こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます

こちら付与魔術師でございます ⅩⅠ 砂鉄を集めましょう

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 さて、スキュラちゃんもといミュールの件どうしましょうかねぇ。

 これは結構悩みどころですよ。誰に相談すべきでしょうかね。
師匠?バスティ?冒険者ギルド?魔術師ギルド?

 とりあえず、ミュールの骨の出所の冒険者ギルドでさりげなく聞いて見るのが一番でしょうねぇ。

 あっ、でもこの間フォルテの機嫌を微妙に損ねてしまったんですよね。とほほ。

 あ~、困った。

 まぁ、悩んでも仕方が無いので取りあえず今日は店を開けます。

 そして明後日にでもギルド回りでもしてみますか。

 人手を少し雇わないといけないので。

 何するかって?

 んふふふふ、それはですねぇ・・・・・・。
 砂鉄という物を集めるのです。実は前にルールウの店で刀と一緒に買った本の中に玉鋼の作り方が乗っていたんです。だからあの値段で買ったんですよ。

 ついでにそれを作る炉も作成します。これは設計図が載っていたので、砂鉄を集めている間に、ゴーレム達に作ってもらいます。
 たたら吹きって言うらしいんですがこれが結構大変らしいです。この作業もゴーレム達にやってもらうつもりですが。

 問題は砂鉄の採取方法ですね。なんか山を思い切り切り崩して水で洗って重さで分ける鉄穴かんな流しという方法が良いらしいのですが、弊害もあるみたいなので山ごと買い取る必要があるかも。
そこは鍛冶ギルドのバートンにでも相談してみましょ。

でわ!
 

 さて、今日は先日取得したプラチナを元に作ったアクセサリー類、追加の包丁とハサミを売るために朝一で店に行き開店の準備を始める。早朝なので中央広場にはちらほらとしか人がいない。

 「おはようございます。カーソンさん」

 聞き覚えのある優しい声が私の耳を擽った。顔を上げるとそこにはバスティが立っていた。美しい金髪と金眼の古代エルフ。シックな装いの彼女はやんわりと微笑んでいる。

 「あ、おはようございます。バスティさん」

 先日の夜のことが思い出され、私は何を話したらよいか分からなかった。

 「先日は大変お世話をおかけいたしました。申し訳ございませんでした」

 バスティは軽く頭を下げた。

 「今からお仕事ですか?」

 商工会とは違い、中央役所はきちんと時間が決まっている。もっとも夜勤はいるが女性がすることはない。
バスティは 「ええ、そうです」 と答える。
お互いの間に沈黙が流れた。
 先日の件が頭から離れない。私も色々と経験はあるのだが(あれはいつも強制に近かったし)、ここまで美しい女性にあそこまで言われて何もしなかった自分がなんとも、というところだ。

 「あの、今日はお買い物に来ました」

 私が固まっているのを気にしたのか、バスティが話しかけてくれた。バスティはいつもの表情だ。あれは全く憶えていないのかも知れない。自意識過剰なのか?

 「あぁ、買い物ですか? ってうちで? 買い物してもいいんですか?」

 思わず聞き返してしまった。この間バスティはここで買い物をしようとしてフォルテに釘を刺されていた。そして自分でも納得していたはずなのに・・・・・・。
 まあ、アミュレットや指輪などはそんなに高くないし、もしかしたら包丁やハサミの評判を聞きつけて来てくれたのかも知れない。

 「えっと、何をお買いになられますか?」

 私の問いにゆっくりと腕を上げた。私・・・・・・の後ろを指さしている。
そこにはリザードマンの鱗の盾とそれぞれに氷と雷の魔法がかけられている対のロングソードが飾られている。

 「えー、っと、大丈夫なのですか? この前フォルテさんに怒られていたじゃぁないですか?」

 私は折角買ってくれるというのに、なぜか止めようとしていた。それにあれは結構値が張る。実際、あれは買えないとバスティ自体も言っていた。

 「ロングソード2本でおいくらかしら?」

 うわ、眼が本気まじだ。質問には返事すらない。とりあえず正規の値段を言ってみよう。それで諦めてくれるかも知れない。

 「2本で、そうですね、セットなら割り引けますので金貨38枚になります」

 実際金貨40枚だが、少し値引きをした。それでも一般市民の平均年収が金貨に換算すると24~25枚だ。
 バスティは一応国家の職員になるのでもう少し高いはず。それでも年収を遙かに超える額である。
 もちろん、その分魔法剣としての威力は古代文明の遺跡から出るものよりも遙かに高いつもりだ。
 氷のロングソードは傷口を一瞬で凍らせる。共通語でワードも唱えればアイスランス(氷の槍Bクラス)、アイスボール(氷玉Cクラス)、アイスウォール(氷壁Cクラス)の3種類の魔法が使える。
 また雷のロングソードは斬りつけた場所に電流が流れ、傷口を焼き切り、身体を麻痺させる。こちらも3つの魔法が使える。ライトニングディスチャージ(放電Bクラス)、サンダーウィップ(雷の鞭Cクラス)、サンダーボルト(雷撃Cクラス)だ。
 魔術が使えない者にとっては結構重宝する物だ。
また組み合わせて使ことで、氷に雷を巻き付かせる事が出来る。氷の槍に雷が纏わり付いて飛んでくるということも可能だ。我ながらえげつない物を創ったものだねぇ。
 
 「わかりました。では」

そういってバッグの中から金貨を次々と取り出した。
はっ? 買うの?  
私は唖然とした。この間買えないと言っていた人の行動とは思えない。いや、これがコレクターというモノか・・・・・・。まさか借金なんてしていないだろうなぁ。

 「大丈夫ですよ。借金なんかしておりませんし、ちゃんとフォルテには断ってありますから」

 バスティは微笑みながら金貨を出し終わった。私は取りあえず枚数を数える。38枚きっちり。
 私は後ろに飾っておいたロングソードを取り外し、鞘に収める。そしてすっぽりと収る布に包む。水晶球による精算処理を終わらせて、バスティに商品を渡した。バスティは満面の笑みを浮かべている。

 「・・・・・・ありがとうございました」

 私はこれだけしか言えなかった。どうやってあのフォルテを説得したのかも分からないし、お金の工面の方法も分からない。最悪のことも少しだけ頭をよぎった。これだけの美人でエルフとして規格外のスタイルをしている。お金持ちならいくらでも出すだろう。 

 「ありがとうございます、また来ます」

 バスティは嬉しそうに立ち去ろうとした。その時ふいにバスティは振り返った。

 「カーソンさん、あの晩の事は本気ですよ。それに私はまだ、誰にも肌を許していませんから」

 にこりと笑って軽く会釈をして中央役所の方へ歩き出した。
 あの人は心でも読めるのだろうか? 私は自分が考えていたことが恥ずかしかった。とりあえず、金貨をしまい店を続けた。

 今日は予想以上にお客さんが来てくれた。150本のハサミは完売し、入荷未定とした。玉鋼が無いから生産のしようがない。あるにはあるが、先日の包丁を買ってくれた人の分を予備で持っているくらいだ。包丁も店頭在庫は全て売れた。リングも急に売れ始めた。数はそんなに出ないが銀の指輪が20個とプラチナの指輪が10個売れた。
 銀の指輪の在庫はほとんどないが、プラチナはせしめた分があと40kgある。しばらくはこれを中心に売ろう。
ダガーとメイスはやはり売れなかった。これは溶かすかギルドへ売り込んでみよう。
 私は店じまいをして冒険者ギルドに行くことにした。もしかしたらまだフォルテがいるかもしれない。バスティの件とミュールの件を聞いてみようと急ぎ足で向かう。
 まだ冒険者ギルドは開いていた。中に入ると数人の冒険者がいて、依頼の書かれたボードを見ている。
私はフォルテを受付で見つけ直ぐに駆け寄った。

 「すまない! 聞きたいことがある。1つはギルドで買った商品のことで、もう1つは個人的なことだ」

 私の見幕にフォルテが身体を後ろにそらし、手で落ち着け落ち着けと合図をする。私はカウンター越しに乗り出した身体を見て、慌てて姿勢を戻す。
フォルテは同僚にちょっとゴメンと言ってカウンターから出てきた。

 「なによ。忙しいんですけど?」

 フォルテは先日のバスティを連れ帰ったときのような言葉遣いだ。冒険者達や、ギルド職員がちらちらとこちらを見ている。

 「あ、仕事中にすまない。個人的なことは後回しにする。晩ご飯ごちそうするから終わったら付き合って欲しい」

 フォルテの目線はジトッとしている。すぐに はぁ と溜息を漏らした。

 「どうせ姉さんのことでしょ、本人に聞けば?」

 つれない言い方で突き放された。何をカリカリしているのだろう。取りあえず謝りたおすことにした。

 「あ、さっきは本当に申し訳なかった。知りたいことがあったから慌てて店を閉めてきたので」

 私は手を合わせて謝る。

 「それでギルドへの用ってなに?」

 とりあえずは話を聞いてくれるようだ。そこで私はここで買ったミュール(スキュラ)の事を説明した。
フォルテは先日ミュールに会っていたので余計に驚いたようだ。

 「はぁ! なによそれ。 そんなこと・・・・・・、えっ え~」

 すばらしいリアクションだ。しかも重要なことは口に出していない。ありがたいことだ。
フォルテはそちらに興味が湧いたらしく、晩ご飯を奢れと言って資料を探しに行ってくれた。私はアイテム売り場へ行くと伝えてそちらの方へ行った。

 売り場は先日ミュールの骨格を買ったときと様相が様変わりしていて驚いた。従来の商品は端に追いやられ魔法の剣や鎧が多数並んでいる。
 私は何か不思議な気がした。見覚えのある物がいくつかあるような気がする。ゆっくりと見ていると先日、ミュールを買ったときの店員さんが現れた。

 「こんにちは、カーソンさん。今日は何をお探しですか?」

 私が魔法具を見ていると知ると、在庫の変化について何故か説明してくれた。

 「先日なんですけど、急にギルドマスターが買い取ってきたんですよ。剣だけでも100近くありましたからびっくりしました。なんか、神殿や魔術師ギルドにも商品が増えたそうですよ」

 ん~、ん。なにかとてつもなく厭な予感がする。そうこう話しているとフォルテが近づいてきた。先日の店員とフォルテが少し話をする。直ぐに店員は裏の方へ歩いて行った。
フォルテがジト~っとした目で見つめてくる。

 「姉さんの件だけど、予想は付くわ。今日くらいに剣を買いにきたんでしょ」

 うん、やはり当てられた。ま、フォルテには断ったと言っていたから知っているのは当然だろう。問題はここにある魔法剣の数々だ。

  「なぁ、フォルテ、まさかこの剣って・・・・・・」
  
  フォルテは唇に人差し指を当て、後で話すと小声で言った。後ろから先程の店員が出てきたからだ。
  
  「はぃ、フォルテお待たせ、でもどうするのこんなもの」
  
  アイテム売り場の店員の手に何枚かの紙が握られている。それをフォルテは受け取った。
  
  「じゃあ、表で待ってて。もうすぐ終わりだから。それとミルト、このお兄さん今日は無理だけど、そのうち何か買ってくれるはずだから不良在庫で面白そうな物見つけておいた方が良いわよ」
  
  フォルテはそう言って受付の方へ戻っていった。あとには、私とアイテム売り場の店員が残った。
  
  「おやおや、フォルテの紐付き? ざーんねん。お兄さん仕事何してるの?」
  
  アイテム売り場の店員は急に砕けた様子で話しかけてきた。どうやらまた、何か勘違いされたようだ。
  
  「あ、改めまして、カーソン・ドラクロワと申します。付与魔術師で中央広場の一角で鍛冶屋兼露店をやっております。どうぞよろしく」
  
  私は手を前に差し出した。向こうも差し出してくる。
  
  「あら付与魔術師さんでしたか。私はミルト・アルサートです。ミルトで結構です。それでスキュラの骨格でゴーレムですか?露店では何を売られているのですか?」
  
  ミルトは次々と質問を投げかけてくる。
私がそれに答えていると、今度の休みにお店を見に行くと言ってくれた。今は商品無いのに・・・。
彼女は魔術士ギルドにも所属している鑑定士でもあるらしい。付与魔術に興味津々のようだった。
 色々と話しているうちに冒険者ギルドが閉店の時間になった。私はミルトに挨拶をしてギルドの外へ向かった。後ろから何か声援が飛んでくる。私はそれを無視してギルドの外へ出た。
  
  日が傾きだしている。ギルドの前でボーッと待っているとフォルテが現れた。
  
  「さあ、カーソンさん、たっぷり奢って貰うわよ」
  
  私はフォルテに腕を引かれながら街の中に繰り出した。
  
  -----高級店-----
  
  私は強引に引きずられ、フォルテの姉バスティと食事をした店に来ていた。
  
  「いらっしゃいませ。お二人様で宜しいでしょうか?」
  
 ギャルソンが丁寧な言葉で迎えてくれる。私は黙って頷くと案内され席に着いた。私はディナーAセットを注文、フォルテは鹿肉のローストと野菜の煮込み、そしてワインを注文している。先日のバスティの件が頭に浮かんだが、ワインなら大丈夫かと思い何も言わなかった。
  それから食事が来る間、話に入った。フォルテはミュールの件を詳しく聞きたがったので、バスティには絶対内緒と言って聞かせることにした。
真剣に聞いてくれている。
  そして話を聞き終わると、先程の紙を手渡してくれた。私はそれにザッと目を通す。そこには約100年前のスキュラ討伐の話とその詳細が書かれていた。

 この街から南へ20km程行ったところにある山地にスキュラの集団が住んでいた。それが辺りを荒らしていると噂が立ち、討伐隊が編成された。スキュラは10体はいるということで1000名規模の討伐隊が出て全滅させた。しかし、荒らし回っていたのはレッドアイアナコンダという少し知能を持ったアナコンダの群れだったことが後に判明したという内容だった。
  
  「酷いな・・・・・・」
  
 私は溜息をついた。ただの勘違いからの虐殺。それは魔獣でも許されないことだ。ただ、家族と静かに暮らしていただけなのに。
そしてミュールの骨格が残っていた資料もあった。どうやら、私と同じようにゴーレムにしようとした者がいて、唯一まともな肉体が残っていたミュールの遺体を持ち帰ったらしい。結局ゴーレム化には失敗し、その後骨は様々なところを転々として最後に冒険者ギルドへ行き着いたという。
  
  「でもさ、生き返らせたら恨みを晴らすために暴れたりしないかなぁ?」
  
  フォルテは少し頬を赤らめて聞いてきた。あん?予想以上に酒に弱い?姉妹でこれほど違うものか?
  
  「まぁ、ミュールの件についてはもう少し考えてみるよ。それよりバスティさんの件だけど、もしかしてコレクションを少し売ったのか?」
  
  私の問いにフォルテは真っ赤になって怒り出した。
  
  「あんたね!少し売ったって言った?正直ほぼ全部よ、あの馬鹿コレクターが!凄い額だったわよ」
  
 そこまで言って こてり と机に突っ伏した。
ありゃ、もしかして寝た?
はぁ、またこのパターンか・・・・・・。
私は仕方なしにギャルソンを呼んで精算を済ませる。そのまま酔いつぶれたフォルテを背負って郊外まで歩いて行った。
 途中で「姉さんを不幸にしたら承知しないぞ」とか色々と言われたが取りあえず気にしないでおこう。

 ゴチック姉妹の家に着くと私は扉を叩いた。すぐに返事があり、バスティが顔を出した。私の背中に張り付いているフォルテを見て困った娘ねという表情を浮かべる。目が笑っていない。
  とりあえず、寝室へ連れて行こうかと言うと自分が運ぶのでリビングで待っていて欲しいと言い、お姫様だっこでフォルテを2階へ運んでいった。
 腕力あるなぁ。まあ、ギルドランク聞けば納得できるけど。暫くしてバスティは戻ってきた。(途中、ドンという音が聞こえたのは聞こえなかった振りをしておこう)
 すぐにお茶を入れるというので好意に甘えることにした。ここまで運ぶのはいくら軽いエルフといえども結構大変なものだ。
 私は、フォルテに聞いていた魔法剣の事をバスティに尋ねた。バスティが小声で「あのおしゃべり」と言うのが聞こえてしまった。
  
  「全部ではありませんよ。私の部屋にあったブロードソードとアクゥィバスアーマー、それと本は売っていません」
  
 あのロングソードを買うためにそこまでしたんだ。何か気の毒なことをした気がする。
  
  「妹はすっきりしたと悦んでいたのですが、カーソンさんに話すなんて・・・・・・、気の利かない娘です」
  
 そういって紅茶を一口すする。優雅な動きだ。中央役場でのバスティと普段のバスティ、酔ったときのバスティ、どれが本当のバスティなのだろう?全部?それともまだ本当のバスティがいるのだろうか?
また、フォルテが実は心配していることに気がついているのだろうか?
私がじっと紅茶のカップを見つめているとバスティが声を掛けてきた。
  
  「お気になさらないでください。私はただあなたの創った剣が欲しかっただけです。それに、今後あなたの創る剣で欲しい物が出来たときに買えなくて後悔したくなかったので、今の私に必要のないものを売っただけですから」

 少し勘違いされたようだが、お世辞としても嬉しい言葉だった。それから少しだけ談笑し、私はゴチック姉妹の家を後にした。帰り際に唇を重ねられてしまったのはなんとも言いがたかったが・・・・・・。
  

  -----鍛冶ギルド-----  
  
 今日は店を休みにした。正直商品が足りなくなっていた。大急ぎで先日せしめたプラチナを使った商品製作をゴーレム達に任せた。やはり鉱物が入らないのは厳しいものがある。街に売られている粗方の武具は買い取られていた。冒険者ギルドのバスティのコレクションだった物もほとんどなくなっていた。

 今、私は鍛冶ギルドへ来ていた。バートンに会いに来ているのだ。目的は砂鉄。質の良い砂鉄の取れる場所を紹介して貰うつもりだった。貸しは山ほどある。
 
  「カーソン、まだ鉱石の在庫はないぞ?」
  
 開口一番の声がそれだった。それで良いのか鍛冶ギルド!今日は人が少ない。鍛冶屋は軒並み開店休業状態らしい。これは、人手を雇うチャンスかも知れない。
  
  「いや、今日は砂鉄が取れる場所を探しているんだ」
  
 バートンは何故?という顔をする。たしかに砂鉄は鉄だが、細かすぎて材料にならない。あの本にあった溶かして使うという方法は思いつかないようだ。
  
  「そりゃぁ、ないことはないが、何に使うんだ?」
  
 バートンは喰いついてきた。ただでさえ資材不足に悩んでいるのだ。もしそれが資材になるのなら便乗しようというつもりだろう。
私はそれを 「まぁ色々と」 とはぐらかした。
  渋っているバートンに貸しを無しにしても良いというと目の色を変えて話し始めた。

 ここから南に20km程南に山地があり、そこに川が流れているという。その川縁で砂鉄は取れるらしい。今は誰も近づかない土地になっているという。特に森があるわけでも無く、何も無い土地だからだ。誰の土地でもないので採掘の許可は必要ないし、買い取る必要もないと言うことだ。私はついでに鍛冶ギルドのメンバーに砂鉄収集の依頼をかけて欲しいと依頼した。
 バートンも正式な依頼で、きちんとした日当を出すのならば人は集まると言う。どうせ暇しているしと付け加えるのを忘れてはいない。私は日当で銀貨1枚、期間15日の仕事を依頼した。日当はバートンの提案だ。特に異論はなかった。
 とりあえず50名位集まれば良いとバートンに伝えた。私は前金で金貨75枚を払おうとしたがそれはバートンに断られた。
  
  「すまないが銀貨で払って欲しい」
  
 無茶な話だった。ただでさえ銀は国が買い上げているため不足している。そのせいで市場に少なからず影響が出始めている。それを知って言っているのだろう。結局バートンとの話し合いをして、金貨30枚、銀貨450枚で支払うことで決着した。
その代わり5日以内に50名の人を集めるように要求した。
 バートンは仕方ないと言って応じた。当然だ。こちらも相当無茶を聞いている。お互いが関係が悪くならないぎりぎりの線で打開案を出し合った。
 しかし、南に20kmの山地ってどこかで聞いたな、と思いながら私は家路についた。


  -----砂鉄採取-----
  
 7日後、私は南に20kmの山地にいた。移動用の馬車10台も一緒だ。そのうち3台は荷馬車で食料品やテントを積んでいる。山地と聞いていたのでそんなに高い山だとは思っていなかったが、15mくらいの渓谷まであった。
 岩がむき出しになっており、植物は申し訳程度にしかない。私は竜の牙を5個持って来ていた。先日買った残りの物だ。作業をする場所に着いたら、まず、鍛冶屋や人足達にキャンプの設置をするように伝える。
 私は、ある程度大きい石を河原で見つけてまわり、1つが2mくらいの石を5つ見つけるとそれぞれの石に魔方陣を書き、竜の牙と融合させる。2mの石は回りの石を巻き込んで自らの身体を形成してゆく。その作業を5回繰り返すとストーンゴーレムが5体出来上がった。ゴーレムは私の指示に従いむき出しの岩を渓谷から次々と切り出してゆく。切り出すといっても体当たりで崩しているだけなのだが・・・・・・。
 落ちてきた岩石を更に細かく砕く作業を夕方まで繰り返させた。膨大な量の岩石が土砂となり渓谷の川の中に落ちる。これで明日の作業の準備が出来た。
 ちなみにこの作業、川に濁りを起こすので崩す場所は川の本流から少し離れた場所に迂回する小さな(といっても幅5mはある)支流を作成し、下流で再度本流に合流するようにする。これは重力魔法と空間魔法で一気につくっておいた。
 翌日からは鍛冶屋と人足の仕事だ。まず、砕かれた土砂を川の中で洗う。重さの違いで普通の土砂と砂鉄に別かれる。

 行程  幅の広い所で砂鉄と土砂を分ける→下流で(少し狭い)さらに砂鉄と土砂を分ける→更に下流(更に狭い)でもう一度砂鉄と土砂に分ける→最後にもう一度(一番狭い)砂鉄と土砂を分ける→川の本流に戻すときに水と土砂を分離する。
  
 これを1日続ける。取れた砂鉄は乾かすために河川敷へ溜めてゆく。最後の処理の所で濁った水を無理矢理私の魔法で水と砂に分離する。これである程度綺麗になれば良いのだが。
 夜になり水辺の作業を中断した後、私が火炎魔法で乾かしてゆく。人足達が袋に詰めるのは早朝の作業だ。
  
  崖を崩す→土砂と砂鉄を分ける→最後の放流場所で水の濁りを取る→夕方砂鉄を乾かす→乾いた砂鉄を詰める
  
 この作業15日間繰り返した。渓谷の岩はかなり削られ、支流も大きく縮小し毎日水を綺麗にしても水は濁っている。これがこの鉄穴かんな流しという技法の最大の欠点だ。ここで鍛冶屋グループと人足達の仕事は終わるので一台だけ馬車を残し、他は分乗して帰ってもらった。
 みんなが帰った後、川を元に戻す作業に入る。大中の石を河原に上げたり、魔法で水と土砂を無理矢理分離する。これには丸2日かかった。
 最終的に取れた砂鉄は50kgの袋で200枚に及んだ。これを蜜穴熊のバッグにゴーレムを使い放り込んでゆく。
 今は仮の資材置き場を庭に創ってあるのでそこに転送される。合計10000kgの砂鉄が家に送られた。最後にゴーレムは1カ所に集めて一度解体する。
私はその後、最後の馬車で家路へと着いた。
  
 家に着くと庭が大変なことになっていた。たたら炉は出来ているがその周りを砂鉄が入った袋が埋め尽くしていた。これではたたら炉へ火を入れることはできない。
溜息をついた。最近、溜息多いなぁ。
仕方がない。家と土地を買うしかないか・・・・・・。
  
 私は金庫部屋(黄色の魔方陣の部屋)へ行くとミスリル貨の枚数を数え始めた。
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