいない。バスティは妹のフォルテのところへ、ルールウは自宅へ戻っている。ミュールは鍛冶場に籠もっていて、ミルトだけが護衛役として横に立っている。
  
 「カーソン、今日来たのは君の知識を借りたかったからだ」
  
 公爵はドロワから聞き出した事を話し出した。そして最後に一つの名前を出した。
  
 「・・・・・・アトン? ですか?」
  
 私は初めて聞く名前に困惑した。記憶をたぐり出すが出てこない。私は人払いをすると地下へと公爵を連れて行った。金庫部屋へ公爵を連れ込む。そこには[リッタイホログラフ]が部屋の中央へ置いてあった。
  
 「・・・・・・カーソン。ここは?」
  
 私は公爵の問いに何も答えなかった。ミュールに習ったとおりの操作を[リッタイホログラフ]に施す。
  
 ヴン
  
 音と共に一人の女性が現れた。気丈な公爵がヒッっと小さな悲鳴を上げた。私は公爵の様子を見ながら半透明の女性に話しかけた。
  
 「アトンって何?」
 「古代エジプト文明で一時的に崇められた太陽神。正確な名前はアテン。姿や神話はまったく残っていなかったので神という存在から太陽と同一視されるようになった特殊な神のこと。それ以上は情報がありません」
  
 私はそこまで聞くと[リッタイホログラフ]の力を切った。カサンドラ公爵が恐ろしいものでも見たような目で透明な女性がいた場所を見つめている。
  
 「と、いうことのようですが、どうかしたのですか?」
  
 私はそのまま公爵と話を始めた。
 ドロワが口にしたのはベントゥーラ伯爵がエルートと極秘に交易し、私腹を肥やしていたこと。それと同時に資金を流していたこと。中央北部に現れた存在ものは古代遺跡で見つけた文献を元に呼び出したアトンという存在だと言うことだった。
  
 「あぁ、そういうことですか。しかし、相手が神ということになるとどうにもなりませんね」
  
 私は少し考え込んだ。もう一度[ホログラフ]の語った内容を反芻する。公爵はまだ惚けた顔をしていた。仕方が無いので公爵の唇を塞いでみる。暫く瞬きをした後、公爵は舌を口の中に入れてきた。
  
 「・・・・・・じゃぁないですって!」
  
 私は公爵を押しのけた。公爵もハッとした顔をして顔を真っ赤にする。
  
 「あー、話を戻しますが。先程の情報と今問題になっている存在が同一とは限りません。それ以前に公爵は私に重量型のメイスを大量に注文されています。どうしてそのようなことをされたのですか? もしかして正体を知っているのですか?」
  
 私の問いに公爵は口を閉じた。話すべきか迷っているようだ。暫くして決意したように話し始めた。
  
 「ある程度の正体はある方から聞いている。ただ、情報源は言えない。今回のエルートの件もその方からの情報だ。もっともこの魔道具のことは聞いていなかったが・・・・・・」
  
 そこまで言って口を押さえる。私は情報源の正体が誰かがすぐに分かった。しかし秘匿したい事を指摘するつもりは無い。
  
 「そうですか。で、その情報源の言った正体というのは?」
  
 公爵によるとその存在は遙か古代に創造信仰された存在が呼び出されたと言うことだ。それは死体を操る邪悪な物だと聞かされたようだ。それで死体を潰すのならば重量級のメイスが最適だと判断したらしい。
  
 「ふむ、古代に創造信仰された神ですか・・・・・・。面白いですね。私も見てみたくなりましたよ」
  
 私はそれだけ言うと、この[リッタイホログラフ]の件を秘密にすることと、秘密を守るために魔法をかけさせてもらうことを納得させて地下を出た。
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