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元売れっ子?ラノベ作家、異世界へ行く

銀行強盗に遭遇しました

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受け取り 152,840
残高                   0

 全ての貯金をおろし、通帳記載を終えた私は溜息を吐く。
今日は出版社の入金日だったからだ。
今年で60歳を迎える私は作家業で食っている。
ジャンルはライトノベル。いわゆるラノベと呼ばれているジャンルだ。

 5本のヒット作品を生んだ。20万部、50万部、100万部、15万部、アニメ化、キャラクター商品化でかなりの収入を得た。
そのことが忘れられずヒット作を生み出せなくなってからも作家にしがみつき、現在に至る。
 最近は広告のキャッチフレーズやモニターの原稿書きなどで収入を得ながら、年に数回大賞などに応募している。

 貯金?
まあ、何というか……、散財さんざいしてしまった。
何をもって贅沢ぜいたくというかは分からないが、車や食事、服などにはあまり金を掛けていない。
郊外に一軒家を買っただけだ。
 後は基本的には作品の為に資料、本に金を掛けた。
 作品を生み出すために古い魔法の本(中世に書かれた羊皮紙の本)などを買ったり、城壁などを見るために海外へ行ったり、資料と称して金をかけ様々な物を作った。
そして、老後の資金無しになってしまった。
ちなみに様々な版権収入はあったが20年も経つと収入はほぼゼロだ。
自業自得。

「はぁ、とりあえず……、こいつを売るしかないか……」

 私は肩にかけたバッグをそっと撫でた。
そこには私の愛刀が入っている。
二尺八寸二分、反りが一寸ある日本刀だ。
 これもラノベに日本刀を使う主人公を出した時に買ったもので、ついでに古流の剣術も習ってみた。
これは思いのほか私に合っていて、現在まで続いている。
もっとも腕はそれほど良くはない。精々が目録もくろく止まりだ。二十数年やっても免許めんきょは取れなかった。それでも続けていたのは何故だろう?
 とにかく背に腹は代えられないのでこの愛刀を売ることにしたのだ。
まぁ、家にはまだ刀が数本と長刀なぎなた、槍、甲冑がいくつか転がっているのだが……。



 「キャァァァァァァ!」

 私がATMから離れようとすると銀行の窓口の方から女性の悲鳴が上がった。
思わず数歩走り窓口を見ると、そこには覆面をした二人組が女性の首にナイフを当てて窓口へバッグを投げているところだった。

 「金……、金っ!」

 片言の日本語。
バッグを差し出されたテラーは後ろを振り向く。誰も動かない中、窓口の一番奥にいた男が慌てて後ろへと走って行く姿があった。
 ガタガタと震えながら、それでも窓口の中を見ていた人質になった女の表情が緩む。
 
 「クソッ!」

 何を勘違いしたのか人質の女を拘束していた一人が女を突き飛ばす。
次の瞬間、その背に行きがけの駄賃とばかりにナイフを突き立てこちらへと走ってきた。
もう一人の覆面の者は予想外のことにオロオロとその場へと立ち止まったままだ。

 「ドケッ!」

 こちらへ走ってきた覆面の者の叫びに私の前にいた男女が慌ててその場を退く、はずだったが小学生くらいの女の子が一人立ちすくんでいる。

 私の身体はとっさに動いていた。
慌てて小学生くらいの女の子の肩に手を掛け、突き飛ばす。
目の前には覆面の者が迫る。
 反射的に覆面の者の腕を掴み、掴んだ腕を引っ張りながら掌底しょうてい打ちを相手の顎に叩き込んだ。

 【ごきり】という音と共に覆面の者の頭が後ろにずれ、すさまじい勢いで床へ倒れ込む。

「あ……」

 私は思わず声を上げた。
 どう見ても覆面の者は死んでいる。掴んだ腕を離そうとするが手が固まってしまい動かない。
同時に全身に震えが来た。

 覆面の者を避けた周りの人たちも、一瞬覆面の者へと目をやり、私の顔を見て顔色を悪くしている。
突き飛ばした小学生くらいの女の子に至っては盛大に吐き戻していた。

「あああああああ!」

 突然の叫び声に私は顔を上げる。
目の前にはもう一人の覆面の者がいた。
ガツンという衝撃。
そこで私の意識は消えた。
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