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元売れっ子?ラノベ作家、異世界へ立つ
転移
しおりを挟む「転移門?」
『転移門』
私とプリミティーヴァの間に微妙な雰囲気が漂う。
先程膝から崩れ落ちた私はなんとか祠の残骸の1つに腰を下ろした。
いま私たちはジッと見つめ合っている。
「……どうして教えてくれなかったんだ?」
『聞かなかったじゃあないですか。
それに思い出したのはさっきですし』
うん、正論だ。
確かに聞いていない。
それに先程思い出したのなら仕方が無いか。
でもさぁ、うん。
何でもない。
とりあえず腰を落ち着けた私はプリミティーヴァから話を聞くことにした。
プリミティーヴァ曰く、この祠の周辺を探ったとき思い出したらしい。
遥か昔の話で完全に忘れていたということだ。
昔ここへ来ていた生き物が通っていたらしい。
生き物というのが引っ掛かったがそれは後回しだ。
「で、人里近くに繋がっているのは間違いないのか?」
私の問いにプリミティーヴァはこてんと首を傾げる。
『たぶん?』
その可愛らしい仕草に思わす微笑みかけるが、不確定すぎる。
転移出来るということは現在の環境から考えると非常に有難い事だが場所が確定できていないのは危険すぎる。
かと言って、1000km超の森と砂漠を徒歩で、しかも水、食料の補充がどこで出来るか分からない、ましてやどのような危険生物がいるか分からない土地を1人で踏破することは至難の業だ。
どちらとも判断が難しい状況に私は暫く考え込んだ。
その間、プリミティーヴァは微笑みながら黙って私を見ていた。
(こいつは一応女神だから危険とかに無頓着なんだろうな)
私は微笑むプリミティーヴァを見ながら様々なことを考えていた。
しかしどれだけ考えても結論は出ない。
ぐ~
突然、快音が響く。
目の前ではプリミティーヴァが微笑みながらお腹から面白い音を出していた。
私はそっと腕輪を触り、焼きラピスの実をプリミティーヴァへ差し出した。
ゆったりとした動きで、それでいて高速という矛盾した動作で私に近づいたプリミティーヴァはラピスの実を取ると貪るように食べ始める。
(はあ、考えても仕方が無いか……。
いつ出ることが出来るか分からない土地を歩くより、近くに人里があるかもしれないという場所にショートカットしたほうが確率は高いか)
むしゃむしゃと美味しそうにラピスの実を頬張るプリミティーヴァを見ながら私は結論を出した。
「プリミティーヴァ、転移門の使い方は分かるか?」
私の問いにラピスの実を咥えたプリミティーヴァが黙って頷く。
「じゃあ、送ってくれ」
プリミティーヴァはラピスの実を咥えたまま立ち上がりかける。
「あ~、喰ってからでいいから」
この駄女神め。
私の心の声を聴いたのか、プリミティーヴァがもぐもぐと口を動かしながら頬を膨らませ抗議するという器用な行動をとる。
その様子を微笑ましく思いながら、この駄女神との生活も最後かと思うのであった。
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今、私とプリミティーヴァの目の前には赤い水が天に向かい渦巻く湖がある。
その光景に驚いたのは懐かしい思い出だ。
「さて、この湖のどこに転移門があるんだ?
それらしい建造物は無いのだが?」
私の問いにプリミティーヴァは黙って指を指す。
指の指す先は天に向かって伸びる赤い渦。
私は開いた口が塞がらなかった。
「おいおい、この中だ……と?」
プリミティーヴァはにっこりと笑って頷く。
『この渦の中が向こう側の建物に繋がっています。
ここは遥か昔、私がここに住み着いたときに私に近づいてきた生き物が使っていた通路です。
あの祠もその生き物達が建ててくれました。
その者達もいつしか来なくなりましたけれどね』
プリミティーヴァは渦を見つめながら寂しそうな、悲しそうな表情を浮かべた。
プリミティーヴァに会って初めてこのような表情を見る。
いつの頃の話かは分からないが、プリミティーヴァを崇めていた生き物?がいたそうだ。
滅びたのか忘れ去ったのかは分からない。
この先にまだいるのかすら分からない。
その者達が来なくなってどれくらいの年月が経ったのだろうか?
1000年? 2000年?
いや、あの祠の朽ち方だとそれ以上のような気がする。
その間、プリミティーヴァは1人でこの場所にいたのだろう。
その寂しさが出たのだろうか?
『作動方法は分かります。
いつでも大丈夫ですよ』
いつの間にか、いつもの美しい笑顔に戻ったプリミティーヴァがこちらを見つめていた。
物思いに耽っていた私は気を戻す。
行先が建物というプリミティーヴァの言葉に腕輪の中から火の着いた松明を取り出した。
先が真っ暗だと目も当てられないからね。
「いつでもいいぞ」
私の答えにプリミティーヴァは軽く頷くと両手を渦の方へ突き出した。
赤い渦がうねうねと動き出す。
『そういえば、お名前を伺っていませんでしたね』
プリミティーヴァの問いに私は驚いた。
そういえば名乗っていなかったなぁ。
轟々と唸る赤い渦を前に私はプリミティーヴァの方を見る。
「上川涼介だ」
『ではリョースケ、良い旅を』
赤い渦の一部が飛び出し、私の頭上へ迫ってくる。
そのまま渦に飲み込まれた私は、強力な力で天へと吸い上げられてゆくのであった……。
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『あ~あ、行っちゃいましたか……。
あれ、美味しかったなぁ。
また来てくれないかなぁ』
リョースケが旅立った後、プリミティーヴァは独り言を呟いていた。
赤い渦を修復したプリミティーヴァは強大な力を振るう。
リョースケが様々な素材を取った場所全てが一瞬で元に戻る。
『さて、と』
ドンっ!
突然プリミティーヴァの横にクレーターが出来る。
その中心部分には人が1人、地に這っていた。
『覗きとは感心しませんね』
にこにこと笑っているがその笑みは氷のように冷たく、また視線は感情が見て取れない。
先程までリョースケと話していた時とは違う。
【ぐ、が。 デメエ……、チカラが……】
クレーターの中に這いつくばっている女が苦しそうに呻く。
『貴女は……、何でしたっけ?』
プリミティーヴァは首を傾げクレーターの中に這いつくばる女の傍に立つ。
【う、うるザいっ! まタ、ふうイんジでやル! あのオトこもころジでやル。神罰ダ!】
跳ね上がり、プリミティーヴァに拳を振るう女。
プリミティーヴァは僅かにズレることでその女の拳を躱し、女の首を掴む。
『あの人はお気に入りなんですよね』
ぱむ
小さな音が響く。
その音とともに大地は腐り始めた……。
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