こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます

こちら付与魔術師でございます ⅩⅡ  家を買い設備を整えましょう

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 さて大量の砂鉄を手に入れたのは良いのですが、庭が埋まっちゃいましたねぇ。

 どうするんでしょ。

 家を買おうかとは思うのですが、店の運営もあるし・・・・・・。

 とりあえず、作れるだけの商品を創ってアルバイトでも雇いますか。

 でも、張り紙とか面接とか面倒だし・・・・・・、奴隷でも買いますか。

 私はじっくりと環境を整える・・・っと。

 サボるな?

 あ、そうきますか。サボっているつもりはないんですがね。

 大体王国が鉱石を買い集めてしまうから仕方なく集めたのに。

 え? 計画性がなさすぎる?

 ん~、実は予想以上に採れてしまったのは事実なんですよね。まさか1回であんなに採れるなんて思いませんでしたし。

 計画が甘かったのは認めます。

 さて、引っ越すにしても一度たたらも解体しないといけないんですよ。まあまずは引っ越し先を見つけないといけないんですけどね。

 どこら辺が良いかなぁ。この近くだとそんなに良い物件はないですから。ゴチック姉妹のように郊外にする手もあるのですが、

 出来上がった商品を運ぶのが大変なんで。

 出来れば街中がいいかな?

 そうなると中級騎士以上の家だったところか、商人の家とかを探さないといけないなぁ。

 また、出費が・・・・・・。

 いい加減に貯蓄がなくなってきた。ミスリル貨で100枚を切ってしまった。

 出来たら非常用に取っておきたいがこの際家を買ってしまおう。

 あ~あ、なんか商売やるって元手がかかるなぁ。

 あんたが好きに買い物しすぎ?

 あうあう・・・・・・、反論できない。

 とりあえず、奴隷を買って家を買って改装してしまおう。

 というわけで、やってみます。


-----奴隷市場-----


 私はいま、奴隷市場へ来ていた。正直あまり気は進まないが、そんなに仕事を求めている人がいるとは思えない。

 それに張り紙をしたり面接をする時間も惜しい。
正直、奴隷の売買は合法なので(闇市もあるが・・・)問題は無い。

 奴隷に落ちるには基本的に3パターンある。

 ①戦争捕虜

 ②お金の問題で売られた(納税出来なかったり、借金のため)

 ③犯罪者
 
 とりあえず③は避けたかった。一応強制の術は施してあるが、あまり気分の良いものでは無い。戦争捕虜はまあ許容範囲か。

 この世界は結構殺伐としたものだ。今は比較的安定しているが10年程前までは小競り合いが多かった。その時捕虜になった者達が奴隷として売られている。
 普通はすぐに売り払われてしまうのだが、この国では20歳以下の奴隷の売買が禁止されているから戦争奴隷が残っている。一度この国に入り、奴隷となるとよその国へ行って売ることは出来ない仕組みになっている。奴隷にもその土地所属の指輪が着けられるからだ。とらわれた親が妊娠していた場合などは、その子は生まれてそのまま奴隷になる。しかし、20歳までは制限付きだが普通に育てられる。教養があった方がより高く売れるからだ。

 もう一つのお金の問題で売られたというのは、借金を返すために自ら奴隷になった者や、5年間税金を滞納した者がその対象となる。滞納金は3%程度なのでよほどで無い限り滞納はない。
しかし、どこの世にもいるモノで何故か年に10人程度は奴隷に落ちる。

 さて、この中から買うのだがどうしたものか。私は店主の持って来たカタログを見ながら考えていた。ここのシステムはまず、奴隷の能力や特徴などを書いた紙を閲覧し、その後実際の奴隷を見て買うことが出来る。冒険者ギルドのように立体映像は無いらしい。導入はしてみたらしいが、やはり実物を見てという意見が多かったので実際に引き合わせることにしたらしい。その時に奴隷と話してみることも出きる。
やはり自分をうまく売り込もうとする者が多い。そこにだまされないように良い?奴隷を探すのがコツらしい。

 「結構、戦争捕虜の系統が多いんですね」

 私は頭の中で考えていたつもりがいつの間にか口に出して話していた。店主がすかさず返してくる。

 「そうですね。10年程前に隣国と争いになった時にかなりの奴隷が流れ込みましたから。当時の20~30歳くらいは直ぐに売れたのですが、生まれたばかりの子やまだ20歳を越えていなかった子供達は数年育てることになりました」

 いまでも10歳以上の子が教育を受けていると付け加えた。
正直、店頭売りをやって貰うのでお金の問題と犯罪者は避けたい。必然的に戦争捕虜に目が行くことになる。

 「じゃぁ、この娘と会って話がしてみたい」

 私は、1人の女性の名前を指さしていた。
得意な面に計算というものがあったのと、魔術の知識があるということが決め手だった。正直魔術にはあまり期待してはいない。しかし、魔術を施した商品を売るのだから知識だけでもあるに越したことはない。
 計算に関しては精算は水晶球に頼っているので問題は無いが、瞬時に値引きの計算をするには役立つものだ。

 少し待つと、首輪と手枷、足枷をつけられた女性が入って来た。入って来た瞬間表情が暗くなる。まぁ、買主が男なのでそう取られたのだろう。
 外見は、肩より少し上で無造作に切られた銀髪に整った顔立ち、少し細身で身長も高い。

 (笑ったところが見たいところだが、今は無理か・・・・・・)

 私は、少しだけ質問をした。
それは魔術の知識だ。基本的な事はほぼ記憶している。しかも通常魔法だけではなく神聖魔法や精霊魔法まで幅は広い。少し気になるところはあったが敢えて気にしないでおこう。
それと計算を暗算でやって貰った。これは正直驚いた。基本的に計算は紙で書くか水晶球に頼り切っている。暗算が出来るのはごく限られた貴族や商人、そして変人だ。それに速くて正確だったからだ。
私が気に入ったような素振りを見せると店主が耳打ちしてきた。

 「この娘はまだそっちのほうも全く経験がありませんよ」

 あぅ、ま、そう来るよね。うん。若い私が女性の奴隷を買いに来ているのだ。
問題は金額だった。正直相場の2.5倍くらいだ。まあ、先程の事情と容姿などを考慮するとそのくらいの金額にはなるだろう。
しかし、金貨100枚ねぇ・・・。
仕方が無い、背に腹は代えられない。急ぐし。

 「了解した。では金貨100枚で。ところでミスリル貨で払ってもいいか?」

 私は、今後もあるかもよ?という含みを持たせるために敢えてミスリル貨を提示した。良い人材は確実に確保したいという思惑もあった。
見事に喰いついてくる。

 「それはそれは、もちろんでございます」

 店主は手もみしながらニコニコと笑っている。私も上客入りしたようだ。私はミスリル貨を無造作に出すと、店主の前に置いた。相変わらず美しい光沢を放っている。奴隷の娘も見とれていた。眼が輝いている。私的に首輪が気にくわないので(奴隷は必須で付けないとならない)、あとでプラチナで作り直してやろうと思っていた。
 店主が手枷と足枷を外す。水晶球で精算を済ますと、私は娘と一緒に奴隷市場を後にした。


-----ユーリカ-----

 彼女の名前はユーリカと言った。それ以上でもそれ以下でもないらしい。奴隷に姓はいらないということから(戦争奴隷から生まれた人は特に)単純に名だけで呼ばれる。生まれた直後に母親が名付けてくれたらしい。
今はどこにいるか分からないという。

 私はとりあえず、ルールウの店に服を買いに出かけた。

 「やぁ、ルールウ」

 ルールウの顔がなんか怖い。私はなにか怒らせることでもしたのだろうか?

 「なんだい、カーソン。私という者がありながら奴隷を買うなんて。いつでも相手するって言ったろ」

 はぃ? あー、なんだ、その。 
ユーリカは顔を真っ赤にし、申し訳なさそうな顔をして俯いている。とりあえず気を取り直して文句を言うことにした。

 「ルールウ、この人はうちの店員として働いて貰う娘だ。今後ユーリカの事を悪く言うと怒るぞ」

 ルールウもユーリカの顔を見てバツの悪そうな顔をしている。

 「あ、すまなかった。カーソンがその、言い方が悪ければ謝るが、若い女の奴隷を連れているのを見てつい・・・・・・な。勘弁してくれよ、お嬢さん」

 奴隷に対して丁寧に謝るルールウを見て、ユーリカが逆に驚いていた。とんでもないですと逆に謝りだした程だ。
私、蚊帳の外ですけど。

 「あ、でだな、店で働く従業員としての服と普段着を数着欲しい。適当に見繕ってやってくれないか。正直私にはわからないのでな」

 私はそういうと、金貨を3枚手渡した。ユーリカは目を丸くしている。
ルールウは 「はいよ」 というとユーリカを中へ招き入れた。覗くなよと付け加えられる。


 半刻後・・・・・・、長かったぁ。
 ユーリカは見違えるようになっていた。淡い緑色のロングのワンピースを著て腰の辺りをベルトで縛っている。ありゃ、細身と思っていたがそうでもないのか。
 手には大きな袋を持っている。10着ほど選んだようだ。奴隷市場で着ていた服はルールウが処分しようと言ったが捨てないと言い張ったらしい。靴も革の良いものを履いている。

 「ルールウ、予算オーバーしてないか?」

 どう見ても予算を超えている。私は追加の金額を聞いた。

 「いや、いいよ。いつもカーソンには色々と買ってもらっているからね。それに、さっきユーリカに失礼な態度をとったからさ」

 私にはいいのか? 
 とりあえずもらえる物は受け取っておこう。
私はユーリカに荷物を渡すように言う。しかし、主人に持たせるわけにはいかないと言い張って譲らない。結構頑固な娘だ。
 楽に持ち帰る手段があることを説明したが、中々聞き入れてくれないので、私は蜜穴熊のバッグからここで買った刀を取り出した。ユーリカの表情が信じられないという顔をしている。
 下手に魔術の知識がある分、理解不能でぼーっとなっているユーリカから荷物を奪取すると、すぐにバッグの中に放り込んだ。私はルールウにまた来ると挨拶をして家路についた。

 で、案の定ユーリカは気を失った。
 家に着いた私たちを玄関まで出迎えてくれたのはミュールだった。う~ん、やはり早めにミュールの身体をなんとかしないと。
私は、今の家の件が片付いたらミュールの身体の事を真剣に考えてやろうと心に決めた。
 ちなみにユーリカは2回気絶した。
私がユーリカの寝室のことを考えて席を外したときに目を覚ましたようだ。
悲鳴が聞こえてすぐに戻ったがすでに遅かった。気絶したユーリカを覗き込んでいるミュールがいる。
とりあえず、紅茶を入れてくれるように言ってユーリカを起こした。キッチンに向かうミュールの背中が寂しそうに見えた。

 「ユーリカ、彼女はミュールというスキュラのゴーレムだ。知能は高く、筆談も出来る。どうか驚かないでやって欲しい」

 起きて直ぐのパニック状態のユーリカに私は頭を下げた。その様子にユーリカも少しだけ落ち着きを取り戻した。まぁ、無理もない。そういうものに耐性のありそうなゴチック姉妹ですら抱き合ったくらいのインパクトはある。
身も蓋もなく言えば3mを越す巨大な動く骨だ。
 暫くするとミュールが紅茶を入れて戻ってきた。おやつも一緒に持っている。
気を遣っているのかそろりそろりと近づいてきておどおどしたように紅茶とお菓子を置く。
そのミュールに突然ユーリカが手を伸ばした。戸惑いながらミュールも手を伸ばす。2人は握手をしていた。やはり魔術の知識があるぶんゴーレムという言葉に反応し割り切れたようだ。
悪い言い方だが、良い買い物だったと思う。

 私は、自分の寝室を使うようにユーリカに言った。正直部屋は余っていない。それすら失念していた。ユーリカは床で良いと言ったがそれは私が許さなかったので最終的に同じベッドで寝ることになった。
 夜の相手は良いのかと聞かれたが、それは必要ないと言って私はそのまま眠りについた。


 -----家探し-----

 
 翌朝、隣にはユ-リカはいなかった。
 リビングに行くとユーリカが黙って立っている。私の姿を見てユーリカは半泣きで近づいてきた。取りあえずソファへ座るように促すと遠慮がちに座る。
奴隷として、主人と対等の目線にいるのが辛いようだ。そのように教育を受けてきたのだろう。
私はまず、なぜ立っていたのかを聞いてみた。帰ってきた答えは笑える内容だった。本人にとっては笑い事では無いようだが。
 私の朝食を作るためにキッチンへ行こうとしたらミュールに止められたらしい。ミュールはキッチンは私の城だと主張し、ユーリカも自分は私の奴隷で仕事をしないといけないと主張したようだ。実際、筆談の内容を見せてもらったが思わず吹き出してしまった。
まぁ、ゴーレムと奴隷の熾烈なポジション争いだ。結局、ミュールに力で押さえ込まれたらしい。
 私はこれは先日ユーリカの扱いを説明しなかった自分に非があると思い、説明することにした。  
 奴隷の首輪は外すつもりだったこと、私の露店で売り子をしてもらうつもりだということ、きちんと給料は払うということ、奴隷ではなく雇用形態に変更するつもりだということ、現在考えていたことはそれくらいだったのでそれだけを伝えた。
 ユーリカはそれは申し訳ないと抗議をしてきた。自分はあくまで奴隷で買われた身分だからそれなりの扱いをして欲しいと言うことだった。
 解放されて悦ばない奴隷もどうなんだろうとは思ったが、暗算が出来るくらいに教養が高いのでミスリル貨の価値は十分に知っている。それを解放してもらい、給料を払ってもらうのが気に入らないらしい。おまけに夜の相手さえ求められない。
なにか変にプライドが傷ついたようだ。話は平行線だったので最終的にこちらが折れる。奴隷に押し切られてしまった・・・・・・、とほほ。

 ①奴隷契約はそのまま、ただし首輪は作り直す

 ②週に2回は必ず休む
 
 ③欲しい物、必要な物があれば必ず言うこと

これだけは譲れないということで話を付けた。
ユーリカはこの条件を渋々受け入れた。お互い意外と頑固なものだ。

 その後、2人で朝食を取り、家の裏を見せ、残りの2体のゴーレムを紹介した。
もう1体筆談できるゴーレムがいたことにはやはり驚いたようだ。あとは2階を案内し、絶対に金庫部屋へは入らないように釘を刺しておいた。
取られないようにというより死ぬからね。
 私は最初の仕事として物置部屋のアイテム分類を任せると、物件探しに出かけた。


 この街の中にはたくさんの不動産を扱う店がある。その中でも大型の物ばかりを扱う店に行ってみた。3つほど気に入った物件がある。
 1つは庭はそれほど大きくはないが屋敷自体は広かった。12の部屋とリビングとキッチンがある。
 もう1つはかなりの広さの庭を持つ家だ。部屋数5つ。
それに地下に5部屋あった。リビングとキッチンはまた別にある。
 最後の家は部屋が8つに地下室が1つリビングとキッチン付き。庭は最初の2つの中間くらいの広さだ。しかし、少しだけ郊外寄りである。そのために防音の魔法を掛ける必要はなさそうだ。

 実際に物件を見て回り、最終的に2つ目に見た家を買うことにした。地下室の使い勝手が良さそうだったからだ。それと庭が広いのは魅力的だった。
残りの2つの倍以上、100坪はある。
 おかげで値段も半端ではなかった。金貨で1000枚。ミスリル貨で10枚だ。
一気に貯蓄が減った。これで商売に失敗したらまた地下に潜る生活をしないといけなくなる。あのような生活はあまりしたくない。
 しかし、ここからさらに資産は減る予定だ。庭に新たな建物を作る予定だからだ。正直庭はいらない。広い場所が欲しかっただけだ。ここには工房(30坪)と素材の備蓄場所(50坪)、それにたたら炉(15坪)を創る予定だ。

 庭なんか軽く潰れてしまう。
 不動産屋に建築業者を紹介してもらい、そのまま打ち合わせをする。
ついでに部屋の改装などもするので金貨で800枚はかかった。
正直、新築の方が早かったかも知れない。その代わり、店には近い。
新築なら郊外は間違いなかったのでまあ、良いと思う。
 現在の家はとりあえず残すことにした。維持費はかかるが新居からそれほど離れてはいないので持っていても損はないと判断したからだ。
 正直店舗も借りて良かったのだが、今の原材料の動向を見るとどうにも無駄になりそうなのでまた後日考えることにした。

 私は、新しく買った家の登録をするために中央役所に来ていた。バスティがいたので軽く挨拶をしておく。
今回は部署が違うのでほとんど話さなかった。
一応、引っ越しすることと新しい店員を雇ったことだけを伝えた。

 登記は直ぐに終わった。結局は水晶球で全て管理されるので早い。
しかしまぁ、ここまで水晶球に頼り切って大丈夫なものか。何かあったら取り返しが付かないことになるのではと心の中で思う。


-----新商品作成と教育、引っ越し-----

 翌日から、新居の改装と増設工事が始まった。工事が始まると特にやることはないので、余っているプラチナでブローチやペンダントを創ってみた(本業、本業)
ブローチにはやはり防御の魔法を、ペンダントには動体視力をあげる補助魔法を掛けてみた。
 それと、今回はじめて青銅の盾を作成してみた。扱いやすいものではあるが正直あまり防御は期待できない。その分、2つの魔法を掛けてみる。
 1つは防御ではなく青銅自体の耐久度を上げる魔法だ。これは永続魔法になる。簡単に言うと時空魔法で盾の前面に存在ある時間を固定しただけだ。
 もう1つは軽量化の魔法。これで重さが10分の1になる。カイトシールドやスクトゥムと違って重量を受け止めるわけではないのでこれで問題は無いだろう。

 私は新たな商材を持ち、ユーリカを連れて店舗へ向かった。
 首にはプラチナで作成したワイヤーネックレスを着けさせている。ここも妥協点だった。
正直、店頭販売なのでいかにも奴隷という首輪は不味いと判断したからだ。高級なプラチナは遠慮したいと言われたが、それ以外の材料がないので我慢してもらった。

 制服は見た瞬間、おもわず固まってしまった。
 ルールウ、どこから持って来た?こんな衣装。
首を半分まで覆い、足首まである赤いロングドレス。それに黒を基調としたセミロングコートに背中まである白いヴェール。
いや、すごく良い服なのだが店員の服かなぁ?

 ちくしょう、完全に趣味に走ったな・・・・・・。

 まぁ、仕方が無いのでそれに併せて商品をいくつか身に着けてもらう。かなり見栄えが良くなった。店員じゃないぞ、これは。
店では水晶球の使い方や、リンクさせた指輪の使い方などを説明する。
 ちなみにリンクした指輪とは、市民が決済に使う指輪のことだ。奴隷も独自に指輪を持っているが、商売や収入になることを奴隷にさせるときにあるじの指輪とリンクさせる。そうすることで税金が主にかかり、脱税を逃れられなくするものだ。

 やはりユーリカは飲み込みが早い。すぐに商品のことや最低限の決済の仕方などを憶えた。特に商品については魔術知識があるのは有り難かった。
 2~3日ほど付いて仕事を見てあげると直ぐに1人で仕事が出来るようになる。特に女性客が増えたのは良かった。アクセサリー類がよく売れる。
私は5日後にはユーリカに店を完全に任せていた。

 手が空いたので、私は新居の改修の打ち合わせ等に専念できた。特に新居が出来てからの優先順位を決めることに専念できたのは有意義だった。
 引っ越しの準備をしながら、新しい魔石を作成する。それは、新居と蜜穴熊のバッグをつなぐための物だ。あとは、新居と今住んでいる所と蜜穴熊のバッグをどのようにつなぐか、使用するかを考えるだけで良い。

 と思っていたら、ユーリカから衝撃の言葉が告げられた。

 「売る商品が無くなりました・・・・・・」

 はぁ、そうきましたか。私では売れなかったリザードマンの鱗の盾までもが売れてしまったらしい。嬉しいはずなのに何故か悲しかった。
 私は直ぐに商品の作成に取りかかった。取りあえず先日作成した青銅の盾をいくつか作成する。それと同時に、青銅で剣を創ってみた。あまりの斬れ味の残念さにすぐに諦めてしまったが・・・・・・。
付与魔術も万能では無い。ある程度の素材があってこその魔術だ。
それに納得できない物は売れない。ここは職人として、商人として妥協はしたくなかった。

 それと少しだけ銅や青銅で商品を創ってみたがほとんど売れなかった。材料費から考えると赤字になりそうだったのでやめた。結局青銅は盾のみにしか使えないことが判明した。
 こうやってだましだまし商品を創り、たまに一緒に店舗へ立ち、仕事をこなしてゆく。

 そうこうしているうちについに新居が完成した。

 まずは空間魔法で四方の空間を遮断し音の振動を消す。ちなみに入り口は1カ所、正面だけになる。
 家自体は1階にリビングとキッチンそれに部屋が1つとその横に風呂場がある。
これは元々あった1部屋を潰して丸々、湯を溜められる場所にした。たまにやっている湯浴みが気持ちよいのでいつでも出来るようにしただけだ。
ちなみに1階の部屋はユーリカの部屋だ。
 2階には3部屋ある。こちらは私の寝室が1つと書斎が1つ。そしてもう1部屋は客用の部屋にしてある。
 地下には例の3つの部屋と道具部屋がある。とりあえずは蜜穴熊のバッグと新居の魔方陣をつなぎなおしただけだ。特に変更は無い。
あと1部屋は余り部屋とした。何があるか分からないからだ。

 庭はたたら炉以外は完成していた。
資材(砂鉄)を運ぶため、ミュールには馬車で、サンダーゴーレムには夜中にこっそりと街中を移動してもらう。当然騎士団に許可は取ってあり、当日も3名が付き添い兼監視にきてくれた。
 ヒートゴーレムは旧居へ残し、仮の魔方陣から蜜穴熊のバッグへ砂鉄を移動してもらう。それをミュールとサンダーゴーレムが資材置き場へ運んでゆく。
 ついでに炉も解体し、新居に転送する。ヒートゴーレムにはそのまま旧居へ残ってもらい、しばらくお留守番をしてもらう。

 砂鉄を溶かすために買った薪も大量に到着した。
たたら炉もすぐに作成され、新居での本格的な製鉄作業が始まった。
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