まがりかど、ひとつ

ぷにぷに

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真珠の彼女

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僕は今、似合わない赤の法被を着て、沢山のヘリウム風船を握っている。

今日は、住宅展示場のアルバイトだった。

そこそこ人が来ていた今日のイベントでは、子供連れの親子が多く、風船はすぐに減っていった。
ニコニコと愛想を振りまきながら、こちらのパンフレットをどうぞ、と言えばいいだけの仕事は楽だった。
休憩中、暑くなってきたので法被を椅子にかけた。
「大学生?」
同じくイベントスタッフで、受付を担当していた女だった。
「はい。まあ、そんなところです」
30歳くらい。いや、もう少し若いのか。
小綺麗なお姉さんだ。
「ふうん。ま、お疲れ様」
目尻下げ目に、ほんの少しの上目遣いを効かせて、明るく、でも、しっとりと発声。
「お疲れ様です」 
よし、決まった。
彼女は、目線を下げ、真珠のピアスを触った。
本物かどうか、僕には分からないけれど、太陽の下でそれは白くキラキラしていた。

パンフレットを持った親子が、こちらへ近づいてきて、僕と目が合うと、母親らしき人がモデルハウスの質問を投げかけてきた。僕は当然ながら、モデルハウスの詳細など知らない。
あの…このパンフレットとモデルハウスの間取りが…。ああ、それはですね…ええっと、ハウスの責任者を呼んで参りますので…。
ああ、めんどくさい。
誰かわかる人を呼びに行こうとしたそのとき、彼女がさっと入り込み、母親と話を始めた。
僕は、あとは頼みましたよ、の意味を込めて、軽い会釈をし、また誰かに声をかけられては堪らないので、モデルハウス内を見て回ることにした。

どの家も明るくて、ザ・仲良し家族の住む家、という感じがした。

白を基調としたさっぱりとした家。
個性的な間取りが特徴のコンパクトな家。
2世帯向けの広い家。
色とりどりの風船をもてあそぶ子供が、友達を作って話したり、そろそろ帰るよー、などの声がきこえ、イベントは賑やかに思えた。
「僕には一生縁がないかもな」
小さく呟いた。

ひと通りモデルハウスを見て回り、定位置に戻った。風船配りの役に徹しようと、また新しく風船を膨らまそうとしたとき、同じく赤い法被を着た受付の男が、僕に指先を差し出した。
日焼けした男の指先には、小さなメモ用紙がつままれていた。
「これ、リーダーがあんたに渡しといてって」
男は、ややぶっきらぼうな素振りをした。
メモの中身は、彼女の電話番号だった。


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