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第4章1部
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かつては石畳の道だったのだろうか。
廃墟とおぼしき建造物には、かつて人々が豊かな生活を営んでいた痕跡が残っている。レンガの隙間や壁からは緑が生い茂っており、年月を経た古びた様子は物悲しい雰囲気を漂わせていた。足元に転がった無骨な石を避け、歩みを進めるセリカにそれは突如として現れた。
空に向かって伸びる高い尖塔はその先を雲で隠しており実際の大きさを測ることはできなかった。建物の素材はガラスのように透明感があり、未来的な印象を与えている。光を反射して荘重に輝くその建物は、この世界を統べる中心地だと言わんばかりに圧倒的な存在感を示していた。
「あれが連合・・・?」
ミトラの話によると、最先端の技術を有するこの建物は魔法探知が効かず、特定の位置を隠す細工がしてあるそうだ。周りに人の気配がないのもその所為だろうかとセリカは辺りを見渡した。今居る場所は、目の前に見える近代的な建物とは随分対照的だ。荒廃し崩れ落ちた壁に手をかけて歩みを進めると乾いた砂が風に舞い思わず目を伏せた。
「移転装置を探さないと・・・」
連合への入口だという移転装置を探すため、セリカは乾いた土地を踏みしめた。
「随分と疲弊されていますが大丈夫ですか?」
満身創痍の状態でミトラの前に座るセリカはコクコクと首を縦に振る。
「サインを求め、ライオス先生の元へ行ったのが6日前・・・。その間、何をしてらっしゃったのですか?」
「・・・あの人、本当に厳しくて・・・なのにずっと笑顔だし・・・」
ワナワナと震えるセリカに質問を諦めたミトラは机上にあるタブレットを持ち上げた。そこには、セリカを上級魔術師へと推薦する精鋭ぞろいの人物たちの名が連ねられていた。
「それでも、この方々のサインを貰うのに要した時間と考えたら早すぎますけどね。本当にあなたは異例尽くしの人だ。」
「・・・あとはこれを連合に提出すればいいんだよな?」
正面を見据えたセリカは以前よりも精悍な顔つきとなっている気がした。きっとサインを貰うために努力したのだろう。セリカの人となりを知ったミトラはフッと笑みを浮かべた。
「資料は揃いました。おっしゃる通り、これを連合に提出、受理されればあなたも上級魔術師の一員です。」
「提出とはどのようにすればいいんだ?この推薦状をデータで転送するとかか?」
「確かに一般資料であればデータ転送でいいでしょう。しかし、上級魔術師の推薦状はバイタルレコードといって、再生や復元が困難な重要書類です。この場合、直接 連合に持って行くことが義務付けられています。」
「直接?」
「ええ。ただ・・・」
ミトラは眉間にシワを寄せた。
「なんだ?」
「学園には移動の手間を省くため、連合へ移送する装置があります。それを使えば人でも物でも瞬時に連合へ飛ばすことができるのですが・・・。」
「すごい装置があるんだな。それを使えば一気に連合に推薦状を持っていけるということだな。」
「ええ。僕の許可でそれを使うことができるのですが、セリカさんにはそれが難しいのです。」
「え?何でだ!?」
「その装置はその人のエレメントを消費して稼働するのです。」
「・・・なるほど、な・・・。」
3つの魔法が使えるといってもそれはセリカ自身のエレメントではない。稼働の条件にセリカは気持ちが萎んでいくのを感じた。
「すいません。」
「ミトラが謝ることじゃない。慣れっこだよ。それより、他の方法があるなら教えてほしい。」
「はい。装置を使わないとなると、あとは自らの足で連合へ行くしかありません。ここから連合までは、3日から4日と考えてもらえたらといいと思います。」
「3日から4日!?そんなにかかるのか?」
頷いたミトラは、紙とペンを用意し東西南北の位置で大きく円を描いた。
「この円をそれぞれの魔法域だとします。サージュベル学園は南のこの円だと思ってください。」
南に位置する円に何度もペンを重ねれば、その円だけ濃く太い線となっていった。そして4つの円に重なるように真ん中に大きな円を書き足した。
「そしてこの4つの円の中心にある大きな円、この領域すべてを連合といいます。連合は複数の魔法域と共通しながらも独自の魔法域を展開していて、その実態はすべて明かされていません。そしてこの距離を、3日から4日かけて行かなければならないのです。」
南に位置する円から中心に位置する円に向かって矢印を書き足したミトラは、最後にトントンとペンで机を叩いた。
「徒歩以外の交通手段はないのか?」
「昔は鉄道や歩道が整備されていたのですが、魔法が進化するとともにそれらを活用する場面は少なくなりました。学園からも魔法列車が通っていますが、連合まで直結で行ける交通機関はありません。」
「ある程度の徒歩は覚悟ってことか。」
「使役獣の増加と飛行魔法が主流となった今、徒歩で連合に向かう人はほぼ居ないでしょうけどね。」
「分かった。じゃあ、連合までの道のりを示した地図とかないのか?」
「あるにはあるんですが、その地図が役に立つかは分かりません。」
「どういうことだ?」
「連合付近には、場所が特定されないように特殊なフィルターが張り巡らされているんです。建物自体は見えているのに、歩いても歩いてもそこに辿り着けない、そんな場所なのです。」
「じゃあ、みんなどうやって連合に行っているんだ?」
「さっき言った転送装置を使うのがほとんどです。各 魔法域《レギオン》に用意されている装置には座標が登録されていて、エレメントを注ぐだけで行き来することが可能です。もちろん、外から連合に入る場合もあるでしょう。クエストの帰りとか、魔法域を迂回することなく連合に入りたい時などは移転装置から入ることができます。」
「移転装置?」
「連合の付近には幾つかの移転装置が用意されています。そこからアクセスすることで、連合に入ることができるんですが、移転装置は魔法で隠されているのでまずはそれを探し出す必要があります。」
「なかなか厄介だな・・・。」
「咎人や異質な存在の侵入を許さないように考えられた仕組みのようです。この学園の結界も、元々は連合の構造を参考にして作ったとシャノハ博士から聞いたことがあります。」
「移転装置が見つかったらどうすればいいんだ?また自身のエレメントを注がないと起動しないとかじゃないだろうな?」
「それは大丈夫です。各 魔法域にある転送装置は魔法域に属する人物だと証明するためにそのような仕組みにしているとのことですが、不特定多数が利用すると考えられた移転装置には魔法を注げばいいのです。精霊の力を使えるセリカさんも起動できますよ。」
それを聞いてセリカはそっと胸をなでおろした。
「終点まで列車を利用したとしても、2日ほどは野営になると思います。大丈夫でしょうか?」
「あぁ、それは問題ない。」
「それと連合の周辺なんですが・・・いや、これは実際に見てもらった方が早いでしょう。それよりも、隠れている移転装置の探し方をお伝えしますね。」
そう言うとミトラは生徒会室にあるパソコンを操作しはじめた。カタカタとキーボードを叩く音が心地いい。
「セキュリティ強化の為、移転装置の位置は一定期間で移動を繰り返しています。詳細部分をお見せすることはできませんが、移動場所と起動条件は暗号化されたデータで各 魔法域に共有されます。この情報を受け取れるのは魔法域の代表者だけです。」
最後にパチンとキーボードを弾くと、プリンターのような機械から1枚の紙が出力された。さらに机の引き出しから取り出した直径5センチほどの飾り石は、滑らかな表面をしており薄ピンクがかった色をしていた。
「何をするんだ?」
「見ていてください。」
紙と飾り石を重ねると静かに目を閉じる。すると、手の中で重ねた2つのアイテムから淡い光が漏れ出した。見たこともない光景に瞬きすら忘れたセリカの前で、やがて光は収束していき、そしてゆっくりと消えていった。
「ふぅ。」
「だ、大丈夫かミトラ?魔法を使っても平気なのか?」
「ふふ、これぐらいなら大丈夫です。それよりも、これをセリカさんにお渡ししますね。」
そう言うとミトラは飾り石を差し出した。そこには例えようのない形容の刻印が刻まれてある。
「これは現在の移転装置の場所に共鳴し起動するアイテムです。」
「共鳴?」
「はい。先ほど言ったように移転装置の場所は厳重に管理されています。その場所を探し出すためには、こうやってカギとなる物質を生成する必要があるのです。この石は移転装置の近くに来ると光を放ちます。その光は移転装置に近づけば近づくほど強くなり、共鳴先の物質に接触させると起動するという仕組みです。ただ、共鳴先の物質は一概には言えず、その形は多岐に渡ると思っていてください。」
「例えば?」
「その辺に転がっている石や生えている木ならば簡単なのですが、大きさも形もバラバラで、何かに擬態しているケースもあるそうです。中には周辺の魔獣にくっついていたという話も聞いたことがあります。」
「え・・・?」
「鳥が自分の巣に持ち帰っていて、見つけることさえ困難なこともあったようですよ。何にせよ、一筋縄ではいかないでしょうね。」
「このアイテムを持って、しらみつぶしに探すしかないということだな・・・。よし、行ってみないと分からないことはその時に考えよう。」
決して容易なことではない。クエストでランク付けするならば間違いなく高難易度だ。それでもセリカならきっと何とかするだろうという確信に、ミトラは思わず目を細めた。
「それと例の件ですが・・・」
「例の件・・・?あぁ、私が匣であることを共有する件か。」
「もうお話はされましたか?」
「あぁ。シリアにテオ、エリスとロイと韮耶だ。ジェシドにも話そうと思ったんだが、研究が忙しいらしくて会えなかったんだ。」
「ではその5人にはあとで誓約書を書いてもらおうと思います。皆さん、驚かれたのではないですか?」
「一様に驚いていたかな。でも、納得したとも言っていた。私の魔法はやはり普通ではなかったからと。」
「随分と心配していましたけど、話してみればどうってことではなかったでしょう?」
セリカは俯く。自分が匣であることを限られた友人に共有する。それはセリカにとって気乗りしない提案だったからだ。
ジンとアシェリナから推薦状のサインを貰った時、3人はある提案をしてきた。それはセリカが匣であることをより狡猾に秘匿するための協力者探しだった。
セリカの周りにある程度理解がある人間が居た方が動きやすい。そう決めた時、その人物たちをセリカに任せるとのことだったのだ。
セリカは首を縦に振らなかった。自分の面倒事に巻き込んでしまう存在を出したくない。また、このタイミングで匣であることを公表することに抵抗があった。
「言ったよな?お前1人でどうにかできると思っているのか、と。」
アシェリナの低い声音に肩が震える。
「お前が隠すことで、周りの人物たちは何も分からず精霊界と人間界の争いに巻き込まれるんだぞ?そっちの方が、よっぽど恨まれるんじゃねーか?」
「匣という稀有な存在を隠していたことに疑問は感じません。きっと他の方も理解してくれるでしょう。なにより、これはあなたを守るためでもあるんです。」
「それでも私は・・・私は・・・」
どうしてこんなにも自分は躊躇するのだろう。今まで隠していた秘密を明かすことがこんなに怖いと感じるなんて・・・。
その時、ハッと顔を上げる。そしてあまりにも単純な答えに自分でも驚いた。
「私はみんなに嫌われるのが怖いのか・・・?」
腑に落ちるというのはこういうことを言うのだろう。セリカは自分が躊躇する理由をハッキリと理解した。なぜ今まで隠していたのか、そう咎められ自分を否定されるのが怖いのだ。
「私は、自分が匣だということを話した時、みんなの反応が怖いんだ!」
「・・・急に発言が幼児化されましたが、大丈夫でしょうか。」
「上級魔術師になる前に、正しい人間の感情を教えた方がいいんじゃねーか?」
呆れるミトラとアシェリナをよそに、ジンだけが口元を僅かにあげて見せた。
(・・・なるほどな。だからこの学園に入学させたというわけか・・・。)
「子どもみたいにハッキリ言語化しても無駄だ。この先、協力者は必要になってくる。それをお前が選定するんだ。」
「少数でいいんです。セリカさんが信頼できる友人数名に協力を仰ぐことはできませんか?」
「信頼できる・・・友人・・・」
そう言われて頭に浮かんだ数人の影。この学園に来てから随分と時が経った気がする。
「私は、この人たちを信頼しているのか・・・?」
「お前の胎児並の感情は分かったから、今頭に思い描いたやつにお前が匣であることを伝えるんだ。」
「お、怒られたり、呆れられしない、かな?」
「セリカさんが信頼している人物なのです。きっと受け入れてくれますよ。」
ミトラの笑顔に背中を押され、その後 勇気を出したセリカの告白は拍子抜けな結果となる。匣という存在に驚きつつも、シリアたち5人の誰もが納得の表情を示したからだ。
『そんなことを伝えるために集まったの?私、ヒマじゃないんだけど。』
『セリカの魔法がスゴイなんて今さらじゃないカ?』
『俺なんて出会ったその日から違うって分かってたぜ!』
『テオったら嘘をおっしゃい。でも、伝えてもらえて良かったです。私たちセリカから言ってもらうの待ってましたのよ。』
『セリカお腹空かない?飴食べる?」
5人の反応に戸惑いつつも、お腹がぐぅと鳴ったことを思い出してセリカは笑みを浮かべる。その様子に、ミトラは全てを悟ったようだ。
「セリカさんが連合へ行くための準備をはじめます。数日かかると思いますのでそれまでは通常どおり過ごしてください。準備ができたらまた声をかけます。」
「分かった。ちょうど、火と風の魔法の使い方をテオたちに教えてもらおうと相談していたんだ。それまで私も準備をしようと思う。」
窓から見える学園は未だに瓦礫が目立つ。それでも自分の心が軽くなっていることに気付いたセリカは、足取り軽く会議室から飛び出したのだ。
廃墟とおぼしき建造物には、かつて人々が豊かな生活を営んでいた痕跡が残っている。レンガの隙間や壁からは緑が生い茂っており、年月を経た古びた様子は物悲しい雰囲気を漂わせていた。足元に転がった無骨な石を避け、歩みを進めるセリカにそれは突如として現れた。
空に向かって伸びる高い尖塔はその先を雲で隠しており実際の大きさを測ることはできなかった。建物の素材はガラスのように透明感があり、未来的な印象を与えている。光を反射して荘重に輝くその建物は、この世界を統べる中心地だと言わんばかりに圧倒的な存在感を示していた。
「あれが連合・・・?」
ミトラの話によると、最先端の技術を有するこの建物は魔法探知が効かず、特定の位置を隠す細工がしてあるそうだ。周りに人の気配がないのもその所為だろうかとセリカは辺りを見渡した。今居る場所は、目の前に見える近代的な建物とは随分対照的だ。荒廃し崩れ落ちた壁に手をかけて歩みを進めると乾いた砂が風に舞い思わず目を伏せた。
「移転装置を探さないと・・・」
連合への入口だという移転装置を探すため、セリカは乾いた土地を踏みしめた。
「随分と疲弊されていますが大丈夫ですか?」
満身創痍の状態でミトラの前に座るセリカはコクコクと首を縦に振る。
「サインを求め、ライオス先生の元へ行ったのが6日前・・・。その間、何をしてらっしゃったのですか?」
「・・・あの人、本当に厳しくて・・・なのにずっと笑顔だし・・・」
ワナワナと震えるセリカに質問を諦めたミトラは机上にあるタブレットを持ち上げた。そこには、セリカを上級魔術師へと推薦する精鋭ぞろいの人物たちの名が連ねられていた。
「それでも、この方々のサインを貰うのに要した時間と考えたら早すぎますけどね。本当にあなたは異例尽くしの人だ。」
「・・・あとはこれを連合に提出すればいいんだよな?」
正面を見据えたセリカは以前よりも精悍な顔つきとなっている気がした。きっとサインを貰うために努力したのだろう。セリカの人となりを知ったミトラはフッと笑みを浮かべた。
「資料は揃いました。おっしゃる通り、これを連合に提出、受理されればあなたも上級魔術師の一員です。」
「提出とはどのようにすればいいんだ?この推薦状をデータで転送するとかか?」
「確かに一般資料であればデータ転送でいいでしょう。しかし、上級魔術師の推薦状はバイタルレコードといって、再生や復元が困難な重要書類です。この場合、直接 連合に持って行くことが義務付けられています。」
「直接?」
「ええ。ただ・・・」
ミトラは眉間にシワを寄せた。
「なんだ?」
「学園には移動の手間を省くため、連合へ移送する装置があります。それを使えば人でも物でも瞬時に連合へ飛ばすことができるのですが・・・。」
「すごい装置があるんだな。それを使えば一気に連合に推薦状を持っていけるということだな。」
「ええ。僕の許可でそれを使うことができるのですが、セリカさんにはそれが難しいのです。」
「え?何でだ!?」
「その装置はその人のエレメントを消費して稼働するのです。」
「・・・なるほど、な・・・。」
3つの魔法が使えるといってもそれはセリカ自身のエレメントではない。稼働の条件にセリカは気持ちが萎んでいくのを感じた。
「すいません。」
「ミトラが謝ることじゃない。慣れっこだよ。それより、他の方法があるなら教えてほしい。」
「はい。装置を使わないとなると、あとは自らの足で連合へ行くしかありません。ここから連合までは、3日から4日と考えてもらえたらといいと思います。」
「3日から4日!?そんなにかかるのか?」
頷いたミトラは、紙とペンを用意し東西南北の位置で大きく円を描いた。
「この円をそれぞれの魔法域だとします。サージュベル学園は南のこの円だと思ってください。」
南に位置する円に何度もペンを重ねれば、その円だけ濃く太い線となっていった。そして4つの円に重なるように真ん中に大きな円を書き足した。
「そしてこの4つの円の中心にある大きな円、この領域すべてを連合といいます。連合は複数の魔法域と共通しながらも独自の魔法域を展開していて、その実態はすべて明かされていません。そしてこの距離を、3日から4日かけて行かなければならないのです。」
南に位置する円から中心に位置する円に向かって矢印を書き足したミトラは、最後にトントンとペンで机を叩いた。
「徒歩以外の交通手段はないのか?」
「昔は鉄道や歩道が整備されていたのですが、魔法が進化するとともにそれらを活用する場面は少なくなりました。学園からも魔法列車が通っていますが、連合まで直結で行ける交通機関はありません。」
「ある程度の徒歩は覚悟ってことか。」
「使役獣の増加と飛行魔法が主流となった今、徒歩で連合に向かう人はほぼ居ないでしょうけどね。」
「分かった。じゃあ、連合までの道のりを示した地図とかないのか?」
「あるにはあるんですが、その地図が役に立つかは分かりません。」
「どういうことだ?」
「連合付近には、場所が特定されないように特殊なフィルターが張り巡らされているんです。建物自体は見えているのに、歩いても歩いてもそこに辿り着けない、そんな場所なのです。」
「じゃあ、みんなどうやって連合に行っているんだ?」
「さっき言った転送装置を使うのがほとんどです。各 魔法域《レギオン》に用意されている装置には座標が登録されていて、エレメントを注ぐだけで行き来することが可能です。もちろん、外から連合に入る場合もあるでしょう。クエストの帰りとか、魔法域を迂回することなく連合に入りたい時などは移転装置から入ることができます。」
「移転装置?」
「連合の付近には幾つかの移転装置が用意されています。そこからアクセスすることで、連合に入ることができるんですが、移転装置は魔法で隠されているのでまずはそれを探し出す必要があります。」
「なかなか厄介だな・・・。」
「咎人や異質な存在の侵入を許さないように考えられた仕組みのようです。この学園の結界も、元々は連合の構造を参考にして作ったとシャノハ博士から聞いたことがあります。」
「移転装置が見つかったらどうすればいいんだ?また自身のエレメントを注がないと起動しないとかじゃないだろうな?」
「それは大丈夫です。各 魔法域にある転送装置は魔法域に属する人物だと証明するためにそのような仕組みにしているとのことですが、不特定多数が利用すると考えられた移転装置には魔法を注げばいいのです。精霊の力を使えるセリカさんも起動できますよ。」
それを聞いてセリカはそっと胸をなでおろした。
「終点まで列車を利用したとしても、2日ほどは野営になると思います。大丈夫でしょうか?」
「あぁ、それは問題ない。」
「それと連合の周辺なんですが・・・いや、これは実際に見てもらった方が早いでしょう。それよりも、隠れている移転装置の探し方をお伝えしますね。」
そう言うとミトラは生徒会室にあるパソコンを操作しはじめた。カタカタとキーボードを叩く音が心地いい。
「セキュリティ強化の為、移転装置の位置は一定期間で移動を繰り返しています。詳細部分をお見せすることはできませんが、移動場所と起動条件は暗号化されたデータで各 魔法域に共有されます。この情報を受け取れるのは魔法域の代表者だけです。」
最後にパチンとキーボードを弾くと、プリンターのような機械から1枚の紙が出力された。さらに机の引き出しから取り出した直径5センチほどの飾り石は、滑らかな表面をしており薄ピンクがかった色をしていた。
「何をするんだ?」
「見ていてください。」
紙と飾り石を重ねると静かに目を閉じる。すると、手の中で重ねた2つのアイテムから淡い光が漏れ出した。見たこともない光景に瞬きすら忘れたセリカの前で、やがて光は収束していき、そしてゆっくりと消えていった。
「ふぅ。」
「だ、大丈夫かミトラ?魔法を使っても平気なのか?」
「ふふ、これぐらいなら大丈夫です。それよりも、これをセリカさんにお渡ししますね。」
そう言うとミトラは飾り石を差し出した。そこには例えようのない形容の刻印が刻まれてある。
「これは現在の移転装置の場所に共鳴し起動するアイテムです。」
「共鳴?」
「はい。先ほど言ったように移転装置の場所は厳重に管理されています。その場所を探し出すためには、こうやってカギとなる物質を生成する必要があるのです。この石は移転装置の近くに来ると光を放ちます。その光は移転装置に近づけば近づくほど強くなり、共鳴先の物質に接触させると起動するという仕組みです。ただ、共鳴先の物質は一概には言えず、その形は多岐に渡ると思っていてください。」
「例えば?」
「その辺に転がっている石や生えている木ならば簡単なのですが、大きさも形もバラバラで、何かに擬態しているケースもあるそうです。中には周辺の魔獣にくっついていたという話も聞いたことがあります。」
「え・・・?」
「鳥が自分の巣に持ち帰っていて、見つけることさえ困難なこともあったようですよ。何にせよ、一筋縄ではいかないでしょうね。」
「このアイテムを持って、しらみつぶしに探すしかないということだな・・・。よし、行ってみないと分からないことはその時に考えよう。」
決して容易なことではない。クエストでランク付けするならば間違いなく高難易度だ。それでもセリカならきっと何とかするだろうという確信に、ミトラは思わず目を細めた。
「それと例の件ですが・・・」
「例の件・・・?あぁ、私が匣であることを共有する件か。」
「もうお話はされましたか?」
「あぁ。シリアにテオ、エリスとロイと韮耶だ。ジェシドにも話そうと思ったんだが、研究が忙しいらしくて会えなかったんだ。」
「ではその5人にはあとで誓約書を書いてもらおうと思います。皆さん、驚かれたのではないですか?」
「一様に驚いていたかな。でも、納得したとも言っていた。私の魔法はやはり普通ではなかったからと。」
「随分と心配していましたけど、話してみればどうってことではなかったでしょう?」
セリカは俯く。自分が匣であることを限られた友人に共有する。それはセリカにとって気乗りしない提案だったからだ。
ジンとアシェリナから推薦状のサインを貰った時、3人はある提案をしてきた。それはセリカが匣であることをより狡猾に秘匿するための協力者探しだった。
セリカの周りにある程度理解がある人間が居た方が動きやすい。そう決めた時、その人物たちをセリカに任せるとのことだったのだ。
セリカは首を縦に振らなかった。自分の面倒事に巻き込んでしまう存在を出したくない。また、このタイミングで匣であることを公表することに抵抗があった。
「言ったよな?お前1人でどうにかできると思っているのか、と。」
アシェリナの低い声音に肩が震える。
「お前が隠すことで、周りの人物たちは何も分からず精霊界と人間界の争いに巻き込まれるんだぞ?そっちの方が、よっぽど恨まれるんじゃねーか?」
「匣という稀有な存在を隠していたことに疑問は感じません。きっと他の方も理解してくれるでしょう。なにより、これはあなたを守るためでもあるんです。」
「それでも私は・・・私は・・・」
どうしてこんなにも自分は躊躇するのだろう。今まで隠していた秘密を明かすことがこんなに怖いと感じるなんて・・・。
その時、ハッと顔を上げる。そしてあまりにも単純な答えに自分でも驚いた。
「私はみんなに嫌われるのが怖いのか・・・?」
腑に落ちるというのはこういうことを言うのだろう。セリカは自分が躊躇する理由をハッキリと理解した。なぜ今まで隠していたのか、そう咎められ自分を否定されるのが怖いのだ。
「私は、自分が匣だということを話した時、みんなの反応が怖いんだ!」
「・・・急に発言が幼児化されましたが、大丈夫でしょうか。」
「上級魔術師になる前に、正しい人間の感情を教えた方がいいんじゃねーか?」
呆れるミトラとアシェリナをよそに、ジンだけが口元を僅かにあげて見せた。
(・・・なるほどな。だからこの学園に入学させたというわけか・・・。)
「子どもみたいにハッキリ言語化しても無駄だ。この先、協力者は必要になってくる。それをお前が選定するんだ。」
「少数でいいんです。セリカさんが信頼できる友人数名に協力を仰ぐことはできませんか?」
「信頼できる・・・友人・・・」
そう言われて頭に浮かんだ数人の影。この学園に来てから随分と時が経った気がする。
「私は、この人たちを信頼しているのか・・・?」
「お前の胎児並の感情は分かったから、今頭に思い描いたやつにお前が匣であることを伝えるんだ。」
「お、怒られたり、呆れられしない、かな?」
「セリカさんが信頼している人物なのです。きっと受け入れてくれますよ。」
ミトラの笑顔に背中を押され、その後 勇気を出したセリカの告白は拍子抜けな結果となる。匣という存在に驚きつつも、シリアたち5人の誰もが納得の表情を示したからだ。
『そんなことを伝えるために集まったの?私、ヒマじゃないんだけど。』
『セリカの魔法がスゴイなんて今さらじゃないカ?』
『俺なんて出会ったその日から違うって分かってたぜ!』
『テオったら嘘をおっしゃい。でも、伝えてもらえて良かったです。私たちセリカから言ってもらうの待ってましたのよ。』
『セリカお腹空かない?飴食べる?」
5人の反応に戸惑いつつも、お腹がぐぅと鳴ったことを思い出してセリカは笑みを浮かべる。その様子に、ミトラは全てを悟ったようだ。
「セリカさんが連合へ行くための準備をはじめます。数日かかると思いますのでそれまでは通常どおり過ごしてください。準備ができたらまた声をかけます。」
「分かった。ちょうど、火と風の魔法の使い方をテオたちに教えてもらおうと相談していたんだ。それまで私も準備をしようと思う。」
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セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
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