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こちら付与魔術師でございます
こちら付与魔術師でございます ⅩⅩⅣ 襲撃と悪魔到着
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あ~、なんとか金貨10000枚の発注作業に取りかかれました。
種明かししましたけど・・・・・・。
大したことないじゃん?
む~、そう言われるとそこまで大したことではないかも。
良い作戦だと思ったんですが。
もっと愉快な方法思いつけば良かったですかねぇ。
では、さっさと填めて潰しますかね。
さて、問題は世界のパワーバランスを崩しかねない子のこと。
正直驚きました。
ここまで桁外れだと、通常最強魔術など朝飯前かもしれません。
しかし、これが発動できるかと言えば微妙なんですよね。
魔法って魔力があっても個人的な差で使える人と使えない人がいるんですよ。
この魔力量なら覚醒しないで欲しいですね。
嫉妬ではないですよ。
本当に守ってやらないと危険なのですから。
今後は屋敷の防衛とかも考えなくてはいけないですね。
でわ。
ロングソードとプレートアーマーの納品日が5日に迫っている。私や配下のゴーレム、従業員達は様々な役割分担をしながら徐々に作品を完成させてゆく。作成しておいて途中で大失敗している事に気がついた。それは商品を溜めておく場所を借りることを忘れていたことだ。仕方が無かったので大急ぎでミルトに倉庫を手配してもらった。こういうことは冒険者ギルドで仕入をやっていただけのことはあり、凄まじく早い。何しろ朝言って昼には倉庫を借りていたのだから・・・・・・。
「昔の癖で色々と朝夕にチェックする癖が付いているのですよ」
これが本人の言葉だ。
ちなみに警護が必要なので、久々に召喚魔法を使ってみた。呼び出したのはヘルハウンド5体とバグベアード5体。地上はヘルハウンドで空中や倉庫周りはバグベアードという仕組みだ。ついでに昼間はバスティに、夜はミルトと交代で詰めてもらっている。
商品作成はロングソード9割、プレートアーマー8割と言ったところだ。最終段階に入ると遅れる工房と済んでしまった工房の差が顕著に表れた。
実際プレートアーマー100、これを2週間で造れというのがおかしいだけだ。しかし、ここは造ってもらうしかない。すぐに割り振りを変更し、作業を効率化する。このために数台の馬車を再度借りることになった。
バスティには施設警護を任せてあるのでアーマー回収の仕事はミルトの仕事となった。ユーリカに関しては、とりあえず私の道具部屋の整理をやってもらっている。
私はロングソードに錫を合成させ、偽装ロングソードを次々と生み出してゆく。それをミュールが次々と箱に詰めてゆく。毎日が単調ではあるが忙しい日々を送っていた。
ちなみに魔術測定器と師匠への手紙は測定日の翌日にはすでに送り出してある。ユーリカをルート回収に出さないのはその事についても配慮したからだ。
「御免! カーソン殿はおられるか?」
玄関先で大声が響き渡る。私は作業の手を止めミュールを連れ添って玄関へ出た。そこには、重装の男が馬上にいた。手にはメイス、鎧はフルプレートアーマー、鞍にはロングソードという完全武装の重装騎兵だ。
「わたくしがカーソンですがどちら様でしょうか?」
私の後ろに控えるミュールに一瞬驚いた表情を浮かべたが直ぐに通常の表情に戻る。
「カサンドラ公爵様の命令で進捗状況を聞きに来たのだが、よろしければ見学させていただいてもよろしいか?」
その騎士の言葉は反論を許さないような力が籠もっていた。少し違和感を感じたが、わたしは商品がここにはないと言うことを告げ、倉庫の方に案内させるから暫く待っていて欲しいと言うことにする。
「ふぅむ、ここは鍛練場か・・・・・・、ここの見学でも良いのだがなぁ」
それは不味い。加工していない青銅製の物が多いからだ。しかしカサンドラ公爵もそれは承知しているはず。なぜこの段階で視察に兵をよこしたのか・・・・・・。
「いやぁ、残念ですがそれはご遠慮ください。鍛冶達にとっては神聖な職場です。ましてやこの強行的な仕事で皆、殺気立っております。倉庫の方でご勘弁ください」
本当は殺気立つはずはないのだが。何しろ造っているのはゴーレム達、むしろプレートアーマーがここで造られていないのがカサンドラ公爵以外にばれるのが問題だ。
「どうです? 商品だけなら持ってこさせますが?」
私の申し出に騎士は黙って頷いた。私の指示で後ろに立っていたミュールが歩き工房へ戻る。その後ろ姿を見送って、私は少し疑問に思っていたことを騎士に質問しようと騎士を振り返る。そこには頭上にメイスを構えた騎士の姿が映った。
(まず・・・・・・い)
全身から吹き出る汗。ぞわりと鳥肌が立つ。メイスは確実に私の頭を狙って振り下ろされた。
ゴッッ
無理矢理右腕を犠牲にしてメイスを受け止める。しかし騎士の振り下ろすメイスはとんでもない重さで私の身体を大地に押し詰めた。バキバキという不快な音と共に私の右手はふにゃりと力を失う。完全に右腕は粉砕されたようだ。声が出ない。本当に痛みが限界を超えたら声は出ないと聞いていた。まさかと思っていたが自分が体験し理解するとは思ってもいなかったが・・・・・・。
地面に倒れる私に騎士は止めとばかりにメイスを振り上げる。確かに剣で刺すより遙かに良い殺し方だ。失敗しても障害が残る可能性がある。しかし簡単に殺されてやるわけにも行かない。
「荒珠!」
私の声に無数の珠が浮かび上がる。騎士は気にせずにメイスを振り下ろした。同時に珠が騎士に襲いかかる。私は本来魔力を掛けずに動く珠に全ての魔力を注ぎ込んだ。
ゴリュメシュギュルギャリグジュゴンゴガゲジュ
不快な音が騎士のプレートアーマーを襲っている。一瞬、騎士のメイスを振り下ろす腕が止まった。しかしそれでもメイスは私の胸部に落ちてきた。ばきばきという音と身体の中に液体が溢れる感触が拡がる。直ぐにその液体は私の口から噴き出した。真っ赤な血液が私の顔を濡らす。
「ゴシュジン!」
私はミュールの声を聞きながら意識を失った。
不快な痛みを胸と腕に感じながら私は目を覚ました。光がまぶしい。
確か・・・・・・、騎士に襲われ致命傷に近い傷を負ったはず。私は起き上がろうとしたが全身を強い力で押さえつけられた。
「まだ、起きてはいけません!」
聞いたことのない男の声が耳に響く。目が慣れてきたので私は首を動かし辺りを見渡した。白い壁に囲まれた殺風景の部屋。そこには数人の神官が立ち、詞を紡ぎ出している。私は全身を包む暖かな力に目を委ね、再度意識を闇の中に押しやった。
次に目を覚ましたとき、目の前には私の見知った顔がいくつも映った。
バスティ、ユーリカ、ミルト、ルールウ、フォルテ、ロイズにルーミィまでいる。そしてカサンドラ公爵・・・・・・。
カサンドラ! 私は勢いよく起き上がった。胸に少しだけ違和感があったが先程感じた痛みはない、が呼吸が苦しく直ぐにベッドに沈みこんだ。
「主様!無理してはいけません!」
バスティの涙声が入ってくる。私はとりあえずカサンドラ公爵に挨拶をする。それから現状の報告を聞くことにした。
あの後私の発動した魔法は私の意識と共に消え、あの騎士は私にとどめを刺そうとしたそうだ。そこに戻ってきたミュールが現れ、激高。騎士は消し飛び、家の半分と家の前の道路が溶岩と化した。慌てて外に出てきたユーリカがミュールをなだめ、サンダーゴーレムが街を駆け抜けバスティとミルトに連絡をしたそうだ。
2人が家に戻ったときには騎士団が駆けつけ、ミュールと対峙していた。そこは一触即発のところだったらしい。詳しい話をバスティとユーリカが聞き、ミルトが応急処置として神聖魔法を限界まで掛けたそうだ。
その後場をミルトに任せ、ユーリカは神殿に走りその後ルールウを呼び、バスティは・・・・・・公爵宅に乗り込みいきなり斬りつけたらしい。
「・・・・・・どれくらい寝ていた?」
私はユーリカに尋ねた。バスティは今は話になりそうにない。ユーリカも涙目だがまだ理性を保っている。
「・・・・・・3日です」
私は大きく溜息をついた。あと2日で納品か・・・・・・。間に合わないな。今度はゆっくりと起き上がる。何とか身体は起こせるようだ。神官に近くに来てもらい私の身体の状態を聞く。
「右腕の粉砕骨折は完全に修復致しました。それと肋骨も。ただし肺に肋骨の破片が入り込んでしまい呼吸が苦しいと思います。こればかりはあまりに傷が深かったもので命を優先させました」
ふむ。最悪か・・・・・・。起き上がるだけであれだけ息が詰まる。魔法を使うことが出来るのかが問題だ。使えればまだ何とか納品に間に合うのだが。
「もう帰って良いのか?」
私の問いに神官は顔をしかめる。
「まだ、帰るのは無理です。これから時間をかけて肺に食い込んでいる骨を取り除いていきます。最低30日は帰られては困ります。死にたいなら別ですが・・・・・・」
その言葉にバスティが立ち上がる。私が動く前にルールウがバスティの動きを止めた。
「バスティ、大人しくしていてくれ。カサンドラ公爵、話がある。みんなも来てくれてありがとう。今度、お礼に行くので今は席を外して欲しい」
私の言葉にロイズとルーミィが美味い物を食いに来いと言って帰る。フォルテもまた見舞いに来ると言って帰った。ルールウがバスティを引きずって部屋の外へ出る。ミルトとユーリカは残りたそうな顔をしたがとりあえず呼びまで入ってこないでくれとお願いをして部屋を出てもらった。神官達はカサンドラ公爵が下がらせる。カサンドラ公爵は私の近くまで来て、椅子に腰を下ろした。
「あ~、とりあえず納品、間に合いそうにありません。不味いですね」
私の一言にカサンドラ公爵は驚いた顔をした。
「・・・・・・責められるのを覚悟していたのだが?」
カサンドラ公爵は申し訳なさそうな顔をしている。ふむ、こうしてみると可愛らしい。
「別に公爵の手の者でもないでしょう、多分」
公爵は黙って頷いた。公爵が言うには正直証拠がないらしい。私の家は火災で半分が焼失、敷地から道路の一部は溶岩溜りと化していたそうだ。私に殴りかかった騎士も完全に消し炭と化していた。身元は鞍にかかっていた剣から判明したらしいが、その騎士は駐屯所で殺されていたそうだ。
「あ~、ベントゥーラ?でしたっけ? あそこの暗殺部隊ですか?」
正体は分からないらしい。まぁ、ミュールの最大級の火力魔法を喰らえばそうなるわなぁ。私はそこで気がついた。そういえばミュールがいなかった。
「あ、公爵。ミュールはどうなさったのですか?」
公爵が言うにはとりあえず犠牲者が出なかったので敷地から出ないようにだけ言ってあるそうだ。落ち着いたら大人しくなったようで黙って従っているらしい。私の家の周りには1小隊が張り付いているということだ。
この神殿にも1中隊が張り付いているらしい。
「ありがとうございます。寛大なご処置をいただきまして。本来なら討伐されても仕方のないことです」
公爵は手を振りながら溜息をついた。
「正直、彼女に暴れられたらルイスは壊滅するよ。むしろあれで済んだからまだ良かった」
本気でそう思っているらしい。実際私も同意見なのだが・・・・・・。問題は商品の納品だ。
「さて本題なのですが、商品の納品をどうにかせねばなりません」
正直こちらが問題だ。3日寝ていたのだから期間は残り2日。商人としては期日は守りたい。しかし今の肺の状態でまともに魔法が掛けられるのかどうかは疑問だ。かといって誰に頼むわけにも行かない。あれだけドロワを填めるための工作をしている。魔法自体はギルドの人間でも掛けることは出来るが正直ばらすわけにはいかない。
「本当に商人だなぁ。正直、この件はなかったことにしようと思っている。ドロワという害虫を抱え続けるのは不本意だが仕方がない。かかった資金もこちらから違約金として出すようにするよ。とりあえず暫く寝てなさい」
私が次の言葉を発する前に、公爵は唇で私の口を塞いだ。暫く時が流れる。
「黙って寝ていなさい。それと1週間後には私は東部地域の半数の兵力を率いて首都へ立つ。中央北部の脅威に本格的に軍を派遣することになった」
公爵は立ち上がり出口へと歩いて行く。扉に手を掛けて思い出したように振り返り一言。
「さっきのは私の本当の気持ちだ。からかっている訳ではない」
それだけ言って公爵は部屋の外へ出て行った。入れ替わりにユーリカが入ってくる。ミルトは公爵に捕まっていた。
「ユーリカ、心配をかけた。家の様子をミルトと一度見てきてくれ。バスティも連れ帰ってくれよ」
ユーリカは黙って頷く。その後、ミルト、バスティ、ルールウが入ってきた。
「みんな、心配掛けて済まない。仕事も明日には復帰したい。何とか協力を頼む。バスティは倉庫の警護。ミルトは私の補佐、といっても回復魔法で私の身体を補助してもらいたいだけだが。それとユーリカは先程言ったとおり、家を見て戻ってきてくれ。ついでにゴーレム達に作業を再開するように頼んで欲しい」
私が紙に指示書を書こうとすると、ミルトがそれを止めた。
「ミュールとゴーレム達はすでに仕事を始めていますよ。ゴーレムは何故かユーリカの指示に従っていますがね」
私は驚いた顔をしてユーリカを見つめた。ユーリカは黙って俯いている。
「む~、不味いな。そこまでユーリカの力が目覚めたのか・・・・・・」
どうやらゴーレムの支配権を無理矢理ユーリカが奪ったようだ。しかし魔力で無理矢理奪うとは・・・・・・、聞いたことがない。やはりこの件に関しては早めに師匠と話をする必要がありそうだ。とりあえずユーリカには魔石の数量を数えてきてもらうことにした。
「主様。主様の警護はどうするのですか!」
バスティは倉庫警備を言われたのが不満らしい。しかも無防備になることが心配のようだ。私は騎士団がここに張り付いているから大丈夫だと言い、ルールウにバスティを頼むと言う。ルールウはバスティの件は引き受けてくれたが、危険すぎると言ってバスティを戻した後戻ってくると言ってくれた。しかし私は戻るよりも痛み止めの薬草を手に入れてくれるように言って、その後ユーリカの補助を頼むと伝える。ここには魔力結界を張るから大丈夫だと言って聞かせた。暫く不毛なやりとりが続いたが神官達の止めが入り、全員が家に戻っていった。暫くは神官達が私の治療をし、その後部屋に一人になった。
私は魔法を唱え、魔力結界を張る。やはり呼吸が苦しい。これでは明日中に商品を納入するのは難しいかもしれない。とりあえず別系統で3重の結界を張ると少しだけ眠ることにした。
-----襲撃2と悪魔到着-----
私は外からの喧噪で目を覚ました。外では怒号と爆音が飛び交っている。私は入り口で立っている神官がいることに気がついた。直ぐに物理結界を取り払う。神官と完全武装の兵士が近づいてきた。
「モンスターの襲撃です。ゆっくりと・・・・・・」
神官の腹から剣が飛び出してきた。しかしそれは私の身体に触れる前に止まった。2重に張っていた物理結界が防いでいる。普段は魔力結界を2重に張るが、今回は逆のことをしていた。どうせ来るなら物理的だろうと山掛けしていたのが正解だった。一撃で仕留め損なった兵士は直ぐに神官からブロードソードを引き抜く。神官を蹴り飛ばし、私の上に覆い被せるようにするともう一度ブロードソードを振りかぶった。
しかし、それは振り下ろされることはなかった。拘束魔法が兵士の身体を縛り上げる。私の放った物ではない。懐かしい恐怖の魔力の波動が窓の外から伝わってくる。わたしはぎぎぎぎぎと首を窓の方へ向けた。
「カーソン。生きてたようですね」
ふわりと部屋の中に飛び降りた人。それはとてつもない美しさの女性だった。均整のとれたバランスの良い身体。長いすらりとした足、美しい長き黒髪。優しく慈愛に満ちた黒い瞳。そしてやんわりと包み込むような優しい口元の笑み。
ゴツッ
私の頭に強烈な拳骨が叩きつけられた。
「お仕置きは後です。表は片付けておきましたから、まずはこの神官を回復させましょう」
部屋に入り込んできた女性は私の頭を殴りつけると、身体にのしかかっている神官に回復魔法を唱え始めた。神官は完全に事切れている。しかし傷は塞がり、神官の身体全体を明るい光が覆い尽くす。それは徐々に大きくなり部屋の中から溢れ出した。
「黄泉返り・・・・・・」
私の口から思わず声が漏れた。異常を感じた神官達や兵士も部屋の中へ駆け込んでくる。しかし誰もがその光に目が眩み、圧倒的な魔力と慈愛に飲み込まれた。神官達はただ膝をつき祈り、兵士達も黙って見つめている。暫くすると光は一気に収束し、倒れた神官の中へと引き込まれていった。
神官はゆっくりと目を開け、刺された辺りを触っている。そして突然泣き出した。女性が立ち上がり神官に声を掛ける。
「完全に回復はしていますが、心を休めてください。皆様方、わたしくの弟子がご迷惑をおかけ致しましたこと、師匠の私が謝らせていただきます。まず、表の兵士の方々の治療を致しましょう」
私の師匠はそう言って、神官達に立ち上がるように促した。神官達と兵士は直ぐに外へと走りだした。全員が出ていくと、拘束されている兵士に眠りの魔法を掛ける。兵士は拘束されたまま眠りについた。
「カーソン、油断しすぎですね。誰も信じるなと教えたはずですが・・・・・・。まぁ、話はあとでゆ・っ・く・り・と聞かせていただきます。もう少し大人しくしていなさい」
そう言って師匠は窓から出ていこうとする。直ぐに私の方を振り返った。
「あぁ、カーソン。逃げたら・・・・・・、ね♪」
慈愛の笑みを浮かべながら師匠は窓の外へと出て行った。一応ここ3階なんだけれどなぁ・・・・・・。私は師匠の恐怖の仕打ちに怯えながら、部屋を出ることも出来ずに、拘束された兵士を見つめながらベッドに横になっていた。
暫く経つと師匠とカサンドラ公爵が並んで入って来た。カサンドラ公爵が神妙な顔をしている。
「カーソン殿、申し訳ない。まさかまだいたとは。しかもマンティコアまで街に侵入させてしまった・・・・・・」
マンティコア・・・・・・。また厄介なものを連れてきたなぁ。しかし、守備隊にもかなりの被害が出ただろう。
「カサンドラ公爵、中隊の被害は酷いのではありませんか・・・・・・」
マンティコアは強力な魔物だ。1体でも強力で、出たら大隊クラスの軍が対応に当たるくらいだ。カサンドラ公爵の神妙な顔つきからすると相当被害が出たのだろう。
「正直・・・・・・、被害はない。ここにおられる方が3体のマンティコアを一瞬で殺してしまわれたらしいので」
師匠・・・・・・、また力上がってないか・・・・・・。
公爵の横ではにこりと師匠が微笑んでいる。しかしこの笑顔にだまされてはいけない。こいつは悪魔だ。史上最悪と言えるほどの大悪魔で、正直上位悪魔でも可愛いくらい恐ろしい。
(カーソン、下手なこと話したら・・・・・・ね♪)
と眼が語っている。
公爵は師匠の眼に気がつかないように私に話しかけた。
「カーソン殿のお師匠様らしいな。先程少しお話しをさせていただいた。すばらしい師匠をお持ちなのだな」
私は黙るしかなかった。絶対に否定したいところだが言えば何をされるか分からない。ただ、黙って頷くしかなかった。
「カーソン、そろそろ帰りますよ。あなたの家に泊めてくださいね」
師匠の眼は有無を言わせない。私はまだ暫く安静だと言われていることを師匠に伝えた。容赦のない言葉に公爵も助け船を出してくれる。しかし、師匠は涼しい顔をしていた。
「まぁだ気づかないのですか? もう肺も元に戻してありますよ」
そう言われれば違和感がない。まさか、黄泉返りの最中に肺の骨を全て取り除いたのか・・・・・・。これには公爵も驚き高位の神官を呼びに行った。暫く師匠と2人きりになる。私の額と背中には脂汗が流れ続けていた。
ばたばたという足音とともに公爵と神官数名が駆け込んできた。すぐに私の診察を始める。神官達は驚いた顔を浮かべていた。やはり骨は残っていないそうだ。ここの最高司祭が師匠と話をしている。師匠はその問いをのらりくらりと躱していた。
このままいたら、後の事が怖いので私は帰り支度を始めた。準備が整うと師匠は質問を打ち切り、[案内してください]と言ってきた。私は公爵に頭を下げ、また出陣前には顔を出しますと告げた。師匠も頭を下げる。
「あ、公爵さま。この街から南へ少し行った森の中に私のペットがいますので攻撃しないでくださいませ。大量の犠牲者が出ますから。それとその拘束している兵士ですが、自殺しないように頭を弄っておきますので処置はお願い致します」
にこりと笑って私の前を歩き、師匠は神殿の外へ出た。中隊が3体のマンティコアの死骸に群がっていた。
全身がバラバラに引き千切られたような死骸。どうせ空間魔法を使って引き千切ったのだろう。
外に出た私たちを見た兵士達は、プライドが高い騎士達も含め全てが整列した。どちらかと言えば顔が恐怖に引きつっているようにも見える。師匠はひらひらと手を振って町の方へ歩き出した。
-----自宅-----
私は師匠とゆっくりと歩き、家へとたどり着いた。かなりの兵士が家を取り囲んでいる。死角にも分隊単位で兵士が立っていた。カサンドラ公爵はかなり気を遣ってくれているらしい。
私の家の前はまだ地面が煮立っていた。下手に魔法を掛けると蒸気が上がるだけだからだ。しかも深さが分からない。手の打ちようがないのだろう。
「カーソン、お前の家はなんなのですか?」
師匠が顔をしかめながら溶岩に近づいてゆく。慌てて兵士達が止めようとするが私はそれを手で制した。師匠の口が動く。刹那、一帯に冷気が吹き荒れた。その強烈な冷気は直ぐに収まったが、目の前の溶岩は完全に固まっていた。
「邪魔だから底まで凍らせておきました。あとで埋め直しておいてくださいね」
突然の冷気に家の中からもミルトとルールウ、ユーリカ、ミュールが飛び出してきた。
「ゴ、ゴシュジンサマ~!」
ミュールがずりずりと全力で近づいてくる。師匠もさすがに驚いている。私はミュールに思いっきり抱きしめられ持ち上げられた。ミュールの顔は涙と唾液でぐしゃぐしゃになっている。
「ゴベンナザイ~。ミュール、ゴジュジンザママモレナガッタ~」
私は黙ってミュールの頭を撫でてあげた。暫くすると師匠の眼がこちらを向いていることに気がついた。
(あ、まずい。拗ねている眼だ・・・・・・)
私はとりあえず、ミュールに降ろしてくれと言うが中々聞いてくれない。ただただ抱きしめずっと泣き続けている。師匠は溜息をつき暫くそうしていなさいと言って、勝手に中に入っていった。止めに入ろうとしたミルトとユーリカをルールウが止める。ルールウの視線がこちらを向いたので私は黙って頷いた。他の2人は混乱していたがルールウが丁寧に師匠を家の中へと案内してくれていた。
ん?知り合いなのかな?
私はその姿を見届けると泣き叫んでいるミュールの頭や頬を暫く撫で続けてあげた。
種明かししましたけど・・・・・・。
大したことないじゃん?
む~、そう言われるとそこまで大したことではないかも。
良い作戦だと思ったんですが。
もっと愉快な方法思いつけば良かったですかねぇ。
では、さっさと填めて潰しますかね。
さて、問題は世界のパワーバランスを崩しかねない子のこと。
正直驚きました。
ここまで桁外れだと、通常最強魔術など朝飯前かもしれません。
しかし、これが発動できるかと言えば微妙なんですよね。
魔法って魔力があっても個人的な差で使える人と使えない人がいるんですよ。
この魔力量なら覚醒しないで欲しいですね。
嫉妬ではないですよ。
本当に守ってやらないと危険なのですから。
今後は屋敷の防衛とかも考えなくてはいけないですね。
でわ。
ロングソードとプレートアーマーの納品日が5日に迫っている。私や配下のゴーレム、従業員達は様々な役割分担をしながら徐々に作品を完成させてゆく。作成しておいて途中で大失敗している事に気がついた。それは商品を溜めておく場所を借りることを忘れていたことだ。仕方が無かったので大急ぎでミルトに倉庫を手配してもらった。こういうことは冒険者ギルドで仕入をやっていただけのことはあり、凄まじく早い。何しろ朝言って昼には倉庫を借りていたのだから・・・・・・。
「昔の癖で色々と朝夕にチェックする癖が付いているのですよ」
これが本人の言葉だ。
ちなみに警護が必要なので、久々に召喚魔法を使ってみた。呼び出したのはヘルハウンド5体とバグベアード5体。地上はヘルハウンドで空中や倉庫周りはバグベアードという仕組みだ。ついでに昼間はバスティに、夜はミルトと交代で詰めてもらっている。
商品作成はロングソード9割、プレートアーマー8割と言ったところだ。最終段階に入ると遅れる工房と済んでしまった工房の差が顕著に表れた。
実際プレートアーマー100、これを2週間で造れというのがおかしいだけだ。しかし、ここは造ってもらうしかない。すぐに割り振りを変更し、作業を効率化する。このために数台の馬車を再度借りることになった。
バスティには施設警護を任せてあるのでアーマー回収の仕事はミルトの仕事となった。ユーリカに関しては、とりあえず私の道具部屋の整理をやってもらっている。
私はロングソードに錫を合成させ、偽装ロングソードを次々と生み出してゆく。それをミュールが次々と箱に詰めてゆく。毎日が単調ではあるが忙しい日々を送っていた。
ちなみに魔術測定器と師匠への手紙は測定日の翌日にはすでに送り出してある。ユーリカをルート回収に出さないのはその事についても配慮したからだ。
「御免! カーソン殿はおられるか?」
玄関先で大声が響き渡る。私は作業の手を止めミュールを連れ添って玄関へ出た。そこには、重装の男が馬上にいた。手にはメイス、鎧はフルプレートアーマー、鞍にはロングソードという完全武装の重装騎兵だ。
「わたくしがカーソンですがどちら様でしょうか?」
私の後ろに控えるミュールに一瞬驚いた表情を浮かべたが直ぐに通常の表情に戻る。
「カサンドラ公爵様の命令で進捗状況を聞きに来たのだが、よろしければ見学させていただいてもよろしいか?」
その騎士の言葉は反論を許さないような力が籠もっていた。少し違和感を感じたが、わたしは商品がここにはないと言うことを告げ、倉庫の方に案内させるから暫く待っていて欲しいと言うことにする。
「ふぅむ、ここは鍛練場か・・・・・・、ここの見学でも良いのだがなぁ」
それは不味い。加工していない青銅製の物が多いからだ。しかしカサンドラ公爵もそれは承知しているはず。なぜこの段階で視察に兵をよこしたのか・・・・・・。
「いやぁ、残念ですがそれはご遠慮ください。鍛冶達にとっては神聖な職場です。ましてやこの強行的な仕事で皆、殺気立っております。倉庫の方でご勘弁ください」
本当は殺気立つはずはないのだが。何しろ造っているのはゴーレム達、むしろプレートアーマーがここで造られていないのがカサンドラ公爵以外にばれるのが問題だ。
「どうです? 商品だけなら持ってこさせますが?」
私の申し出に騎士は黙って頷いた。私の指示で後ろに立っていたミュールが歩き工房へ戻る。その後ろ姿を見送って、私は少し疑問に思っていたことを騎士に質問しようと騎士を振り返る。そこには頭上にメイスを構えた騎士の姿が映った。
(まず・・・・・・い)
全身から吹き出る汗。ぞわりと鳥肌が立つ。メイスは確実に私の頭を狙って振り下ろされた。
ゴッッ
無理矢理右腕を犠牲にしてメイスを受け止める。しかし騎士の振り下ろすメイスはとんでもない重さで私の身体を大地に押し詰めた。バキバキという不快な音と共に私の右手はふにゃりと力を失う。完全に右腕は粉砕されたようだ。声が出ない。本当に痛みが限界を超えたら声は出ないと聞いていた。まさかと思っていたが自分が体験し理解するとは思ってもいなかったが・・・・・・。
地面に倒れる私に騎士は止めとばかりにメイスを振り上げる。確かに剣で刺すより遙かに良い殺し方だ。失敗しても障害が残る可能性がある。しかし簡単に殺されてやるわけにも行かない。
「荒珠!」
私の声に無数の珠が浮かび上がる。騎士は気にせずにメイスを振り下ろした。同時に珠が騎士に襲いかかる。私は本来魔力を掛けずに動く珠に全ての魔力を注ぎ込んだ。
ゴリュメシュギュルギャリグジュゴンゴガゲジュ
不快な音が騎士のプレートアーマーを襲っている。一瞬、騎士のメイスを振り下ろす腕が止まった。しかしそれでもメイスは私の胸部に落ちてきた。ばきばきという音と身体の中に液体が溢れる感触が拡がる。直ぐにその液体は私の口から噴き出した。真っ赤な血液が私の顔を濡らす。
「ゴシュジン!」
私はミュールの声を聞きながら意識を失った。
不快な痛みを胸と腕に感じながら私は目を覚ました。光がまぶしい。
確か・・・・・・、騎士に襲われ致命傷に近い傷を負ったはず。私は起き上がろうとしたが全身を強い力で押さえつけられた。
「まだ、起きてはいけません!」
聞いたことのない男の声が耳に響く。目が慣れてきたので私は首を動かし辺りを見渡した。白い壁に囲まれた殺風景の部屋。そこには数人の神官が立ち、詞を紡ぎ出している。私は全身を包む暖かな力に目を委ね、再度意識を闇の中に押しやった。
次に目を覚ましたとき、目の前には私の見知った顔がいくつも映った。
バスティ、ユーリカ、ミルト、ルールウ、フォルテ、ロイズにルーミィまでいる。そしてカサンドラ公爵・・・・・・。
カサンドラ! 私は勢いよく起き上がった。胸に少しだけ違和感があったが先程感じた痛みはない、が呼吸が苦しく直ぐにベッドに沈みこんだ。
「主様!無理してはいけません!」
バスティの涙声が入ってくる。私はとりあえずカサンドラ公爵に挨拶をする。それから現状の報告を聞くことにした。
あの後私の発動した魔法は私の意識と共に消え、あの騎士は私にとどめを刺そうとしたそうだ。そこに戻ってきたミュールが現れ、激高。騎士は消し飛び、家の半分と家の前の道路が溶岩と化した。慌てて外に出てきたユーリカがミュールをなだめ、サンダーゴーレムが街を駆け抜けバスティとミルトに連絡をしたそうだ。
2人が家に戻ったときには騎士団が駆けつけ、ミュールと対峙していた。そこは一触即発のところだったらしい。詳しい話をバスティとユーリカが聞き、ミルトが応急処置として神聖魔法を限界まで掛けたそうだ。
その後場をミルトに任せ、ユーリカは神殿に走りその後ルールウを呼び、バスティは・・・・・・公爵宅に乗り込みいきなり斬りつけたらしい。
「・・・・・・どれくらい寝ていた?」
私はユーリカに尋ねた。バスティは今は話になりそうにない。ユーリカも涙目だがまだ理性を保っている。
「・・・・・・3日です」
私は大きく溜息をついた。あと2日で納品か・・・・・・。間に合わないな。今度はゆっくりと起き上がる。何とか身体は起こせるようだ。神官に近くに来てもらい私の身体の状態を聞く。
「右腕の粉砕骨折は完全に修復致しました。それと肋骨も。ただし肺に肋骨の破片が入り込んでしまい呼吸が苦しいと思います。こればかりはあまりに傷が深かったもので命を優先させました」
ふむ。最悪か・・・・・・。起き上がるだけであれだけ息が詰まる。魔法を使うことが出来るのかが問題だ。使えればまだ何とか納品に間に合うのだが。
「もう帰って良いのか?」
私の問いに神官は顔をしかめる。
「まだ、帰るのは無理です。これから時間をかけて肺に食い込んでいる骨を取り除いていきます。最低30日は帰られては困ります。死にたいなら別ですが・・・・・・」
その言葉にバスティが立ち上がる。私が動く前にルールウがバスティの動きを止めた。
「バスティ、大人しくしていてくれ。カサンドラ公爵、話がある。みんなも来てくれてありがとう。今度、お礼に行くので今は席を外して欲しい」
私の言葉にロイズとルーミィが美味い物を食いに来いと言って帰る。フォルテもまた見舞いに来ると言って帰った。ルールウがバスティを引きずって部屋の外へ出る。ミルトとユーリカは残りたそうな顔をしたがとりあえず呼びまで入ってこないでくれとお願いをして部屋を出てもらった。神官達はカサンドラ公爵が下がらせる。カサンドラ公爵は私の近くまで来て、椅子に腰を下ろした。
「あ~、とりあえず納品、間に合いそうにありません。不味いですね」
私の一言にカサンドラ公爵は驚いた顔をした。
「・・・・・・責められるのを覚悟していたのだが?」
カサンドラ公爵は申し訳なさそうな顔をしている。ふむ、こうしてみると可愛らしい。
「別に公爵の手の者でもないでしょう、多分」
公爵は黙って頷いた。公爵が言うには正直証拠がないらしい。私の家は火災で半分が焼失、敷地から道路の一部は溶岩溜りと化していたそうだ。私に殴りかかった騎士も完全に消し炭と化していた。身元は鞍にかかっていた剣から判明したらしいが、その騎士は駐屯所で殺されていたそうだ。
「あ~、ベントゥーラ?でしたっけ? あそこの暗殺部隊ですか?」
正体は分からないらしい。まぁ、ミュールの最大級の火力魔法を喰らえばそうなるわなぁ。私はそこで気がついた。そういえばミュールがいなかった。
「あ、公爵。ミュールはどうなさったのですか?」
公爵が言うにはとりあえず犠牲者が出なかったので敷地から出ないようにだけ言ってあるそうだ。落ち着いたら大人しくなったようで黙って従っているらしい。私の家の周りには1小隊が張り付いているということだ。
この神殿にも1中隊が張り付いているらしい。
「ありがとうございます。寛大なご処置をいただきまして。本来なら討伐されても仕方のないことです」
公爵は手を振りながら溜息をついた。
「正直、彼女に暴れられたらルイスは壊滅するよ。むしろあれで済んだからまだ良かった」
本気でそう思っているらしい。実際私も同意見なのだが・・・・・・。問題は商品の納品だ。
「さて本題なのですが、商品の納品をどうにかせねばなりません」
正直こちらが問題だ。3日寝ていたのだから期間は残り2日。商人としては期日は守りたい。しかし今の肺の状態でまともに魔法が掛けられるのかどうかは疑問だ。かといって誰に頼むわけにも行かない。あれだけドロワを填めるための工作をしている。魔法自体はギルドの人間でも掛けることは出来るが正直ばらすわけにはいかない。
「本当に商人だなぁ。正直、この件はなかったことにしようと思っている。ドロワという害虫を抱え続けるのは不本意だが仕方がない。かかった資金もこちらから違約金として出すようにするよ。とりあえず暫く寝てなさい」
私が次の言葉を発する前に、公爵は唇で私の口を塞いだ。暫く時が流れる。
「黙って寝ていなさい。それと1週間後には私は東部地域の半数の兵力を率いて首都へ立つ。中央北部の脅威に本格的に軍を派遣することになった」
公爵は立ち上がり出口へと歩いて行く。扉に手を掛けて思い出したように振り返り一言。
「さっきのは私の本当の気持ちだ。からかっている訳ではない」
それだけ言って公爵は部屋の外へ出て行った。入れ替わりにユーリカが入ってくる。ミルトは公爵に捕まっていた。
「ユーリカ、心配をかけた。家の様子をミルトと一度見てきてくれ。バスティも連れ帰ってくれよ」
ユーリカは黙って頷く。その後、ミルト、バスティ、ルールウが入ってきた。
「みんな、心配掛けて済まない。仕事も明日には復帰したい。何とか協力を頼む。バスティは倉庫の警護。ミルトは私の補佐、といっても回復魔法で私の身体を補助してもらいたいだけだが。それとユーリカは先程言ったとおり、家を見て戻ってきてくれ。ついでにゴーレム達に作業を再開するように頼んで欲しい」
私が紙に指示書を書こうとすると、ミルトがそれを止めた。
「ミュールとゴーレム達はすでに仕事を始めていますよ。ゴーレムは何故かユーリカの指示に従っていますがね」
私は驚いた顔をしてユーリカを見つめた。ユーリカは黙って俯いている。
「む~、不味いな。そこまでユーリカの力が目覚めたのか・・・・・・」
どうやらゴーレムの支配権を無理矢理ユーリカが奪ったようだ。しかし魔力で無理矢理奪うとは・・・・・・、聞いたことがない。やはりこの件に関しては早めに師匠と話をする必要がありそうだ。とりあえずユーリカには魔石の数量を数えてきてもらうことにした。
「主様。主様の警護はどうするのですか!」
バスティは倉庫警備を言われたのが不満らしい。しかも無防備になることが心配のようだ。私は騎士団がここに張り付いているから大丈夫だと言い、ルールウにバスティを頼むと言う。ルールウはバスティの件は引き受けてくれたが、危険すぎると言ってバスティを戻した後戻ってくると言ってくれた。しかし私は戻るよりも痛み止めの薬草を手に入れてくれるように言って、その後ユーリカの補助を頼むと伝える。ここには魔力結界を張るから大丈夫だと言って聞かせた。暫く不毛なやりとりが続いたが神官達の止めが入り、全員が家に戻っていった。暫くは神官達が私の治療をし、その後部屋に一人になった。
私は魔法を唱え、魔力結界を張る。やはり呼吸が苦しい。これでは明日中に商品を納入するのは難しいかもしれない。とりあえず別系統で3重の結界を張ると少しだけ眠ることにした。
-----襲撃2と悪魔到着-----
私は外からの喧噪で目を覚ました。外では怒号と爆音が飛び交っている。私は入り口で立っている神官がいることに気がついた。直ぐに物理結界を取り払う。神官と完全武装の兵士が近づいてきた。
「モンスターの襲撃です。ゆっくりと・・・・・・」
神官の腹から剣が飛び出してきた。しかしそれは私の身体に触れる前に止まった。2重に張っていた物理結界が防いでいる。普段は魔力結界を2重に張るが、今回は逆のことをしていた。どうせ来るなら物理的だろうと山掛けしていたのが正解だった。一撃で仕留め損なった兵士は直ぐに神官からブロードソードを引き抜く。神官を蹴り飛ばし、私の上に覆い被せるようにするともう一度ブロードソードを振りかぶった。
しかし、それは振り下ろされることはなかった。拘束魔法が兵士の身体を縛り上げる。私の放った物ではない。懐かしい恐怖の魔力の波動が窓の外から伝わってくる。わたしはぎぎぎぎぎと首を窓の方へ向けた。
「カーソン。生きてたようですね」
ふわりと部屋の中に飛び降りた人。それはとてつもない美しさの女性だった。均整のとれたバランスの良い身体。長いすらりとした足、美しい長き黒髪。優しく慈愛に満ちた黒い瞳。そしてやんわりと包み込むような優しい口元の笑み。
ゴツッ
私の頭に強烈な拳骨が叩きつけられた。
「お仕置きは後です。表は片付けておきましたから、まずはこの神官を回復させましょう」
部屋に入り込んできた女性は私の頭を殴りつけると、身体にのしかかっている神官に回復魔法を唱え始めた。神官は完全に事切れている。しかし傷は塞がり、神官の身体全体を明るい光が覆い尽くす。それは徐々に大きくなり部屋の中から溢れ出した。
「黄泉返り・・・・・・」
私の口から思わず声が漏れた。異常を感じた神官達や兵士も部屋の中へ駆け込んでくる。しかし誰もがその光に目が眩み、圧倒的な魔力と慈愛に飲み込まれた。神官達はただ膝をつき祈り、兵士達も黙って見つめている。暫くすると光は一気に収束し、倒れた神官の中へと引き込まれていった。
神官はゆっくりと目を開け、刺された辺りを触っている。そして突然泣き出した。女性が立ち上がり神官に声を掛ける。
「完全に回復はしていますが、心を休めてください。皆様方、わたしくの弟子がご迷惑をおかけ致しましたこと、師匠の私が謝らせていただきます。まず、表の兵士の方々の治療を致しましょう」
私の師匠はそう言って、神官達に立ち上がるように促した。神官達と兵士は直ぐに外へと走りだした。全員が出ていくと、拘束されている兵士に眠りの魔法を掛ける。兵士は拘束されたまま眠りについた。
「カーソン、油断しすぎですね。誰も信じるなと教えたはずですが・・・・・・。まぁ、話はあとでゆ・っ・く・り・と聞かせていただきます。もう少し大人しくしていなさい」
そう言って師匠は窓から出ていこうとする。直ぐに私の方を振り返った。
「あぁ、カーソン。逃げたら・・・・・・、ね♪」
慈愛の笑みを浮かべながら師匠は窓の外へと出て行った。一応ここ3階なんだけれどなぁ・・・・・・。私は師匠の恐怖の仕打ちに怯えながら、部屋を出ることも出来ずに、拘束された兵士を見つめながらベッドに横になっていた。
暫く経つと師匠とカサンドラ公爵が並んで入って来た。カサンドラ公爵が神妙な顔をしている。
「カーソン殿、申し訳ない。まさかまだいたとは。しかもマンティコアまで街に侵入させてしまった・・・・・・」
マンティコア・・・・・・。また厄介なものを連れてきたなぁ。しかし、守備隊にもかなりの被害が出ただろう。
「カサンドラ公爵、中隊の被害は酷いのではありませんか・・・・・・」
マンティコアは強力な魔物だ。1体でも強力で、出たら大隊クラスの軍が対応に当たるくらいだ。カサンドラ公爵の神妙な顔つきからすると相当被害が出たのだろう。
「正直・・・・・・、被害はない。ここにおられる方が3体のマンティコアを一瞬で殺してしまわれたらしいので」
師匠・・・・・・、また力上がってないか・・・・・・。
公爵の横ではにこりと師匠が微笑んでいる。しかしこの笑顔にだまされてはいけない。こいつは悪魔だ。史上最悪と言えるほどの大悪魔で、正直上位悪魔でも可愛いくらい恐ろしい。
(カーソン、下手なこと話したら・・・・・・ね♪)
と眼が語っている。
公爵は師匠の眼に気がつかないように私に話しかけた。
「カーソン殿のお師匠様らしいな。先程少しお話しをさせていただいた。すばらしい師匠をお持ちなのだな」
私は黙るしかなかった。絶対に否定したいところだが言えば何をされるか分からない。ただ、黙って頷くしかなかった。
「カーソン、そろそろ帰りますよ。あなたの家に泊めてくださいね」
師匠の眼は有無を言わせない。私はまだ暫く安静だと言われていることを師匠に伝えた。容赦のない言葉に公爵も助け船を出してくれる。しかし、師匠は涼しい顔をしていた。
「まぁだ気づかないのですか? もう肺も元に戻してありますよ」
そう言われれば違和感がない。まさか、黄泉返りの最中に肺の骨を全て取り除いたのか・・・・・・。これには公爵も驚き高位の神官を呼びに行った。暫く師匠と2人きりになる。私の額と背中には脂汗が流れ続けていた。
ばたばたという足音とともに公爵と神官数名が駆け込んできた。すぐに私の診察を始める。神官達は驚いた顔を浮かべていた。やはり骨は残っていないそうだ。ここの最高司祭が師匠と話をしている。師匠はその問いをのらりくらりと躱していた。
このままいたら、後の事が怖いので私は帰り支度を始めた。準備が整うと師匠は質問を打ち切り、[案内してください]と言ってきた。私は公爵に頭を下げ、また出陣前には顔を出しますと告げた。師匠も頭を下げる。
「あ、公爵さま。この街から南へ少し行った森の中に私のペットがいますので攻撃しないでくださいませ。大量の犠牲者が出ますから。それとその拘束している兵士ですが、自殺しないように頭を弄っておきますので処置はお願い致します」
にこりと笑って私の前を歩き、師匠は神殿の外へ出た。中隊が3体のマンティコアの死骸に群がっていた。
全身がバラバラに引き千切られたような死骸。どうせ空間魔法を使って引き千切ったのだろう。
外に出た私たちを見た兵士達は、プライドが高い騎士達も含め全てが整列した。どちらかと言えば顔が恐怖に引きつっているようにも見える。師匠はひらひらと手を振って町の方へ歩き出した。
-----自宅-----
私は師匠とゆっくりと歩き、家へとたどり着いた。かなりの兵士が家を取り囲んでいる。死角にも分隊単位で兵士が立っていた。カサンドラ公爵はかなり気を遣ってくれているらしい。
私の家の前はまだ地面が煮立っていた。下手に魔法を掛けると蒸気が上がるだけだからだ。しかも深さが分からない。手の打ちようがないのだろう。
「カーソン、お前の家はなんなのですか?」
師匠が顔をしかめながら溶岩に近づいてゆく。慌てて兵士達が止めようとするが私はそれを手で制した。師匠の口が動く。刹那、一帯に冷気が吹き荒れた。その強烈な冷気は直ぐに収まったが、目の前の溶岩は完全に固まっていた。
「邪魔だから底まで凍らせておきました。あとで埋め直しておいてくださいね」
突然の冷気に家の中からもミルトとルールウ、ユーリカ、ミュールが飛び出してきた。
「ゴ、ゴシュジンサマ~!」
ミュールがずりずりと全力で近づいてくる。師匠もさすがに驚いている。私はミュールに思いっきり抱きしめられ持ち上げられた。ミュールの顔は涙と唾液でぐしゃぐしゃになっている。
「ゴベンナザイ~。ミュール、ゴジュジンザママモレナガッタ~」
私は黙ってミュールの頭を撫でてあげた。暫くすると師匠の眼がこちらを向いていることに気がついた。
(あ、まずい。拗ねている眼だ・・・・・・)
私はとりあえず、ミュールに降ろしてくれと言うが中々聞いてくれない。ただただ抱きしめずっと泣き続けている。師匠は溜息をつき暫くそうしていなさいと言って、勝手に中に入っていった。止めに入ろうとしたミルトとユーリカをルールウが止める。ルールウの視線がこちらを向いたので私は黙って頷いた。他の2人は混乱していたがルールウが丁寧に師匠を家の中へと案内してくれていた。
ん?知り合いなのかな?
私はその姿を見届けると泣き叫んでいるミュールの頭や頬を暫く撫で続けてあげた。
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