こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます

こちら付与魔術師でございます Ⅵ さぁ、本格的にはじめましょう

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 あ~、やっと労働力が揃いました。
スケルトンスキュラとアイアンゴーレム1、2です。
 スキュラちゃんはとにかく作業範囲が広いんですね~。作業場の端から端まで届きますから。
 そうそう、あとで普通のスキュラとなぜ大きさが違うのか聞いてみました。そしたら何かの液体を飲んだときに成長したそうです。う~ん気になる。
そのあと、冒険者達と死闘を繰り広げ倒されちゃったそうです。悲しいですねぇ。
 老雷竜のアイアンゴーレムはサンダーゴーレムと名付けました。もう一つは当然ヒートゴーレムです。
 ん? ネーミングセンスが悪い? ほっといてください。
 元々火竜だった方はファイアーゴーレムでも良かったんですが、火起こせないんですよね。
 その代わり、熱を帯びることが出来るようだったのでヒートゴーレムにしました。
 ええ、ええ、どうせセンスゼロですよ~。

まぁ、それは置いといて、皆さん疑問に思っておられませんか?
結構、買い物してるのを見て・・・・・・。
実はですね、結構お金はあるんですよ。ただ、ほとんどがミスリル貨なんですがね。
 昔、師匠と遺跡を荒らしまってたときに結構手に入れたんですが、ほら、高すぎて換金できないんですよ。
仕方なしに帰ってくる道中で2枚だけ金貨に交換したんです。もうそれはそれは重かったんです。だからあんなバッグ作ったんですけど。
あのバッグにももう少し手を入れなければなりません。
 今回、大量の材料を買ったときに、直接家に送れたら時間のロスはないなと思ったんです。

 ああ、脱線してしまいました。ミスリル貨はまだあるんですが、しばらくは換金するつもりはないです。
それにもう少しミスリルが溜まれば武器なんかも作ってみたいですから。

 え、じゃあ仕事する必要ないじゃん?

 いやいやいや、それは違います。私は自分の身につけた魔術で鍛冶屋をやって儲けたいんです。
 贅沢? いや、魔術の研究って結構お金掛かるんですよ。
最近の買い物、ご覧になったでしょう。あんなのざらですから。

 まぁ、面白いですからね。

 それに、師匠みたいに家に引きこもって延々と魔術の研究に没頭する人生なんて嫌ですから。
 もちろん、仕事としてやるからには大陸一の商人になりたいじゃぁないですか。しかもこんな仕事、大陸には今まで存在しなかったんです。第一人者になりたい!ということもあるんですよ
 名誉欲? ん~、どちらかと言えばやはり商人として成り上がりたいというのはありますね。ということで、今日から本格的に売り場に立ちます。仕事もします。

 売る物は?
 それはすでに50個程用意済みです。

 いつ作ったか?
 修業時代からこつこつと、小さな物を作ってました。剣とかも一応あります。師匠の家から届けてもらいました。荷物と一緒に。

 というわけで仕事をはじめま~す。


 
 私は、早朝から開店準備を始めていた。すでに露天はちらほらと開き始めている。とりあえず、先に来ていた人達には挨拶を済ませた。商売の内容を聞かれたので答えたら、変な顔をされてしまった。

 そんなに、難しいのかなぁ。

 とりあえず、競合店ではないと言うことで素直に受け入れてくれた。
 さて、この狭い店内にどのように配置しようか。
 まず、剣を2本と盾を1つ出す。剣はロングソードだ。盾は、リザードマンの鱗で作ったカイトシールド。この2つを店の一番奥に飾る。盾を一番後ろに置き、ロングソードを下向きにクロスさせる。
オーソドックスな展示方法だ。
 次に、机の上にサークレット、アミュレット、リング、クロス等、ほとんどが小物類だ。
 あとはダガーを5本とメイスを2本置くことにする。これだけで、机の上はめいいっぱいになった。
 大型の武器や鎧、盾などは基本的に置いていない。受注生産状態にしてある。もちろん持ち込みも可だが、魔石を埋め込むことになるので若干の違和感は勘弁してもらう予定だ。


 さあ、開店だ。私は張り切って店のロックを解除した。前の方が晴れて、通りが見えるようになる。
 これで、人が来るのを待つ・・・、待つ・・・、待つ・・・。来ない。
 かれこれ1刻は経過していた。中央広場は段々と賑わいを増している。しかし、歓楽街の入り口にあるこの店の付近は人はまばらだ。
 
 (う~ん、人通りも少ないし、大声上げて客を呼んでもなぁ)

 私はもう少し様子を見ることにした。
 ・・・・・・・・・・・・・・・誰も来ない。
 すでに昼をまわっている。これまで店を覗いてくれた人は皆無だった。
仕方ない、お昼にしよう。私は、朝買ってきたハムサンドを頬張り始めた。

 (ふむ、なかなかいける・・・・・・)

 「おぉ、なんか変な店があるぜ。覗いてみようや」
 
 冒険者風の男達が歓楽街の方からやってきた。どうやら初めて見る店に興味を持ったようだ。

 「おぃ、あんちゃん。なんかいいもんねぇか?」

 背が高く、がっしりした前衛タイプの男が声を掛けてきた。レザーアーマにラウンドシールド、腰にはロングソードを差している。
 私は大急ぎで口の中のハムサンドを飲み込んだ。ちょっと喉につまる。

 「あ、いらっしゃいませ。魔法具店にようこそ。こちらでは魔法具の販売とお客様のお持ちになっている物に永続的な付与魔術をいたしております」

 私は出来るだけやんわりと話をした。

 「あぁ、永続的な魔法をかけるだ? そんなの今まで聞いたことがねぇぞ」

 それはそうだ。この大陸では私一人のはずだ。

 「えぇ、多分私が初めてだと思います。どうでしょう、そちらのロングソードに何か魔法をかけて見られるとかどうでしょうか?」

 冒険者風の男達は「そんなことができるか」という風にけらけらと笑っている。魔術師が進み出て、勝手に商品の鑑定を始めた。
 商品の鑑定。何がどう掛かっているかはかなり高位の魔術師にしか判断できないが、普通の魔術師でも何かが掛かっているくらいは魔力の流れを見ると判断できる。この魔術師は後者のようだった。

 「おぃ、確かにここの商品すべてに魔法が掛かってるぞ」

 魔術師がアミュレットを手に取りながら仲間に声を掛けた。

 「ほぅ、どんな魔法が掛かってるんだ?」

 「そこまではなぁ?」

 聞かれた魔術師は分からないと返事をする。

 「あんちゃん、これ何が掛かってるんだ?」

 先程の前衛職の男が声を掛けてきた。男はダガーを手にとって弄んでいる。

 (ふむ、どうやって売り込もうか・・・・・・)

 私は取りあえずアイテムに掛かっている効果を話し始めた。
基本的に、リングやクロスは3回まで物理攻撃を魔法の盾で防いでくれる。アミュレットは魔力増幅の力があり、5回発動分まで通常の1.5倍の力を出せる。ここまでは、使い捨ての商品だ。
サークレットは付けている限り最大魔力を5%増幅する。
 メイスは重力魔法が掛かっており、当たった瞬間1.5倍の重さになる。これは永続魔法だ。

 「ダガーで斬ってみられませんか?」

 私は一本のダガーを前衛職の男に渡し、一緒に紙を渡した。男は何気に紙を切り裂いた。

 「うわっ!」

 ダガーが斬り裂いた場所から炎が吹き出す。そして渡した紙をそのまま焼き尽くした。よほど驚いたらしく男はダガーを握りしめて尻餅をついていた。
 近くを通っている人達が何事かと横目で見ながら歩いて行く。中にはくすくすと笑う者までいた。

 「てめえ、こうなるんだったら最初から言っておけ!」

 恥を掻かされたと感じた冒険者は、突然怒鳴りだした。
あ~、そうだなぁ。驚かそうと思ったんだけど悪いことしたかな?

 「すみません、直に効果を見ていただいた方が良いと思いましたので・・・・・・」

 私は頭を下げて謝る。男は立ち上がりながらダガーを突き返した。
 
 「いくらだ?これ」

 あっ、突き返したんではなく、気に入ってくれたんだ。

 「そうですね、金貨3枚ですね」

 「・・・・・・あのなぁ、高いぞ。たかだかダガーじゃねえかっ。ぼったくりもいいとこだぜ!」

 男は ぽい と陳列してあったところへダガーを放り出した。

 「商売ってなぁ、もっとうまくやるもんだぜ」

 冒険者一行は捨て台詞を残して、そのまま何も買わずに立ち去っていった。
 ん~、値段、高いのかなぁ。
 一応、魔術師ギルドや冒険者ギルド、普通の魔法具店で大体の値段は調べたつもりだった。ただ、そういう所に無い商品を扱っているので実際に適正価格かどうかは分からない。

 (あ~、魔術師ギルドのネタヴィアさんにでも聞けば良かったかなぁ。でもあそこ行きづらいし・・・・・・うぅ)

 私は自分のやったことを後悔していた。
 しかし!しかし!! あれは師匠に教わったことを忠実に守っただけだ。こちらの手の内を調べられようとしたら潰せ!これが師匠の教えだった。
 う~ん、一緒に長いこといたから気がつかなかったけど、うちの師匠って結構過激なのかな?
私が、夕方近くになったので閉店の準備でもしようかと考えていると、2人連れの女性客が店を覗いてきた。
  
 「いらっしゃいませ、どのようなものをお探しでしょうか?」

 私は、違和感のない程度の声の高さで愛想を振りまいてみた。男が愛想振りまいてどうするかなぁ。

「ねぇ、ここって魔道具やって書いてあるけど・・・・・・身を守るための物ってある?」

 (あっ、うまくやれば売れるかも)
 
 私はすぐに商品の売り込みを始めた。特に、リングとクロスを売り込む。一応プラチナと銀はある。それと隠し球としてミスリルの指輪も用意してある。

 「はぃ、ございます。こちらのリングとクロスがそのような効果を持っております。物理的に3回までは守ってくれます」

 私がそういうとがっかりしたような表情になった。話を聞くとこのお姉さん達は歓楽街で働く人達らしい。当然荒っぽい人達が出入るする場所なので、暴力も多い。それで何度殴られたり蹴られたりしても良いものが欲しかったようだ。普通はそんな便利な物はないのだが、そこは付与魔術師、しっかり用意してあります。

 「こちらに永続的に攻撃から身を守ってくれる物がございますが・・・・・・」

 そう言って女性達の目の前に1つのリングを出した。

 「ねっ、ねぇ、これってもしかしてミスリル?」

 女性達は目を輝かせ見つめていた。そう彼女たちが目にしているのはミスリルの指輪だ。遺跡で見つけたミスリル貨を潰して作ってものだ。大体2枚くらい潰したような気がする
これだけ魔力伝導率の良いものだと永久魔法がかけられる。

 「少し値は張りますが・・・・・・いかがですか?」

 「いくら?」

 「金貨1200枚です」

 女性達は買えるか!という表情をつくり、無言でその場を去って行く。ありゃ、駄目かな?
 私は去って行く女性の背中を見ながら、今日は1つも売れなかったという事実を頑張って受け入れた・・・・・・。

 店じまいの準備をしていると、突然後ろから声を掛けられた。

 「こんにちは、カーソンさん。ギルドへは顔を出されないのね」

 私の後ろにはネタヴィア・アルソンさんが立っていた。にこにこと笑いながらこちらを見ている。この街の魔術師ギルドのサブマスターだ。ネタヴィア・アルソンには魔術師ギルドへの登録の時、少し問題を起こしてしまい、お世話になった人だ。
 もっとも、それ以来バツが悪く顔は出していなかった。あそこの蔵書は気になっているのだが・・・・・・。

 「どう、売れた?」

 ネタヴィアは商品を覗き込みながら質問してきた。私は何も答えきれなかった。黙ったことですべて理解されてしまったようだ。

 「ん~、売れなかったようね。でも、掛かっている魔法、凄いわねこれ。いったいどれくらいの値段を付けてるの?」

 興味津々のネタヴィアへ私は一つ一つ値段を告げた。ネタヴィアは くすり と笑う。
 
 「妥当な値段だと思うわ。でも売れないでしょうね」

 ん? 
という顔をしているとネタヴィアが親切にも色々と教えてくれた。

 話を要約すると、ここにあるアクセサリー類は効果的にはどちらかというと安い設定らしい。そもそも、このような便利なマジックアイテムは存在しないそうだ。
(そりゃぁそうだ。そういう商品を創ったんだから・・・・・・)
 次に、ダガーやメイス。これは魔術師ギルドで売るのならばもっと高値がつくと言うことだ。
 理由としては、ロングソードや、ショートソード、スタッフ(杖)に掛かっている古代魔法は多いらしいが、ダガーやメイスなどに掛かっているものは少ないらしい。とくにダガーは珍しく、逆に使い勝手が良すぎて、値段の設定が難しいそうだ。
 ダガーなんて通常の武器屋などでは銀貨1枚~5枚程度で売られている。それが金貨3枚程度に設定されているのだから、付与されている魔術を目の当たりにしても受け入れられるのに時間が掛かるということだ。

 「結局、先鋭的すぎなのよね」

 ネタヴィアは溜息をつきながらダガーを眺めている。
 
 「今の人はこのような物は求めていないのでしょうか?」

 私は思わずネタヴィアに尋ねた。もし需要が無いのならば、方針を根本的に変更する必要がある。自分が師匠と2人、修行と研究に没頭し古代の情報に触れすぎたせいだろうか。正直古代文明の力はこのような小さなものでは無い。
この世界でやってよいぎりぎりの範囲で作成した商品だ。

 「ん~、確かに魔法の掛かっている武器や道具は貴重だけど、便利ではあっても絶対必要な物じゃあないの」

 ネタヴィアはそこで一度話を切り、考えるような仕草をする。

 「そうね、まず、金額が庶民には高すぎるのよ。はっきり言って買えないわ。それに、便利ではあるけど、正直普段の生活に必要はないでしょ?そして冒険者たちでもここまで稼げるのは少数じゃあない?そこのところは考えた?」

 確かにそうかも知れない。私はかなりの資産は持っている。そしてマジックアイテムの価値も知っている。また、それ自体が常識だった時代の記録もかなり読み込んだ。それは今、この時代では確立どころか認識さえされていないのだ。

「じゃあ、値段を落として一般市民が買いやすくすればいいですか? ---いや、それだとまずいですね」

 私は価格を抑えることを考え、そしてその考えを自ら否定した。
それは各ギルドのマジックアイテムに対する相場を崩しかねないからだ。突然、同じ性能で値段が半分の商品が出回ったら、市場自体が崩壊してしまう。そこを考えて動かないといけない。

 「もう一度、休業して考えないといけませんね」

 私はネタヴィアに問うてみた。実際は自分の心に言い聞かせているだけだ。ネタヴィアは微笑みを浮かべながら私を眺めている。それは、頑張って考えてみなさいと言っているような表情だった。

 「じゃあ、帰るわ。またギルドへ寄ってちょうだい。相談くらいには乗るわよ」

 そう言ってネタヴィアは夕方の雑踏の中へ消えていった。
 私も、薄暗くなってきたので店をたたみ、定食屋ハズキへ夕食を食べに行くことにした。

 -----定食屋ハズキ-----

 夕食時とあって定食屋ハズキは非常に混んでいた。ルーミィも他のウエイトレスと一緒に大忙しのようだ。
 私は空いている席に座り、イノシシ肉入り焼きめしと野菜の盛り合わせ、それにオレンジジュースをたのむ。
 しばらくするとロイズが直接料理を持って来た。

 「やぁ、ロイズ。厨房はいいんですか?」

 私はのしのしと歩いてくるロイズに話しかけた。ロイズはテーブルの上に料理を置き、目の前に座ると突然頭を下げた。

 「すまん! うちのバカがろくでもないこと頼んじまって・・・・・・」

 ロイズはテーブルに頭を擦りつけている。
 あ~、例のことか・・・・・・。
辺りの席に座っている者達は、何事かとこちらを見ている。ただでさえハーフ巨人の巨体が目立つのに、この混雑した時間にやるかなぁ・・・・・・。

 「ちょっ、ちょっと、今は止めましょ。ねぇ頭上げてくださいよ」

 なんか私、借金取りみたいに見えてるのではないだろうか・・・・・・。

 「カーソン、ほんとに申し訳ねぇ。この通りだ」

 ロイズはまだ動かない。あ~、ほんとに悪役になってきた。どうやったらいいんだろ、これ。取りあえず、ロイズをなだめてこの間のことは気にしていないと伝えた。それと、ルーミィとちゃんと話したのかを聞く。

 「あぁ、きちんと話した。まさか娘に気をつかわれるとは思ってなかったよ。俺も焼きが回ったもんだ・・・・・・」

 ルーミィの依頼の件は受けたので、とりあえずその話は後日と言ってみた。
だがロイズはお構いなしに どさり とノートの束を取り出した。
あれ、どこに持ってたんだ、ロイズ?

 「ここに過去5年分の帳簿の写しと蜂蜜酒のレシピがある。あとは・・・・・・出世払いで金貨10枚なんとかする」

 ん?なんか話が変わってるぞ?

 「あのー、ロイズ? 金貨10枚ってなに? そんな話してないですよ」

 詳しく聞くと、ルーミィは銀貨10枚で受けてもらったと伝えたらしい。しかし、それでは申し訳ないと言うことで金貨10枚を店で用意することにしたようだ。
 私は溜息をついた。

 「あのねぇ、ルーミィと契約は一応済んでるんですけど。頼んでいた資料も用意してもらったし。それに蜂蜜酒のレシピは成功報酬ですよ。今は受け取れないです。それに、まだこれの内容見ていないのですが、そんな余裕ないでしょう? 無理すると余計悪くなりますよ」

 私は台帳を指さしながら矛盾点を指摘する。ひとしきり言った後、台帳を受け取るとバックの中になおした。

 「とりあえず、お客さん多いんだから厨房に戻った方がいいと思いますよ。それと、大変でしょうけど依頼品の納品にはもう少し時間くださいね」

 そう言ってロイズを厨房へ帰し、夕食を始めた。ちょっとだけ冷めてたのは、まぁ仕方が無い・・・・・・かな。
 私は、夕食を食べ終わると、家路につき、途中で今日の夜食と明日の朝食を買って帰った。
 今日はとりあえず自分の店の今後の方針と対策、定食屋ハズキの台帳を見てみよう・・・・・・。
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