116 / 135
第3章4部
真っ赤な恋慕
しおりを挟む
戦闘は激しさを増している。
攻撃を瞬発的に捌き、かつ鋭い角度からカウンターを狙うセリカは確実にシトリーの体力を削っていた。
もちろん、シトリーも負けてはいない。魔法力を消耗し戦う魔術師《ウィザード》と、魔法力の関係ない咎人とでは圧倒的に咎人の方が有利なのだ。
しかしシトリーの表情に余裕はない。どれだけ大技を繰り出してもセリカへの決定的な一打とならないからだ。
(この小娘っ、反撃のスピードが確実に上がっている!!それに、火精霊《サラマンダー》の使い方に慣れてきている――っ!!)
水精霊《ウンディーネ》を使った攻撃を中心としていたセリカが、火精霊《サラマンダー》を使った攻撃のパターンを取り入れるようになりシトリーはますます苦戦を強いられるようになっていた。
予めイカゲから得た情報とは違うセリカの力に、シトリーは持っているエレメントキューブを投げつける。
幾つもの水球が同時に激しく爆発した時、はじめてそれが水のエレメントキューブだったと気が付いた。
しかしその攻撃もセリカの火精霊《サラマンダー》によって簡単に消えてしまった。
(チッ!こいつ、戦闘で成長するタイプか!)
何度でも向かってくるセリカに嫌気がさした時、突然セリカの攻撃が止む。セリカが向かった先には、うつ伏せに倒れ、動けなくなっているアシェリナの姿があった。
「ハハハッ!魔術師《ウィザード》の英雄さんも、そろそろ限界みたいだな。」
その前に立っているファルナは勝ち誇ったように笑った。
文《あや》と文《ふみ》を皮切りに、操られたオクリタやファルナとの戦いは確実にアシェリナの体力と魔法力を大きく消耗させていたのだ。
「アシェリナッ、大丈夫か!?」
「くっ・・・!ちくしょう・・・」
さらに投げつけられたエレメントキューブが勢いよく爆ぜると、セリカはアシェリナを庇うように水柱を発現し続けた。
ファルナの隣にシトリーが並ぶ。
2人の咎人を前にセリカの表情に焦りがあらわれた。
それを敏感に感じ取ったのだろう。現状、足手まといとなってしまったアシェリナがセリカに差し出したのは自身の魔術具だった。
「セリカ、これを使え。」
「これは、盾と剣・・・?」
「盾で吸収した魔法力を剣に転換できる道具だ。自分のエレメントを土台にして吸収することができる。簡単に使える代物ではないが、お前だったら使えるかもしれない。」
重量感のある盾と剣は随分と年季が入っている。無骨なそれは、まるでアシェリナそのもののように見えた。
セリカが盾と剣を握る。しかしそのまま動かないセリカにアシェリナは顔をのぞきこんだ。
「アシェリナ・・・私にこれは使えない。」
セリカには珍しい覇気のない声だ。
「あぁ、確かに扱いは難しい道具だ。でも――」
「いや・・・。私はエレメントを持っていないから・・・本質的にこれは使えないと思う。」
「・・・は?エレメントを持っていない、だと・・・?」
セリカは申し訳なさそうにコクリと頷いた。
「どういう――」
そこに暴風が巻き起こる。セリカはアシェリナを守るように覆いかぶさった。
「ちょっと、あの小娘は私が殺すのよ。手を出さないで、ファルナ!」
「なに言ってんだよ。お前圧《お》されてたじゃねーか。」
カッとなったシトリーはセリカに向かって飛び出した。セリカは咄嗟に盾を握りシトリーの凄まじい連弾を受け止めた。
「お前さえいなければっ!!」
シトリーの攻撃は止まない。しなやかな四肢から放たれる重い打撃はセリカに反撃のスキを与えなかった。
握るエレメントストーンから炎を噴出させると、その火力を増幅させて投げ飛ばした。
慌てて避けたセリカの背後から細い腕が伸びる。なめらかに動く指がセリカの首に絡まると、容赦のない力で締め上げられた。
ライトパープルで施された長く鋭い爪が柔らかい皮膚に食い込み、セリカは思わず身をよじる。
「楽に殺してやらないわ。苦しみもがきなさい。」
シトリーの手から再び炎が現れる。勢いよく燃え上がる豪炎にセリカは内側に力を込めた。するとセリカ自身が水の膜に包み込まれた。
「こいつ、自分に魔法を・・・!?」
シトリーの手からすり抜けたセリカは大量の水の矢を発現させる。一直線に向かってくるそれを、シトリーは同じように大量の炎の矢を発現し応戦した。
力はほぼ互角。
ぶつかった魔法は派手に爆発し、辺り一帯は水蒸気によって視界を悪くした。
それでも2人は止まらない。視界不良の中、お互いの位置を的確に探り出し絶えず魔法をぶつけ合う。拮抗する2人の戦いは次第に熾烈を極めてきた。
はずみで持ってきてしまったアシェリナの盾は、ぎこちない動きながらもセリカの手におさまっている。
しかし、盾に埋め込まれている石は少しの変化も見せてはいなかった。
「石の色が変わらない・・・。本当にあいつはエレメントを持っていないのか・・・?」
セリカは盾を使いながら氷の剣を振りかざす。そして隙を窺いながら火の攻撃を繰り出した。その動きは文字通り魔術師のようだった。
「なんて戦い方だよ・・・むちゃくちゃだ。」
「ねー。セリカって本当にわけわかんないよね。」
「驚かないんだな。お前はセリカのことを知っているのか?」
「んー知らないよ。会ったのも今回で2回目だし。でも、前に会った時は水精霊《ウンディーネ》しか使ってなかったけどなぁ。」
「じゃあ、先天的に2つのエレメントを所有しているわけじゃないってことか・・・。」
「火精霊《サラマンダー》の扱いにも慣れているって感じじゃなさそうだしね。まぁ、セリカってちょっと得体の知れないところがあるから。あの時も、その原因を探るために捕まえようとしてたんだろうなぁ。」
「えらい他人事だな。目的も分からずセリカを追っていたのか?」
「先導しているやつがさ、全然何も話してくれないんだよ。すっごいセリカに固執しているってのはわかるんだけど。何に対しても無関心でクールなヤツなんだけど、セリカだけに反応するんだ。そりゃあ興味も湧くってもんだろ?」
「モノ好きなやつだな。だが、結局セリカのことは分からないってことか。」
依然2人の鬼気迫る戦いは続いている。しかし、僅かだがシトリーが圧されつつある。そろそろ決着をつける時だろう。
(お前はセリカの秘密を知っているんだろうな、ゼロ。そしてすべての行動は、セリカを救うためなんだろ?)
ファルナはエレメントストーンを握る。そしてそのままアシェリナの前に立った。
「そろそろシトリーに加勢するか。ということで、さよならだ、おっさん。」
「くっ・・・」
「アシェリナッ!」
アシェリナの危機を視界に捉えたセリカが動く。しかしシトリーはそれを許さなかった。
「お前の相手は私よ。」
「――っ!!」
「大人しく殺されなさい。そうすればゼロは私のものよっ!」
「お前たちの目的はなんだっ!ゼロという男とお前たちは仲間じゃないんだろう!?」
「確かにゼロは私たちとは違う。それでも私はゼロの遂行することを支えたいだけ。それにはお前が邪魔なのよ!」
シトリーは燃え盛る拳を振り上げた。セリカはそれを盾でしっかりと受け止める。
「お前たち、子どもたちを狙い連れて行こうとしていただろう!」
「ええ、それも今回の計画の1つらしいわね。虚空界《ボイド》も人手不足でね。優秀な咎人を生み出すためには新鮮な子どもが必要なのよ。」
「くっ・・・!!」
「でも今回の目的はそれだけじゃないわ。魔術師《ウィザード》の中枢となる4つの魔法域《レギオン》代表を殺すことで世界の統制を乱し、私たちの優勢を確立することよ。各部隊がそれぞれの目的対象へと散り、同時に襲撃するという綿密な計画のもとに実行されたのよ。
魔法域《レギオン》の中で優れた人材や設備を併せ持つこの学園を廃墟と化し、流通の供給を停止することで効率よく他の魔法域《レギオン》を弱体化させることができるってこと。」
悦に浸るシトリーにファルナは舌打ちをうった。
「バカか、あいつは・・・しゃべりすぎだ。やっぱり霊魔《イカゲ》は咎人に似たんだろうな。」
しなるように伸びるシトリーの蹴りをセリカは薙ぎ払う。
「そんなことはさせないっ!もう誰も犠牲にはさせないっ!!」
豪炎が舞う。握っていた氷剣が燃え盛る炎剣へと姿を変えた時、セリカはそれを思い切り振り下ろした。
「ギャァァァッッ!!」
「シトリーッッ!!」
あっという間に炎に包まれたシトリーにファルナは慌てて水のエレメントストーンを投げつけた。
「大丈夫か、シトリーッ!!」
「う・・・うぅ・・・」
シトリーは自分の姿に愕然とする。艶のある自慢の髪、お気に入りの生地で誂えられた服、シミ一つないきれいな肌、それらがすべてボロボロだった。
「あ・・・あぁぁっ・・・!!」
「シトリー落ち着けっ!」
「離せっ!・・・殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!!こいつだけは絶対に許さないっ!」
あまりの強い殺気にセリカは思わず後ずさる。セリカに向かって一直線に飛び出したシトリーだったが、突如その動きがピタリと止まった。見ればファルナも目を丸くして立ち尽くしている。
不審に思ったセリカが2人の視線を追うと、そこには黒ふちのメガネをかけた長身の男が立っていた。
「ク、クラルト、さま・・・」
「なぜあなたがここに・・・」
シトリーの怒りが急速に鎮まっていく。その代わりにひどく怯えた様子に急変していったのだ。
クラルトと呼ばれる男はセリカをジッと見つめている。その目は、新しい玩具を見つけた子どものようにキラキラとしていた。
「クラルト様っ!その娘はゼロの・・・いえ、私たちにとって障害となる存在です。すぐに私が殺しますのでっ!」
男の視線は変わらない。興味津々にセリカを見ている。
「クラルト様のお手を煩わせるほどの者ではございません。私にお任せ――」
「うるさいよ。」
その時、突然シトリーの背中から血が吹き出した。その場に倒れるシトリーを慌ててファルナが抱き起こす。
「シトリーッッ!?」
「くっ、は・・・」
「な、なんで・・・なんでっ!」
「俺、おしゃべりな女は嫌いなんだよね。」
さらにクラルトはクイっと指を動かした。するとシトリーに大きな衝撃が加わり体がビクンと跳ねた。
「ガ・・・ッ・・・!」
「シトリーッーー!!しっかりしろっ!!」
「ゴッ・・・フ・・・!な、んで・・・ゼロじゃ、ない、のよ・・・なん、で、あんた、なの、よ・・・。」
「シトリー・・・!」
「ふ、ふ・・・あんたも、そん、な顔、できたのね・・・。この腕が、ゼロじゃないのは、気に、いらないけど、あんたなら、まぁ、いいわ・・・。」
「シトリー・・・?シトリーーッッ!!」
シトリーの艶やかな羽織が真っ赤に染まる。血に濡れたシトリーの体をファルナは力いっぱい抱きしめた。
攻撃を瞬発的に捌き、かつ鋭い角度からカウンターを狙うセリカは確実にシトリーの体力を削っていた。
もちろん、シトリーも負けてはいない。魔法力を消耗し戦う魔術師《ウィザード》と、魔法力の関係ない咎人とでは圧倒的に咎人の方が有利なのだ。
しかしシトリーの表情に余裕はない。どれだけ大技を繰り出してもセリカへの決定的な一打とならないからだ。
(この小娘っ、反撃のスピードが確実に上がっている!!それに、火精霊《サラマンダー》の使い方に慣れてきている――っ!!)
水精霊《ウンディーネ》を使った攻撃を中心としていたセリカが、火精霊《サラマンダー》を使った攻撃のパターンを取り入れるようになりシトリーはますます苦戦を強いられるようになっていた。
予めイカゲから得た情報とは違うセリカの力に、シトリーは持っているエレメントキューブを投げつける。
幾つもの水球が同時に激しく爆発した時、はじめてそれが水のエレメントキューブだったと気が付いた。
しかしその攻撃もセリカの火精霊《サラマンダー》によって簡単に消えてしまった。
(チッ!こいつ、戦闘で成長するタイプか!)
何度でも向かってくるセリカに嫌気がさした時、突然セリカの攻撃が止む。セリカが向かった先には、うつ伏せに倒れ、動けなくなっているアシェリナの姿があった。
「ハハハッ!魔術師《ウィザード》の英雄さんも、そろそろ限界みたいだな。」
その前に立っているファルナは勝ち誇ったように笑った。
文《あや》と文《ふみ》を皮切りに、操られたオクリタやファルナとの戦いは確実にアシェリナの体力と魔法力を大きく消耗させていたのだ。
「アシェリナッ、大丈夫か!?」
「くっ・・・!ちくしょう・・・」
さらに投げつけられたエレメントキューブが勢いよく爆ぜると、セリカはアシェリナを庇うように水柱を発現し続けた。
ファルナの隣にシトリーが並ぶ。
2人の咎人を前にセリカの表情に焦りがあらわれた。
それを敏感に感じ取ったのだろう。現状、足手まといとなってしまったアシェリナがセリカに差し出したのは自身の魔術具だった。
「セリカ、これを使え。」
「これは、盾と剣・・・?」
「盾で吸収した魔法力を剣に転換できる道具だ。自分のエレメントを土台にして吸収することができる。簡単に使える代物ではないが、お前だったら使えるかもしれない。」
重量感のある盾と剣は随分と年季が入っている。無骨なそれは、まるでアシェリナそのもののように見えた。
セリカが盾と剣を握る。しかしそのまま動かないセリカにアシェリナは顔をのぞきこんだ。
「アシェリナ・・・私にこれは使えない。」
セリカには珍しい覇気のない声だ。
「あぁ、確かに扱いは難しい道具だ。でも――」
「いや・・・。私はエレメントを持っていないから・・・本質的にこれは使えないと思う。」
「・・・は?エレメントを持っていない、だと・・・?」
セリカは申し訳なさそうにコクリと頷いた。
「どういう――」
そこに暴風が巻き起こる。セリカはアシェリナを守るように覆いかぶさった。
「ちょっと、あの小娘は私が殺すのよ。手を出さないで、ファルナ!」
「なに言ってんだよ。お前圧《お》されてたじゃねーか。」
カッとなったシトリーはセリカに向かって飛び出した。セリカは咄嗟に盾を握りシトリーの凄まじい連弾を受け止めた。
「お前さえいなければっ!!」
シトリーの攻撃は止まない。しなやかな四肢から放たれる重い打撃はセリカに反撃のスキを与えなかった。
握るエレメントストーンから炎を噴出させると、その火力を増幅させて投げ飛ばした。
慌てて避けたセリカの背後から細い腕が伸びる。なめらかに動く指がセリカの首に絡まると、容赦のない力で締め上げられた。
ライトパープルで施された長く鋭い爪が柔らかい皮膚に食い込み、セリカは思わず身をよじる。
「楽に殺してやらないわ。苦しみもがきなさい。」
シトリーの手から再び炎が現れる。勢いよく燃え上がる豪炎にセリカは内側に力を込めた。するとセリカ自身が水の膜に包み込まれた。
「こいつ、自分に魔法を・・・!?」
シトリーの手からすり抜けたセリカは大量の水の矢を発現させる。一直線に向かってくるそれを、シトリーは同じように大量の炎の矢を発現し応戦した。
力はほぼ互角。
ぶつかった魔法は派手に爆発し、辺り一帯は水蒸気によって視界を悪くした。
それでも2人は止まらない。視界不良の中、お互いの位置を的確に探り出し絶えず魔法をぶつけ合う。拮抗する2人の戦いは次第に熾烈を極めてきた。
はずみで持ってきてしまったアシェリナの盾は、ぎこちない動きながらもセリカの手におさまっている。
しかし、盾に埋め込まれている石は少しの変化も見せてはいなかった。
「石の色が変わらない・・・。本当にあいつはエレメントを持っていないのか・・・?」
セリカは盾を使いながら氷の剣を振りかざす。そして隙を窺いながら火の攻撃を繰り出した。その動きは文字通り魔術師のようだった。
「なんて戦い方だよ・・・むちゃくちゃだ。」
「ねー。セリカって本当にわけわかんないよね。」
「驚かないんだな。お前はセリカのことを知っているのか?」
「んー知らないよ。会ったのも今回で2回目だし。でも、前に会った時は水精霊《ウンディーネ》しか使ってなかったけどなぁ。」
「じゃあ、先天的に2つのエレメントを所有しているわけじゃないってことか・・・。」
「火精霊《サラマンダー》の扱いにも慣れているって感じじゃなさそうだしね。まぁ、セリカってちょっと得体の知れないところがあるから。あの時も、その原因を探るために捕まえようとしてたんだろうなぁ。」
「えらい他人事だな。目的も分からずセリカを追っていたのか?」
「先導しているやつがさ、全然何も話してくれないんだよ。すっごいセリカに固執しているってのはわかるんだけど。何に対しても無関心でクールなヤツなんだけど、セリカだけに反応するんだ。そりゃあ興味も湧くってもんだろ?」
「モノ好きなやつだな。だが、結局セリカのことは分からないってことか。」
依然2人の鬼気迫る戦いは続いている。しかし、僅かだがシトリーが圧されつつある。そろそろ決着をつける時だろう。
(お前はセリカの秘密を知っているんだろうな、ゼロ。そしてすべての行動は、セリカを救うためなんだろ?)
ファルナはエレメントストーンを握る。そしてそのままアシェリナの前に立った。
「そろそろシトリーに加勢するか。ということで、さよならだ、おっさん。」
「くっ・・・」
「アシェリナッ!」
アシェリナの危機を視界に捉えたセリカが動く。しかしシトリーはそれを許さなかった。
「お前の相手は私よ。」
「――っ!!」
「大人しく殺されなさい。そうすればゼロは私のものよっ!」
「お前たちの目的はなんだっ!ゼロという男とお前たちは仲間じゃないんだろう!?」
「確かにゼロは私たちとは違う。それでも私はゼロの遂行することを支えたいだけ。それにはお前が邪魔なのよ!」
シトリーは燃え盛る拳を振り上げた。セリカはそれを盾でしっかりと受け止める。
「お前たち、子どもたちを狙い連れて行こうとしていただろう!」
「ええ、それも今回の計画の1つらしいわね。虚空界《ボイド》も人手不足でね。優秀な咎人を生み出すためには新鮮な子どもが必要なのよ。」
「くっ・・・!!」
「でも今回の目的はそれだけじゃないわ。魔術師《ウィザード》の中枢となる4つの魔法域《レギオン》代表を殺すことで世界の統制を乱し、私たちの優勢を確立することよ。各部隊がそれぞれの目的対象へと散り、同時に襲撃するという綿密な計画のもとに実行されたのよ。
魔法域《レギオン》の中で優れた人材や設備を併せ持つこの学園を廃墟と化し、流通の供給を停止することで効率よく他の魔法域《レギオン》を弱体化させることができるってこと。」
悦に浸るシトリーにファルナは舌打ちをうった。
「バカか、あいつは・・・しゃべりすぎだ。やっぱり霊魔《イカゲ》は咎人に似たんだろうな。」
しなるように伸びるシトリーの蹴りをセリカは薙ぎ払う。
「そんなことはさせないっ!もう誰も犠牲にはさせないっ!!」
豪炎が舞う。握っていた氷剣が燃え盛る炎剣へと姿を変えた時、セリカはそれを思い切り振り下ろした。
「ギャァァァッッ!!」
「シトリーッッ!!」
あっという間に炎に包まれたシトリーにファルナは慌てて水のエレメントストーンを投げつけた。
「大丈夫か、シトリーッ!!」
「う・・・うぅ・・・」
シトリーは自分の姿に愕然とする。艶のある自慢の髪、お気に入りの生地で誂えられた服、シミ一つないきれいな肌、それらがすべてボロボロだった。
「あ・・・あぁぁっ・・・!!」
「シトリー落ち着けっ!」
「離せっ!・・・殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!!こいつだけは絶対に許さないっ!」
あまりの強い殺気にセリカは思わず後ずさる。セリカに向かって一直線に飛び出したシトリーだったが、突如その動きがピタリと止まった。見ればファルナも目を丸くして立ち尽くしている。
不審に思ったセリカが2人の視線を追うと、そこには黒ふちのメガネをかけた長身の男が立っていた。
「ク、クラルト、さま・・・」
「なぜあなたがここに・・・」
シトリーの怒りが急速に鎮まっていく。その代わりにひどく怯えた様子に急変していったのだ。
クラルトと呼ばれる男はセリカをジッと見つめている。その目は、新しい玩具を見つけた子どものようにキラキラとしていた。
「クラルト様っ!その娘はゼロの・・・いえ、私たちにとって障害となる存在です。すぐに私が殺しますのでっ!」
男の視線は変わらない。興味津々にセリカを見ている。
「クラルト様のお手を煩わせるほどの者ではございません。私にお任せ――」
「うるさいよ。」
その時、突然シトリーの背中から血が吹き出した。その場に倒れるシトリーを慌ててファルナが抱き起こす。
「シトリーッッ!?」
「くっ、は・・・」
「な、なんで・・・なんでっ!」
「俺、おしゃべりな女は嫌いなんだよね。」
さらにクラルトはクイっと指を動かした。するとシトリーに大きな衝撃が加わり体がビクンと跳ねた。
「ガ・・・ッ・・・!」
「シトリーッーー!!しっかりしろっ!!」
「ゴッ・・・フ・・・!な、んで・・・ゼロじゃ、ない、のよ・・・なん、で、あんた、なの、よ・・・。」
「シトリー・・・!」
「ふ、ふ・・・あんたも、そん、な顔、できたのね・・・。この腕が、ゼロじゃないのは、気に、いらないけど、あんたなら、まぁ、いいわ・・・。」
「シトリー・・・?シトリーーッッ!!」
シトリーの艶やかな羽織が真っ赤に染まる。血に濡れたシトリーの体をファルナは力いっぱい抱きしめた。
0
あなたにおすすめの小説
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~
田尾風香
ファンタジー
ある日、リィカの住む村が大量の魔物に襲われた。恐怖から魔力を暴走させそうになったとき前世の記憶が蘇り、奇跡的に暴走を制御する。その後、国立の学園へと入学。王族や貴族と遭遇しつつも無事に一年が過ぎたとき、魔王が誕生した。そして、召喚された勇者が、前世の夫と息子であったことに驚くことになる。
【改稿】2026/01/01、第一章の36話までを大幅改稿しました。
これまで一人称だった第一章を三人称へと改稿。その後の話も徐々に三人称へ改稿していきます。話の展開など色々変わっていますが、大きな話の流れは変更ありません。
・都合により、リィカの前世「凪沙」を「渚沙」へ変更していきます(徐々に変更予定)。
・12から16話までにあったレーナニアの過去編は、第十六章(第二部)へ移動となりました。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる