こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます 戦争と商売拡大編

こちら付与魔術師でございます Ⅳ 反乱を潰せ

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夜襲には驚きましたがこんなものでしょう。

私も久しぶりに強力な召喚魔法を使いました。

あれ、九尾の狐というそうですね。

ルールウが知っていました。

遙か遙か古代の話の中に出てくる強力な存在らしいです。

今の私の地力では5分出てもらうのが限界ですがね。

はっはっは。

いや、分かっていましたが反乱しちゃいましたね。

まぁ、こちらの提供した武器を使ってくれたんで主力は潰せました。

しかし馬鹿ですね。武器なんかは自分で用意するか使っている物を分捕るのが安全なのに。

それでも城を制圧したのは見事なものです。

問題は魔術師ギルドの副ギルドマスターのネタヴィアが加わっていたことですね。

はぅ。

いい人だったのにな~。

しかし、これだけ反乱側にギルドがついてしまうとは・・・・・・公爵って人気ないのですかね。

今度聞いてみよう。

とりあえず、バスティとフォルミードが到着してから今後を考えますか・・・・・・。

でわ!

-----反乱の街の中で-----

 街の中は大騒ぎになっていた。なにしろ巨体のミュールが街の中をズルズルと歩いている。その後ろにはゴーレムまでもついていた。人々は恐怖の眼を向け、家の中に引き籠もる。
 そう、それで良いのだ。結果的にそうなっただけなのだが街の住民が外に出ないことは良いことだ。犠牲者も少なくなる。私たちはユーリカの待つ我が家へと戻った。
  
 「おかえりなさいご主人様」
  
 ルーリカが丁寧に出迎えてくれる。外にあった死骸は朝方、残ってくれていた部隊が片付けてくれた。しかし、玄関からリビングまでは風通しが良くなっている。私は玄関先でリビングまで見通しながら溜息をついた。
  
 「カーソン、言わなくても分かるとは思うが家の機能を果たしていないぞ・・・・・・」
  
 ルールウが真剣な眼差しでこちらを見ている。とりあえず私は全員の手を借りて私の部屋にある貴重な書物を地下へ運んでもらうことにした。私は宝物の部屋の鍵を開け、一時的にトラップを解除する。そしてその中に書物を運び込んでもらう。
 その作業には約1刻ほどかかった。すでに昼は回っている。私はたたら炉の様子を見に行って用事があったのを思い出した。
  
 「そういえば商工会に顔を出すと言っていたような気がする。ルールウここを頼めるかな? 私は商工会へ行ってくる」
  
 私の言葉にルールウが必死で止めに入った。
  
 「あんたは阿呆かっ。 こんな時に商工会がやっているわけではないだろう。 それにカーソンは狙われている可能性がある。 1人で外出させられるか!」
  
 その言葉にミュールとユーリカがうんうんと頷いていた。これ以上逆らうとルールウの拳骨が飛んできそうだったので私は家の整理をすることにした。破壊された建物の中から使えそうな物を地下へと運び入れる。その作業は全員でした。
  
 「大変だ~! 領主様の城が何者かに乗っ取られたぞ~! 北門と東門も見知らぬ連中がいて近づけない。近づいたら毒矢で殺されるぞ! 南と西から逃げ出せ!」
  
 市民だろうか大声で状況を叫び回っている。しかし不自然すぎる。そこまでする必要があるのだろうか。むしろ市民の不安を煽っているようにしか見えない。
  
 「・・・・・・ルールウ、一応これ煽動だよなぁ」
  
 ルールウは頭を抱え頷いた。ここまで酷いやり方に呆れかえっているようだ。しかもこの情報だと北と東の門はまだ奪還されていないようだ。今、昼過ぎだぞ。何やっているんだまったく。
  
 「ユーリカ、攻撃用ゴーレムを10体ほど作成する。すぐに魔力の多い魔石を鉄鉱石のところまで持って来てくれ。ミュール、鉄鉱石を分別するのを手伝ってくれ。ルールウ、留守番よろしく」
  
 何故かルールウから拳骨が飛んできた。とりあえず1発喰らってから私はゴーレムの作成に入った。鉄鉱石は馬鹿みたいな量がある。それを利用しよう。
 まず3mほどの高さのゴーレムを7体作成する。これは通常のゴーレムで無骨な格好をしている。背丈を家で働くゴーレムより高くしたのは、威圧用と対攻城戦用のためだ。およそ2刻で7体のゴーレムが完成する。ここまででかなりの魔力を消耗したので1度魔石から魔力を充填する。
 そして次に3体のゴーレムを作成する。これは小型のゴーレムで1体30cm程度だ。ただし空を飛べるように羽と皮膜を付け、竜のような形態にしてある。
 フォルミードが飛んだので試してみたが実際飛ぶかどうかは定かではない。このために魂の石と竜の牙を良いものから全て使った。古代竜の牙は取ってあるが・・・・・・。
  
 「どうにか完成だな。しかしまだ制圧できないのか・・・・・・」
  
 私は正直焦っていた。先程エルートの話を聞いたときに高速の部隊が国境を越えたら速いとは聞いた。すでに斥候がカサンドラ公爵に知らせに行ったとはいえ引き返してギリギリ間に合うかだ。しかもまだ門は取り返せていない。本当に時間の勝負だ。
  
 どんっっつつ
  
 突然庭先に地響きが上がる。私たちは一瞬で戦闘態勢を整えた。土煙の中、それはゆっくりと立ち上がる。銀色の身体の竜がやはり地面にめり込んでいる。
  
 「ヨバレタカラキタゾ。ハガネノダイイチジンハ、デキテイル。アトハコチラニオクルダケダ」
  
 フォルミードは金属を合わせたような声で話しかけてきた。一歩歩こうとするたびに地面が沈みこむ。私はとりあえずそこに立っていてくれと言ってしまった。正直これ以上、家を破壊されてはたまったものではない。
  
 「バスティトミルトトイッタカ。アレハモウスグコチラニツク。ヤハリワレノカラダニノルコトハキョヒサレテシマッタ・・・・・・」
  
 鋼で出来た竜の少し悲しそうな声はどことなく心に響かなかった。
  
 「来た早々申し訳ないが、このゴーレム達に飛行のやり方を教えてやれるか?」
  
 私は先程作成した3体のゴーレムをフォルミードの前に差し出した。フォルミードはじっと見ている。
  
 「マリョクガタラナイナ。トブダケナラバデキルダロウガ、セントウハムリダ」
  
 このゴーレム達は偵察用に作成したので戦闘は必要ないと伝える。ただ、飛行し、物を伝えてくれれば良いと意図だけ伝えた。フォルミードは3体のゴーレムを連れ、大空へ飛び立つ。その後すぐにバスティとミルトが帰ってきた。
  
 「お帰り、2人とも。とりあえず休んでくれ」
  
 私は見晴らしの良くなった玄関先にいる2人に家に入るように促した。2人とも唖然としながら入って来た。
  
 「・・・・・・派手にやられましたね」
  
 私は夜に起きた襲撃事件のことと、今朝の西門の戦闘のこと、戦力増強のためにゴーレムを10体製造したことを伝えた。そしてここまで来た感想を2人に聞いた。
  
 「そうですか、ネタヴィアが・・・・・・。私たちは南門から入りました。ミルトが隊長と知り合いでしたのですぐには入れました。南門に約400の軍がいましたが士気は低いです。西門の方は行っていませんので正直分かりません。市内は混乱している地域としていない地域に別れています。外側は混乱し、中央へ行くに従い混乱していません。街壁側は家財道具をまとめる者もかなりいますが、馬車が手配できずに身動きがとれないようです」
  
 バスティがよく観察して来たので様々な情報が手に入った。正直最悪の状況のようだ。まだ西と南の部隊は動いていなかった。戦いの準備ではなく守りの準備をしたらしい。カサンドラ公爵が帰ってから指示を仰ぐつもりだろう。確かに軍は独自に動いてはいけないが、それでもやるべき事はやるべきだ。城からも指示が来ていないとなれば城も完全に落ちたのだろう。
 こうなれば力押ししかないがどれだけの市民が戦いに参加するか分からない。ここの防衛だけに専念するしかないのかもしれない。
  
 「バスティ、私について商工会へ、フォルミードがここへ戻ったら引き留めておいてくれ。ミュールとサンダーゴーレムはメイス作りの用意。ルールウとユーリカは定食屋ハズキに行って料理を大量に作ってもらってきてくれ。アイアンゴーレム達には私の方でここを守るように指示を出しておく」
  
 それだけ伝えて私はバスティの馬の後ろに乗る。ルールウが後ろで何か言っているが気にしないでおこう。とりあえず、仕事をするのが優先だ。私はバスティに掴まり、商工会へと急いだ。
  
-----商工会-----

 街全体が静まりかえっている。巡回の兵士達も見当たらない。時々兵士の遺骸を見つける程度だ。幾ら広い街といっても人がほとんどいないのならば全力疾走の馬ならば何処にでもすぐに着く。私とバスティは4半刻も経たずに商工会の前にいた。私はバスティを外で待たせると商工会の中に入っていった。中はガランとしている。やはりこのようなときには誰も仕事をしていないようだ。
とりあえず、先日尋ねた部署へ行ってみる。ここも静かだ。
  
 「フェルナンデスさーん、おられますかー?」
  
 私は大声でフェルナンデスを呼んでみた。無人の建物の中に木霊のように声が響き渡る。反応はない。仕方がないので帰ろうとしたら奥から人が出てきた。フェルナンデスだ。
  
 「・・・・・・カーソンさん。来られると思っていました」
  
 フェルナンデスは怯えていた。詳しく聞くとあの後、一緒に調べてくれた同僚の者が数値のおかしさを城の政務補佐官へ尋ねていったらしい。中々帰ってこないので先に帰ろうとすると、商工会の前に同僚の惨殺体が転がっていたそうだ。それでフェルナンデスは家に帰らずにここに泊まっていたと言うことだ。
  
 「そうですか。その同僚の方には気の毒でした。この様子では先日の件は何も出来ていないですよね」
  
 私の問いにフェルナンデスは黙って頷いた。実際彼はここから出ていないのだ。調査など出来るはずがない。
 私は非常事態なのに呑気に?仕事の話をしている。フェルナンデスもどうかしていると思ったようだ。
私は今、この街で起こっていることを全て話した。ただし誰にも話さないことを条件に・・・・・・。
  
 「ということは、政務補佐官がエルートの人間で10数年前からこの国で工作をしていたということですか。ベントゥーラ伯爵もエルートへ通じているのでしょうかね?」
  
 正直そこに関しては分からない。単純にお金を流すための隠れ蓑かもしれない。5年くらいの売買資金がエルートに流れていたとなるとかなりの額だろう。それを侵攻用の軍事費に充てられていたらかなり増強されているはずだ。
  
 「どうだろう。しかし今回の兵力の構成だけ考えたら、伯爵だけで収まれば良いけど。それくらいの兵力しか連れて行っていないからなぁ。それにまだ中央北の脅威の正体も分かっていないですしね」
  
 国家非常事態宣言が出るくらいなのだから、相当不味いことになっているのだろう。しかもエルートの侵攻までは予測していないはずだ。この国は全体から軍の力を中央に集めた。国境の警備もかなり薄くなっているはずだ。周辺国と連携しているとなれば大変なことになる。この国は地図の上から消える。
  
 「あぁ、カーソンさん。話は変わりますが入荷している木材の一部を当たってみたのですが、あまり品質は良くないですね。元々ベントゥーラ伯爵の土地は痩せています。その土地の木を持って来ているので当然です。ただ、日常使う分には問題はないのでルイス領でとれる全ての木材と木炭をそちらに回すように伝えましょう。ただし、この反乱が鎮圧されてからになりますがね・・・・・・」
  
 私はそれを聞くと俄然やる気が湧いてきた。反乱・・鎮圧するだけ・・・・・・で良いというのだ。どうせ守備隊が動かないのならば勝手にやらせてもらおう。あとでカサンドラ公爵に怒られそうならどこか別の国に逃げれば良い。
 私はフェルナンデスにお礼を言って商工会を後にした。入り口で待っていたバスティに声を掛ける。
  
 「木炭の件は話がついた。条件は反乱の鎮圧だ。頑張るぞ!」
  
 私の言葉にバスティは唖然とした顔をしている。とりあえず私を後ろに乗せ、機能を果たさなくなった家へと帰ってった。
  
  
-----鎮圧開始-----

 私は家に帰り、全員に商工会でのことを話した。そして反乱を鎮圧することが商売を再開する近道であることを得々と語る。バスティは頭を振り、他のみんなは唖然としていた。それは帰ってきていたフォルミードも一緒だった。
  
 「・・・・・・オマエハアホカ。コノセンリョクデ、グントヤルツモリカ?」
  
 フォルミードの問いに私は黙って頷いた。全員の頭ががっくりとうなだれた。私はすぐに物理障壁と魔法障壁の強力なものがかかったアミュレットを作成しユーリカに渡した。
  
 「ユーリカ、蜜穴熊のバッグを持ってフォルミードとともに砂鉄採掘場へ行ってくれ。そこでゴーレム達を使って出来ている玉鋼をこちらの物置部屋へ送って欲しい。フォルミードもユーリカを頼む。余裕が出来たらゴーレムの一部にユーリカの護衛を頼んで戻ってきてくれ」
  
 フォルミードはそれだけ聞くと不安がっているユーリカを無理矢理背中に乗せた。私はユーリカの耳元で囁いた。
  
 「フォルミードの上では怖がらずにじっくり観察してみなさい。上手くいけば魔力の流れが見えると思うよ」

 それだけ言ってユーリカにアミュレットを付けてあげる。アミュレットが作動したのを確認するとフォルミードは一気に上空へと昇っていった。私はそのまま家に残っている者達へ指示を出す。
  
 「ミュールとサンダーゴーレムはモルゲンステルンを作る準備に入ってくれ。これはゴーレム用に作るからデカいぞ。私も付与できるだけの魔法効果を付けるので暫く寝る。ミルトは物置部屋に玉鋼が送られてきたらミュールに知らせて玉鋼を地上に運んでくれ。ついでに起こしてね。バスティは北門と東門、城の様子を見てきてくれ。ルールウは・・・・・・、良かったら私の護衛をお願いしたい。今回は私の商売の都合なので好きにしてくれて構わない」
  
 それだけ言うと私はリビングのソファーに丸まった。他の者達が顔を見合わせ、大きな溜息をついたのを私はまったく知らなかった。
  
  
 暫くして私は身体を揺さぶられて起こされた。目を開けるとそこにはミルトとユーリカ、そしてルーミィの姿があった。
  
 「? ルーミィ? どうしてここに?」
  
 ルーミィは定食屋ハズキの看板娘だ。ハーフ巨人で中々可愛らしい子だ。
  
 「あのねぇ、カ~ソン~。料理注文していたでしょう。忘れたの?」
  
 はぃ。完全に忘れていました。私の表情を見てルーミィは大きな溜息をついた。
  
 「一応、温かい料理を20人前作ってきたよ。それと保存が利く食材も10kgほど持って来た。私たちはとりあえず営業しているのでまた必要になったら言ってね」
  
 それだけ言ってルーミイは帰ろうとする。私はお金の支払いを済ますと言ったが断られた。
  
 「正直、決済システムは故障しているのよね。誰がやったのかは分からないけれど。おかげ様で今は算盤が大活躍よ」
  
 それだけ言って外へ出て行った。ミルトが慌てて外へ走ってゆく。どうやら護衛をしてくれるようだ。辺りを見回すとミュールが玉鋼の入ったと思われる袋を担いで倉庫へと歩いている。さすがに1人ではかわいそうなので暇そうにしている竜型の小型ゴーレムにミュールを手伝うように指示を出した。ゴーレムなので力だけはある。
 暫く仕事を覚えさせるとミュールはモルゲンステルンの製作に取りかかった。7つだけの製造なので1刻もかからずに完成する。私は出来上がったモルゲンステルンに魔法を付与してゆく。掛けるのは5つの魔法だ。

 ①重力魔法(重量3倍)
 ②硬化魔法(鋼の耐久力3倍)
 ③再生魔法(金属疲労の回復12刻)
 ④氷魔法(当たった瞬間に1m四方を凍らせる)
 ⑤雷魔法(当たった瞬間に雷放)
  
 これだけの魔術をモルゲンステルンが出来上がり次第付与してゆく。これで攻城戦は問題がない。あとはどこから攻めるかが問題だ。玉鋼はどんどん運ばれてくるので最低2000kgはあるはずだ。
 あ~、特大に使ったから残りは600kgくらいか・・・・・・。その間にバスティの帰りを待つ。ちなみにルールウは装備を取ってくると言って私が起きてから家へ帰った。
そうこうしているうちにバスティとフォルミードが帰ってきた。
  
 「主様、偵察はしてきました。北門と東門は市民の死体の山です。魔術師と兵士、それに冒険者達が加わって戦力が増強されています」
  
 私はその話を聞いて重装騎兵を殲滅していて良かったとつくづく思った。これで重装騎兵が生きていたら目も当てられない。
  
 「シロノウエヲトンデミタ。モンハカンゼンニトジラレテイル。ナカニイルヘイリョクハ、ザット600テイドダロウ」
  
 戦闘が行われていなくて、兵士が600ということは1000名いた守備隊は全滅したということだ。寡兵に負けるとは・・・・・・、やはりカサンドラ公爵の危惧していたとおりになってしまった。
 私は全てのモルゲンステインが作成できるとそれをゴーレム達に持たせた。巨大なモルゲンステインは凶悪な光を放っている。7体のゴーレムは家の前に整列し、命令を待っている。

 [モルゲンステルン]
  それは長い柄の先に鉄球がついている打撃武器だ。ただし鉄球に
  は太いスパイクが何十本もついている。
  今回は攻城戦にも使うので柄の部分を太くして耐久力を上げてあ
  る。因みに鉄球の直径は70cm程度だ。そこに無数のスパイク
  が突き出ている。

 ミュールとサンダーゴーレムにメイスの作成を頼むと私はバスティと帰ってきたミルト、ルールウと街の地図を見ていた。
  
 「とりあえず東門を取り返そう。そして門を閉じる。とりあえず毒矢と魔法使いを先に潰そう。冒険者のランクがどれだけかが分からないぶん、当面の驚異は魔術師と毒矢だ。後は奪還した後の守備固めだなぁ」
  
 奪還は簡単だがそれを守り通すには人数が必要だ。私の召喚術で魔界の魔物を召喚しても良いが何かあったときに対応出来ない。やはり南門のアルド上級騎士爵を説得するしかない。
  
 「私とルールウで南門へ行き、兵力を貸してもらおう。バスティとミルトは北門へ移動。相手戦力の見極めが終わったら東門へ向かって欲しい。そこで戦闘が起こっていなかったら南門へ来てくれ。以上だ。 あ、折角だから腹ごしらえをしていってくれよ」
  
 私はそれだけ言うとルールウを連れて南門へと向かった。
  
-----お堅い軍人さんと門の奪還-----

 私たちは南門に来ていた。アルド上級騎士爵に兵力を貸してもらうためだ。門は固く閉じられ、私たちが近づいただけで弓とクロスボウを構えられた。
  
 「おぉ、朝方は済まなかったな」
  
 私たちはアルドにどうしてここを固めているかを聞いてみた。私とルールウはあまりの阿呆らしい回答に頭を抱えた。
  
 「西門の守備隊長と話をしたところは知っていると思うが、城の中の代行に連絡がつかない。カサンドラ公爵からも連絡がないから私たちは動きようがない。それで門を固めているのだ・・・・・・」
  
 私たちは引きつった笑いを浮かべ、とりあえず今後する事をはなし、兵力を貸して欲しいことを伝えた。返答は予想通りのものだった。
  
 「国の兵士を市民に貸すわけにはいかない。しかもそれは軍の仕事だ。市民が口を出すことではない。出しゃばらずに大人しくしていろ」
  
 まぁ、粗方こうなることは分かっていたのだが、やはり腹が立つ。軍の命令系統としては正解なんだろうけれどこれだけの土地が侵略されるのを見ているだけの軍人ってどうなのだろう。カサンドラ公爵はそこまで規律に厳しかったのだろうか?
 何のための守備隊なのだろうか? やはり公爵が帰ってきたら聞いてみようと思う。
 私はこれ以上の話は無駄だと思ったのでその場を退散することにした。ルールウは完全に表情に出して怒っていた。私はルールウをなだめながら家に帰る。最初の玉鋼は全てが倉庫に運び込まれていた。次々とメイスが作成されてゆく。
  
 「さてと、ルールウはここで抜けても良いですよ。これ以上付き合うと最悪ルイスの街から追い出されますからね」
  
 私の言葉にルールウが拳骨を振り上げた。振動を覚悟したが襲ってきたのは柔らかい唇の感触だった。
  
 「あのね、弟弟子を放って帰れるわけがないでしょう。私とバスティは最後まで付き合うと思うよ。ミルトのことは考えてあげた方が良いとは思うけれどね」
  
 そう言ってもう一度唇を重ねてくる。
  
 「それにこの間の約束、まだやってもらってないから、忘れるなよ」
  
 ルールウは顔を真っ赤にして倉庫の方へ歩いて行った。
 私はルールウとの約束?と暫く考え、あぁと思い出す。正直完全に忘れていた。本気だったんだなぁ。私はどう回避するかを考えていたのに・・・・・・。私はバスティやミルトをあまり待たせるわけにはいかないと判断したので、3体の竜型ゴーレムにそれぞれ北門、東門、城の偵察を割り当てた。そしてルールウとゴーレム7体を引き連れて東門に向かう。フォルミードには到着したら合流するようにとミュールに伝えてある。
 
  
 市内の人々の視線が私たちに集中する。3mの巨大なゴーレムが凶悪なモルゲンステルンを担いで歩いて行くのだ。集中しないわけがない。私たちが東門に付く前にバスティとミルトが合流した。私は先程ルールウにいった言葉を2人に投げかける。2人とも即答でついてくると言ってくれた。
 私も覚悟が決まった。ついてきてくれる仲間のために久しぶりに全力を使うことを心に決めた。
  
  
 東門の反乱者達はパニックに陥っていた。7体のアイアンゴーレムが地響きを立てて近づいてくる。その頭上には数体の魔物が漂いながら近づいてくる。更に上空には美しい羽を持つ天使が槍を持って浮いていた。普通の兵達が押し寄せてくるのならば特に気にせずに迎撃する自信はあった。しかしこの異形の集団は想定外だ。
 弓兵達が毒矢をつがえ、次々と矢を放ってゆく。しかしそれはゴーレムの身体に当りはじき飛ばされ、空中を漂う魔物はものともしていない。天使に至っては届きすらしなかった。魔術師達が自分の得意とする魔法を次々と放ってゆく。しかしそれも前面に出た魔物達に弾かれていった。
 突然、ゴーレム達が走り出す。手には巨大なモルゲンステルンを構えている。ゴーレム達はすぐに距離を縮め、モルゲンステルンを兵士達に振り下ろす。
 兵士達は一撃で肉塊と変わり、血と肉を辺り一面にまき散らした。槍や剣で応戦するがアイアンゴーレムの力に太刀打ちできるはずもなくすぐに大量の死体の山ができあがった。魔術師達や弓兵達も天使の放つ光に塵と化し、魔物の集団に絡め取られてゆく。
増援の冒険者達も若干の抵抗は見せたが全て同じ運命を辿った。
こうして東門は4半刻も経たずに異形の者達にあっさりと制圧された・・・・・・。
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