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こちら付与魔術師でございます
こちら付与魔術師でございます ⅩⅢ ミュール(スキュラ)の肉体を再生させましょう 下準備
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さて、無事に引っ越しも終わりました!
う~ん、広いのか狭いのか・・・・・・。
あれだけあった広い庭はほとんど建物で埋まりました。
ご近所さんからは折角の庭が勿体ないといわれましたよ。
知らんよ、そんなこと。
そう言うなら自分で買えば良かったのにねぇ。
あとはミュールのことをどうにかしないといけないのですがね。
ミュールを連れて行くために商品を大量に作成しておかないとユーリカの仕事がないのですよ。
あの子売りすぎ!
やはり売り子さんは女の子が良いのでしょうか?
歓楽街の女性達のお客が増える増える。
なにか金髪、金眼のエルフに凄い目で睨まれたと言っていましたがね。
ど、どっちなのでしょう?
会うのが怖いな~
というわけで、玉鋼をすぐに作成し、武器や防具を創らなければ・・・・・・。
あとハサミ。
ユーリカもハサミを知っていて、うちで作っていると聞いてこーふんしてました。
えっへん。
さぁ、忙しくなるぞ。きっと
でわ。
-----玉鋼-----
新居に移って、まずはたたら炉を稼働させてみた。これはミュールとサンダーゴーレムが火をおこし、風を送り込む。
辺りには凄まじい熱が発生していた。ゴーレムは触れないほど加熱している。
このたたら炉は改造した特別製だ。なにしろゴーレム用に開発したものなので交代する必要も無いし、1度に作れる量も違う。
一応、本の3倍の大きさにしてあるので、量も3倍作れる予定だ。
一度の作業で3日間、火を入れっぱなしにする。砂鉄を一定量入れて木炭をその
1.2倍ほど、順次入れて行く。それを3日間繰り返す。その間は一切火力は落とさない。
3日経って、塊になった物が大体3分の1程度になった。そこから、以前バートンから購入した玉鋼と同質の物を選別する。
結果的にそれがさらに3分の1になった。
量的に言えば約10000kgの砂鉄から約1000kgの玉鋼が出来たことになる
ここから前回、人を雇った金額と、商品を作成する量と販売する金額を計算する。刀一振りが10kg、包丁が1kg、ハサミが250g程度使うのでまぁなんとかなるかというところだ。
ちなみに刀は金貨10枚、包丁金貨1枚、ハサミ銀貨1枚という値段だ。雇った人に払った金額が金貨75枚。
今の状態でも利益は出るのだが、さらに利益を上げるには人件費を減らさなくてはならない。砂鉄作成?の為に細かい作業の出来るゴーレムを作る必要がある。
とりあえず、急ぎで刀を10振(軽量化と斬れ味アップの魔法)と包丁100本(斬れ味)とハサミ400本(耐水の魔法)を作成する。
これで300kgの玉鋼を消費した。
実際、作成が終わるまで1週間がかかった。なにしろ膨大な魔力を消費する。作っては休み、作っては休みを繰り返した。
とにかくハサミの売れ方は凄まじいものがある。日に50本店頭に並べてもその日のうちに無くなることが多い。
やはり未入荷で待たせたせいだろう。生産しても追いつかない。
300本を越えた辺りから徐々に落ち着いた状態だ。それでも日に5~10本は捌けるらしい。
-----下準備と仲間-----
ある程度落ち着いたところで、私はミュールに本当に自分の肉体を取り戻したいのか尋ねてみた。
ミュールはうんうんと頷いて返した。
その後、私は蘇らせたときのリスクとその対処法をミュールに伝えた。
①基本的に前例が無いので、成功するか失敗するか分からないこと
②今の考えと蘇ったときの考え方が違い、私たちに襲いかかってきたときは全力で退治するということ
③今の意思と生存していたときの意思が混ざったときは好きな方を優先させるが、害がありそうな場合は退治すること
④今の意思のみの場合でも隷属の首輪を付けさせてもらうこと
とりあえずはこのような条件を出した。正直失敗することを想定した内容に傾いているし、最後の隷属の首輪に関してはあまりやりたくはない。
ただ、だまされて街に連れてきたときに裏切られた場合のリスクを回避するための物だった。
冒険者ギルドの情報通り、単純1体倒すのに100人がかりなどの力があるのは相手に出来ない。その実力が自分にあるとは思えないからだ。
私はそれでも肉体を取り戻したいかと再度尋ねた。
ミュールは少しだけ考えた後、小さく頷いた。
すぐにユーリカを呼ぶ。ユーリカに事情を説明し、10日以内に戻らなければルールウの店に行くように伝える。
ルールウには戻らなければ奴隷契約を解除し、全財産をユーリカとルールウで分けるように伝えておくつもりだ。ユーリカはついて行くと言い張ったが店番があるから駄目だと諭した。もっとも説得できるまでに翌日の昼までかかったのだが。
翌日、私は寝不足のままルールウの店を訪れ、経緯を説明する。さすがのルールウも最初は信じなかったが、最終的にすべてを了解してくれた。
そしてユーリカが街へ留まり暮らすならば、面倒を見続けると約束してくれた。
その代わり今夜一晩相手をしろと言われたが丁寧に、丁寧に断りを入れた。正直、バスティの事があるので微妙な状態なのだ。
自分の優柔不断さを少しだけ呪う。
次に中央役所へと向かった。バスティと話をするためだ。
正直、どうするか悩んだが頼れるのが彼女しかいなかった。バスティを呼んでもらい、少しだけ外出してもらった。
バスティにミュールのことと経緯を全て話した。さすがのバスティも驚いている。
「それで、そこまでわたくしにお話しいただいたのですから、どうしてほしいのでしょうか?」
バスティは表情を変えずに話しかけてきた。いつものやんわりとした微笑みはなく、少し表情が硬い。
それでも私はバスティに頼むしかなかった。
「バスティさん、報酬は払うので私と一緒にミュールの故郷へ行って欲しい」
これが私の頼みだった。そう、ほとんどの人に内緒にしているバスティの技術、冒険者アタッカーとしての力を借りることだ。バスティは腕組みをし考え込む素振りをみせる。バスティの口から次の言葉が出るまでかなりの時間がかかった。
「分かりました、冒険者として共に参りましょう。しかし、出発の日付ですが明日、ご返事させていただけないでしょうか?」
私はとりあえず頷く。引き受けてくれたという有り難さしか無かった。
その時は、その後、とんでもないことになるとは考えもしていなかった。
-----冒険者ギルド-----
私は冒険者ギルドへ行き、アイテム売り場のミルトを尋ねた。
「あら、カーソンさんこんにちは。今日は何かお探し物ですか?」
先日の売り場とは違い、また以前の売り場へと戻っていた。あれだけあった剣と鎧はどこへ行ったのだろう。
その疑問を察してかミルトが耳元で囁いてきた。
「この間まであった剣とかはすべて売れてしまいましたよ。王国が買い上げてしまいました」
ふぅ っと耳にぬるい息が吹きかけられた。背筋にぞわりとした感覚が走る。ミルトをみたらニコリと笑っていた。何故かその理由は知っているでしょという顔だ。
「は~そうでしたか。まぁ今日はそっちではなく、またゴーレムの素材なんですがね」
私は、とぼけながら本当の用件を言う。ミルトははい分かりましたと言って裏へ入っていった。
手先の器用な素材か・・・・・・。正直ゴーレムにどこまで求めて良いものか。
石や鉄などの鉱石系ゴーレムは力加減が難しいようだ。一度細かいことをやらせてみようとしたが見事に不良品の山を築いてくれた。形成までは出来るがその後は不可能だった。
それに今回欲しいのは商品作成用のゴーレムではない。砂鉄収集用のゴーレムだ。
奴隷を買うことも考えたが、ユーリカのようにお買い得がそう簡単に見つかるとは思えないし、これ以上お金はかけられない。しかも50体は欲しい。
奥からミルトが戻ってくる。前回ミュールを買ったときと同じで水晶球とリストを持っている。私はすぐにミルトに尋ねた。
「50体くらい在庫のある奴は?」
「・・・・・・はあ?!」
ミルトは面白いくらい大口を開けていた。こちらも無茶を言っているのは分かる。しかし、それくらいの数が必要なのだ。
「あ~、カーソンさん? それは無茶ではないですか?」
さすがにミルトは呆れかえっていた。念のためにリストには目を通しているが、流し読みである。結構な量のリストを目で追っているとミルトの目が移動を止めた。
何かを見つけたらしい。しかし、直ぐに提案はなかった。何かを考えているようだ。
「ない・・・・・・ことはないですね。ただし、責任は持てませんが・・・・・・」
商品はあるが、問題を抱えた商品はあるようだ。私はどのようなものかを尋ねた。それは数十年前に買い取られた、召喚術士のコレクションだった。
問題だったのは全ての骨格がデーモンのものだったと言うことだ。何に使ったのかは分からなかったそうだが、少なくとも30体は揃っているという。その中に5体ほど通常の骨格とは違う存在が混ざっているということだ。
ゴーレムを作る時には2パターンのやり方がある。
1つは私が前回やった方法。すなわち生前の記憶を呼び戻し、意思を戻して動かす方法。
そしてもうひとつは無の状態から動作を組み立ててやることだ。こちらは命令というよりは決められたとこと決められた通りにしか出来ない。追加の命令が出来ないのだ。
正直、何に使われたのか分からないうえに、デーモンの意思を引き戻すのはどうなのだろうか?危険性はあるか? やったことがないので分からない。
しかも、もともとデーモン自体が別次元の生命体?だ。こちらでの身体はこの世界に留まるための依代でしかない。30体分のデーモンの意思を呼び戻したとき単純な、滅した意思だけなら問題はないが、こちらでの死は死ではなく別次元に戻っただけという可能性もある。
その時は30体と同時に召喚契約しないとこちらの命が危うくなる。とくに骨格の違う5体。かなり高位のデーモンだろう。
私は散々悩んだあげくに聞いてしまっていた。
「全部でいくら?」
思ったより安かった。30体まとめて金貨5枚だという。ミュールが割引で金貨1枚と銀貨7枚だったので格安だろう。
少し数は足りないがまあいい。
しかしミルト、君はもしかして本気で不良在庫を洗い出して私に売りつけるつもりなのか?
了解したと言って金貨5枚と銀貨を5枚払う。配達は1枚ですよとミルトは言ってきたが今回は配達先が違う。
前回砂鉄を収集した場所が配達先になる。それで余分に払ったと説明する。ミルトは了解したといい生産処理を始めた。
念のため1月だけ預かってもらうことにして、もし私が連絡しないならば廃棄してもらうように伝える。
廃棄料金は中央広場のルールウからもらうように伝えた。
「どこか危険な場所にでも行かれるのですか?」
ミルトが喰いついてきたがなんとか誤魔化した。じゃあよろしくと言って冒険者ギルドを後にする。
この後、魔術師ギルドへ向かった。
-----魔術師ギルド-----
受付にネタヴィアと先日の青年が座っていた。青年は私の顔をみると明らかにびびっていた。ネタヴィアはニコニコと笑いながら出迎えてくれた。
「ご無沙汰ですね。商売はうまくいっているようですね」
ネタヴィアが話しかけてきてくれた。私はネタヴィアに話があるので少し時間をくれないかと頼んでみた。すぐに良いですよと言ってくれて代わりの職員を呼びにやった。その後、奥の部屋に案内される。そこは強力な結界が張ってある場所だった。
「で、どのようなお話し?」
ネタヴィアはすぐに本題に入ってくれた。こちらとしても有り難い。そこでまずはミュールの今までの経緯を説明する。ネタヴィアも最初は笑顔で聞いていたが最後は微妙な表情を浮かべていた。
「あなたは最初から変わっているとは思っていましたが・・・・・・、何とも言い難いですね」
やはり常識的には考えられないことをしようとしているので、呆れかえっていた。
「それで、私にどうしろとおっしゃるのでしょうか?」
私は、図書館の中で100年前の討伐時の記録が残っていないか、また直ぐに探せないか、スキュラに関する詳しい書物がないかを尋ねた。ネタヴィアは少し待って欲しいといい部屋を出て行った。直ぐに戻ってくる。ギルドの人を使って探させていると言うことだった。
その間、世間話をする。その時、ふと私の頭にもうひとつ疑問がわき上がった。それは先程、冒険者ギルドで買ったデーモンを召喚した魔術師のことだった。
「あの、ここ100年以内で大量にデーモンを召喚した魔術師のことをご存じありませんか?」
この質問にネタヴィアの表情が一変した。今まで見せたことのない厳しい表情だ。
「どこでその話を?」
有無を言わせない質問だった。私は先程、そのデーモンの骨格を全て買い取ったことと、それをどのように使うかを説明する。
本来なら手の内を明かすことはしないのだが、この件は副ギルドマスターに話しておいた方が良いと判断した。ネタヴィアは再度待つように言って部屋を後にした。今回は少し長い。
しばらく待っているとネタヴィアが戻ってきた。初老の男を伴っている。
「カーソンさん、ご紹介します。この街の魔術師ギルドのマスターでサルファ・ギルバート師です」
私は思わず立ち上がり名乗っていた。サルファ・ギルバートも名乗って握手を求めてきた。私も握り返す。
しかし、この件ってそんなに不味い件だったのだろうか?ギルドマスターまで出てきてしまった。なんか大事になっていきそうな予感がぷんぷんする。
「まず、そちらの使われているスキュラのゴーレムの件は微妙な所です。本来ならば領主に相談してそれなりの戦力を整えたいところです。詳しい対処の仕方は記録を読んでみないと判断できませんが・・・・・・」
サルファ・ギルバートはミュールの件を先の話題にした。ネタヴィアには秘密にしろとは言っていなかったので問題はない。資料が届くまでミュールの話は保留にし、召喚術士の話になった。
「まず、あれは魔術師ギルドに所属した者として最低の人間でした」
サルファ・ギルバートは吐き捨てるように言う。
内容的にはこのような出来事だった。
彼は、研究と称してデーモンを召喚していた。召喚すること自体はそれほど問題ではない。契約を結んで使役したり、知識を得たるする魔術師は少なからずいる。
しかし、その召喚術士は全く違うことに使っていた。それはデーモンを召喚し自分の性奴として扱い、また近隣の娘を掠わせたりしていた。そこまでは普通の悪人というところだ。しかしデーモンを性奴ってどうなんだろ・・・・・・。
問題はそのあとで、呼び出したデーモンと掠ってきた娘、それを合成させてキメラを作るという暴挙に出たという。さすがの私も頭を抱えた。
確かに合成魔法を使えば可能である。実際動物や魔獣などを組み合わせる実験をする魔術師もいる。しかし、人間を使うことは禁忌であり、よりによってデーモンとの合成は完全に狂気の世界だ。
そのようなことをした魔術師は文献ですら読んだことはなかった。ただ、古代文明の中に合成ではないが全く同じ人間を生み出す技術があったと記載があった。しかし、それですら禁忌となり実験は中断されたとなっていた。
結局、事態を重く見た魔術師ギルドは持てる戦力を全て投入して事件が表沙汰になる前に闇の中へ葬ったということだった。
「あ~、なんというか闇に葬りたい気持ちも分かります」
私は思わず口に出していた。問題はその遺産?であるデーモンの骨格をどう扱うかだ。ここで返却して欲しいと言われてもこちらも困る。
「返却は出来ないですよ」
先に牽制の一言を放つ。サルファ・ギルバートとネタヴィアは困った顔をする。それはそうだろう、このデーモンの骨格を完全に破壊し、記録を抹消すれば数十年後には完全に闇の中だ。
また、私のゴーレムの作り方をネタヴィアは知っているので(といっても魔術師ギルドの上位になれば思いつく程度のことなのだが)、さらに使わせたくないのが本音だろう。
ミュールの件のように当時の記憶が蘇り、どのような影響を与えるか分かったものでは無いからだ。
とりあえず、引き渡しは1月後なので、代わりの物を用意できるか判断するように伝える。ふたりは協議することでこの場は折れてくれた。
それから少しばかり世間話、魔術の話で盛り上がりながら待っていると、部屋がノックされた。ネタヴィアは資料が見つかり次第、この部屋へ持ってくるように言っていたようだ。
入って来た魔術師の手には数冊の本が持たれていた。そんなに分厚い量ではない。サルファ・ギルバートはそちらにも興味を示したようで、付き合っても良いか聞いてきた。
どのみち領主に相談したいと言うことだったので問題はないと答えた。正直に言うとミュールの件に関しては実力のある協力者は多く欲しいところだった。
3人で資料に目を通す。ここで追加の情報が手に入った。
1000名の討伐隊、これは間違ってはいないが戦死者は700名以上でその大半が1体のスキュラに倒されていた事がわかった。
しかも強力な魔法を扱い、再生能力すら持っていたことが分かった。体が普通のスキュラより遙かに大きく3m近かったという記述から、おそらくミュールのことだろうと推測する。
本当に大丈夫か?復活させて・・・・・・。
私の中に再度疑問がわき上がる。まぁ、約束を反故にする気はないので準備だけは万全にするつもりだ。そのためにバスティも雇ったし後のこともルールウに任せた。
情報も粗方集まったのでお礼を言って立ち去ろうとした。
その時サルファ・ギルバートから声を掛けられた。
「君がその、ミュールというスキュラを復活させるところに同行したいのだが構わないかな?」
ギルドマスターの言葉にネタヴィアが固まっていた。
「今、この時期にギルドマスターに離れられては困ります!」
珍しくネタヴィアが感情を露わにした。結構怖いな、この人。怒らせないようにしよう。
多分、この時期というのは現在の王国の動きについてだろう。ある程度調べてからは面倒ごとに巻き込まれないように情報収集はしていなかった。
サルファ・ギルバートもさすがに驚いたらしく軽率な発言だったと謝っている。ただ、今の時期に脅威が増えることが心配なようだ。
「最悪の場合の対応は大丈夫です、強力な助っ人を頼みましたので。それに、私の底はネタヴィアさんも見えていないと思いますが?」
強力な助っ人であるバスティのことは伏せておいたが、それとは別に私に隠し球があることはネタヴィアは感づいているはずだ。しかもそれが今の魔術界の常識からかけ離れた物だということも・・・。
最終的に、サルファ・ギルバートは諦めた。ただし出立日を決めたら連絡することと、1月後に戻らなかった場合はその場所に軍を派遣することを条件提示してきた。
まぁ、事態を把握したいという心はわからないことはないが、私的なことだからミュールと相談して返事をすると言う。サルファ・ギルバートもそれで渋々と納得してくれた。
とりあえず、魔術師ギルドを後にして、家路につくことにした。
う~ん、広いのか狭いのか・・・・・・。
あれだけあった広い庭はほとんど建物で埋まりました。
ご近所さんからは折角の庭が勿体ないといわれましたよ。
知らんよ、そんなこと。
そう言うなら自分で買えば良かったのにねぇ。
あとはミュールのことをどうにかしないといけないのですがね。
ミュールを連れて行くために商品を大量に作成しておかないとユーリカの仕事がないのですよ。
あの子売りすぎ!
やはり売り子さんは女の子が良いのでしょうか?
歓楽街の女性達のお客が増える増える。
なにか金髪、金眼のエルフに凄い目で睨まれたと言っていましたがね。
ど、どっちなのでしょう?
会うのが怖いな~
というわけで、玉鋼をすぐに作成し、武器や防具を創らなければ・・・・・・。
あとハサミ。
ユーリカもハサミを知っていて、うちで作っていると聞いてこーふんしてました。
えっへん。
さぁ、忙しくなるぞ。きっと
でわ。
-----玉鋼-----
新居に移って、まずはたたら炉を稼働させてみた。これはミュールとサンダーゴーレムが火をおこし、風を送り込む。
辺りには凄まじい熱が発生していた。ゴーレムは触れないほど加熱している。
このたたら炉は改造した特別製だ。なにしろゴーレム用に開発したものなので交代する必要も無いし、1度に作れる量も違う。
一応、本の3倍の大きさにしてあるので、量も3倍作れる予定だ。
一度の作業で3日間、火を入れっぱなしにする。砂鉄を一定量入れて木炭をその
1.2倍ほど、順次入れて行く。それを3日間繰り返す。その間は一切火力は落とさない。
3日経って、塊になった物が大体3分の1程度になった。そこから、以前バートンから購入した玉鋼と同質の物を選別する。
結果的にそれがさらに3分の1になった。
量的に言えば約10000kgの砂鉄から約1000kgの玉鋼が出来たことになる
ここから前回、人を雇った金額と、商品を作成する量と販売する金額を計算する。刀一振りが10kg、包丁が1kg、ハサミが250g程度使うのでまぁなんとかなるかというところだ。
ちなみに刀は金貨10枚、包丁金貨1枚、ハサミ銀貨1枚という値段だ。雇った人に払った金額が金貨75枚。
今の状態でも利益は出るのだが、さらに利益を上げるには人件費を減らさなくてはならない。砂鉄作成?の為に細かい作業の出来るゴーレムを作る必要がある。
とりあえず、急ぎで刀を10振(軽量化と斬れ味アップの魔法)と包丁100本(斬れ味)とハサミ400本(耐水の魔法)を作成する。
これで300kgの玉鋼を消費した。
実際、作成が終わるまで1週間がかかった。なにしろ膨大な魔力を消費する。作っては休み、作っては休みを繰り返した。
とにかくハサミの売れ方は凄まじいものがある。日に50本店頭に並べてもその日のうちに無くなることが多い。
やはり未入荷で待たせたせいだろう。生産しても追いつかない。
300本を越えた辺りから徐々に落ち着いた状態だ。それでも日に5~10本は捌けるらしい。
-----下準備と仲間-----
ある程度落ち着いたところで、私はミュールに本当に自分の肉体を取り戻したいのか尋ねてみた。
ミュールはうんうんと頷いて返した。
その後、私は蘇らせたときのリスクとその対処法をミュールに伝えた。
①基本的に前例が無いので、成功するか失敗するか分からないこと
②今の考えと蘇ったときの考え方が違い、私たちに襲いかかってきたときは全力で退治するということ
③今の意思と生存していたときの意思が混ざったときは好きな方を優先させるが、害がありそうな場合は退治すること
④今の意思のみの場合でも隷属の首輪を付けさせてもらうこと
とりあえずはこのような条件を出した。正直失敗することを想定した内容に傾いているし、最後の隷属の首輪に関してはあまりやりたくはない。
ただ、だまされて街に連れてきたときに裏切られた場合のリスクを回避するための物だった。
冒険者ギルドの情報通り、単純1体倒すのに100人がかりなどの力があるのは相手に出来ない。その実力が自分にあるとは思えないからだ。
私はそれでも肉体を取り戻したいかと再度尋ねた。
ミュールは少しだけ考えた後、小さく頷いた。
すぐにユーリカを呼ぶ。ユーリカに事情を説明し、10日以内に戻らなければルールウの店に行くように伝える。
ルールウには戻らなければ奴隷契約を解除し、全財産をユーリカとルールウで分けるように伝えておくつもりだ。ユーリカはついて行くと言い張ったが店番があるから駄目だと諭した。もっとも説得できるまでに翌日の昼までかかったのだが。
翌日、私は寝不足のままルールウの店を訪れ、経緯を説明する。さすがのルールウも最初は信じなかったが、最終的にすべてを了解してくれた。
そしてユーリカが街へ留まり暮らすならば、面倒を見続けると約束してくれた。
その代わり今夜一晩相手をしろと言われたが丁寧に、丁寧に断りを入れた。正直、バスティの事があるので微妙な状態なのだ。
自分の優柔不断さを少しだけ呪う。
次に中央役所へと向かった。バスティと話をするためだ。
正直、どうするか悩んだが頼れるのが彼女しかいなかった。バスティを呼んでもらい、少しだけ外出してもらった。
バスティにミュールのことと経緯を全て話した。さすがのバスティも驚いている。
「それで、そこまでわたくしにお話しいただいたのですから、どうしてほしいのでしょうか?」
バスティは表情を変えずに話しかけてきた。いつものやんわりとした微笑みはなく、少し表情が硬い。
それでも私はバスティに頼むしかなかった。
「バスティさん、報酬は払うので私と一緒にミュールの故郷へ行って欲しい」
これが私の頼みだった。そう、ほとんどの人に内緒にしているバスティの技術、冒険者アタッカーとしての力を借りることだ。バスティは腕組みをし考え込む素振りをみせる。バスティの口から次の言葉が出るまでかなりの時間がかかった。
「分かりました、冒険者として共に参りましょう。しかし、出発の日付ですが明日、ご返事させていただけないでしょうか?」
私はとりあえず頷く。引き受けてくれたという有り難さしか無かった。
その時は、その後、とんでもないことになるとは考えもしていなかった。
-----冒険者ギルド-----
私は冒険者ギルドへ行き、アイテム売り場のミルトを尋ねた。
「あら、カーソンさんこんにちは。今日は何かお探し物ですか?」
先日の売り場とは違い、また以前の売り場へと戻っていた。あれだけあった剣と鎧はどこへ行ったのだろう。
その疑問を察してかミルトが耳元で囁いてきた。
「この間まであった剣とかはすべて売れてしまいましたよ。王国が買い上げてしまいました」
ふぅ っと耳にぬるい息が吹きかけられた。背筋にぞわりとした感覚が走る。ミルトをみたらニコリと笑っていた。何故かその理由は知っているでしょという顔だ。
「は~そうでしたか。まぁ今日はそっちではなく、またゴーレムの素材なんですがね」
私は、とぼけながら本当の用件を言う。ミルトははい分かりましたと言って裏へ入っていった。
手先の器用な素材か・・・・・・。正直ゴーレムにどこまで求めて良いものか。
石や鉄などの鉱石系ゴーレムは力加減が難しいようだ。一度細かいことをやらせてみようとしたが見事に不良品の山を築いてくれた。形成までは出来るがその後は不可能だった。
それに今回欲しいのは商品作成用のゴーレムではない。砂鉄収集用のゴーレムだ。
奴隷を買うことも考えたが、ユーリカのようにお買い得がそう簡単に見つかるとは思えないし、これ以上お金はかけられない。しかも50体は欲しい。
奥からミルトが戻ってくる。前回ミュールを買ったときと同じで水晶球とリストを持っている。私はすぐにミルトに尋ねた。
「50体くらい在庫のある奴は?」
「・・・・・・はあ?!」
ミルトは面白いくらい大口を開けていた。こちらも無茶を言っているのは分かる。しかし、それくらいの数が必要なのだ。
「あ~、カーソンさん? それは無茶ではないですか?」
さすがにミルトは呆れかえっていた。念のためにリストには目を通しているが、流し読みである。結構な量のリストを目で追っているとミルトの目が移動を止めた。
何かを見つけたらしい。しかし、直ぐに提案はなかった。何かを考えているようだ。
「ない・・・・・・ことはないですね。ただし、責任は持てませんが・・・・・・」
商品はあるが、問題を抱えた商品はあるようだ。私はどのようなものかを尋ねた。それは数十年前に買い取られた、召喚術士のコレクションだった。
問題だったのは全ての骨格がデーモンのものだったと言うことだ。何に使ったのかは分からなかったそうだが、少なくとも30体は揃っているという。その中に5体ほど通常の骨格とは違う存在が混ざっているということだ。
ゴーレムを作る時には2パターンのやり方がある。
1つは私が前回やった方法。すなわち生前の記憶を呼び戻し、意思を戻して動かす方法。
そしてもうひとつは無の状態から動作を組み立ててやることだ。こちらは命令というよりは決められたとこと決められた通りにしか出来ない。追加の命令が出来ないのだ。
正直、何に使われたのか分からないうえに、デーモンの意思を引き戻すのはどうなのだろうか?危険性はあるか? やったことがないので分からない。
しかも、もともとデーモン自体が別次元の生命体?だ。こちらでの身体はこの世界に留まるための依代でしかない。30体分のデーモンの意思を呼び戻したとき単純な、滅した意思だけなら問題はないが、こちらでの死は死ではなく別次元に戻っただけという可能性もある。
その時は30体と同時に召喚契約しないとこちらの命が危うくなる。とくに骨格の違う5体。かなり高位のデーモンだろう。
私は散々悩んだあげくに聞いてしまっていた。
「全部でいくら?」
思ったより安かった。30体まとめて金貨5枚だという。ミュールが割引で金貨1枚と銀貨7枚だったので格安だろう。
少し数は足りないがまあいい。
しかしミルト、君はもしかして本気で不良在庫を洗い出して私に売りつけるつもりなのか?
了解したと言って金貨5枚と銀貨を5枚払う。配達は1枚ですよとミルトは言ってきたが今回は配達先が違う。
前回砂鉄を収集した場所が配達先になる。それで余分に払ったと説明する。ミルトは了解したといい生産処理を始めた。
念のため1月だけ預かってもらうことにして、もし私が連絡しないならば廃棄してもらうように伝える。
廃棄料金は中央広場のルールウからもらうように伝えた。
「どこか危険な場所にでも行かれるのですか?」
ミルトが喰いついてきたがなんとか誤魔化した。じゃあよろしくと言って冒険者ギルドを後にする。
この後、魔術師ギルドへ向かった。
-----魔術師ギルド-----
受付にネタヴィアと先日の青年が座っていた。青年は私の顔をみると明らかにびびっていた。ネタヴィアはニコニコと笑いながら出迎えてくれた。
「ご無沙汰ですね。商売はうまくいっているようですね」
ネタヴィアが話しかけてきてくれた。私はネタヴィアに話があるので少し時間をくれないかと頼んでみた。すぐに良いですよと言ってくれて代わりの職員を呼びにやった。その後、奥の部屋に案内される。そこは強力な結界が張ってある場所だった。
「で、どのようなお話し?」
ネタヴィアはすぐに本題に入ってくれた。こちらとしても有り難い。そこでまずはミュールの今までの経緯を説明する。ネタヴィアも最初は笑顔で聞いていたが最後は微妙な表情を浮かべていた。
「あなたは最初から変わっているとは思っていましたが・・・・・・、何とも言い難いですね」
やはり常識的には考えられないことをしようとしているので、呆れかえっていた。
「それで、私にどうしろとおっしゃるのでしょうか?」
私は、図書館の中で100年前の討伐時の記録が残っていないか、また直ぐに探せないか、スキュラに関する詳しい書物がないかを尋ねた。ネタヴィアは少し待って欲しいといい部屋を出て行った。直ぐに戻ってくる。ギルドの人を使って探させていると言うことだった。
その間、世間話をする。その時、ふと私の頭にもうひとつ疑問がわき上がった。それは先程、冒険者ギルドで買ったデーモンを召喚した魔術師のことだった。
「あの、ここ100年以内で大量にデーモンを召喚した魔術師のことをご存じありませんか?」
この質問にネタヴィアの表情が一変した。今まで見せたことのない厳しい表情だ。
「どこでその話を?」
有無を言わせない質問だった。私は先程、そのデーモンの骨格を全て買い取ったことと、それをどのように使うかを説明する。
本来なら手の内を明かすことはしないのだが、この件は副ギルドマスターに話しておいた方が良いと判断した。ネタヴィアは再度待つように言って部屋を後にした。今回は少し長い。
しばらく待っているとネタヴィアが戻ってきた。初老の男を伴っている。
「カーソンさん、ご紹介します。この街の魔術師ギルドのマスターでサルファ・ギルバート師です」
私は思わず立ち上がり名乗っていた。サルファ・ギルバートも名乗って握手を求めてきた。私も握り返す。
しかし、この件ってそんなに不味い件だったのだろうか?ギルドマスターまで出てきてしまった。なんか大事になっていきそうな予感がぷんぷんする。
「まず、そちらの使われているスキュラのゴーレムの件は微妙な所です。本来ならば領主に相談してそれなりの戦力を整えたいところです。詳しい対処の仕方は記録を読んでみないと判断できませんが・・・・・・」
サルファ・ギルバートはミュールの件を先の話題にした。ネタヴィアには秘密にしろとは言っていなかったので問題はない。資料が届くまでミュールの話は保留にし、召喚術士の話になった。
「まず、あれは魔術師ギルドに所属した者として最低の人間でした」
サルファ・ギルバートは吐き捨てるように言う。
内容的にはこのような出来事だった。
彼は、研究と称してデーモンを召喚していた。召喚すること自体はそれほど問題ではない。契約を結んで使役したり、知識を得たるする魔術師は少なからずいる。
しかし、その召喚術士は全く違うことに使っていた。それはデーモンを召喚し自分の性奴として扱い、また近隣の娘を掠わせたりしていた。そこまでは普通の悪人というところだ。しかしデーモンを性奴ってどうなんだろ・・・・・・。
問題はそのあとで、呼び出したデーモンと掠ってきた娘、それを合成させてキメラを作るという暴挙に出たという。さすがの私も頭を抱えた。
確かに合成魔法を使えば可能である。実際動物や魔獣などを組み合わせる実験をする魔術師もいる。しかし、人間を使うことは禁忌であり、よりによってデーモンとの合成は完全に狂気の世界だ。
そのようなことをした魔術師は文献ですら読んだことはなかった。ただ、古代文明の中に合成ではないが全く同じ人間を生み出す技術があったと記載があった。しかし、それですら禁忌となり実験は中断されたとなっていた。
結局、事態を重く見た魔術師ギルドは持てる戦力を全て投入して事件が表沙汰になる前に闇の中へ葬ったということだった。
「あ~、なんというか闇に葬りたい気持ちも分かります」
私は思わず口に出していた。問題はその遺産?であるデーモンの骨格をどう扱うかだ。ここで返却して欲しいと言われてもこちらも困る。
「返却は出来ないですよ」
先に牽制の一言を放つ。サルファ・ギルバートとネタヴィアは困った顔をする。それはそうだろう、このデーモンの骨格を完全に破壊し、記録を抹消すれば数十年後には完全に闇の中だ。
また、私のゴーレムの作り方をネタヴィアは知っているので(といっても魔術師ギルドの上位になれば思いつく程度のことなのだが)、さらに使わせたくないのが本音だろう。
ミュールの件のように当時の記憶が蘇り、どのような影響を与えるか分かったものでは無いからだ。
とりあえず、引き渡しは1月後なので、代わりの物を用意できるか判断するように伝える。ふたりは協議することでこの場は折れてくれた。
それから少しばかり世間話、魔術の話で盛り上がりながら待っていると、部屋がノックされた。ネタヴィアは資料が見つかり次第、この部屋へ持ってくるように言っていたようだ。
入って来た魔術師の手には数冊の本が持たれていた。そんなに分厚い量ではない。サルファ・ギルバートはそちらにも興味を示したようで、付き合っても良いか聞いてきた。
どのみち領主に相談したいと言うことだったので問題はないと答えた。正直に言うとミュールの件に関しては実力のある協力者は多く欲しいところだった。
3人で資料に目を通す。ここで追加の情報が手に入った。
1000名の討伐隊、これは間違ってはいないが戦死者は700名以上でその大半が1体のスキュラに倒されていた事がわかった。
しかも強力な魔法を扱い、再生能力すら持っていたことが分かった。体が普通のスキュラより遙かに大きく3m近かったという記述から、おそらくミュールのことだろうと推測する。
本当に大丈夫か?復活させて・・・・・・。
私の中に再度疑問がわき上がる。まぁ、約束を反故にする気はないので準備だけは万全にするつもりだ。そのためにバスティも雇ったし後のこともルールウに任せた。
情報も粗方集まったのでお礼を言って立ち去ろうとした。
その時サルファ・ギルバートから声を掛けられた。
「君がその、ミュールというスキュラを復活させるところに同行したいのだが構わないかな?」
ギルドマスターの言葉にネタヴィアが固まっていた。
「今、この時期にギルドマスターに離れられては困ります!」
珍しくネタヴィアが感情を露わにした。結構怖いな、この人。怒らせないようにしよう。
多分、この時期というのは現在の王国の動きについてだろう。ある程度調べてからは面倒ごとに巻き込まれないように情報収集はしていなかった。
サルファ・ギルバートもさすがに驚いたらしく軽率な発言だったと謝っている。ただ、今の時期に脅威が増えることが心配なようだ。
「最悪の場合の対応は大丈夫です、強力な助っ人を頼みましたので。それに、私の底はネタヴィアさんも見えていないと思いますが?」
強力な助っ人であるバスティのことは伏せておいたが、それとは別に私に隠し球があることはネタヴィアは感づいているはずだ。しかもそれが今の魔術界の常識からかけ離れた物だということも・・・。
最終的に、サルファ・ギルバートは諦めた。ただし出立日を決めたら連絡することと、1月後に戻らなかった場合はその場所に軍を派遣することを条件提示してきた。
まぁ、事態を把握したいという心はわからないことはないが、私的なことだからミュールと相談して返事をすると言う。サルファ・ギルバートもそれで渋々と納得してくれた。
とりあえず、魔術師ギルドを後にして、家路につくことにした。
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