こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます

こちら付与魔術師でございます ⅩⅩⅤ 師匠と古代文明と商品と

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やばい、こんなに早く師匠が来るなんて・・・・・・。

予測していなかったから茶菓子も用意してない。

殺される。

うちの師匠、大人しいように見せているけど外面と内が真逆だからなぁ。

家の人間と揉めなければいいが。

あれで結構子供っぽいから・・・・・・。

とりあえず、不意打ちを喰らいました。

さすがに死んだと思っていました。

ギリギリ生きてたんですね。

後でミュールとミルトにお礼をしなくてはいけません。

家は半壊したと聞いていたのですがそれほどでもないようです。

しかしルールウ、師匠と知り合いなのかな?

なんかそんな感じでしたが。

というところで、接待が待っていますので今回はここらで失礼します。

 (明るくなれねぇ・・・・・・なぁ)


-----師匠-----

 あれから暫く私はミュールに拘束されていた。その間、ルールウが師匠の相手をしてくれていたらしい。ついでにこちらの事情を説明してくれた。今、私は師匠の前に座っている。師匠の顔はにっこりと笑っているが中では何を考えているか分からない。
  
 「・・・・・・師匠、申し訳ありませんでした」
  
 とりあえず、謝っておこう。まずそれからだ。どうせ機嫌は最悪で来ているはずだ。私は返事がないので暫くして頭を上げた。視線が痛い。横にはルールウとミルトが座っている。ユーリカは泣き疲れて眠っているミュールを撫でている。
  
 「カーソン、あなたハーレムでも造っているのですか?」
  
 開口一番がそれだった。微妙に棘がある。私はそのようなことはないと否定した。師匠はリビングを見回して溜息をつく。
  
 「ルールウ、貴女もまさかカーソンに惚れているわけですか?」
  
 ルールウは暫く下を向いていたが顔を真っ赤にして[ハイ]と答えた。あぁ、誤魔化せなくなってしまった。私はとりあえず話題を変えてみることにした。
  
 「師匠、ルールウとお知り合いですか?」
  
 私がミュールに抱きしめられているとき、ルールウは師匠のことを知っているような対応をしていた。そこが気にかかっていた。その質問に師匠ではなくルールウが答えた。
  
 「カーソン、私の武術の師匠だよ・・・・・・」
  
 ルールウはバツの悪そうな顔をしている。私は頭が真っ白になった。ということはルールウは私の先輩になるのか?それに今度相手をすると言ってしまったのか。
 これは非常に不味いかも。なにしろ私の最初の相手は師匠だからだ。しかもなぜかお互い初めて。
 私の横ではミルトとユーリカが眼を丸くしている。先程のルールウの言葉だろうか?
まぁ、驚くだろう。
それにハーレムと言われたこともあるのだろう。
  
 「で、カーソン。この子ですか? 手紙に書いてあった娘は?」
  
 師匠はユーリカの方をジッと見つめた。ユーリカはミュールの頭を撫でていた手を止め、蛇に睨まれた蛙のように固まっている。
  
 「あ、はい。そうです。この娘があのときの手紙の子です」
  
 私はやはり師匠は恐ろしいと改めて思った。師匠はある程度の魔力の流れが視えるそうだ。そして今回も視ただけで見つけてしまった。
  
 「ふうん、確かにすごいですね。少し調べさせてもらわないと詳しいことは分からないけど・・・・・・。こっちのスキュラもすごいですね」
  
 師匠はユーリカとミュールに興味を持ったようだ。両方共を見抜く恐ろしい力量。これが師匠の師匠たる所以だ。私が絶対に抜けないと思える人。
問題は調べる方法なんだけどなぁ・・・・・・。
  
 「しかし、付与魔術師ってお金になっているのですか?」
  
 突然の師匠の問いに私は思わず俯いた。何故かルールウも俯いている。
  
 「・・・・・・ルールウ、最近儲かっているって言ってましたけれど、もしかして私の流している商品、カーソンに売っていたりしていませんよね?」

 あぁ、そういうことだったのか。道理で品揃えが異常だった訳だ。師匠が流しているならあれだけの貴重な物があることが分かる。
ルールウは私の横で黙って頷いていた。師匠は頭を抱えている。

 「はぁ、なにをやっているのですか」
  
 師匠は軽く溜息をついた。それからは他愛のない話をした。途中でミルトがバスティと交代すると言って出ていった。暫く話しているとミュールが目を覚ました。
  
 「ゴシュジンサマ、コノヒトダレ? マタアタラシイオンナノヒト~?」
  
 ミュールの問いに私とルールウの顔が引きつった。師匠はニコニコと笑っている。
  
 「ミュールちゃんね。私はカーソンの師匠よ。よろしくね」
  
 「ゴシュジンサマ~、シショウッテナニ? オイシイノ?」
  
 さすがの師匠もこれにはこけた。あの師匠もミュールの天然には敵わないらしい。私は師匠のことをミュールにわかりやすく教えた。ミュールはにっこりと笑い料理作ると言ってキッチンへと向かっていった。
  
 「カーソン、あのようなスキュラ、私でも見たこと無いですよ。どこで見つけてきたのですか?」
  
 私は遺跡のこともあるのでどのように誤魔化すか慎重に考えながら話した。師匠に地下の遺跡のことを知られると没収されてしまう。ルールウもそこら辺は分かっているようで察してくれ、話に加わわらない。ユーリカもとりあえず静観してくれていた。
  
 「デキタヨ~、シショウモタベテクダサイ~」
  
 おいしそうな匂いがリビング中に漂う。私は師匠にとりあえず食べましょうと言って料理を勧めた。
  
 「お、お・い・しい~♪」
  
 そう、師匠は美味い物に目がない。私はこれで話をはぐらかせることができると思った。しかし、甘かった。
  
 「ん~、よくこんな娘見つけてきましたね。どうしてこんな良い子を両親が人間に預けたんでしょうね」
 「シショウ~、ミュールノカゾクムカシニシンダヨ。ナンビャクネンモマエニ・・・・・・」
  
 食べ物を口に運ぶ師匠の手が止まった。あぁ、終わった。不味い、逃げよう。
私はトイレに行くと言って急いで立ち上がった。直ぐに師匠の拘束魔法で動きを封じられる。

 「ミュールちゃん、そのお話お姉さんに詳しくお話ししてくれないでしょうか? ルールウも動いたら駄目ですよ」
  
 ルールウは観念したように動かなくなった。ミュールは私との出会いから、洞窟のこと、戦いのことまで全てを師匠に話してくれた。師匠の眼が怖い。
  
 「カーソン、よくあれだけの嘘を言いましたね。少しお仕置きしましょうか」
  
 にこやかな師匠の口元が僅かに動く。私を拘束している魔法が徐々に強力になる。私は必死に対抗魔法で抵抗してみるが効果は無い。むしろ抵抗した事がばれてごく小さい電魔法を流された。
  
 「いたたたたたた。師匠、勘弁してください」
  
 私は思わず呻き声を上げた。バチバチという音が私の周りで弾けている。ルールウは諦めろという顔、ミュールはおろおろとしている。ユーリカはただ怯えていた。
  
 「主さま、帰りました」
  
 バスティが勢いよくリビングへ入って来た。私の格好を見てそこで動きが止まる。直ぐに背中のロングソードを引き抜いた。目線をリビング内へ走らせる。
  
 「師匠?!」
  
 バスティの目が師匠のところで止まっていた。師匠も驚いている。
てか師匠?バスティ、今恐ろしいこと口走ったよなぁ・・・・・・。
  
 「バスティエンヌ? お久しぶりですね。貴女もカーソンのハーレムのひとりですか?」
  
 師匠の拘束魔法が解け、私はその場に崩れ落ちた。もう逃げる気力も無い。私はもと座っていた場所に腰を下ろした。
バスティは私と師匠の顔を見比べて口をパクパクとさせている。私もバスティの次の言葉を待った。ただ単に痛くて口が開けないだけなのだが・・・・・・。

 「・・・・・・師匠。お久しぶりですと言いたいのですが・・・・・・、この間お会いしたの2000年位前ですよね」
  
 バスティの口から衝撃の言葉が洩れた。ルールウも口をぱくぱくとさせている。てか師匠、あんたいくつなんだよ。
  
 「だめですよ、バスティエンヌ。女性の年齢を簡単に口にするものではありませんよ」
  
 師匠の眼がその場の全員に忘れろと言っている。ここは忘れるに限る。
  
 「しかし私の弟子同士が何故こうも惹かれるのでしょうね、カーソンに」
  
 師匠がふぅと溜息をつく。軽く髪をかき上げ身体をしなやかに捻り肘の上に顎をのせた。このような仕草を見るとやはり師匠は外見・・だけは美しい。ユーリカやミルトはぽーっとなっている。
  
 「オシショウサマ、キレイデスネ~」
  
 ミュールは率直に感想を言ったようだ。師匠はにっこりと微笑む。
  
 「ありがとう、ミュールちゃん。それで思い出しました。カーソン、ミュールちゃんの家のこときちんと話していただけますわよね」
  
 あ、思い出した。最早言い逃れは出来ない。私は仕方なしに地図を拡げミュールのこと、回収した物のこと、その土地のことを全て師匠に話した。
  

 -----古代遺産-----
  
 「ふうん、そうですか。そういうことですか」
  
 師匠の眼がキツい。私はそこで回収した本などを私の部屋からユーリカに持って来てもらった。その本に師匠は目を通していた。
  
 「師匠、読めるのですか?」
  
 私は師匠に素直に尋ねていた。正直全然進んでいない。バスティから受け取った本は少しだけ読み進められている。しかしこちらには一切手を付けていない。
  
 「ん、少しだけでしたらわかります。これは私とカーソンが研究した古代文明より更に古い文明の文献です。最低でも700万日以上は経っています」
  
 私と師匠が研究した物より更に倍近くの日付が経っているのか・・・・・・。それは読めないはずだ。しかし何故ミュール達はあの装置の使い方を知っていたのだろうか?
  
 「ねぇ、ミュールちゃん。あなた達はどのようにしてその水の使い方を知ったの?この本が読めるの?」
  
 ミュールは私の方を向く。どうやら話して良いかの指示が欲しいらしい。私は黙って頷いた。正直私よりも師匠の方が質問の仕方が上手い。完結かつわかりやすい質問をしている。
  
「ント、ホンハヨメマス~。デモオソワッタノハ、テノトオルチイサナヒトデス~」
  
 ん? 手の通る小さな人? ゴーストの類いか?
 私が質問をしようとすると師匠が手で制した。どうやら心当たりがあるようだ。師匠は私に紙と筆を用意するように言う。ユーリカがすぐに師匠の前に差し出した。すでにここの全ての人間が師匠の言うことを聞くようになっていた。これも師匠の恐ろしいところだ。直ぐに誰もを支配下に置く。といっても別に特別なことをしているわけではない。何となく人を引きつける魅力があるのだ。 
 師匠は何か絵のような物を紙に書いてミュールに見せた。ミュールは懐かしそうにそれを見ている。
  
「オシショウサマ~、ナンデコレヲシッテイルノデスカ~。ナツカシイデス・・・・・・」
  
 ミュールの目が涙目になっている。私とバスティ、ルールウそしてユーリカがそれぞれ覗き込む。
  
 「げっ!」
 「嘘!」
  
 私とバスティが同時に声をあげた。全員の視線が私たちに集まる。それは私がバスティから譲り受けた物と全く一緒だった。
  
 「カーソン、バスティエンヌ。何か知っているのですね? 話してください」
  
 逆らえない声が私たちを襲う。私とバスティは目を合わせ、溜息をついた。私はしばらく待って欲しいと言って席を立つ。向かう先は宝物の部屋だ。そこにあの不思議な物を置いている。私は久しぶりにそれを手に取るとリビングへと戻っていった。
 
 
 「アァ~、ナツカシイデス。コドモノコロヨクコレニシツモンシテイマシタ」
  
 ミュールは置いた物にしがみついた。周りに配置された宝石を触っている。ミュールは置物に夢中なので私はとりあえず師匠に尋ねてみた。
  
 「師匠はこれをご存じなのですか?」
  
 バスティとルールウは興味深そうに見ていた。ユーリカはいつの間にか食べ終わった食器を片づけている。

「いいえ、私も知りません。ただ、ここに書いてあっただけですよ」
   
  師匠は先程から目を通していた本を私に見せた。そこには古代語と共にその置物が描かれている。私は最初から解読しようとし、師匠は最後まで目を通して読もうとした。その差が出たようだ。そして物が存在していたところの住人であったミュールに質問をする。いつも師匠はこのようにして解読を進めていた。私も時間で数百年は一緒にいたのにまだ師匠の手法を学べていなかった。
  
 「まだまだ、観察力が足りませ・・・・・・」
  
 ヴン・・・・・・
  
 羽虫の羽ばたくような音が聞こえる。置物の上に女性が一人立っていた。全員の視線がそこに集まる。それは師匠も例外では無い。
  
 「@*◇●〆&♯?」
 「♯◎☆‡∞~」
  
 正直何を言っているのか分からない。師匠の顔を見ても微妙な表情だ。
  
 「ミュール、言葉が私たちには分からないのだが・・・・・・」
  
 ミュールはまた宝石を弄りだした。今回は少し複雑な動きをしているうえに時間が長い。蘇生させたとき以来に見る真剣な顔のミュールだ。こうしてみると結構美しく師匠にも匹敵する。暫く経つとミュールはニッと笑って顔を上げた。
  
 「西暦・・・・・・は200近くの国があり、・・・・・・が独立した政権を持った・・・・・・です。宇宙にも進出・・・・・・衛星を使い・・・・・・世界中とのネットワーク・・・・・・」
  
 訳が分からない。言葉は分かるが分からない単語が多すぎる。
  
 「師匠・・・・・・」
 「カーソン・・・・・・」
  
 私たちは2人頷き合ってミュールに力を切るように言った。
  
  
 -----仕事-----
  
 「とんでもないものだ・・・・・・」
  
 私は思わず溜息をついた。ミュールは置物を摩っている。動かさないようには言ってある。この間にバスティはミルトと交代に行くと言ってルールウと外に出かけていった。ユーリカは片付けの後、自分の部屋へと戻っている。
  
 「カーソン、これは譲っていただけないですよね・・・・・」
  
 師匠は私ではなくミュールの方を見ながら尋ねて来た。私はそうですねと答える。確かに私の物だがこのミュールの嬉しそうな様子を見ていたらさすがに譲れない。
  
 「仕方ないですね。これは諦めましょう。しかし何という物なのでしょうね」
  
 師匠が呟いたときミュールが顔を上げた。
  
 「コレハネ~、[リッタイホログラフ]トイウノデス~」
  
 置物の名前をあっさりと言って、また懐かしそうな顔で装置を見つめだした。私たちは黙ってミュールを見つめていた。
  
 「まるでわたくしたちですね、カーソン」
  
 師匠は懐かしそうに私を見つめた。私たちが引きこもって研究をしているときのことを言っているのだろう。私たちは古代遺跡で不思議な物を見つけるとミュールのように時間を忘れて2人で弄くりまわしていた。それが結果的に2人の間を縮め、関係を持った。そして200年という膨大な時間を時空の狭間で過ごした。しかし人間には限界があり、私はその生活に耐えきれなくなり師匠の元を去ることにしたのだ。
  
 「そうですね。あの頃は楽しかったです。私が耐えきれなくなってしまいました。自惚れかもしれませんが師匠には寂しい思いと残念さを感じさせてしまったかもしれません。折角、長い間面倒を見て育てていただいたのに・・・・・・」
  
 私は一度飛び出した後、後悔をした。戻ろうかとも思ったが止める師匠を振り切って飛び出したのだ。どの面を下げて帰れたものか。せめて商人として成功してから戻ろうと思っていた。しかし結局は師匠に頼ってしまった。
  
 「いいのですよ。大変なときは頼ってください。それとわたくしは気長に待っています。他の方達もついて来るとおっしゃったら連れていらっしゃい」
  
 師匠は微笑んでいる。この人は本当になんなのだろうか? 全てを見透かしたうえで受け入れてくれる。私はこの人に本当に惹かれていたのだと思う。 
  
 「ネエ、ゴシュジンサマ~」
  
 突然のミュールの声に私は現実に引き戻された。師匠もゆっくりとミュールの方に目を向ける。
  
 「オシゴトドウスルノデスカ~」
  
 あ、忘れてた!すでに外は日が暮れている。納品日は明日だ。非常に不味い。
  
 「師匠、申し訳ありません。仕事をしないといけませんので私はこれで。良ければ私の部屋をお使いください。ユーリカ~」
  
 私は部屋に入ったユーリカを呼び出した。私の部屋を師匠に使ってもらうように指示を出す。ユーリカはすぐに私の部屋へ行こうとした。
  
 「ユーリカさん、お待ちください」
  
 慌てて2階へ行こうとするユーリカを師匠が止める。私とミュールも思わず立ち止まった。師匠は私の仕事内容と手順を聞いてくる。私は早く仕事をしたくもどかしいながらも、どのようなことをしているのかを説明する。師匠は少し上を向いて考えた後ユーリカに声を掛けた。
  
 「ユーリカさん、あなたカーソンの弟子ですよね。カーソンの師匠の魔法を見てみませんか?」
  
 師匠はにこりとユーリカに微笑みかけた。ユーリカは戸惑いながらも黙って頷く。
  
 「じゃあ、そういうことで。ミュールちゃん、仕事場に案内してください。カーソンは[リッタイホログラフ]を安全なところへ隠してきなさい」
  
 師匠の眼が少しだけ吊り上がった。仕事の眼だ。私はミュールに案内を頼むとすぐに物を持って地下の金庫部屋へと走った。
  
-----商品作成----- 

 工房ではゴーレム達がロングソードを作成し終わっていた。青銅のロングソードが所狭しと並んでいる。師匠は必要な量の錫をここへ運ぶように言う。私はゴーレム達に直ぐに指示を出した。大量の錫が運ばれてくる。
  
 「カーソン、あなた1本どれくらいの時間で仕上げるのですか?」
  
 私は高音言語魔法を使わずに同時進行一刻で48本と答え、事情があって高音言語魔法は使えない事を師匠に伝える。まだバスティのことは伝えていないからだ。師匠は少し考え込んだ。
  
 「100本ずつ並べるように指示を出してください」
  
 私は師匠のいうとおりに指示を出す。とりあえず100本が目の前に並んだ。師匠が声を出し詠唱を始める。私は久しぶりに師匠の詠唱を聴いた。最初に魔法を教わって以来の詠唱の声だ。しかも長い。四半刻後、100本のロングソードが突然光り出した。用意された錫が吸い込まれてゆく。目が眩むような光の後、そこには100本の偽装ロングソードが出来上がっていた。2・3振り手に取り検品したが全く問題は無い。
  
 「し、師匠? どうやったのです?」
  
 私は思わず聞き返していた。しかし師匠は微笑みながら次を用意するように言う。呆然とする私の代わりにユーリカがゴーレム達に指示を出している。ミュールは出来上がった物の検品、サンダーゴーレムとヒートゴーレムがそれを箱に詰めてゆく。次の商品を運んでくるのはヘカトンゴーレムだ。
  
 「カーソン、あなた変なゴーレム創るのですね。面白い発想です。だから私から盗みなさい。ユーリカさん、貴女もですよ。魔法は覚えるのも大事ですが盗むことも大事です。覚えておいてくださいね」
  
 師匠は100本が揃うと直ぐに同じ魔法を詠唱し始める。それを延々と繰り返し、約二刻後には全ての偽装ロングソードが完成していた。しかも汗一つかかず、魔石も1つも使っていない。私たちはただ黙って見つめていた。ゴーレム達は次々と箱に詰め、近場に積み上げてゆく。
  
 「はあ、終わりですか。物足りないですね。カーソン、他にありませんか?」
  
 私は頭を抱えていた。真似なんぞ出来るか! これだから師匠は嫌なんだ・・・・・・。
  
 「オシショウサマ、スゴイデス~。モウオワッチャイマシタ~」
  
 ミュールは素直に感動している。ユーリカは羨望の眼差しで見つめていた。あぁ、私の威厳が脆くも崩れ去ってしまった。
  
 「ミルトただいま戻りました・・・・・・、って何ですか! もう完成したのですか?」
  
 帰ってきたミルトが工房を覗き込み驚きの声をあげる。私は思わず師匠を指差していた。
  
 「ま、まさかカーソンさまのお師匠がお一人で・・・・・・?」
  
 ミュールとユーリカが黙って頷いている。ミルトは信じられないといった顔をしている。
  
 「で、カーソン。盗めましたか?」
  
 師匠が笑いながら近づいてくる。まずい、出来てない。私の表情を見た師匠は溜息を一つ吐いた。
  
 「ミュールちゃんごめんなさいね」
  
 ごっつ
  
 ミュールの身体に軽く足を掛け跳躍した師匠の拳骨が私の頭に炸裂する。私は思わずしゃがみ込んだ。
  
 「まったく、これで人に教えようとしているのですから困ったものですね。ほら、まだあるのでしょう案内しなさい。次はきちんと盗むのですよ」
  
 全員が唖然とするなか、師匠は玄関に向かって歩き出した。私は痛む頭を押さえながらミュールとゴーレム達に家の警備を任せるとユーリカ、ミルトと共に借りている倉庫に師匠を連れて行った。
  


 倉庫の中にはバスティとルールウが立っていた。ヘルハウンドは倉庫の中を動き回り、バグベアードは倉庫の外を彷徨っている。
  
 「主様、どうしてここに? って師匠まで・・・・・・」
  
 驚くバスティとルールウに私は今までの事を説明した。2人の顔が驚きに変わる。
  
「これを先程の条件で変換すればよいのですね。あぁ、魔法は変えるのですね。ところで錫はどうするのですか?」
  
 私は蜜穴熊のバッグから錫を取り出した。小分けにされた袋を次々と引っ張り出していると師匠も興味を持ったようだ。
  
 「面白いもの創ったのですね? ふうん、部屋とバッグを繋いだのでしょう」
  
 その言葉にルールウが反応した。
  
 「カーソン、企業秘密じゃなくなったねぇ。当然作ってくれるよねぇ、せ・ん・ぱ・い・に」
  
 ルールウがにやりと笑い、師匠の拳骨を喰らっている。
  
 「作ってもらうのは良いですけど、ちゃんとお金は払うのですよ」
  
 そう言って師匠は青銅のプレートアーマーの前に立つ。
  
 「カーソン、覚えたらやってみてください」
  
 直ぐに詠唱が始まった。詠唱の基礎は先程と一緒だが付与する魔法のところだけをうまく変えてある。しかも無駄をかなり省いてあった。半刻も経たずに100程のプレートアーマーが光り出す。師匠は一つの列を終わらせると直ぐに次の列へと移動する。
  
 「暗いですわね」
  
 師匠が魔法を唱える前にミルトが神聖魔法で光を灯した。
  
 「あら、ミルトさんでしたよね。神聖魔法が使えるのですか? もしかしてカーソンを治療していたのはあなたですか?」
  
 ミルトは何故か顔を真っ赤にしながら黙って頷いた。
  
 「それではあとでお話ししましょう。わたくしの知識が役に立つかもしれませんから」
  
 そう言って笑うとまた魔法を唱え始める。私はある程度の詠唱方式は掴んでいた。もう一度見れば盗める。静かな倉庫の中に美しい詠唱が流れ続けた。また100程が光り出す。師匠が移動すると、私も師匠の横に並んで詠唱を始めた。2人の声は寸分違わず同じ言葉を紡ぎ出す。それは最後まで全く同じだった。同時に今までの倍の数のアーマーが光った。
  
 「カーソン、なんとか盗めたようですね」
  
 私たちはそれを数度繰り返し、倉庫にある全ての商品を偽装することに成功した。もっとも私は4回目でダウンし、残りはすべて師匠がやってくれたのだが・・・・・・。
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