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こちら付与魔術師でございます 戦争と商売拡大編
こちら付与魔術師でございます Ⅶ メイス納品とルイス領からの撤退 Ⅰ
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おやぁ。
ピンチになってしまいましたねぇ。
さてさて、みんなともお別れかも知れません。ミュールは着いてくるでしょうけど他のみんなはどうかな?
まあ特に付いてくる理由が無い人達はそれなりのお金を渡してかな。
本当は全員に付いてきて欲しいけれど難しいよね。
暫く収入ないし。
とりあえずはメイスを納品して、それから・・・・・・師匠の所にでも戻りますかね。
領地を買って貴族・・・・・・いやいや面倒くさいかな?
アラクネ達はどうするかな?
領地が買えれば解決はするのだろうけど。
あとは、面倒くさいアトンとの戦いは回避する方向で行こうっと。
でわまた。
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「さて、集まって貰ったのは今後のことについてだ」
私は食事が並べられ、全員が集まったのを確認し話し始めた。当然食事は始めている。
「結論から言うと私はこの街で商売をするのは諦めた」
その場にいる全員が視線を私に向ける。バスティとミュール以外は何故という視線だ。私は商工会で起きたこと、それに年甲斐も無く?キレてしまったことを説明する。
バスティは怒って当然、ミュールは特に関心は無い、ルールウは呆れた視線、ミルトとユーリカは目を伏せていた。
「で、私はこの町を去る。この家、まあ半壊しているけど、ともう一つの家、そして土地は売り払うつもりだ。今後の予定は立っていないが最悪師匠に泣きつくつもりだ」
カーソンの言葉に全員が嫌そうな表情を浮かべた。
「師匠って、あの方ですよね・・・・・・」
「選りに選ってなんであいつなんだよ」
「ム~、アノ人カ~」
まああれだけのことをやればそうなるだろう。私も苦笑する。
「そこで、今後をどうするのか決めてもらおうと思う。もちろんまだ街にはいるがそれもあと二日だ。ここで答えが出せる人は出してくれたら良いし、出せない人は二日後までに返事をくれたら良い」
私の言葉にバスティとミュール、ユーリカはすぐに付いてくると返事を返してくる。ルールウは天井を見上げ目をつむり、ミルトは腕組みをして考え込む。
私はバスティに【妹のことはどうするのか】と問いかけた。バスティは【あっ】という表情を浮かべる。本気で忘れていたようだ。
「ルールウには迷惑をかけたからこれ以上付き合う必要はないかな? お礼として金貨で500枚は払うよ。ミルトはギルドを辞めてまで来てくれているので1000枚分は渡そうと思う。ただ1000枚は持っていると不安だろうから宝石や道具などと混ぜることになるかな?」
ミルトはその金額の多さに目を見開いた。ルールウはまだ天井を見つめたままだ。暫くしてルールウが口を開く。
「あのさぁ、家にある荷物全部乗せれる?」
ルールウの家は商品が山のように置いてある。カーソンもよくルールウから商品を買っていた。実際ゴーレム用の材料は全てルールウからだ。
「うん? それは大丈夫・・・・・・かな? 実際ルールウの家の在庫全てを見たわけでは無いから何とも言えないけれどね。馬車は大型を5台は調達するし、それに空間拡張を施して魔石をアラクネ達の所から大量に取っておけば大丈夫なはず」
ルールウは【じゃあついて行く】と軽く返事を返す。後はミルトとバスティの妹であるフォルテだけだ。
「少し考えさせて下さい」
ミルトが深刻そうな表情で返事をする。ミルトはギルドを辞めてきているのでこの街には居づらい。しかしこの街が故郷だ。そう簡単には結論は出ないのだろう。
「いいよ、じっくり考えて」
私はミルトに微笑むと午後からの予定を説明する。
まずはルールウの家の在庫を見に行く。その足で馬車を買う。ミュールはゴーレム達とメイスの作成。ユーリカは買えるだけの食料の買い出し。そしてフォルミードはアラクネ達の住む砂漠の泉まで飛ぶことになった。
「バスティ、フォルテとしっかり話しておいで」
私はバスティの頭を撫でる。何故かミュールとルールウが並んでいた。そしてユーリカまで顔を赤くしてこちらを見つめている。
「なんだよ?」
とりあえずみんなの頭を撫でてやると全員が【にやにや】しながらそれぞれの仕事を開始する。ちなみにフォルミードは撫でようとすると鋼の身体のくせに素早い動きで避けた。
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「げ、こんなにため込んでいたのか?」
ルールウの家に着いた私は部屋の中を案内して貰う。とりあえず女性の部屋とは思えないほど散らかっていた。服は脱ぎっぱなし、下着さえも放り出してある。その下に魔法剣が転がっているのを見てなんだかむなしくなってしまった。
「ま、まあいいじゃん。本当に厄介なのは地下だからね」
私はその言葉に戦慄を覚えた。これ以上のものがあるのか・・・・・・。正直馬車5台ではキツいかもしれない。良質の魔石が沢山有れば良いのだが・・・・・・。
私とルールウは地下へと降りてゆく。階段を降りてすぐの所に扉が一つだけある地下だった。上と併せて大した広さではなさそうだ。
「まあ、この規模なら何とかなりそうだ。ルールウの商売用の馬車もある・・・・・・し・・・・・・」
甘かった。ルールウが開いた部屋の中。そこにはびっしりと壁沿いに六段の箪笥が並び、その上の壁一面に掛けられた武器。部屋の中には10を越える鎧や甲冑、長柄武器が並んでいた。
「どう? 乗りそう?」
してやったりという表情のルールウ。私は思わずしゃがみ込んでしまう。
「なぁ、なんでこんなに・・・・・・。箪笥の中には何が入っている」
私は近くにあった箪笥の引き出しを開ける。そこには宝飾店も真っ青になるような宝石やアミュレット、指輪などが適当に放り込まれていた。
「ん~、ほら、旅してたからさぁ。色々とため込むんだよね」
ルールウは色々な棚を開けて中を見せる。素材から正体不明の物まで様々な物が入っていた。中には古代語の本まである。私はさすがにあきれ果てた。思ったことは【どうやって運ぼう】だ。
馬車を空間拡張しても良くて3倍までだ。この量ならば最低3台は丸々使うことになる。ルールウの馬車は小型の一頭引きで今も商品が積み込まれている。
「これさ、7~10台位いるかもなぁ」
私は大型馬車10台の旅を想像し身を震わせた。金、足りるかな。それ以前に魔石がどれ位必要なんだろう。アラクネ達の所に行って魔石を調達せねばと思いながら、ルールウの家を確認してゆくのであった。
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ルールウの家の確認後、二人は定食屋ハズキにいた。私は街を出ることを半巨人のロイズとルーミィに伝えるついでに訪れていた。ついでに甘い物が欲しかったのもある。
この店は先日の戦いの被害は受けていなく、商売はやっているようだ。
「やあ、ルーミィ」
私は中へ入ると給仕をしているルーミィに声をかけた。昼と夕方の間の時間なので客は疎らだ。ルーミィは一瞬笑顔を見せるが隣にいるルールウを視て顔を曇らせる。
「いらっしゃいませ! 何をご注文は何!」
荒らげた声で注文を取るルーミィ。そして後ろから【のっしのっし】と近づいてくるオーナーシェフでルーミィの父親であるロイズ。
ごっっつ
ロイズの拳骨がルーミィの頭に落ちる。その凄まじい音に私は思わず苦笑いを浮かべた。涙目のルーミィはロイズを睨み付ける。
「すまんな、カーソン。今日はどうした? て、うちに来るのは食事だよな」
がはがはと笑いながらルーミィの頭を撫でる。ルールウは完全に引いていた。
「ロイズ、ルーミィお別れを言いに来た」
私は単刀直入に、聞こえる程度の声で話しかける。ロイズは驚いた表情を浮かべ、ルーミィは泣きそうな顔になった。
「えれえ早いな。まだこの街に戻ってそれほどでも無いだろう?」
ロイズは給仕の女性を呼び何事かを伝え椅子に腰をかける。半巨人のロイズが椅子に座るとギシギシという音が聞こえてきた。
「ん、ああ。実はな・・・・・・」
私は先日のこの街の防衛戦のことと出て行く経緯を説明する。当然、重要で漏らせない内容は伏せたままだ。
「はぁ、役人ってやつぁ、馬鹿ばかりだな」
ロイズは呆れた口調で運ばれてきた飲み物を一口含み呟く。キンキンに冷えた果物のジュースだ。
「すごいね、これ。飲み物が冷たいなんて初めてだよ」
ルールウがいたく感動している。それはそうだ。冷蔵施設なんてこの店にしか無い。この施設、設備を作れるのは自分だけだと自負している。時間をかけて編み出したオリジナルの術式。古代の文献で読んだ魔法の箱の内容に最初は興奮し、同時に困惑したものだ。
【どこからこのような発想が来る】
それが私の最初の感想だったからだ。師匠に言わせると人の思考や思いつきとは無限の物だという。だが今この世界にそのような、新しい物を生み出そうと考える者は、知っている範囲ではいない。
「ああ、お嬢さん。それはカーソンに頼んで作って貰った【冷蔵庫】という所で冷やしたものだよ」
ルールウは目を丸くして私を見つめていた。その目は【私も欲しい】と訴えている。
「小型化は難しいぞ。それに魔石の補充も必要だ」
あの冷蔵庫は特に質が良い魔石を使う必要は無いが、定期的に魔石の交換が必要になる。永久的な機関ではあくまでも無いからだ。そして古代のそれもそういう仕様だった。
「ところでルーミィ。なんでへたれ込んでいるんだ?」
私は机の上に突っ伏しているルーミィに声をかける。その瞬間、私の頭はルールウに叩かれた。ロイズの視線も【空気読めよ】と言っているようだ。訳が分からない。
「あー、まあ、なんだ。とりあえず甘い物を頼む」
私はこの場を何とか切り抜けるため話題を変えようとした。ロイズは呆れた表情を浮かべ、【適当に見繕う】と言って厨房へと消えていった。
机に突っ伏したままのルーミィがいる。まだ顔を上げようとはしない。私はどうしたらよいのか分からず、黙って見ているしかなかった。その様子を見たルールウが耳元で囁いた。
(あんたさぁ、ほんっとに鈍感な上に、女の扱い下手だよね)
私は相当間抜けな顔をしていたのだろう。ルールウの言葉がいまいち分からなかったので脇腹に一撃を貰った。いや、洒落にならんし。
「・・・・・・もしかして、付いて来たいのか?」
確証は無いが私は思ったことを口にしていた。ゆっくりとルーミィの顔が上がってくる。ルーミィの目は真っ赤だ。私の予想は当たっていたようだ。
ジッと見つめ合う。最初に口を開いたのは私だった。
「付いて来る事が出来るのかい?」
唇がへの字になり、涙が目から溢れかえる。ルーミィはゆっくりと頭を振った。ルーミィの家族はロイズとルーミィの二人だけだ。母親は早くに亡くなっている。二人でこの定食屋ハズキを盛り立ててきたのだ。そして私の付与魔術で、この店は一躍ルイス領の名店になった。
「いいかい、ルーミィ。私たちはこのルイス領を、いやもしかしたら王国を離れるかもしれない。そして戻ってくることは無いと思う。ロイズを一人にするわけにはいかないだろう?」
私の言葉にルーミィの目からは涙が堰を切ったように溢れ出した。ルールウが呆れたような表情で私に視線を向けてくる。
本当は別の選択肢も考えているが、これは王国次第だ。
「・・・・・・うぅ。でも、でも・・・・・・、やっとカーソンが帰ってきたのにぃ・・・・・・」
私はルーミィの反応に驚いていた。正直同じルイス領出なのでルーミィの小さい頃からを知っている。自分にかなりなついてくれていた事は知っていた。そしてこのルイス領に修行を終えて帰ってきたときのルーミィの表情。
離れていた恋人に久しぶりに会ったような表情。私は気がついた。ルーミィは私を好きでいてくれたのだと。
「ルーミィ、何となくだけど分かった。でもね・・・・・・私がルーミィを連れて行くとロイズに殺されるからなぁ・・・・・・」
私の言葉にルーミィはぴくりと頭を動かす。
「んぁ、気にせんで持って行ったら良い」
私が振り返ると料理を持ったロイズが立っていた。ロイズはニヤリと笑う。
「おぅ、ルーミィ。付いていってもいいぞ。まぁ寂しくはなるがそれもまたお前の人生だ。 ただし! カーソンを独り占めしようとは思うなよ。奴は・・・・・・垂らしだ」
ロイズの発言に???を浮かべるルーミィ。暫くして顔を真っ赤にして俯く。ロイズは【がはは】と笑いながらデザートを机の上に並べてゆく。
「まぁ、喰わせられるなら何人囲おうが問題はないわな。 カーソン、連れて行くのはいいが飢えさせるなよ」
そう言って笑い手を振りながら厨房に戻るロイズの背中はどこか寂しそうであった。
「で、どうするんだい? ルーミィだっけ?」
ルールウがルーミィに声を掛ける。少しだけ優しそうな視線を向けていた。ルーミィは色々と考えているようだ。
「・・・・・・まぁ、あと二日はこの街にいるからそれまでに私の家に返事をくれたらいい」
私はそう言葉を掛けるのが精一杯だった。瞬間、ルールウの肘が飛んで来たが・・・・・・。
ルーミィは小さな声で分かったと答えると席を立つ。私とルールウは目の前に置かれた甘い物に手を付け始めた。
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「で、どうするんだい?」
定食屋ハズキを出た私とルールウはルイスの街を歩いていた。街の中央からは復興の音が聞こえてくる。私はルイス中央にある半壊した城を見ながら溜息をついた。
「どうって、なぁ。ルーミィが来ると言うなら拒まないがなぁ」
私は一つだけ心配ごとがあった。それは戦闘になったときにルーミィを無事に守り切れるかということだ。
ルイスの街を離れると、次に行くのは王国軍が集まっている駐屯地だ。まずは商品を届けること。その際、戦闘になる可能性がある。
現在王国軍が睨み合っている存在はかなり危険な存在だ。それは過去の遺物である【りったいほろぐらふ】でカサンドラ・ルイス公爵と確認をしている。それを踏まえた上で王国軍は討伐をすることを計画しているし、私もそのための武器であるメイスを大量に用意しているのだ。
「・・・・・・あんたさぁ、喰わせられるのかい?」
ルールウの言うことはもっともだ。
私はこのルイスの街に付与魔術師として戻り、商売をして暮らして行くことにしていた。それが何故かこの街を出て行くことになってしまっている。そして養わなければならない者も多い。
バスティ、ルールウ、ミュール、ユーリカ、最低でも私を含めるとこれだけになる。それにバスティの妹であるフォルテとまだ態度を決めていないミルトがいるのだ。全員が私と行動を共にするとなると全員の退職金は必要がなくなる。しかしどれだけ喰わせられるのかは分からない。それにオアシスにはアラクネ達もいる。彼女らの面倒も見ないといけない。
「ん~、どうかなぁ。いっそ王国内に土地を買って領地を作るかな・・・・・・」
実際王国にはまだ誰も手に付けていない土地もある。そして今回問題になっている土地は元々が肥沃な土地だった。その土地がどのような状態になっているか分からないが交渉の余地はあると思っている。もっともカサンドラ・ルイス公爵との関係を考えると西部の方に土地を手に入れたほうが良いのだが・・・・・・。
「はぁ、あんた貴族にでもなるつもり? まぁ、あたしは面白そうだからついていくけどねぇ」
ルールウは頭の上で腕を組み、鼻歌を歌いながら歩く。私は横目でその様子を見ながら今後のことについて考える。
暫く歩くと以前馬車を調達した店へと着いた。
「さぁて、ルールウの家の物を乗せられるだけの馬車があれば良いけどなぁ」
私の言葉にルールウが情けない顔をする。
「全部乗っけてよね! あたしもお金出すからさ~」
私は首にすがりついてくるルールウを引き摺りながら馬車屋へと足を踏み入れた。
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「おや、ご無沙汰していますね。先日はご活躍だったようで」
馬車屋の主人が声を掛けてくる。私は苦笑いを浮かべて挨拶と用件を切り出した。ルールウは先に馬車を見に行くといって、店員に連れられて在庫置き場へと移動していた。
「どうもご無沙汰しています、といってもそんなには経っていませんけどね。今日は馬車を数台買いに来ました」
私の言葉に馬車屋の主人は怪訝そうな顔をする。
「どうなさいました? また何かございましたか?」
この馬車屋にはかなり世話になっていた。特に反乱前の小細工をしたときにだ。
「ええ、実はこの度、この街を去ることになりまして・・・・・・」
私は起きたことをありのまま(重要なことは伏せて)店主に伝えた。店主は呆れかえった表情を浮かべる。
「はあ、そんな馬鹿な役人がいるのですか? それはルイス公爵はご存じなのでしょうか?」
主人の言葉に私は黙って首を振る。
「いえ、ルイス公爵には商品を届けるついでに言おうと思っています」
私の言葉に主人は溜息をついた。
「は~、この街を救っていただいた英雄がそんなことで離れられるとは・・・・・・」
主人もさすがに呆れかえっていた。
「まぁそんな訳でして、幌付き馬車と大きめの馬車を合計して10台ほど買いたいのですが・・・・・・、それも二日で」
私の言葉に主人は目を見開いて驚いていた。まぁ確かにいきなり馬車10台なんて言われたら誰でも驚くのは無理は無い。
「は、はぁ。10台ですか?、しかも二日で・・・・・・。それはうちだけでは揃えきれませんね」
主人は顎に手を置いてジッと考える。私は主人の返事が返るまでジッと待っていた。暫くして主人が黙って頷いた。
「・・・・・・分かりました。知り合いにも当たってみましょう。買い主はカーソン様と分からない方が宜しいのですよね」
私は黙って頷いた。
「分かりました。但し、カーソン様がお買いになると分からないようにするには一度こちらに買い上げる必要がございます。そのためにはお代を前払いで頂戴しておかなければなりません」
主人の言うことももっともだ。私はとりあえず店にある在庫を見せて欲しいと頼む。これは数台は買って帰り、先に空間拡張の魔術を施したかったからだ。
「承知致しました。それではこちらへ・・・・・・」
私は主人に連れられて商品置き場へと移動するのであった。
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結果的に私はこの店で馬車を5台買った。それと追加の馬車5台分、締めて金貨で500枚。これで自由に使える金は金貨で10000枚を切った。もっともミスリル貨が多いのだが・・・・・・。
「では今日の夕方までにこちらの場所まで届けておいてください」
私は古い方の家までの地図を念のために渡し、店を後にする。
「う~ん、馬車10台で金貨500枚か~。高かったねぇ」
他人事のように言うルールウ。
「あのなぁ、お前の荷物で最低3台は埋まるんだぞ!」
私は思わず怒鳴ってしまった。しかし当の本人は笑顔で舌を出している。まったく、あれだけの荷物を無理矢理押し込めるのに、どれだけの魔石が必要になるのか。しかも今夜から徹夜で馬車の荷台の拡張工事しないといけない。
「まぁまぁ、今夜はお姉さんがたっぷりと可愛がってあげよう」
ルールウは満面の笑みを浮かべている。正直からかわれているのは分かっていた。同時に気遣いでもあると思う。
「あのなぁ、今日は今から徹夜で馬車の拡張をしないといけないんだ。遊んでいる暇も体力を使っている暇も無い。それにルールウも今夜は自宅の整理だぞ」
私の言葉にルールウは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
「ちぇっ、今夜は駄目か~。仕方が無い、付いて行く為だから仕方が無い」
ルールウは本気で残念そうだ。一瞬でも気遣いと思った自分の気持ちを返せと思う。そのようなやり取りをしながら、私とルールウはそのまま散歩をしながら自宅へと帰るのであった。
ピンチになってしまいましたねぇ。
さてさて、みんなともお別れかも知れません。ミュールは着いてくるでしょうけど他のみんなはどうかな?
まあ特に付いてくる理由が無い人達はそれなりのお金を渡してかな。
本当は全員に付いてきて欲しいけれど難しいよね。
暫く収入ないし。
とりあえずはメイスを納品して、それから・・・・・・師匠の所にでも戻りますかね。
領地を買って貴族・・・・・・いやいや面倒くさいかな?
アラクネ達はどうするかな?
領地が買えれば解決はするのだろうけど。
あとは、面倒くさいアトンとの戦いは回避する方向で行こうっと。
でわまた。
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「さて、集まって貰ったのは今後のことについてだ」
私は食事が並べられ、全員が集まったのを確認し話し始めた。当然食事は始めている。
「結論から言うと私はこの街で商売をするのは諦めた」
その場にいる全員が視線を私に向ける。バスティとミュール以外は何故という視線だ。私は商工会で起きたこと、それに年甲斐も無く?キレてしまったことを説明する。
バスティは怒って当然、ミュールは特に関心は無い、ルールウは呆れた視線、ミルトとユーリカは目を伏せていた。
「で、私はこの町を去る。この家、まあ半壊しているけど、ともう一つの家、そして土地は売り払うつもりだ。今後の予定は立っていないが最悪師匠に泣きつくつもりだ」
カーソンの言葉に全員が嫌そうな表情を浮かべた。
「師匠って、あの方ですよね・・・・・・」
「選りに選ってなんであいつなんだよ」
「ム~、アノ人カ~」
まああれだけのことをやればそうなるだろう。私も苦笑する。
「そこで、今後をどうするのか決めてもらおうと思う。もちろんまだ街にはいるがそれもあと二日だ。ここで答えが出せる人は出してくれたら良いし、出せない人は二日後までに返事をくれたら良い」
私の言葉にバスティとミュール、ユーリカはすぐに付いてくると返事を返してくる。ルールウは天井を見上げ目をつむり、ミルトは腕組みをして考え込む。
私はバスティに【妹のことはどうするのか】と問いかけた。バスティは【あっ】という表情を浮かべる。本気で忘れていたようだ。
「ルールウには迷惑をかけたからこれ以上付き合う必要はないかな? お礼として金貨で500枚は払うよ。ミルトはギルドを辞めてまで来てくれているので1000枚分は渡そうと思う。ただ1000枚は持っていると不安だろうから宝石や道具などと混ぜることになるかな?」
ミルトはその金額の多さに目を見開いた。ルールウはまだ天井を見つめたままだ。暫くしてルールウが口を開く。
「あのさぁ、家にある荷物全部乗せれる?」
ルールウの家は商品が山のように置いてある。カーソンもよくルールウから商品を買っていた。実際ゴーレム用の材料は全てルールウからだ。
「うん? それは大丈夫・・・・・・かな? 実際ルールウの家の在庫全てを見たわけでは無いから何とも言えないけれどね。馬車は大型を5台は調達するし、それに空間拡張を施して魔石をアラクネ達の所から大量に取っておけば大丈夫なはず」
ルールウは【じゃあついて行く】と軽く返事を返す。後はミルトとバスティの妹であるフォルテだけだ。
「少し考えさせて下さい」
ミルトが深刻そうな表情で返事をする。ミルトはギルドを辞めてきているのでこの街には居づらい。しかしこの街が故郷だ。そう簡単には結論は出ないのだろう。
「いいよ、じっくり考えて」
私はミルトに微笑むと午後からの予定を説明する。
まずはルールウの家の在庫を見に行く。その足で馬車を買う。ミュールはゴーレム達とメイスの作成。ユーリカは買えるだけの食料の買い出し。そしてフォルミードはアラクネ達の住む砂漠の泉まで飛ぶことになった。
「バスティ、フォルテとしっかり話しておいで」
私はバスティの頭を撫でる。何故かミュールとルールウが並んでいた。そしてユーリカまで顔を赤くしてこちらを見つめている。
「なんだよ?」
とりあえずみんなの頭を撫でてやると全員が【にやにや】しながらそれぞれの仕事を開始する。ちなみにフォルミードは撫でようとすると鋼の身体のくせに素早い動きで避けた。
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「げ、こんなにため込んでいたのか?」
ルールウの家に着いた私は部屋の中を案内して貰う。とりあえず女性の部屋とは思えないほど散らかっていた。服は脱ぎっぱなし、下着さえも放り出してある。その下に魔法剣が転がっているのを見てなんだかむなしくなってしまった。
「ま、まあいいじゃん。本当に厄介なのは地下だからね」
私はその言葉に戦慄を覚えた。これ以上のものがあるのか・・・・・・。正直馬車5台ではキツいかもしれない。良質の魔石が沢山有れば良いのだが・・・・・・。
私とルールウは地下へと降りてゆく。階段を降りてすぐの所に扉が一つだけある地下だった。上と併せて大した広さではなさそうだ。
「まあ、この規模なら何とかなりそうだ。ルールウの商売用の馬車もある・・・・・・し・・・・・・」
甘かった。ルールウが開いた部屋の中。そこにはびっしりと壁沿いに六段の箪笥が並び、その上の壁一面に掛けられた武器。部屋の中には10を越える鎧や甲冑、長柄武器が並んでいた。
「どう? 乗りそう?」
してやったりという表情のルールウ。私は思わずしゃがみ込んでしまう。
「なぁ、なんでこんなに・・・・・・。箪笥の中には何が入っている」
私は近くにあった箪笥の引き出しを開ける。そこには宝飾店も真っ青になるような宝石やアミュレット、指輪などが適当に放り込まれていた。
「ん~、ほら、旅してたからさぁ。色々とため込むんだよね」
ルールウは色々な棚を開けて中を見せる。素材から正体不明の物まで様々な物が入っていた。中には古代語の本まである。私はさすがにあきれ果てた。思ったことは【どうやって運ぼう】だ。
馬車を空間拡張しても良くて3倍までだ。この量ならば最低3台は丸々使うことになる。ルールウの馬車は小型の一頭引きで今も商品が積み込まれている。
「これさ、7~10台位いるかもなぁ」
私は大型馬車10台の旅を想像し身を震わせた。金、足りるかな。それ以前に魔石がどれ位必要なんだろう。アラクネ達の所に行って魔石を調達せねばと思いながら、ルールウの家を確認してゆくのであった。
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ルールウの家の確認後、二人は定食屋ハズキにいた。私は街を出ることを半巨人のロイズとルーミィに伝えるついでに訪れていた。ついでに甘い物が欲しかったのもある。
この店は先日の戦いの被害は受けていなく、商売はやっているようだ。
「やあ、ルーミィ」
私は中へ入ると給仕をしているルーミィに声をかけた。昼と夕方の間の時間なので客は疎らだ。ルーミィは一瞬笑顔を見せるが隣にいるルールウを視て顔を曇らせる。
「いらっしゃいませ! 何をご注文は何!」
荒らげた声で注文を取るルーミィ。そして後ろから【のっしのっし】と近づいてくるオーナーシェフでルーミィの父親であるロイズ。
ごっっつ
ロイズの拳骨がルーミィの頭に落ちる。その凄まじい音に私は思わず苦笑いを浮かべた。涙目のルーミィはロイズを睨み付ける。
「すまんな、カーソン。今日はどうした? て、うちに来るのは食事だよな」
がはがはと笑いながらルーミィの頭を撫でる。ルールウは完全に引いていた。
「ロイズ、ルーミィお別れを言いに来た」
私は単刀直入に、聞こえる程度の声で話しかける。ロイズは驚いた表情を浮かべ、ルーミィは泣きそうな顔になった。
「えれえ早いな。まだこの街に戻ってそれほどでも無いだろう?」
ロイズは給仕の女性を呼び何事かを伝え椅子に腰をかける。半巨人のロイズが椅子に座るとギシギシという音が聞こえてきた。
「ん、ああ。実はな・・・・・・」
私は先日のこの街の防衛戦のことと出て行く経緯を説明する。当然、重要で漏らせない内容は伏せたままだ。
「はぁ、役人ってやつぁ、馬鹿ばかりだな」
ロイズは呆れた口調で運ばれてきた飲み物を一口含み呟く。キンキンに冷えた果物のジュースだ。
「すごいね、これ。飲み物が冷たいなんて初めてだよ」
ルールウがいたく感動している。それはそうだ。冷蔵施設なんてこの店にしか無い。この施設、設備を作れるのは自分だけだと自負している。時間をかけて編み出したオリジナルの術式。古代の文献で読んだ魔法の箱の内容に最初は興奮し、同時に困惑したものだ。
【どこからこのような発想が来る】
それが私の最初の感想だったからだ。師匠に言わせると人の思考や思いつきとは無限の物だという。だが今この世界にそのような、新しい物を生み出そうと考える者は、知っている範囲ではいない。
「ああ、お嬢さん。それはカーソンに頼んで作って貰った【冷蔵庫】という所で冷やしたものだよ」
ルールウは目を丸くして私を見つめていた。その目は【私も欲しい】と訴えている。
「小型化は難しいぞ。それに魔石の補充も必要だ」
あの冷蔵庫は特に質が良い魔石を使う必要は無いが、定期的に魔石の交換が必要になる。永久的な機関ではあくまでも無いからだ。そして古代のそれもそういう仕様だった。
「ところでルーミィ。なんでへたれ込んでいるんだ?」
私は机の上に突っ伏しているルーミィに声をかける。その瞬間、私の頭はルールウに叩かれた。ロイズの視線も【空気読めよ】と言っているようだ。訳が分からない。
「あー、まあ、なんだ。とりあえず甘い物を頼む」
私はこの場を何とか切り抜けるため話題を変えようとした。ロイズは呆れた表情を浮かべ、【適当に見繕う】と言って厨房へと消えていった。
机に突っ伏したままのルーミィがいる。まだ顔を上げようとはしない。私はどうしたらよいのか分からず、黙って見ているしかなかった。その様子を見たルールウが耳元で囁いた。
(あんたさぁ、ほんっとに鈍感な上に、女の扱い下手だよね)
私は相当間抜けな顔をしていたのだろう。ルールウの言葉がいまいち分からなかったので脇腹に一撃を貰った。いや、洒落にならんし。
「・・・・・・もしかして、付いて来たいのか?」
確証は無いが私は思ったことを口にしていた。ゆっくりとルーミィの顔が上がってくる。ルーミィの目は真っ赤だ。私の予想は当たっていたようだ。
ジッと見つめ合う。最初に口を開いたのは私だった。
「付いて来る事が出来るのかい?」
唇がへの字になり、涙が目から溢れかえる。ルーミィはゆっくりと頭を振った。ルーミィの家族はロイズとルーミィの二人だけだ。母親は早くに亡くなっている。二人でこの定食屋ハズキを盛り立ててきたのだ。そして私の付与魔術で、この店は一躍ルイス領の名店になった。
「いいかい、ルーミィ。私たちはこのルイス領を、いやもしかしたら王国を離れるかもしれない。そして戻ってくることは無いと思う。ロイズを一人にするわけにはいかないだろう?」
私の言葉にルーミィの目からは涙が堰を切ったように溢れ出した。ルールウが呆れたような表情で私に視線を向けてくる。
本当は別の選択肢も考えているが、これは王国次第だ。
「・・・・・・うぅ。でも、でも・・・・・・、やっとカーソンが帰ってきたのにぃ・・・・・・」
私はルーミィの反応に驚いていた。正直同じルイス領出なのでルーミィの小さい頃からを知っている。自分にかなりなついてくれていた事は知っていた。そしてこのルイス領に修行を終えて帰ってきたときのルーミィの表情。
離れていた恋人に久しぶりに会ったような表情。私は気がついた。ルーミィは私を好きでいてくれたのだと。
「ルーミィ、何となくだけど分かった。でもね・・・・・・私がルーミィを連れて行くとロイズに殺されるからなぁ・・・・・・」
私の言葉にルーミィはぴくりと頭を動かす。
「んぁ、気にせんで持って行ったら良い」
私が振り返ると料理を持ったロイズが立っていた。ロイズはニヤリと笑う。
「おぅ、ルーミィ。付いていってもいいぞ。まぁ寂しくはなるがそれもまたお前の人生だ。 ただし! カーソンを独り占めしようとは思うなよ。奴は・・・・・・垂らしだ」
ロイズの発言に???を浮かべるルーミィ。暫くして顔を真っ赤にして俯く。ロイズは【がはは】と笑いながらデザートを机の上に並べてゆく。
「まぁ、喰わせられるなら何人囲おうが問題はないわな。 カーソン、連れて行くのはいいが飢えさせるなよ」
そう言って笑い手を振りながら厨房に戻るロイズの背中はどこか寂しそうであった。
「で、どうするんだい? ルーミィだっけ?」
ルールウがルーミィに声を掛ける。少しだけ優しそうな視線を向けていた。ルーミィは色々と考えているようだ。
「・・・・・・まぁ、あと二日はこの街にいるからそれまでに私の家に返事をくれたらいい」
私はそう言葉を掛けるのが精一杯だった。瞬間、ルールウの肘が飛んで来たが・・・・・・。
ルーミィは小さな声で分かったと答えると席を立つ。私とルールウは目の前に置かれた甘い物に手を付け始めた。
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「で、どうするんだい?」
定食屋ハズキを出た私とルールウはルイスの街を歩いていた。街の中央からは復興の音が聞こえてくる。私はルイス中央にある半壊した城を見ながら溜息をついた。
「どうって、なぁ。ルーミィが来ると言うなら拒まないがなぁ」
私は一つだけ心配ごとがあった。それは戦闘になったときにルーミィを無事に守り切れるかということだ。
ルイスの街を離れると、次に行くのは王国軍が集まっている駐屯地だ。まずは商品を届けること。その際、戦闘になる可能性がある。
現在王国軍が睨み合っている存在はかなり危険な存在だ。それは過去の遺物である【りったいほろぐらふ】でカサンドラ・ルイス公爵と確認をしている。それを踏まえた上で王国軍は討伐をすることを計画しているし、私もそのための武器であるメイスを大量に用意しているのだ。
「・・・・・・あんたさぁ、喰わせられるのかい?」
ルールウの言うことはもっともだ。
私はこのルイスの街に付与魔術師として戻り、商売をして暮らして行くことにしていた。それが何故かこの街を出て行くことになってしまっている。そして養わなければならない者も多い。
バスティ、ルールウ、ミュール、ユーリカ、最低でも私を含めるとこれだけになる。それにバスティの妹であるフォルテとまだ態度を決めていないミルトがいるのだ。全員が私と行動を共にするとなると全員の退職金は必要がなくなる。しかしどれだけ喰わせられるのかは分からない。それにオアシスにはアラクネ達もいる。彼女らの面倒も見ないといけない。
「ん~、どうかなぁ。いっそ王国内に土地を買って領地を作るかな・・・・・・」
実際王国にはまだ誰も手に付けていない土地もある。そして今回問題になっている土地は元々が肥沃な土地だった。その土地がどのような状態になっているか分からないが交渉の余地はあると思っている。もっともカサンドラ・ルイス公爵との関係を考えると西部の方に土地を手に入れたほうが良いのだが・・・・・・。
「はぁ、あんた貴族にでもなるつもり? まぁ、あたしは面白そうだからついていくけどねぇ」
ルールウは頭の上で腕を組み、鼻歌を歌いながら歩く。私は横目でその様子を見ながら今後のことについて考える。
暫く歩くと以前馬車を調達した店へと着いた。
「さぁて、ルールウの家の物を乗せられるだけの馬車があれば良いけどなぁ」
私の言葉にルールウが情けない顔をする。
「全部乗っけてよね! あたしもお金出すからさ~」
私は首にすがりついてくるルールウを引き摺りながら馬車屋へと足を踏み入れた。
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「おや、ご無沙汰していますね。先日はご活躍だったようで」
馬車屋の主人が声を掛けてくる。私は苦笑いを浮かべて挨拶と用件を切り出した。ルールウは先に馬車を見に行くといって、店員に連れられて在庫置き場へと移動していた。
「どうもご無沙汰しています、といってもそんなには経っていませんけどね。今日は馬車を数台買いに来ました」
私の言葉に馬車屋の主人は怪訝そうな顔をする。
「どうなさいました? また何かございましたか?」
この馬車屋にはかなり世話になっていた。特に反乱前の小細工をしたときにだ。
「ええ、実はこの度、この街を去ることになりまして・・・・・・」
私は起きたことをありのまま(重要なことは伏せて)店主に伝えた。店主は呆れかえった表情を浮かべる。
「はあ、そんな馬鹿な役人がいるのですか? それはルイス公爵はご存じなのでしょうか?」
主人の言葉に私は黙って首を振る。
「いえ、ルイス公爵には商品を届けるついでに言おうと思っています」
私の言葉に主人は溜息をついた。
「は~、この街を救っていただいた英雄がそんなことで離れられるとは・・・・・・」
主人もさすがに呆れかえっていた。
「まぁそんな訳でして、幌付き馬車と大きめの馬車を合計して10台ほど買いたいのですが・・・・・・、それも二日で」
私の言葉に主人は目を見開いて驚いていた。まぁ確かにいきなり馬車10台なんて言われたら誰でも驚くのは無理は無い。
「は、はぁ。10台ですか?、しかも二日で・・・・・・。それはうちだけでは揃えきれませんね」
主人は顎に手を置いてジッと考える。私は主人の返事が返るまでジッと待っていた。暫くして主人が黙って頷いた。
「・・・・・・分かりました。知り合いにも当たってみましょう。買い主はカーソン様と分からない方が宜しいのですよね」
私は黙って頷いた。
「分かりました。但し、カーソン様がお買いになると分からないようにするには一度こちらに買い上げる必要がございます。そのためにはお代を前払いで頂戴しておかなければなりません」
主人の言うことももっともだ。私はとりあえず店にある在庫を見せて欲しいと頼む。これは数台は買って帰り、先に空間拡張の魔術を施したかったからだ。
「承知致しました。それではこちらへ・・・・・・」
私は主人に連れられて商品置き場へと移動するのであった。
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結果的に私はこの店で馬車を5台買った。それと追加の馬車5台分、締めて金貨で500枚。これで自由に使える金は金貨で10000枚を切った。もっともミスリル貨が多いのだが・・・・・・。
「では今日の夕方までにこちらの場所まで届けておいてください」
私は古い方の家までの地図を念のために渡し、店を後にする。
「う~ん、馬車10台で金貨500枚か~。高かったねぇ」
他人事のように言うルールウ。
「あのなぁ、お前の荷物で最低3台は埋まるんだぞ!」
私は思わず怒鳴ってしまった。しかし当の本人は笑顔で舌を出している。まったく、あれだけの荷物を無理矢理押し込めるのに、どれだけの魔石が必要になるのか。しかも今夜から徹夜で馬車の荷台の拡張工事しないといけない。
「まぁまぁ、今夜はお姉さんがたっぷりと可愛がってあげよう」
ルールウは満面の笑みを浮かべている。正直からかわれているのは分かっていた。同時に気遣いでもあると思う。
「あのなぁ、今日は今から徹夜で馬車の拡張をしないといけないんだ。遊んでいる暇も体力を使っている暇も無い。それにルールウも今夜は自宅の整理だぞ」
私の言葉にルールウは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
「ちぇっ、今夜は駄目か~。仕方が無い、付いて行く為だから仕方が無い」
ルールウは本気で残念そうだ。一瞬でも気遣いと思った自分の気持ちを返せと思う。そのようなやり取りをしながら、私とルールウはそのまま散歩をしながら自宅へと帰るのであった。
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