こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます 戦争と商売拡大編

こちら付与魔術師でございます Ⅲ 反乱勃発

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ん~、木炭どうしよう

予想以上に作成に手間がかかるんですねぇ。

ここは炎の精霊に1度燃えている伏せ焼き釜の中で状態を見ても~らおっと。

炎の精霊が怒る?

どうかな~。

でも普通の釜では時間がかかりすぎるからね~

それからバスティちゃんに調整してもらい木を木炭に変える。

いやぁ、我ながらよく考えたものだ。

ふはははは。

しかし、やはりドロワがみょーなこと考えてたんだなぁ。

あれも不正になるのかな? それとも業務上横領? 横領では・・・・・・ないなぁ。

んで、夜襲っと。

久々に根性入れた召喚やったからねぇ~。

散々暴れてもらいましょう♪

でわ!

-----襲撃者の正体-----

 ルールウは10人目の襲撃者を始末していた。柿色の服装に身を包んだ相手だ。武器は短剣。しかし刃にはぬらりとした液体が塗られている。
  
  (擦っても死ぬ・・・・・・)
  
 ルールウは久しぶりに死線の中に立ち興奮していた。自分にまだまだ修行が足りないと言い聞かせながらも頬と口元が緩むのが押さえられない。目の前には5人がいる。後の半分は中に侵入したのだろうか? 先程、魔法戦の音がしたが今は静かになっている。
 目の前に白刃が閃いた。反射的に後ろへ飛ぶ。捻って躱すと追撃が来るので危険すぎる。暗殺者の刃に塗られた液体なぞ触りたくもない。
 突然、ルールウの前にいる5人以外の気配が消えた。5人もそれに気づいたのか慌てている。ルールウはここぞとばかりに先程斬りかかってきた相手の首を掴んだ。骨が軋み、斬りかかった者が徐々に持ち上げられてゆく。相手は斬りかかろうとするが何故か短剣を振り下ろさない。見かねた仲間が短剣を持ち突っかかる。しかし、2、3歩歩いたところでその身体は崩れ去った。首が地面に転がる。繋がっていたところからは噴水のように血液が噴き出した。残りの3人は失敗を悟り3方に別れ脱出を試みるが首に巻き付いた黄色い物に拘束された。襲ってきた者には尻尾が生えていた。手には連れてきた魔術師を抱えている。
  
 ごぎり
  
 その突然の襲撃者の後ろで骨の砕ける音が暗闇に響き渡った。
 ドサリという音と共にルールウに斬りかかった者は地面を這った。既に息は無い。同時に残った三人も同じ運命を辿った。
  
 ぐりゅ ぐりょ ぷちゅ
  
 それぞれの首から不快な音が漏れる。
そして突然の乱入者とルールウは向かい合う。ルールウの口から震える声が漏れた。

 「妖狐 九尾の狐・・・・・・」

 「妖狐・・・・・・カ、ソノヨウニ呼バレルノモ久シイナ。シカシ話シテイル暇ハナイ。私ガ消エル前ニアノ男ノ前ニ戻ラネバ。ツイテコイ」
  
 九尾の狐と呼ばれた女性はルールウに早く来いと顔で促し、屋敷の中部屋言っていった。
  
  
 「得物ダ。コレデ使役ハ終ワル。暇ナノデマタ呼ブガ良イ」
  
 尻尾を生やした女性はローブを纏った二人を床に落とした。後ろには険しい顔のルールウがついてきている。言葉の後、彼女の姿は徐々に薄れ始め、最後にはルールウしかいなくなった。私は強烈な脱力感に襲われその場に膝をついた。魔力を限界まで使用したのでその反動が襲ってきたのだ。ミュールが私をソファまで運び寝かせてくれた。ルールウはローブを着た二人を縛り上げていた。魔術師だと分かっているので口にも猿轡を噛ませる。
  
 「ミュール、申し訳ないがミルトとユーリカをここへ呼んで欲しい」
  
 ミュールはユーリカの部屋へと歩いて行く。[だむだむ]と扉を叩く音と呼ぶ声がする。暫くして二人が出てきた。私はミルトに光源の魔法を頼むと少しだけ目をつむる。目の奥に光が差し込む感覚を得るとゆっくりと目を開けた。そこには心配そうな顔の女性達がいた。
私はゆっくりと起き上がり、ユーリカに魔術師のフードを取るようにいう。そしてユーリカとミルトと私は衝撃を受けた。そこにいたのは魔術師ギルドのネタヴィア・アルソンだった。
 ネタヴィアは魔術師ギルドに登録したときからお世話になっていた。魔術・商売等様々なことでアドバイスをもらった。しかしデーモンの骨格の件で疎遠になっていたのだが、まさか襲ってくるほどとは思ってもいなかった。また、彼女がドロワの手下だとも・・・・・・。ちなみにもう一人は顔は知らない。
  
 「・・・・・・ルールウ、ミルト、まずいよな。これ・・・・・・」
  
 私はとりあえず思ったことを口に出した。これが単独での行動なら良いが魔術師ギルド全ての総意だったら最悪だ。魔術師ギルドの人間は100名程が従軍しているし、最低300名はこのルイスの街にいる。これとドロワの持つ組織(どれほどの規模か分からないが)が一斉蜂起すればルイスの守備隊だけで守り切れるかも怪しい。
  
 「そうだね、非常に不味いと思う。これからルイスの守備隊にこちらに来てもらって、状況を見てもらおう。これだけの非常時だ、サンダーゴーレムに手紙を渡して行ってもらおう。他はここで待機だね」
  
 それだけ言うと、ミルトに全身に怪我がないかを確かめてもらっている。私は遠方へ行くために持っていた魔石をとりだし、自分の身体に魔力を戻してゆく。精神力と脱力感は徐々に戻っていった。
 しばらく待つと騎馬の足音が近づいてくる。それとゴーレムの足音も混ざっている。どうやらそんなには揉めなかったようだ。騎馬は家の周りで止まり、数名の騎士が入ってくる。リビングから庭の様子が見えたので見ていると、松明を持った軽装歩兵が庭の惨状を見て驚いていた。
隊長らしき男が話しかけてくる。

 「私の名はアルド・バルテス上級騎士爵。南地区の守備隊長だ。今、外は部下に確認させている。それで、この二人が首魁だそうだな」
  
 アルド上級騎士爵は俯いて気絶している者達の顔を見た。
  
 「ネタヴィア・アルソン! 何故彼女が・・・・・・」
  
 アルド上級騎士爵が愕然としていると一人の軽歩兵が急いで入って来た。何かを耳打ちしている。アルドは黙って頷くと、騎士数名に南の門へ戻るように指示を出す。そして私に話しかけてきた・・・・・・。
  
-----反乱勃発-----

 「賊の正体はベントゥーラ伯爵の暗殺部隊で間違いないと思う。私はこれから南門を完全に封鎖する。ここには一応分隊を2つ残してゆくので好きに使ってくれ。早めに頼むよ」
  
 それだけ言うとアルド上級騎士爵はすぐにネタヴィアを連れて部屋を出て行こうとする。私は出て行く隊長を止め、ミルトを紹介した。
  
 「彼女が暫くしたら南へと向かいますので完全封鎖はその後でお願いします」
  
 ミルトはアルド上級騎士爵に丁寧にお辞儀をしている。アルド上級騎士爵も分かったといって返事をしていた。騎士爵が去ると後から分隊の隊長2人が入って来る。短めの挨拶を済ますと外の遺骸をどのように処理するかと聞いてくる。
  
 「あ~、暫くそのままにしておいてください。体調が戻り次第確認したいことがありますので・・・・・・」
  
 私の言葉に分隊長達は分かったとだけ伝え、半数を正面に、残りを裏口へと配置してゆく。私はミルトを近くへ呼び寄せ話しかけた。
  
 「すまないがバスティとフォルミードをこちらに呼んできてほしい。少し危険かもしれないので防御障壁をしっかりと張るように。それとこのペンダントを付けていくように。これは悪意ある魔法攻撃に魔法障壁が5回自動的に発動するやつだ。役に立つはず」
  
 ミルトは黙って頷くと人が起きてこないうちに馬を外へと走らせた。
  
  
 その頃倉庫街ではロングソードとプレートアーマーに身を包もうとする、1000名を越える人間がいた。手際よく武装してゆく。そこには政務補佐官が立っていた。
  
 「どうだ、装備自体は」
  
 ドロワが隣に立っている隊長らしき人物に話しかけた。隊長はにやりと笑う。
  
 「これだけの武器と防具、この短期間で良く集まりましたね。どのようにやられたのですか?」
  
 ドロワはまあなと軽く流した。味方だろうと手の内は明かしたくない。
  
 「これだけの重装備の部隊だ。城の制圧は問題ないだろう。城にも1小隊を紛れ込ませてある。ルイスの街は1大隊3000だ。そのうち4つの城壁に張り付いている部隊が8分中隊1600、街の中の見回りが2分中隊400、で城内が1中隊1000だ。そして魔術師ギルドのうち200が裏切る。冒険者ギルドも500は切り崩せた。カサンドラの置いていった指揮官は凡人だからな・・・・・・・」
  
 それだけ言ってドロワは口を閉ざした。
 カサンドラがこの街を出立して1日。最初はあと2日欲しかったがあの魔術師が貿易のカラクリを暴露しやがった。そのせいで商工会のメンバーを一人殺した。明日にはばれて犯人捜しが始まる。その前に一気にルイスの街を手に入れる。領地内には2大隊が残っているが各地に分散しているので最大でも分中隊単位でしか行動していない。街の街壁を利用し、防衛。最後は城に籠もれば1ヶ月は保つ。それがカサンドラが全兵力を率いて戻ってきてもだ。
  
 「隊長。最初は北門を落とせ。ここの全部隊を率いて行け。魔術師数人が4つの門に張り付いている。協力して潰せ。一刻だけ城の方は引き受ける。装備でき次第すぐに仕掛けろ」
  
 それだけ言うと共の者を率いてドロワは城へと戻ってゆく。
  
 (城さえ取れば・・・・・・、本国から侵攻部隊が一直線にこの街を目指す。それまで持たせれば良い)
  
 ルイスの街の更に東。国境を接しているのは砂漠の国エルート。ここには高速移動が出来る戦車部隊がいる。これが一気に侵入すれば東一帯はエルートのものだ。これで豊かな穀倉地帯が手に入る。
  
 (やれやれ、ベントゥーラの馬鹿に使えカサンドラの元に潜り込み、やっと本国の部隊をここに入れることが出来る。ここまで10年がかかったが。やはり古代遺跡で見つけた[アトン]とかいう存在ものが大きかったな・・・・・・)
  
 ドロワは10年前に出た故郷のことを思い描いていた。しかし帰る気は全くない。ここルイスが気に入っている。成功の暁にはこの地域を任せてもらうつもりだ。それくらいの事はしてくれるだろう。

 (あの魔術師にも暗殺部隊と強力な魔術師を送り込んだから大丈夫だろう・・・・・・。奴のせいで計画が狂ってしまったわい)
    
 暫くして馬車は城門を潜り城の中へと入っていった。時間は真夜中。決起までは2刻はある。ドロワはそれまで身体を休めるつもりでいた。始まったら寝ている暇はないのだから。
  
  
 早朝、倉庫街から重装備の騎馬集団がルイスの街を駆け抜けていた。巡回中の分隊を一瞬で踏みつぶす。その馬速は一気に加速していた。重装騎兵の突破力で一気に北門を奪取するつもりだった。北門付近に張り付いていた魔術師達は馬の駆ける音を聞き、広範囲の破壊系魔法をそれぞれ唱え始めた。北門の守備隊が重装騎兵に気づいたとき、城門付近にいた兵士や、兵舎へ一斉に魔法が襲いかかった。寝込みを襲われた兵士達は大混乱になる。
 城門の上では半鐘を鳴らそうとする兵士の首に矢が突き刺さる。それは下からではなく横から放たれた。唖然とする同僚達は数名の同僚達に次々と斬られてゆく。
  
 (なんだ? 何が起こっている?)
  
 ある兵士は疑問を持ちながらロングソードを引き抜く。しかし、それまでだった。数名のもつ刃がその兵士の全身を貫いていた。勝ちどきも上げず北の城門を最大に解放した兵士達は城へと向かってゆく。重装騎兵は全速力で東門へと向かってゆく。反乱は始まったのだ!
  
  
 最初の北門襲撃の馬の足音でルイスの住人達は目を覚ました。住民達はなにが起こっているのか理解できない。ただただ、騎兵が駆け抜けていくさまを見つめているだけしか出来なかった。暫くすると北門の付近から爆発音が聞こえてくる。ルイスの街の住民達はそこで初めて異変に気がついた。
  
 (反乱? 野党? なに? )
  
 隣国エルートとはここ10数年戦争は起こっていなかった。ルイスの街の守備隊も同様で突然現れた重装騎兵の唖然とすることしか出来なかった。次々と街の門は制圧され、閉ざされてゆく。ただ一カ所南門を除いて・・・・・・。

-----罠? 嫌がらせ?-----

 「来るぞ! 長槍兵、パイクを構えろ!」
  
 南門の守備隊長アルド上級騎士爵は昨夜のカーソン宅の襲撃を目の当たりにしたため防備を整えていた。街の全ての門が閉ざされる中、南門だけは今朝方解放された。その門の中に長槍兵が二列に並びパイクを構えていた。広範囲からの攻撃を受けないためだ。門の上にもロングボウ100とクロスボウ20と煮え油を用意させた。
 この段階ですでに反乱の芽は摘んであった。20名程の死体が街壁の上に積み上げらあれている。魔術師の死体も一緒だ。
 そして城壁の上には魔術師が一人、その護衛らしい女性が一人いる。長槍兵の後ろには2mほどのゴーレムが立ち、その横に巨大なスキュラが立っていた。
  
 「さて、あのプレートアーマーですが青銅です。思いっきりやってください。ちなみにロングソードも青銅です」
  
 私の言葉にアルド上級騎士爵が 何故分かる? と問い返した。
  
 「あれは私の商会が作って納品したものです。カサンドラ公爵と話し合った結果、このような事が起こるのではないかと想定しておりました。ただし100は普通のプレートアーマーで、ロングソードも普通の物です。もっとも少しだけ嫌がらせの魔法は掛けてありますが・・・・・・」
  
 それだけ言って騎馬突撃を掛けてくる1000騎に向かい魔法を唱え始める。私の詠唱が終わると全てのアーマーとロングソードが少しだけ輝き、鈍い金色の光を放ち始めた。突撃中の騎馬隊は気がついていない。それでも100程は今までと同じ銀色を輝きを放つ鎧を着ている。
 私が頷くとロングボウが一斉に放たれる。放射ではなく水平の打ち下ろし射撃だ。射手には外れても良いので手当たり次第に打ち込むように言ってある。街壁の上からの射撃に青銅の鎧は耐えられなかった。次々と落馬してゆく。しかも適当・・・・に打つように言ってあるので射速も早い。
 さらに射程に入った相手にクロスボウが放たれる。このクロスボウ部隊には銀色の鎧の者だけを狙うように指示してあった。第1射で15のプレートアーマーを着ている騎馬が落馬する。
 ここまでやるとあからさまにおかしいと感じる者達が出てきたようで馬速が緩まった。そこに白狼の魔力の咆哮が唸りを上げた。突然の咆哮に馬は大混乱を起こし、次々と停止する。僅かに突撃してくる騎馬もパイクの壁に次々と突き刺さっていった。
  
 「狩れ!」
  
 アルド上級騎士爵の言葉に重装歩兵20と軽装歩兵60が落馬した者に襲いかかる。パイクを持った者達もブロードソードを抜き乱戦に加わってゆく。広域付与魔術で斬れ味を上げられた武器は青銅の、ただし重さはプレートアーマーの鎧を紙切れのように切り裂き、致命傷を負わせてゆく。
 さすがに不利と悟った後方部隊は徐々に撤退するために馬を後方へ向けようと必死だ。そこに今度は重厚な手袋をはめたロングボウ隊が鏃をそこらに置いてある短剣に擦り付け斜角を計る。下の乱戦部隊はある一定範囲からは出ていない。そのように指示をしてあるからだ。
 今回は水平射撃ではなく放物射撃の準備をする。今度は乱れ打ちではなくある一定の正確さを持って遠くへ飛ばすように指示がしてあった。
 放たれた矢は見事な放物線を描き、引き返そうとする後方の騎馬に命中する。突然馬が暴れ出し、ばたばたと倒れ込む。放り出された者達は馬の下敷きになったり、矢を直接受け首などを押さえながら次々と落馬してゆく。
  
 「・・・・・・惨いな」
  
 アルド上級騎士爵がぼそりと呟いた。軍において絶対に使わない戦法を使っているからだ。ロングボウ隊の面々も複雑な表情で1射ごとに短剣の場所に戻りまた撃つということを繰り返している。
  
 「そうですね~。本当はこういうことはやりたくないでしょうね。でも戦力差があり、かつ市民に犠牲を出したくない場合はこのような手段でも使える物は使うべきですよ。怪我したくないですしね」
  
 私が用意したのは昨夜襲ってきた賊の持っていた短剣と、それに塗られていたものが入った壺だ。効果があれば良い程度で使ってみたが・・・・・・ねぇ。即効性の致死毒だった。
欠伸をしながら観戦している私をアルド上級騎士爵は複雑そうに見ていた。基本的に放射状に拡がるこの都市の道は1度ふさがると逃げ道がなくなる。後方で逃げ延びた100程の重装騎兵以外は袋のネズミと化していた。

 「さてアルド様。皆殺しになさいますか? 降伏を促しますか?」
  
 私の言葉にアルドは少し考え込んだ。部下に3名ほど捕らえろという指示を出す。そして1度射撃を中断している弓隊に手を振り下げた。
 逃げ場を失った後方部隊に矢が降り注ぐ。今回は通常の矢だ。クロスボウは近場の者を確実に仕留めてゆく。それは完全に殺戮の場と化していた。4半刻も経たずに押し寄せた兵は皆殺しになった。
  
 「捕虜を連れてきてください。現在の状況を吐かせます。こういうときは魔法って便利なのですよ。アルド様は追撃部隊の準備をしてください」
  
 私の言葉にアルド上級騎士爵は[分かった]と答え、街壁の下へと降りてゆく。それと同時に捕虜が連れてこられた。
  
 「カーソン、無茶はするなよ」
  
 ルールウが横に立ち、いつでも戦えるように控えている。私は頷いて捕虜の一人の頭に手を置いた。すぐに捕虜の目線が虚ろになり、私の問いに抵抗することなく話し始めた。 
  
  
 「アルド様、状況が掴めましたよ」
  
 私の声にアルド上級騎士爵は動きを止めてこちらに向きを変える。重装歩兵は半数が騎馬に乗り、半数はスクトゥムを装備している。パイクを構えていた長槍兵もロングスピアに装備を変更している。この場には分小隊50名を残してゆくそうだ。
 私は現状を手早く報告した。北門と東門はすでに敵の手に落ちていて解放されているということ。西門は無事。ここは死守完了。そして城では乱戦が行われているだろうということ。そして・・・・・・。
  
 「エルートだと!」
  
 アルド上級騎士爵は大声を上げた。他の兵士の視線もこちらに集中する。
 エルート。この国の東方にある国でほとんどが砂漠で出来た国だ。10数年前に大戦が起きて以来戦争は起こっていなかった。それが今回動いたということは、長年策略を張り巡らせていたということだ。
  
 「・・・・・・あそこには高速の戦車部隊とラクダ騎兵がいる。国境を掠め取るのではなく突破するだけならば5日程度でここまで来るぞ!」
  
 アルド上級騎士爵は相当慌てている。すぐに西門へ数名の使者を出した。その後は出撃準備を整えたままうろうろと考え事をしている。どうやら守備隊の中に斥候はいないらしい。しかも北と東の門を押さえられているので城を制圧するのが先か門を奪還するのが先かを迷っているようだ。
 正直ここからは軍の管轄だが折角の商売できる都市が荒らされるのは見たくなかった。私はアルド上級騎士爵に提案をしてみた。
  
 「西門を開放し、斥候を数名カサンドラ公爵の元へ送り出し、城門を固めてしまってはどうでしょう。それから東、北と取り返し閉めてしまう。そしたら後は城を孤立させることが出来るでしょう? 後は内部の兵力とこちらの兵力で挟撃できるのでは? ついでに冒険者ギルドの者達にも協力させたら良いでしょう。報酬さえ払えば戦いますよ。きっと」
  
 私が提案を終えるとアルド上級騎士爵はまた考え始めた。その時、300名程の兵士がこの南門に到着した。どうやら西門の部隊が到着したようだ。彼らはミュールとサンダーゴーレムを見て驚き、攻撃態勢を取ろうとする。アルド上級騎士爵は慌てて西門の司令官のところへ行き事情を説明していた。
 私はミュールを呼び寄せ、ルールウと話し込んでいた。
  
 「とりあえず、嫌がらせの商品は上手く機能したから良かった。これは師匠のおかげだけど・・・・・・」
  
 私の言葉にルールウが黙って頷いた。
  
 「しかし、行動が遅すぎないか? このまま速攻で街壁の門を奪い返せば立てこもることが出来るのに。一般市民に協力を頼めば5万規模で籠城戦が出来る。やはり遅すぎる」
  
 ルールウがいつもより怒っている。アルド上級騎士爵と西門の司令官との話が遅いことに腹を立てているようだ。確かに話し合いは遅い。兵達もイライラとしている。しかし一般市民としては先程の進言が限界だろう。ここからは軍人の仕事だ。
私は潮時だと思いアルド上級騎士爵に家に戻ると伝えに行く。
  
 「アルド上級騎士爵様、少しよろしいでしょうか?」
  
 何かを激論していたアルド上級騎士爵と西門の司令官の間に私は割って入った。両方からの視線が痛い。
  
 「何のようだ?」
  
 アルド上級騎士爵の言葉に私は役目が済んだので家に帰るということを伝えた。アルド上級騎士爵は少し考えた後、もう少し留まれないかと言ってくる。しかし私はそれを拒んだ。これ以上は軍人の仕事だし、昨夜処理してもらったことの義務は果たしたと伝える。そして最後に一言言い放った。
  
 「仕事、遅すぎです。最後に脱出した部隊がいなくなって半刻が過ぎています。相手は防衛体勢か何某かの手段を整えたはずです。これ以上付き合えば私たちのリスクが大きくなりすぎます」
  
 最後は睨み付け、大声になっていた。さすがに言い過ぎたかとも思ったが私はそのまま踵を返しルールウとミュール、サンダーゴーレムに帰ると告げて南門を去ることにした。
 ちなみに2人の司令官は唖然とした後、すぐに怒鳴り合いの激論を始めていた。
  
 (あ~あ、カサンドラ公爵が言っていたことが分かるような気がするよ。このままだとルイスの街は落ちるかなぁ)
  
 私たちはとりあえずユーリカの待つ家へと帰っていった。
  
-----城-----

 城の中では城門が完全に奪われていた。徐々に城門は閉ざされてゆく。それをさせまいと駐屯していた中隊が奪還を開始していた。重装歩兵を前面に出し、侵入者を突破しようとする。しかしそれは強力な毒矢によって阻まれていた。
  
 (ちぃっ、毒矢とは卑怯な・・・・・・。しかし、城門を閉められては外部との接触がとれなくなる。相手は200程度なのに何故押し切れない)
  
 ルイス代行指令のアライスは中隊を10の小隊に分けて城内に配置していた。城門にかからせている兵力は500。しかし既に100はあの世に旅立っていた。凄まじい量の矢とその中に混ざっている毒矢に苦しめられていた。
  
 (全小隊を集結させるべきか・・・・・・)
  
 アライスは迷っていた。どうせこの城に入るところはここともう一カ所だけだ。各所に配置した小隊を集めて一気に決め、街の中の状態を確認する必要がある。必要ならば領内の兵を呼び戻す必要もあった。
  
 (一気に決めるか・・・・・・)
  
 後ろに控える副官に各小隊をこの正面に集めるように指示を出す。しかしその指示は遅すぎた。雄叫びとともに数百の武装した集団が城内のあちらこちらから出てきた。装備はまちまちなので冒険者達のようだ。アライスの周りを固めていた兵達はその集団に一気に飲み込まれてゆく。その乱戦の中、アライスの肩に1本の矢が突き刺さった。強烈な痛みと熱さが全身を駆け巡る。アライスは内蔵を掻き回されるような感覚に襲われながら意識を失っていった。
  
 アライスが倒れると守備兵は瓦解した。城内に残っていた守備兵500は半分が投稿し、惨殺された。
残った兵も力ある限り抵抗したが徐々に包囲・殲滅され昼前には城は完全にドロワの手中に落ちることとなった。
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