こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます

こちら付与魔術師でございます ⅩⅩⅡ カーソン土地(岩石地帯)と領主との密談

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うん、まぁとりあえず着々とドロワさんの発注を利用する日が近づいています。

予定外でしたが、ついでにゴーレムを1体作ってしまいましたが。

いやぁ、中々の働きっぷりで良い造りです。

半分冗談みたいに腕を付けてしまったのですがこれはこれで中々。

今後もこのタイプで創りますか・・・・・・。

さて、とりあえず岩石と川の私の土地。

ゴーレム採掘部隊を送り込みに行きます。

労働者には対価を?

ん~、知りません。ゴーレムに対価ってなに?

これで鋼は大量に採取できます。

後は街で本当の取り分を領主と話し合うためにバスティを派遣せねば・・・・・・。

自分が行け?

嫌です。

ああいうタイプは嫌いです。

最低でも金貨は半分。鉄鉱石の余り、38トンは確実に自分の物にするつもりです。

まあ、ドロワさんには私の儲けの生け贄になってもらいましょう。

んふふふふふふ

それではまた!


 私は夜、暗い中を馬車で南へと疾走していた。私を乗せた馬車以外に2台の馬車が続いている。その全ての馬車の前方には光を発し続けるマジックアイテム[ランタン]が付けられ、前方半径5mを照らしていた。
そのおかげでこの夜間の最大速度での疾走が可能になっている。

「カーソンの旦那。このランタンちゅう品ですがね買えば幾らになるのですかぃ?」
  
 私の乗っている馬車の御者に声を掛けられた。まぁ、欲しいのは当たり前だろう。これがあれば護衛がついてさえいれば夜間の配送も可能なのだ。しかもマジックアイテム、魔石さえ交換投入すれば灯が消えることはまずない。
  
 「ん~、簡易的に作ったモノだからな~。まだ完成品じゃあないから売るつもりはない」
  
 正直これは本当のことだ。やはり私は商人を目指している。中途半端な商品は売れないし、売りたくない。その言葉を聞いて御者は残念そうな顔をしていた。
  
 「あぁ、これがあれば仕事の量が一気に増えるだろうになぁ・・・・・・」
  
 ん~、確かに仕事は増えるだろう。しかし労働する者は過酷になると思うのだがなぁ。儲けばかり追求していたら良い事にはならないぞ。もっとも私もそうならないように努力している。
 正直このランタン、どれくらいで買うかを聞いてみると金貨5枚で売っても買うそうだ。普通の街中の街灯は2時間おきに魔術師ギルドの連中が火炎魔法を灯して回っている。ハッキリ言うと効率が悪すぎだ。しかも火炎魔法なので疾走する馬車などには使えないし、魔術師がいないと使えない。
 このランタンならば夜に魔石を入れ朝に取り出すだけで灯を入れること、止めることができる。もっとも完成形は日が落ちる頃勝手に灯が灯り、朝方になると灯が落ちる。しかも搭載されている魔石は空中から魔力を常に補充し続ける。これがこのランタンの完成形なのだ。
私は完成したら金貨7枚で売るつもりだとだけ答えた。当然、今の機能との違いも説明している。

 「あんた、凄い付与魔術師だな・・・・・・。そんなこと誰も思いつかないぞ」
  
 御者はさすがに呆れかえっていたが、この男は面白いと思ったようだ。男はマルコと名乗り、今後欲しい物ができたら相談しに来ても良いかと尋ねて来た。私は少し高くなるがそこは相談に乗ると言っていつでも来てくださいと言っておく。
そのような会話を続けながら明け方近くに自分の土地[砂鉄の採掘所]へと到着した。

 私は到着すると直ぐに眠っていたユーリカを起こした。マルコとユールカにリザードマンの骨格を下ろすように頼むと、前回作成し採掘が終わったときに崩していたゴーレムの元へ向かう。御者達とユーリカが骨格と格闘している間に私は魂の石を使いゴーレムに命を吹き込んでゆく。大容量の魔石を1個使い、5体のゴーレムの残骸?をすべて含めるような巨大な魔方陣を地面に書く。それは直ぐに青白い魔方陣を作り出した。
 ここで今回は前回とは違う方法を試してみることにした。前回は竜の牙を使ったが、今回は魂の石を使って作ってみる。簡単に言えばそこら辺を彷徨っている霊を無理矢理ひっつけてみようと思っただけだ。駄目なら蜜穴熊のバッグで竜の牙を家から取り出せば良い。
 私の魔術は直ぐに完成し、5体のゴーレムは直ぐに動き出した・・・・・・が、やはり暴走した。もともと魂など無いゴーレムに無理矢理霊を引っ付けただけどとそうなるわなぁ。
 私はすぐに憑依した霊をゴーレムから追い出すことにした。追い出すと言っても神聖魔法は使えないので解呪の魔法を使いゴーレムごと解体する。やはり竜の牙と魂の石を併用して高度な物を創る必要があるようだ。
 一度ゴーレムを解体すると、蜜穴熊のバッグから家にあった竜の牙全てを取り出した。良さそうな中から5個を選び残りはバッグの中に戻す。再度竜の牙と魂の石を使いゴーレムを作成した。今度は成功したようだ。最初から大人しくしている。私は待機の命令を出すと馬車の方へ戻っていった。


 私が荷馬車のところへ戻るとすでに10体ほど骨格が降ろされていた。 私は降ろされていたリザードマンの骨格を1体分少し離れたところへと持って行く。そこで魔方陣を魔力で地面に書く。闇の中に青白い魔方陣が浮かびあがった。先程、魂の石だけでは失敗したので今度は竜の牙のみを使って作業をする。これだと本当に命令のみに従うゴーレムが出来上がる。
 短時間の詠唱で術は完成した。私はそのゴーレムにその場に待機するように命じる。そしてもう1体骨格を持ってくる。また、同じ作業を繰り返す。2体のゴーレムができると私は指示を出した。
  
 「降ろされている骨格をここまで運んでこい」
  
 2体のゴーレムはその指示に従い、カチャカチャと音を立てながら荷馬車の方へ歩いて行った。暫くして荷馬車の方から悲鳴が上がる。そういえば言うの忘れていた。私はゆっくりと荷馬車の方へ歩いて行き、腰を抜かしている御者を引き起こした。
 まあ、腰は抜かすだろう。突然暗闇から骨が歩いてきたら・・・・・・。
しかも荷馬車の周りはランタンで照らされている。動く骨が浮かび上がるのを想像すると私でもドキリとするだろう。ただ何故かユーリカは平気そうな顔をしていた。
  
 「ユーリカ、平気なのか?」
  
 ユーリカは黙って頷いた。
  
 「可愛いじゃあないですか♪」
  
 ほ。これはこれは、ちょっと驚いてしまった。そういえばミュールを見ても平気だったような気がする。そういうのに耐性がある子なのだろうか?しかも何故か嬉しそうだ。
 とりあえずユーリカに御者達のことを頼むと黙って命令通りの作業をしているゴーレムの後を追って、魔方陣の方へ戻っていく。
 すでに2体が運ばれていた。私は魔石を取り出すと、2体同時に付与魔術を掛けてゆく。時間はかからない。1体ずつと同じ時間で2体が仕上がった。その2体にも同じ指示を出す。次々と骨格が運ばれてくる。
 私は2体ずつを同時に作成してゆく。結局、明け方までに20体すべてがゴーレムに変わった。そこで、今度は荷馬車に分散している鋼を運んでくるように指示を出した。次々と玉鋼の塊が運ばれてくる。どんどん溜まってゆく玉鋼を見ながら私は一度荷馬車の方へ戻った。そこには休んでいる3人の御者とユーリカがいる。
  
 「ユーリカおいで。マルコ達は暫く寝ていてくれ」
  
 先程のユーリカの反応を見て、私は魔法を見せてみることにした。ユーリカは満面の笑みを浮かべ嬉しそうについてくる。彼女を買ってから初めて見る表情だ。私はユーリカを魔方陣の前に連れて行った。
  
 「ほら、ユーリカ。これが基本的なゴーレム作成用の魔方陣だよ。これから、強力なゴーレムを創るから複雑な魔方陣に書き換えるからね」
  
 そう言って平面の魔方陣を立体魔方陣へ作り替えてゆく。立体魔方陣が完成する頃には玉鋼を全て運び終えたようで、全てのゴーレムが整列して私たちの横に立っていた。
  
 「さて、ゴーレム達。その玉鋼を魔方陣の中に投げ入れてくれ」
  
 直ぐにゴーレム達は動きだし、次々と玉鋼を放り込んでゆく。中に入った玉鋼は空中で止まり、次々と溶けて一つの塊となってゆく。200kgの玉鋼が一つの塊になったら私はユーリカに声を掛けた。
  
 「さあユーリカ。これから古竜の牙を使って意思のあるゴーレムを創る。形は竜にする」
  
 そう言って先程とは違う詠唱を始める。私の詠唱とイメージに合わせて、玉鋼が徐々に竜の形に変化してゆく。それは2m程度の竜の形になった。銀色の竜が創られる。そこへ古竜の牙と一番ランクの高い魂の石を魔方陣の中へ投げ込んだ。それは玉鋼と同じく魔方陣の中で宙へ浮き、銀色の竜の中へ入ってゆく。
 そこから暫く私の詠唱が続き、次第に魔方陣の中の竜が動き始めた。術が完成し、魔方陣を解く。ズシンという音を立てて竜は地面へ落ちた。
 私は直ぐに炎の魔法で火を灯す。炎の中に浮かび上がる竜は銀色に輝き美しかった。ユーリカもじっと見入っている。すぐに懐から紙を取り出すとそこに文字を書く。主人である私の名前と、これからの指示命令、そして生前の記憶をどれくらい持っているかを書き込んだ。
  
 「フン、オヌシガワレヲヨミガエラセタノカ?」
  
 突然、銀色の竜が話し始めた。金属の擦り合うような音だ。私は古竜でゴーレムを作成するのは初めてだったのでさすがに驚いた。
  
 「・・・・・・話せるのか?」
  
 私の問いにゴーレムが答える。
  
 「アア、ハナセルヨウダ。ナガクイキタセイダロウ。ワタシノナハ[フォルミード]シジノナイヨウハワカッタ。ココデコノサギョウヲヤレバヨイノダナ。コノモノタチヲツカイ・・・・・・」
  
 フォルミードは整列しているゴーレム達を一瞥した。私は他に5体の岩石採集ゴーレムがいることを伝える。フォルミードはふわりと浮き上がり、そこらを飛び回り始めた。
  
 (飛べるのか・・・・・・、鋼の身体で)
  
 鋼の塊であるフォルミードはあたかも生身の肉体を得たかのような動きを披露する。これは研究の材料になりそうだ。しかしフォルミードにはここで現場監督をしてもらう必要がある。
  
 「で、やってくれるのか?」
  
 私がフォルミードの呼びかけるとゆっくりと地面に降り立った。地面が少し沈む。やはり身体は重いままのようだ。
  
 「ソレハカマワナイガタイクツナヒビニナリソウダ。マァ、タベルヒツヨウモナイカラダナノデモンダイハナイカ。タマニハナシニコイ。ソレデテヲウトウ」
  
 ゴーレムに条件を出されてしまった。これじゃあゴーレムじゃ無いぞ・・・・・・。
話せる段階ですでにゴーレムでは無いと思うが。
まぁいいけど。
  
 「わかったよ。私も色々と学習したいことがあるから、顔を出すことにする」
  
 私はそこまで言うとフォルミードに後は頼むと言ってユーリカと共に荷馬車の方へ戻った。日が昇ってくる。この岩石と川だけの土地に昇る日は美しいものだ。私は久しぶりにゆったりとした気分になった。荷馬車では御者達がそれぞれに眠っているようだ。起こすのもかわいそうなのでもう少し寝かせておこう。
  
 「ユーリカ、眠かったら寝ていてもいいよ」
  
 側についているユーリカは眼をぱっちりと開け、私の方を見上げた。
  
 「・・・・・・あの、お願いがあります」
  
 ユーリカがお願い事をするとは珍しい。私は直ぐに何かを聞くことにした。川縁に腰を下ろし、ユーリカにも座るように言う。
  
 「あの・・・・・・、魔法を教えて・・・・・・ください・・・・・・」
  
 最後は消え入りそうな声になっていた。私はユーリカを奴隷とは見ていないが、ユーリカは自分を奴隷と言い聞かせて働いている。そのユーリカが初めて自分からお願いをした。私はそれがとても嬉しかった。
  
 「いいよ。どんな魔法が良い? 私は魔術系しか使えないが、精霊魔法ならバスティがいるし神聖魔法ならミルトがいる。だれでも教えてくれるはずだよ」
  
 ユーリカは少し考え込んでいた。ユーリカのは奴隷館に住んでいた頃にかなりの魔法知識を溜め込んでいる。そして魔力量もかなりのものだ。どれを選んでもそこそこできるだろう。私はじっくりとユーリカの返事を待った。
  
 「あの、その、いろいろな系統を、覚えられるだけの魔法を覚えたいです・・・・・・」
  
 ユーリカの目がきらきらと光っている。それは私が魔法を初めて見たときと同じ目だ。
  
 「うん、わかった。じゃあ私が魔法の基礎、組み立て方を教えよう。バスティには精霊魔法を、ミルトには神聖魔法を教えてくれるように頼んであげよう。どこまでやれるか頑張ってみなさい。ただ、神聖魔法は暫くお預けだよ。ユーリカに休んでもらうときはミルトに店番をやってもらうからね」
  
 私の言葉にユーリカの顔が曇る。なにか問題があっただろうか?私はユーリカに何か問題があるかを尋ねてみた。
  
 「私が休むとみミルトさんが見世をやらなくてはいけないのですね。それでしたら諦めます」
  
 いやいやいや。そう言わなくても良いのに・・・・・・。
  
 「あのね、ミルトは私に雇われたのだから仕事はしてもらわなくてはならないのだよ。それにミルトは冒険者ギルドで売り子やっていたのだから、販売はお手のものだよ。ユーリカはなにも気にしなくていい。出発の時のことは私がきっちりと話をしておいたし、彼女たちも納得してくれた。それにユーリカにも色々と勉強してもらわないとね」
  
 私がそういうとユーリカは黙って私の肩に頭を預けてきた。
大体、ユーリカは週2の休みを取っている。しかし何をしているでもなくじっとしている。家事はミュールの独占となっているので手出しできない。
何かをやろうとする気になってくれたのが嬉しい。しかし魔術を教えるとなれば週2では足りないので1日休みを増やすだけだ。そこにミルトを加えシフトを組むつもりだった。  

 「主様、奴隷の身分でこのような事申し訳ないのですが、少しだけ肩をお貸しください」
 
 ユーリカの暖かさが私の服越しに伝わってくる。私は黙ってユーリカの肩を抱き寄せてあげた。私たちは朝日を浴びながら暫くそのままの姿勢で川を眺めていた。
  
  
  ズドォォォォン ズドォォォォォン
    
 少し離れた場所から大きな音がする。私とユーリカはそのままの姿勢で眠っていたらしい。どうやらフォルミード達が早速仕事を始めたようだ。御者達も今の音で目を覚ましたようで何事かと騒いでいる。
 私はユーリカを伴ってマルコ達の方へ歩いて行った。彼らは起きた直ぐのようだ。大きな音の出所を探すようにあちらこちらを見回している。
  
 「大丈夫だ。ゴーレム達が仕事を始めただけだ。今から朝食を取って、昼までにはルイスの街に戻ろうと思う。もう少しだけ付き合ってくれ」
  
 私の言葉にマルコ達御者は頷いて食事の準備を始める。私とユーリカも食事を始めた。暫く食事と休憩を取り、荷馬車に乗って我々は帰路についた。
  
  
  -----ルイスの街-----
  
 私たちがルイスの街に戻ったのは昼を少し回った頃だった。やはり一気に帰ってきたせいか、途中で馬たちを1回休ませることにしたからだ。少し予定より遅れたが問題は無い。
 私の家に着いてすぐに、荷馬車からランタンを取り外した。マルコが残念そうに見ている。私はマルコにちゃんとした商品ができたら最初に教えると約束して一度帰ってもらった。明日の朝、別の馬車達が来る。そこからが今回の勝負の始まりになる。
  
 「ゴシュジンサマ、オカエリナサイ~」
  
 工房の方からミュールが飛び出してきた。顔が真っ赤に染まっている。私はユーリカについてくるように言って、ミュールと共に工房へゆく。
 そこにはすでに200本の純正ロングソードが出来上がっていた。そしてその側には青銅で同サイズのロングソードが次々と出来上がっている。ゴーレム3体がたえず動き続け作成しているのだ。出来は速い。ヘカトンゴーレムも十分に戦力になっているようだ。
  
 「うん、良い出来だな。これなら大丈夫だなぁ」
  
 私は青銅のロングソードをじっと眺めながらにやにやとしていた。そこに突然声がかかる。
  
 「それは青銅かい? そんな物で何を企んでいるのかな?君は・・・・・・」
  
 ミュールが直ぐに臨戦態勢を取る。ミュールの足になる白狼達も唸り声を上げだした。声の方向に目をやると、そこには見たくも無い顔が立っていた。
  
 「・・・・・・これはこれは、カサンドラ・ルイス公爵様」
  
 私は前に立ちふさがろうとするミュールとユーリカを手で制し前に出た。工房の入り口に公爵が立っていた。私は直ぐに家の敷地内に探知魔法を掛ける。どうやら一人のようだ。
  
 「カーソンさんが会ってくれないから出向いてきましたよ~」
  
 カサンドラ・ルイス公爵はにやりと笑って私の方へ歩いてくる。彼女は私の目の前までやってきた。先日は握手で力比べをした。今度は何をするつもりだろう。私は何が起きても対応出来るように身体強化の魔法を掛けていた。
  
 「んぶっ」
  
 いきなり私の唇は塞がれてしまった。さすがの私もそこまでは読めなかった。ミュールが抗議の声をあげている。ユーリカは「いいなぁ」という表情を浮かべている。ユーリカその表情は違うぞ・・・・・・。
そのキスは暫く続いた。私は急なことに呼吸を忘れてしまい、窒息するところだった。公爵の肩を掴んで無理矢理引き離す。二人の唇の間に唾液の糸がきらりと光った。

 「はははっ、どうした。かわいいね。ところで家にお邪魔しても良いかな?」
  
 公爵はそういうと私の手を掴み強引に玄関へと引っ張っていった。ミュールとユーリカが後を追ってくる。しかし公爵はそれを真剣な目で止めた。
  
 「お嬢さん方、申し訳ないがカーソンと2人で話をしたい。暫く入ってこないで欲しい。それと誰も入れないでくれ」
  
 それだけ言うと抵抗する私を引きずって家の中に入っていった。後には唖然とするミュールとユーリカが工房の前に残されていた。
  
  
 「なんですかっ! 突然」
  
 家の中に入ると私は相手が自分が住んでいる土地の領主であるということを忘れ、大声で怒鳴っていた。公爵は耳を塞いでいる。しかし顔はにやにやと笑っていた。
 
 「決まってるでしょう。ドロワのことです。あなたが何を企んでいるかは知りませんがこの地を危険に陥れるのならば容赦はしません」
  
 相変わらず自分勝手な女だ。だから会わずにバスティに任せていたのに・・・・・・。バスティが戻ったら文句を言ってやろう。
  
 「それよりも、調査の方は進んでいるのですか?」
  
 私の問いにカサンドラ公爵は言葉に詰まった。なんだ、進んでいないのか?
  
 「遅いですね。ドロワさんの納品期限は後7日もないですよ。領主様ともあろう方がまだ探りすら入れられないのですか?」
  
 私はめいいっぱいの皮肉を込めて言ってやった。公爵は黙って俯いていた。暫くすると口を開いた。
  
 「ここからは絶対に漏らさないで欲しい。たぶんドロワは間者だ。しかも私の領地の南、ベントゥーラ辺境伯の手の者だろう・・・・・・。私を反逆者にして国王に処罰されるのを狙っている。私と私の土地が欲しいのさ」
  
 公爵はどのみち私は手に入らないがなと自嘲気味に呟いている。
ちゃんと調査はしていたんだ。
しかし、その話が本当なら私にとって大問題だ。  

 「あの~、土地ってもしかして・・・・・・」
  
 私の問いに公爵は黙って頷いた。要するに監視も兼ねての土地所有がここで絡んできたわけだ。しかしそうなると厄介だ。
 今、私の土地に向かっているアラクネ達がいる。ゴーレム達は何とかなるとしてもアラクネ達は戦闘には向いていない。ましてや、女性ばかりだ。
  
 「とりあえず、間者のドロワは失脚させずに捕らえた方が良いのですか?」
  
 考え込んでいる公爵に私は紅茶とお菓子を出した。とりあえず、考えるときは甘い物が一番だ。
  
 「できたら捕らえてことのあらましを全て白状させたら良いのだが。 あの領主のことは?」
  
 私は黙って首を振る。ここに帰ってきたのは最近だし、この領地のことすらほとんど知らないのが現状だ。
  
 「あの領主の配下にはアサシンと呼ばれる暗殺部隊がいる。もし捕らえても直ぐに暗殺されるだろうな」
  
 ふむ、暗殺者ねえ。まぁ私には関わりが無いからどうでも良いが。問題は土地のことだな。私が対策を考え込んでいると公爵が話しかけてきた。
  
 「で、どうやってドロワをはめるつもり?」
  
 私はにやりと笑って[秘密です]と答える。公爵は憮然とした表情をする。仮にもこの土地の領主様、敬うのが当たり前なのだろう。しかし私の知ったことではない。揉めれば出ていけば良いだけの話だ。それに前回の恨みもある。
(我ながらしつこいとは思うが・・・・・・、ああいうやり方が一番嫌いなのだ)
  
 「あ、公爵。ところでこれ、成功したらどれくらいの報酬が貰えるのですか? ドロワの提案は金貨10000枚でしたが?」
  
 結構人を雇っているので最低金貨2000枚は欲しい所だ。ついでに預かっている鉄鉱石もいただくとしよう。
  
 「・・・・・・そうだなぁ、今は戦時体制前だから金貨で5000が良いところだろう。当然鉄鉱石は返して貰うよ」
  
 あぁ、それは酷い。私は全てを手に入れる手段を必死で考えた。少し辛いが良いことを考えついた。
  
 「公爵は出陣なさるのですか?」
  
 私の問いに公爵は[秘密]とだけ答えた。ま、そうだろう。それは国家機密だろうし、戦時統制が掛けられているはずだ。この公爵が国の中でどの程度の地位かは知らないがそれなりなのは間違いない。
  
 「もし、出陣までに一月あればドロワの発注商品に魔法の付与をしてお渡しできますが?ただし、金貨10000枚はいただきますが」
  
 私の提案に公爵はまた考え込んだ。正直、今回の王国の敵はまだ見えていない。
  
 「そうだな、付与する魔法次第になるが・・・・・・。ロングソードは斬れ味と軽量化、加護があれば更に良いがな。それとプレートメイルは軽量化と回数限定で良いので物理防御と魔法防御の魔法が欲しいね」
  
 くそっ、ちゃっかりしてら。1000枚は報酬で払わなくてはいけないから9000枚か。それに先程の注文の魔法を掛けると大変な労力を使うことになる。割に合うかな?それに加護は使えない。これは断るしかない。
  
 「私は加護は使えませんのでそれは付与できません。回数限定も1回が限界です。一月だと厳しいですね」
 
 そこまで期待はしていなかったのだろう公爵は黙って頷いた。
  
 「では、上手くドロワをはめたらロングソード1000とプレートメイル1000、金貨10000枚で発注することを王国公爵カサンドラ・ルイスの名で正式に発注しよう。材料は今ある鉄鉱石をそのまま使用してくれて構わない」
  
 私は自分の思い通りになったことにほくそ笑んでいた。労力はかかるが中々良い稼ぎになりそうだ。後はベントゥーラとかいう伯爵を何とかしないといけないな。
特に荒れ地のオアシスは守り通したい。護衛を付ける必要がある。
  
 「じゃあ、頼んだ。連絡はバスティエンヌ経由が良いのだろう?」
  
 私は一瞬、バスティエンヌがバスティの正式な名前だと言うことを思い出せなかった。私は気がついた後その方向でよろしくお願いしますと言って下げたくもない頭を下げた。
  
 「それではこれで失礼するよ。そういえばなるべくギルドとは揉めないでくれよ。仲裁に入って欲しいと冒険者ギルドと魔術師ギルドから泣きが入ったぞ」
  
 公爵は玄関でウインクをするとまた唇を奪われた。公爵はそのまま歩いて帰る。どうやら馬車どころか護衛すら付けていなかったようだ。私はつくづく剛胆で我儘な女性だと関心をした。  
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