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初対面

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2022年12月30日
しばらく学校の門前でぼんやりと校舎を眺めていた未来は、10分前からずっと震えたままだったスマホがようやく収まった事にほっとため息を1つ吐くと、徐にポケットから取り出した。
コンサート最終日を終えた後より、連絡をとったのは母ありさのみ。
しかしLINEやメールは緊急事態に対応する為、一応開いて内容は確認していた。
もちろん、返事は一切していないが。
今しがたの着信相手はオリバーで、5件程彼の名前が並ぶ履歴に未来は苦笑いを浮かべた。
そしてオリバーからのLINEが数件。
何してるの?会いたい♡連絡してね!愛してるわ♡と、彼女かと、思わず突っ込みたくなるようなその内容に、未来は相変わらずだなと、思わずクスリと笑ってしまう。
休業の事には一切触れないのは彼の気遣いか、はたまたま興味が無いだけか。
いずれにせよ、なんだかんだいつも自分に甘いオリバーには、感謝してもしきれないほど本当に良くして貰ってきたと未来は思う。
そして未来は思い出した。
彼と初めて会った日の事を。



2013年1月13日
Sクラスレッスンスタジオのホール。
自販機とソファーが置かれたそこは、students達の談話室の様な場所になっている。
レッスン開始時刻より早く来ていた数人の少年達が雑談に花を咲かせていた所。
突如現れたのはオリバーエンターテイメント会長、富岡オリバーだった。

「ごきげんよう、ボーイズ達」

効果音を付けるならまさにぬっと、ソファーに座り寛ぐ少年達の頭上に彼は現れた。 

「えっ、あっ、おはようございますっ」
「おはようございますっ!オリバーさんっ」

何でここにオリバーが?
と少年達の脳内に疑問が浮かぶ程、彼がこのSクラスのスタジオに顔を出すことは珍しかった。

「うんうん、頑張ってね~」

しかし驚く少年達を他所に、オリバーは満面の笑みを浮かべて颯爽とその場をあとにした。

「はいっ。ありがとうございますっ」
「お疲れさまですっ」

ひらひらと手を振りながら応えるオリバーの背中を少しばかり緊張した面持ちで少年達は見つめながら、何しに来たんだろう?とお互い顔を見くばせるも、彼らにその答えが解るはずも無かった。



少年達が柔軟をしたり輪になって話したりと、和やかな雰囲気の漂うレッスンスタジオ。
未来も綾人と共に柔軟をしながらレッスンが始まるのを待っていた。
そんな彼にスタジオ入口付近から声を掛けたのは悟だった。

「未來、ちょっと来なさい」

自分を手招きし呼ぶ悟の元へ、未来は少し小走りで掛けていった。

「なんですか?」

廊下奥へと悟に誘導されながら、未来は悟の話に耳を傾ける。

「もっと早く会わせるべきだったし会わせたかったんだけど、中々忙しい人でね。漸く時間が作れたのが今日だったんだ。紹介するよ、オリバーエンターテインメント会長の富岡オリバー会長だ」

ガラス張りになっている踊り場に立つオリバーは、丁度陽の光を浴びてまるでスポットライトに照らされて居るようだった。
会社の会長という肩書きから、未来は年配の小太りの男を想像していたのだが、悟から紹介されたオリバーという男はとても若々しく、そしてとても整った顔立ちをしていたので、未来は意表を突かれ暫し固まってしまうのだが。

「あ、は、初めましてっ。加藤未來ですっ」

咄嗟に我に返り、ぺこりと頭を下げてそう名を名乗った。

「初めまして、未来ちゃんっ。凄く会いたかったよっ。ってか本当昔と変わらず超プリティボーイねっ。うちに入ってくれて本当にありがとうっ」

きゃぴきゃぴと言い表すのが実によく似合う弾んだ声で、オリバーは右の手を伸ばし未来に握手を求めた。

「あ、いえ、そんな…」

おずおずとその手を握る未来だったが、オリバーの独特な口調に動揺を隠せずにいると。

「やだっ、そんな緊張しないで?僕の事はオリバーさんって呼んでくれればいいし、敬語も使わなくていいからねっ?」

未来の動揺を緊張と解釈したオリバーは、それを解そうと両の手で未来のまだ小さな手を包み込みそう提案した。

「え…、あ、は、はい…。ありがとうございます…」

ぶんぶんと腕をふり満面の笑顔を自分に向けてくるオリバーに、若干気圧されながらもとりあえずの礼を未来は口にすると。

「あ~っ、本当に可愛いっ!お肌もつるつるすべすべだしっ、あっ~、もぉ食べちゃいたいっ!」
「わっ!?」

オリバーは未来の細い腕を引き寄せその腕の中に抱きしめると、うっとりと瞳を潤ませながらその滑らかな未来の頬に、チュッとわざと音を立てて口付けた。

「会長っ!?」

その奇行に悟が咄嗟に制しの意を含めその名を呼ぶも、何食わぬ顔で未来を抱きしめるオリバーの腕が緩む事はない。

「いやねぇ。そんな睨まないでよ。ほっぺにちゅーしたくらいで。ねぇ、未來ちゃん。アメリカでは挨拶よね?」
「あ、う、は、はい…」

パチリとウィンクまでしてそう同意を求めてくるオリバーに、未来は何となく逆らってはいけない何かを感じ、大人しく肯定の言葉を述べておく。
未来が1年程前まで居たアメリカでは、確かに挨拶で頬へキスを送られる事はしばしばあった。
しかしオリバーから感じるこの雰囲気は、アメリカだとしても普通の男性とは明らかに違っていて、未来の脳裏にはオリバーゲイ説が確定された。

「あぁ、もう本当に可愛いわっ。あ、困った事があったら何でも言ってね?これ、僕の番号とLINEだから。いつでもかけてくれていいからね?」
「あ、はい、どうも…」

未来の脳内など知るよしもないオリバーは、相も変わらず過度なスキンシップを繰り返し、そしてひとしきり頬ずりした後満足したのか、そう言って未来に自分の名刺を手渡した。

「君には僕も悟社長も期待してるから、これから頑張ってね?」

綺麗な笑顔を浮かべ再び握手を求めてくるオリバーの顔は、先程とは少し変わってどこか挑む様な眼差しに見えた。

「はい。ありがとうございます」

そんなオリバーの期待に絶対応えてみせると、未来もまた真っ直ぐにオリバーの瞳を見据えながらその手を強く握り返した。
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