こちら付与魔術師でございます

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こちら付与魔術師でございます

こちら付与魔術師でございます

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 私はカーソン・デロクロワ。付与魔術師をしています。
最近やっと師匠から独り立ちを許され、故郷の街へ戻ってきました。
冒険者? 
攻撃魔法も結構使えるんで結構誘われました。うん。
でも、やりませんよ。
だって怪我したら痛いじゃないですか(笑)

 さて、では何の仕事をするのかって?
ん~、魔術師版鍛冶屋さんというところですかね?
要は自分が身に付けた魔法(付与魔術等)を使って劍や鎧に魔術を施し、魔法の武器にして売る商売をしようかと思っているんです。
 古代の魔法の武具には敵わないから仕事にならない?
そうですね。たしかに古代の遺跡から出る魔法の武器や防具・道具は強力な物が多いのは事実です。
でも、別に強力ではなくとも良いではありませんか。
(それに高いし(笑))

 私は作られている武具や道具に魔法を付与することがメインですが、精霊石や特殊な素材を合体させる融合魔法も使えるんです。
だから魔術師版鍛冶屋というわけです。

 道具を鍛えるたり作るのはのはどうするのか・・・・・・ですか?
それはーーゴーレムやスケルトンにでもやらせますよ(笑)
いや、冗談ではないですよ。
 普通の鍛冶屋さんのように熟練の技術は無いです。
本来、魔道具を作るときは魔術である程度形成しますから、鍛えるのはおまけみたいな物です。
 当然付与魔術師ですから、元々作られているモノに術を施すだけのほうが楽なんですがね。

 さて、ここルイスの街は王国内でも結構大きな所です。
人口は15万人ほどが暮らしています。
人以外でも、獣人族、エルフ、ドワーフ、ハーフ巨人等、様々な種族が暮らしています。
それぞれの特性を効かした生活を皆が送っています。
(例外もありますが・・・)
 私は先日(正確には3日前)にルイスの街に着いたのですが、疲れていたのでずっと実家で寝ていました。
実家といっても両親はすでに他界しているので今は一人です。
財産は多少残してくれていたので、家の維持費に充てていました。
 今日は街への住民登録と古物商申請、冒険者ギルド、魔術師ギルド、職人ギルド、商工会に登録に行かねばなりません。
結構大変なんです。
寝てたから?
それは言わないのがお約束でしょう(笑)

 仕事用の物件?
 ふふふふふ、よくぞ突っ込んでくれました。
それはすでに目星は付けてあるのです。
といっても露天なんですが(笑)
 家は使えないのか?
ん~、中心街から離れてますので・・・・・・。
それに最初は品数は少ないですし、午前中のみの販売ですから。

 え?商品の作成はどうするのか?
それは実家の庭に20坪ほどの土地と小屋があるので大丈夫!
騒音対策も魔術で完璧!
というわけで、本日の予定をこなしに行ってきます。


 「カーソン・デロクロワさん」
 私は街の中央役所で住民登録をしていた。
かなり大きな街なので手続きにもそれなりの時間がかかる。
早朝から出かけて開館と同時に住民登録をする。
書類は大したことは無いのだが処理が遅い。
そこはお役所仕事と割り切っている。
書類提出からすでに半刻ほど過ぎていた。

 「どうも、お待たせしました」

 受付カウンターにはいくつか分からない年齢の、エルフの女性が無表情で座っていた。顔だけみると20代の人間の女性と変わらないのだが何しろ長命のエルフ。何歳か分かったものではない。

 「書類は終了いたしました。では、もともとルイスの街出身ということですので、基本的なことは省いてもよろしいですか?」

 ニコリともせずに事務的に聞いてくる。ある意味プロフェッショナルなのだろうが・・・・・・。

 「はい、大丈夫です。住民税と所得税のことだけ教えてください」

 私はそう言うとスッと出された羊皮紙に目を落とした。

 「税金は、住民税と所得税に分かれます。まず、住民税ですがこれは年一回、年末に徴収されます。金額はボイド銀貨3枚です」

 貨幣はミスリル貨、金貨、銀貨、銅貨の3種類に分かれている。
銅貨5枚で定食屋の日替わりが食べられる。
銀貨は銅貨100枚分に相当する。
金貨は銀貨10枚分。
 ミスリル貨は特殊で古代の遺跡から出てくる瑠璃色の綺麗な物だ。数が少ないので古銭扱いで、大体は古物商経由で王国に買い取られる。買い取られたミスリル貨は軍功の報奨に当てられることが多い。
価値的には金貨100枚分だ。
 もっとも市内に流通することはほとんどない。
絶対数が少ない上に使い勝手が悪すぎるため、褒賞授与の時にミスリル貨、金貨、土地、食料、武具、馬等、様々選べるらしい。
ミスリル貨を選択するのはよほどの趣味人か趣味人に売りつけるためにもらうくらいだ。
 それとは別に、ミスリル貨を加工する者もいる。それはミスリル自体が魔力を持っているためだ。
もっとも、武器や防具を作成するには少量すぎるため、ブローチやペンダント、指輪にする者が多い。
 そこからが私、カーソンの得意とする付与魔術の出番だ。神聖系の魔術以外は大体付与魔術師が加工することが多い。

 「では、所得税の説明です。これは1の月から12の月までに稼いだすべてのお金の15%をいただきます。基本的にはこの税率はすべてに適用されます。例外はございません」

 王国がすべての国民から税を徴収するためのシステムが住民登録である。この手続きで身分証となる小さな指輪が提供される。
 指輪は魔力が込められており、身分証としての扱いとなる。
またその指輪は金銭を扱うときに、自動的に指輪にかかった魔法が金額を感知し、記録する。というシステムを持っている。
これで住民のすべての所得を把握し、税の取り立てに使用している。
自分が稼いだ金額を知るには、魔術師ギルドで情報を開示してもらうことができる。銅貨5枚だ。
 商品の金額が分からない物はどうするかというと、古物商が出てくる。こちらはさらに強力な魔力のかかった指輪が提供される。
古物商が鑑定士の役割も果たすからだ。
そのため、古物商の資格は高位の魔術師、聖職者、職人、付与魔術師にしか発行されない。
信用の問題だ。
 稼いだ金額はすべて銅貨単位で計算される。それを元に、金貨、銀貨、銅貨を織り交ぜて納税する。
ちなみにこの街の平均月所得は銅貨で2,000枚。単純計算で住民税が銅貨300枚と所得税が銅貨3,600枚。
払えなければ、財産の没収、強制労働、最悪は奴隷に売られることになる。
税のごまかしは重罪で、これも鉱山や街道での重労働が待っている。
もっともよほど強力な魔法で指輪の効果を誤魔化さない限り無理なのだが。

 では、王国外で稼いだお金はというと、これに関しては入国の時にお金を換金する必要がある。世界共通の貨幣は存在しない。
 そこで入国時に臨時の滞在許可証を国境で発行する。このときに持っているお金やアイテムなどをこの国の貨幣に両替する。
別にすべてを変える必要は無い。
装備品などはいちいち買い換えられないから・・・・・・。
 滞在許可証は当然指輪なのだが、かかっている魔法が違う。入国した時点の金額は指輪に別枠で記載されるため税はかからないが、その後の変動率は通常の住民と同じ仕組みで管理される。
 基本的に滞在期間は1ヶ月。長期滞在時には各都市にある役所で更新するか、冒険者ギルドでの更新となる。
なぜ冒険者ギルドかというと、単に各ギルドの中で一番数が多いからという理由だ。
 もし滞在期間を過ぎても更新がなかった場合は指輪にかかった強力な魔法が発動する。聞いたところによると指輪の内側から骨まで達する針が10本ほど飛び出し、常に高熱を発し続けるという代物らしい。ほぼ嫌がらせに近い。
 滞在者は出国の際に所得税を支払う。全所得から20%が引かれることになる。その後、再度換金して出国となる。
ちなみに換金所では周辺国の通貨を多数取りそろえている。
 滞在許可証を兼ねた指輪は出国審査時点で登録抹消となり、ただの王国の紋章が刻まれた鉄の指輪になる。これは土産物として持ち帰ることも可能だ。

 さて、私が渡された指輪は2個。
 ひとつは住民登録したもの、もうひとつは古物商用の指輪だ。
魔術道具作成販売だけでは、正直生活できない。副業のひとつも必要なのだ。

「以上で説明を終わりますが、ご不明な点などはございませんか?」

 受付のエルフが素っ気ない声で確認してくる。
私はこれで十分、分からなかったらまた聞きに来ると伝えて、中央役所の建物を後にした。

 すでに日は真上近くに差し掛かっている。
おなかがきゅっと鳴ったため、昼ご飯を食べてから残りの四つを廻ることにした。


 ルイスの街の中央通りから2本隔てた通りにある定食屋に入る。
ここは魔術師修行に出るまでよく利用していたところだ。
こざっぱりしていて居心地が良い。
特に料理が絶品で、街のガイドブックでも並み居る高級店を押さえて高ランキングを維持している。

 「や、ルーミィ久しぶり」

 定食屋ハズキの看板娘、ルーミィに声をかける。
たしか2つ下のはずなので22歳のはずだ。

 「あー、カーソン。久しぶり~」

 エプロン姿のルーミィがこちらを振り向いて手を振っている。あっ、トレイの上の皿が飛んだ・・・・・・。

 がしゃん ちゃりん がしゃん

 派手な音が店の中に響き渡る。昼時でほぼ満席の店内の視線が一気に集まった。一瞬、店内が しん となる。
ルーミィはトレイを顔の前に持っていきその上から目だけを出して辺りを見回している。

 「くぅおら、ルーミィ! ま~たやったのかぁ!」

 厨房の奥から怒鳴り声を上げ、大きな男が出てきた。定食屋ハズキのオーナーシェフであり、ルーミィの父親のロイズだ。
相変わらずでかい。2メートル50近くはある。
そう、彼らはハーフ巨人と呼ばれる種族だ。

 「と、父さんごめん!」

 ルーミィはロイズに必死で頭を下げている。

 ごつん

 ルーミィの頭に拳骨が落ちた。ドッと笑いが起きる。
一瞬だけ静まりかえっていた店内は、拳骨一つで喧噪を取り戻した。
目の前では拳骨を喰ったルーミィが涙目でしゃがみ込んでいた。といっても私の胸の辺りに頭がある。
 黙ってみていると、店主であるロイズの視線がこちらに向いた。

 「おぉ、久しぶりだな、カーソン!」

 両腕を拡げながら満面の笑みで近づいてくる。
ハーフ巨人のオヤジが満面の笑みで・・・・・・。結構怖いものがある。
いきなりガバッと抱きしめられ、背中をバンバンと叩かれる。

 (いっ、痛いなぁ、ハーフ巨人のハグは・・・・・・。それにできたらルーミィのほうが・・・・・・)

 ロイズの強烈な歓迎に目を白黒させていた私に周りから声がかかった。

 「おう、カーソン。久しぶり~」

 「何年ぶりだっけ?」

 「メシおごるぜ」

 魔術修行に出る前からの知り合い達だ。懐かしい面々があちらこちらに座っていた。拳骨に唸っていたルーミィも立ち上がり、ロイズを引きはがしにかかっていた。

 「父さん、カーソンが死にそうだよ!」

 そう、抱きしめられたと思えたのは一瞬で、そこからは万力で締め付けられているという方が正しいくらい強烈なものだった。
慌ててロイズが私の身体を離した。

 「あぁ、すまねぇ。つい懐かしくってなぁ。ちょっと待ってな。すぐにお前の好物を出してやるからよ」

 ロイズは私を解放すると、ルーミィに割れた食器を片付けるように言って厨房へと戻っていった。
周りには懐かしい面々が押し寄せ、挨拶を交わしてくる。
 暫くみんなの相手をして各々が席に戻った頃、ルーミィがトレイを片手に戻ってきた。トレイの上の物を私の目の前に並べてくれる。
それは私が6年間口にしていない大好物だった。

 「おーっ、懐かしいなぁ。コカトリスのパリパリソテーだ!」

 私の好物が出てきた。それに白いご飯が山盛りでついてくる。何故か野菜はついていない。
そう、私はコカトリスの肉を食べるときは野菜をどけてもらうように昔から言っていた。野菜の水分が混ざりジューシーな肉汁が薄くなり、味が混ざるのを嫌うからだ。
 黄金色の皮に薄く焦げ目のついたコカトリスの肉からは、何とも言われぬ匂いが漂い、鼻腔を擽った。口の中は涎でいっぱいだ。

 「さぁ、冷めないうちに召し上がれ」

 ルーミィが蜂蜜酒の入ったジョッキを一緒に置いてくれる。この蜂蜜酒もこの定食屋ハヅキの自家製だ。
なんともいえない旨さがあるので何度もロイズに作り方を尋ねたが教えてくれなかった。ルーミィを嫁にして、店を継いでくれたら教えてやると言われたこともあった。

 「ねぇ、今日は忙しい?」

 トレイを胸に抱えたルーミィが私の顔を覗き込んでいる。にっこりと笑った顔がかわいらしい。
私はナイフとフォークを両手に構えたまま、申し訳なくやんわりと断りを入れた。せっかく可愛い子からの誘いなのだが、ここは仕事を始める手続きを優先しないといけない。心を鬼にせねば・・・・・・。

 「あー、明日でだめかな?今日はギルドの登録が・・・・・・あと4つ残ってて・・・・・・」

 やはり私は言い訳は得意ではない。最後にはもごもごとなってしまった。
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