こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます

こちら付与魔術師でございます ⅩⅥ ミュール(スキュラ)の肉体を再生させましょう 帰還

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 は~、変なことになりましたねぇ。
 
 暫く女性関係はいいのに・・・・・・。
 
 まぁ、なったモノは仕方ありません。
 
 受け入れて好き勝手しましょう。
 
 それにしても、10体のファントムに700体のスケルトン。
 
 いやぁ、下手な軍や魔獣とかよりも緊張しました。
 
 なんで?
 
 そりゃぁ、人は傷つければ怯んでくれるし、そこは魔獣も一緒。
 
 でもねぇ死者系の奴らっときたら容赦無しで来ますからね。
 
 ゾンビとかなら炎系の魔法で何とかなるのですが、スケルトンなんかは超高温で焼かないと崩れないですからね。
 
 あんた炎系使えないの?
 
 使えます、使えますよ。ただ・・・・・・苦手なんですよ。
 
 それに弱いヤツしか使えないんで。とほ~。
 
 あの一掃したやつは?
 
 あれは空間魔法と重力魔法の組み合わせですよ。
 
 そっちは得意中の得意です。
 
 師匠以外に負ける気はしません。
 
 えっへん。
 
 やっとこさミュールの身体が再生できました。
 
 どういうしくみなのでしょう?
 
 あの液体が龍舌蘭というものを焼いたものとリプロダクションセルとかいうものを合わせた物なんでしょうかね?
 
 とりあえず、あそこは後で探すとして・・・、・・・なんか目の前の状況がやばいような気がするのですが。
 
 ミュールの眼、なんか据わってるし。
 
 ちょっと、油断しない方がいいかも・・・・・・
 
 最悪の展開は勘弁して欲しいのですがね
 
 でわ!
 

 
 筒の中で再生されたミュールの視線が痛いほどに突き刺さる。
その眼は氷のようだ。下半身を構成する白い狼たちも威嚇するようにこちらを視ていた。
 
  「主さま・・・・・・、不味いみたいですね」
   
 バスティはブロードソードを収め、背中から2本のロングソードを抜く。私は特に何もせずにただ、ミュールの眼を見つめていた。深い蒼い眼がジッと見つめてくる。ミュールはまだ中から動こうとはしない。それとも動けないのか?石板の操作方法はこれ以上教えてもらっていないので手の出しようはない。とりあえず、見守るしかなかった。

 シュワッ
  
 何か煙のような物が大きな音を立てて、透明に戻った筒の中を満たしてゆく。暫くするとその煙もまた下に吸い込まれていった。筒の中のミュールの濡れていた身体は完全に乾ききっていた。白狼の毛はふわふわとなり、ミュールの髪も乾き、蒼い髪は身体に纏わり付いていない。ミュールの身体は2倍近くに膨れあがっている。豊満な胸、括れたウエスト、尻かどうかは微妙だが蛇と人の中間的な腰、身長も大きく4m近くになっていた。
 そのミュールの巨体がゆっくりと動き出す。横から視ても厚みは凄い。これだと、700名近い戦死者が出たのもわかる。ミュールは筒の中から出た。6頭の白い狼たち途端に大きな咆哮を上げる。それは全身を硬直させる魔力の籠った咆哮だった。
  
  「なっ、か、身体が・・・・・・」
  
 バスティが身体を動かそうとするが咆哮にやられたようだ。純粋な魔力を不意打ちで喰らうとバスティに抵抗する力はない。私は直ぐに系統の違う魔力の力場を創り相殺する。ミュールの足達は咆哮を打ち消されたことに気づいたようだ。6頭それぞれが全く別系統の呪文を唱え始めた。しかしミュールは今いる空間をずっと眺め回しているだけだ。

 「バスティさん、近くへ!」
  
 バスティが直ぐに私の横に駆け寄った。私はファントムの時とは同じ系統だが、小型で密度の高い結界を周りに作成する。完成とほぼ時を同じくして白狼の魔法も完成した。炎・氷・水・風・土・光系統の魔力が襲いかかる。
  
  (? こいつら阿呆?)
  
 私は思わず口元を歪めていた。何しろ結界まで到達した魔法は光の槍のみだったからだ。後は全て自ら放った魔法で相殺されている。光の槍も結界に弾かれて消滅した。白狼達は全く同じ事を繰り返し次々に魔法を放ってくる。
  
  「あの、主さま? これは・・・・・・頭は獣ということでしょうか?」
  
 魔術の知識が多少あるバスティも気づいたようだ。数十発の魔法が繰り出された後、確認のためか魔力が尽きたのか、白狼の攻撃は止む。白狼達と私たちの眼は結界越しに見つめ合った。白狼達は自分たちの魔法が全く効いていないことに慌てたようで、ミュールの顔を一斉に見上げ吼えていた。白狼達の咆哮にミュールの視線がこちらを向く。
 ミュールと眼が合った。ゆっくりとミュールの右手が肩まで上がり僅かに口元が動く。
 瞬間。
  
   轟
  
 ミュールの手の平が赤く染まり、結界にむかい炎が伸びた。
  
  (熱っ)
  
 隣に立っているバスティが僅かに悲鳴を上げ地面に伏せる。炎は結界を包むように後ろへと駆け抜けた。
正直私は驚いていた。この結界はSSランクの魔法に巻き込まれないために開発した防御結界だ。それを抜けるなどありえない。それが出来るのは師匠や古代竜クラスだ。とうていスキュラに出来る技では無い。もしくはそのレベルということだ(因みに神竜は観たことが無いので分からないが)

 「あ、主さま・・・・・・、う、後ろ・・・・・・」
  
 バスティがズボンの裾を引っ張りながら震える声を掛けてくる。私は少しだけ眼を逸らし後ろを見た。そこには土はなく、煮立った溶岩溜りが出来上がっていた。
  
  (うそだろ・・・・・・、洒落にならん)
  
 正直私は冷や汗を流していた。唯の地面を一瞬で煮立った溶岩に変えてしまうほどの魔法。しかも詠唱の極端な短さ。SSランクとかの次元ではない。
  
  「バスティさん、逃げ切れると思う?」
  
 正直私には自信がない。バスティは声すら上げれず、ただへたり込んでいた。足の下に水溜りが拡がってゆく。

  「ミュール! 私だ! カーソンだ!」
  
 私は取りあえず取りあえず呼びかけてみることにした。あの一撃が最大火力出あることを願って。あれならば1刻は耐えることが出来る。問題は地面がどれだけ焼けてしまうかだ。幸いミュールを再生した筒がこの部屋で一番高い位置にあるので、溶岩流がこちらに流れてくることはない。意図的に前方にやられない限りは・・・・・・。そこは今までのミュールの性格がそのまま引き継がれていることを祈るしかない。
 私の呼びかけに足の6匹の白狼は咆哮で答える。結界の周りを衝撃波が包み込み入り口付近の壁を破壊した。どうやら魔術の咆哮ではなく、衝撃波の咆哮らしい。器用なヤツだ。
 ミュールは首をかしげこちらを見つめている。
  
  「主様、やはり倒すしか・・・・・・」
  
 バスティが何とか気を取り直したようだ。膝を震えさせながらも立ち上がる。私も一瞬だけその考えは浮かんだ。しかし、まだ1回しか声は掛けてはいない。
  
  「バスティさん、この中にいてください。私が外に出て説得してみます」
    
 私はそう言って結界の外へ出る。熱気が全身を襲う。ミュールの足の白狼達が一斉に私の方を向いた。6体全ての口から同じ詠唱が流れ始める。
  
  (まずい!)
  
 私はすぐに高音言語魔法を唱え始める。胸元に魔力が集中する。白狼の詠唱が終わり巨大な風の刃が襲いかかってきた。そして、そのまま私の胸に吸い込まれてゆく。私は無傷で立っていた。白狼達は何が起こったか分からないという顔をしている。私の胸元では黒い光を放つタリスマンが輝いていた。
  
  「ミューール! 目を覚ませ!」
  
 私の呼びかけにミュールは冷たい目線を向ける。
  
  「ニン・・・ゲ・・・ン???・・・・・・ワタシノカゾクヲカエ----!」
  
 ミュールの蒼い眼が真っ赤に染まる。口元が魔法を紡ぎ出す。しかも今回は長い。白狼達は影響を受けないようにだろうか頭を伏せている。ミュールの指先に光が集まってゆく。私も初めて視る魔法だ。
  
  (なんだ?! あの馬鹿デカい魔力は・・・・・・)
  
 長い詠唱は突然止まる。指先に集まった光は手首までに拡がっていた。ミュールはその手を素早く横に払った。一条の光がバスティのいる結界と私を薙いだ。私は咄嗟に身を地に投げ出していた。直ぐ近くを光の帯が通り過ぎてゆく。タリスマンは通り過ぎた魔力を吸収しようとして・・・・・・砕けた。
  
  (うぉ、時空に魔力を飛ばす宝玉を丸ごと破壊しやがった!)
  
 私は思わずバスティの結界の方を視た。そこには上半分が無くなった魔力結界がかろうじて形を留めている。
  
  「バスティ---!」
  
 直ぐに起き上がり結界の方へ走りだした。結界は耐久力を越えて崩壊する。その中にバスティは横たわっていた。胸が上下している所をみると真っ2つにはなっていないようだ。しかし、駆け寄ったときのバスティの変化に驚いた。髪が真っ赤に染まっている。
  
  「・・・・・・もしかして・・・・・・」
  
 私が考えをまとめる前にミュールはズルズルと接近してきた。決して速くはないが人間の早歩き程度の速度はある。
私は直ぐにバスティを抱え入り口とは逆方向へ走りだし、恐怖を感じた。徐々に洞窟を形成している岩石がズレ始めている。
  
  (まずい、まずい! このままだと落盤に巻き込まれる!)
  
 ここは少し高い丘にポッカリと穴が空いた洞窟になっている。それ自体がずれ始めているということは入って来た所が崩れるということだ。最悪洞窟ごと潰れてしまう。ミュール自体を視るとまだ手には光が巻き付いている。私はバスティを前いた場所から右手の奥に運び横たえた。そのまま奥の方へと移動する。それに合わせミュールは身体を移動させる。
  
  「ニ・ン・ゲ・ン、ユルサナイ!」
  
 もう一度光の帯がミュールの手から放たれる。今度は大地を切り裂く。私は反射的に前へ転がっていた。私がいた場所の近くに地中深く穴が空いていた。底は見えない。
 私は高音言語魔法を唱える。ミュールの全身に光の紐が巻き付いてゆく。通常の光の紐の100倍の強度はある。紐は収束し、ミュールの両腕を中心に一気に身体を拘束してゆく。程なくミュールの身体と6匹の白狼は動けなくなる。ミュールが動こうと身体を捻るたびに地面に穴が開いてゆく。
  
  「ミュ---ル! いい加減にしろ!怒るぞ!」
  
 私はミュールとジッと眼を合わせた。ミュールも頭だけこちらを向き睨み付けてくる。身体は動かないままだ。どうやら空間魔法や時空魔法は使えないようで、詠唱だけで発動する魔法は使えないようだ。
 私は溜息をつくとバスティの方へ歩いて行った。命には別状は無いはずだが、髪の色の変化が気になる。近づくと真っ赤な髪と眼は今までにないくらい深紅に染まっている。眼はとろりと甘く垂れ下がり、バスティは荒い呼吸をついていた。口は半開きになりそこからは唾液がしたたり落ちている。そして、手は下半身に伸びていた。ズボンが濡れており、その辺りを激しく弄っていた。
  
  「バスティ!、気をしっかり持てっ!」
  
 私はバスティをゆっくりと抱き起こしながら、石壁に寄りかからせた。バスティから熱い視線が注がれる。
  
  「あ、う、主様、駄目です、身体と理性の制御が・・・・・・」
  
 そこまで言うと軽く身体を振るわせた。どうやら昇ってしまったようだ。ただ、そこで変化が現れた。髪の先端が少しずつもとの金髪に戻り始めている。
  
(う~ん、何故こうなる? 考えられるとしたら高音言語魔法か・・・・・・)

 最初のタリスマンの発動の辺りでバスティの髪の色は変わった。そして、タリスマンは破壊された。その後の拘束魔法の強化に弱い高音言語魔法を掛けていた。もしかしたらミュールの拘束を解けば元に戻るかもしれない。しかし、それは余にも危険な賭けだ。
  
  ミシャ
  
 私が考えを巡らせていると後ろから小さな軋むような音が聞こえてくる。振り返ると微妙だがミュールを拘束している魔法の紐が膨らんでいるようにも見えた。
  
  「くそ、あれが力で解けるのか・・・・・・?」
  
 ミュールの身体は全身が白く包まれていた。どうやら手に籠った魔力を全身に拡げ、魔力の紐を断ち切るつもりのようだ。徐々に魔力の紐は拡げられてゆく。
  
  (重力魔法で一気にケリをつけるべきか?)
  
 私は悩んでいた。こちらに戻って最初に創ったゴーレムで、しかも意思疎通も出来る。骨格の時でも十分に楽しい子なのだ。この子を葬るにはかなりの勇気がいる。私が悩んでいると後ろから大声が上がった。
  
  「あんたね、いい加減にしなさいよ!これ以上暴れるのならこの契約書のあんたの分は無しだから!それにキッチンは私がもらうからね!」
  
 (・・・・・・バスティ? 今その話題必要か?)

 私が少し振り向くとブロードソードを杖代わりにバスティが立ち上がっていた。下半身が凄いことになっているが観なかったことにしよう。
ミュールは全身に力を入れ拘束を打ち破ろうとしていたはずだが何故か大人しくなっていた。何かを考えているようだ。足の白狼達も何が起こったのか分からずミュールの顔を見つめている。
  
  (賭に出るか・・・・・・)
  
 私は聞こえないように高音言語魔法と時空魔法を組み合わせる。そしてそれが完成するとミュールの頭に向け魔法を掛けた。ミュールの身体がビクリと震え、動きを止めた。後ろではドサリという音と甘い声が上がり始める。
  
  (あー、やっぱり高音言語魔法か・・・・・・)
  
 これ使えないと困るんだけどなぁ・・・・・・。
 悶えるバスティを取りあえず無視して、ミュールの変化に目を向ける。ミュールは急に大人しくなっている。私の魔法が効いた・・・・・・のか?
ミュールの口からはキッチン・・・・・・、キッチン・・・・・・、と小さな声が漏れている。

 はぁ。

 小さな溜息。これは私の溜息だ。
 そしておろおろとこちらとミュールを見る白狼達。
 私がミュールに掛けた魔法は時空魔法でも特殊な魔法をさらに応用した魔法だ。本来なら記憶を蘇らせたり、尋問に使う記憶後退魔法。それを記憶前進へと変化させてみた。
 本来は時空、時間に逆らうことすら莫大な魔力を消費するものだ。それを逆方向、未来の記憶を無理矢理作り出すことが出来ることが古代文明の遺跡から出た本の中にあった。しかし、それは時間を戻すよりもさらに桁違いの魔力が必要だった。足りない魔力の補充は高音言語魔法が可能にした。高音言語魔法の理屈は正直まだ解明していないのだが使うと膨大な魔力を集める。それは溜め込んだ魔力やそこら空間に散らばっている魔力の比ではない。私はこれで魔法を強化して使っているだけだ。ただし、攻撃魔法では使わないと師匠との契約がある。あまりにも威力が上がりすぎるためだ。
 私はある程度まで流れ込む魔力の量を制御することが出来る。それを使った物が今ミュールを拘束している拘束魔法であり、記憶を進めている魔法だ。
 ミュールは暫くすると力なく頭を垂れた。白狼達も力なく横たわる。どうやら死んでいた領域に記憶が到達したようだ。

  私はそのまま放置するとバスティの元へ向かう。
 彼女は彼女で大変なことになっていた。顔は上気し、焦点は定まっていない。胸と足の間に手が伸びて弄っている。
ここは見ないで放っておくのが良さそうな気がしたので、私は先程の火炎魔法が直撃した場所に移動する。そこは溶岩がぐつぐつと沸き立ち、強烈な熱を放っていた。熱いので凍らせてみることにした。私が使える氷系統の魔法を使う・・・・・・、が蒸発し更に蒸し暑くなっただけだ。
 一瞬高音言語魔法を使うか迷ったが、明らかにバスティの変化に影響を与えているようなので辞めて辺りを探索することにした。ミュールの動きに注意を払いながら洞窟の中を見て回る。ミュールの一撃で崩れかけているので避難したい所だが今は動けないからだ。
 そこには見たことも無い道具が転がっていた。奥には書棚があり、よく分からない本が並んでいる。文字も私が知っている古代言語とはまた違う文字だ。

  (今度サンダーゴーレムに聞いてみよう)

 とりあえず片っ端から蜜穴熊のバッグに詰め込んでゆく。
ミュールには変化は無い。バスティは・・・・・・ぐったりとして壁に寄りかかっている。
 私はさらに部屋の中を探索する。他にも部屋はあるがミュールの動きがあるので離れるわけにはいかない。とりあえず入る物は全て放り込み終わったので、今度はミュールが切り裂いた壁の断面を視てみることにした。そっと触ってみるが熱くはない。しかし切断面は無理矢理切断したとは思えないほど滑らかだ。古代遺跡で見つかる剣や建造物に近いものがある。
 そこで私はある物を見つけた。魔石の塊だ。それも1個や2個ではない。そこら中に魔石がある。どうやらここ自体が魔石の鉱脈のようだ。それも今までに無い規模の・・・・・・。
  
  「なるほど・・・・・・、ミュールの魔法の破壊力はこれか・・・・・・」
  
 通常発掘時には何も入っていない魔石に魔力が籠っている。それは物にもよるが減っている物、めいいっぱい入っている物と様々だ。魔法を発動するタイミングでこの地に埋まる魔石から魔力を抽出して上乗せし、放っていたようだ。あくまでも憶測だが。
  
  「・・・・・・ゴシュジン、サマ?」
  
 美しい鈴のような聞き慣れない声が私?を呼んだ。私は声の方を振り向いた。そこには拘束されたままのミュールがこちらに眼を向けている。大きく目が見開かれた。
  
  「ゴシュジンサマ~!」
  
 本来の顔を取り戻しているミュールの顔がふにゃりとなりこちらへ移動しようとした・・・・・・。

  こけた・・・・・・。

 しかも顔面から盛大に。
う、う、うと小さな嗚咽が漏れる。
  
  「ウエェェェェェェ~、イダイヨォ~」
  
 ミュールは大声で泣き出してしまった。白狼達は一斉にミュールの頬を舐めて泣き止ませようとしている。私はゆっくりとミュールの元に近づいてゆく。
  
  「主様! 私が先に・・・・・・」
  
 気がついたのか半分だけ金髪金眼に戻ったバスティが直ぐに駆け寄ってきて私とミュールの間に入り込む。
  
  「バスティザン~・・・・・・、キッチンハワダジノモノデズ~」

 大泣きしながらミュールがバスティの眼を見つめている。バスティの身体は震えてはいるが動けないわけではなさそうだ。
  
  「トッダラ~、オモラシバラジマズヨ~」
  
 あ、戻ってるな。こりゃ。

 バスティは自分の下半身を見て顔を真っ赤にしている。

 「ミッ、ミュール! これは違います。違いますから!」
  
 ふるふると身体を震わせるバスティの肩に私は手を置いた。
  
  「ひゃぃっ!」
  
 バスティはその場に座り込んだ。というかへたれ込んだな・・・・・・。私はバスティに拘束を解くかどうかを尋ねた。お好きにとだけ短く返答がある。
  
  「ミュール、拘束を解くが大丈夫か? もう全て思い出したか?」
  
 私の問いにミュールは泣きながら謝ってきた。
  
  「ゴシュジンザマゴメンナザイ~、モウワルイコトジマゼン~」
  
 泣きじゃくるミュールを見て私は拘束の魔法を解く。同時に頭をなでなでしてやった。ミュールはゆっくりと起き上がる。白狼達が一斉にこちらを睨み付けてきた。その頭にミュールが拳骨を落としていった。

 改めてみるとデカい。元々の骨格が3m程あったのだ。それに筋肉がつき、大きな白狼が足として陣取っている。4mはありそうだ。
  
  (部屋、入るかな~)
  
 私が近づくとミュールは思いっきり抱きついてきた。とんでもない腕力に身体は引き上げられ、胸の谷間に顔を埋めるようになった。柔らかい感触が顔全体を包み込む、・・・・・・窒息するわ!
私は夢中で足を振るがミュールは気にせずに抱擁を続けた。

 (あー、まずい。意識が飛ぶ~)
  
 意識が飛びかけた瞬間、バスティの声が響き渡った。
  
  「ミュール!主様が・・・、主様を殺す気?!」
  
 ミュールはぐったりとし始めていた私を見て、慌てて地面に下ろしてくれた。またしても半泣きの顔だ。
  その時、洞窟の天井から小石がパラパラと振ってきた。本格的に洞窟が崩れだしたようだ。
  
  「バスティ、ミュール! 逃げるぞ!」
  
 私は直ぐに入って来た方向へ走り出した。ミュールも慌てて続く。バスティだけ別の方向へ走り出した。どうやらロングソードを回収するつもりらしい。
  
  「バスティ、そんな物ほっとけ!」
  
 私の声にバスティは一瞬躊躇する。私の顔とロングソートを交互に見つめる。
  
  「また創ってやるから、早く来い! 命令だ!」
  
 私は自分でもびっくりしていた。まさか、命令をするとは思わなかったからだ。しかしバスティは嬉しそうな顔でこちらに向かってきた。  私たち3人?は全速力で出口を目指した。よく見るとミュールは意外と速い。6頭の白狼が引っ張り後ろに生えた尻尾が器用にくねっている。私たちは直ぐに出口にたどり着く。水辺まで走り、へたり込むと同時に小さな丘は一気に陥没した。土埃が舞い、視界を奪う。
 ミュールは何とも言えない表情を浮かべ土煙と洞窟のあった場所を見つめていた。私は手を上に伸ばし、ミュールの手をそっと握った。
ミュールもそっと握り返してきた。

 私たちは暫くそこで休息を取り、馬車の位置まで戻ることにした。
途中でバスティがミュールにしっかり口止めをしているのはあえて聞かなかったことにする。
戻るときにはバスティの髪も瞳も元の金髪金眼に戻っていた。帰ったらバスティから買った書物をじっくりと読む必要がある。そう考えながらゆっくりと馬車の位置まで戻った。
 因みに先程の洞窟のあった場所にはサンドゴーレムを2体配置しておいた。体勢が整ったらもう一度掘り返そうと思っている。
  
 馬車に近づくと案の定、馬たちは恐慌状態に陥った。巨大な狼6頭が女性を乗せて近づいてくるのだ。食べられると思うだろう。バスティが先に戻り馬たちを落ち着かせている。私とミュールはゆっくりと近づいて行った。馬たちは、暴れることなくジッと立っていた。バスティの隠れた才能に驚いてみるとそうでもないようだった。単純に竦んで動けないようになっているだけのようだ。
  
  「ゴ主人様、私ハドウヤッテ帰レバ良イ?」
  
 ミュールが困った顔をしていた。ミュールは背丈が伸びただけでは無く重さも体格も数倍に増している。
  
  「馬車・・・・・・には入らないよな」
  
 私はどうするか迷ったあげく提案をしてみた。
  
  「ミュールに結界を張るからバッグ経由で帰ってみるか?」
  
 一応小動物で実験をして安全は確認してある。問題は無いはずだ。地下の何でも部屋に届く。
  
  「・・・・・・ウン、ジャア、先ニ帰ッテマス~」
  
 ミュールは少しだけ考えて返事をした。私は通常魔法で最硬の結界魔法をミュールに掛ける。それを纏ったままミュールは蜜穴熊のバッグに手を入れた。直ぐに吸い込まれ、バッグの中に消えていった。私はバスティに馬車の用意を頼むと、作成しておいた3体のサンドゴーレムに先程のミュールの住んでいた場所に移動するように指示を出し馬車に乗り込んだ。
時間はギリギリ間に合った。

  「さあ、帰ろう」
  
 私は馬車に鞭を打ち、ルイスの街への帰路についた。
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