エレメント ウィザード

あさぎ

文字の大きさ
92 / 135
第3章2部

不協和音

しおりを挟む
 「それで、現在のスコアはどうなっておるんかの?」
 「下位が東のハドリジスと北のシムリ。上位が西のノスタミザ、そしてここ南のサージュベルじゃ。資料を見とらんのかの?」
 「老眼が進んでのう。小さい文字は読む気になれん。それに、ここが上位であれば読む必要もあるまい。」
 「予算がしっかり入ってくれればってことかえ。」
 「否定はせん。軍資金は多いに越したことはないじゃろう。」
 「キレイゴトでは育成機関は運営できんからのう、ふぉっふぉっふぉ。」

 ミトラにとって下卑た笑いが響き渡る。

 「それで、此度の評議会の焦点である咎人の企てと、それについての対策はどうなっておる、ミトラ。」
 「・・・現在調査中です。これといって目立った進展はありません。」
 「ふん、情けない。研究開発と情報操作にどれだけの予算を使っておると思っておる。」
 「他の機関より早く策を立てれば連合ユニオンから眷顧にあずかれる。そうすればより潤沢な資金が流れてくることもありえるかものぅ。」
 「咎人と霊魔消滅について戦略を急がせろ。そのためにお前には十分な権限は与えているはずだ。」
 「・・・。」
 「そういえば、上級魔術師ハイウィザードであるノジェグル教を追放したそうじゃないか。ただでさえ、上級魔術師ハイウィザードは貴重な存在。それ相応の理由があったのか?」
 「彼には重大な服務規律違反がありました。詳細については報告書を上げています。」
 「また報告書か。」
 「文字だけでは伝わらんこともあるんではないかのう。」
 「一介の生徒が・・・立場を勘違いしているのでは?」

 ミトラは拳をぎゅっと強く握った。

 「まぁまぁ。評議会ではそれ以上の活躍を見せてくれるということであろう。」
 「そうだ、年に1度の評議会。他の機関との差別化を図る絶好の機会じゃ。格の違いを見せつけて、我が機関の優勢を見せつけてやればよい。それに本年の予算はこの評価によって決まるのだから失敗は許されんぞ、ミトラ。」
 「・・・はい。」
 「生徒会プリンシパルの活躍、期待しておるぞ。」

 ミトラは軽く頭を下げると、その重厚で派手な扉を開け部屋から出た。




 「設営に関しては以上です。」
 「次に全体の進捗状況について――」

 先日の老人たちとの実のない話し合いを思い出したミトラは、ため息をこぼす。

 「会議中」

 誰にも分からないようにしたつもりだったが、自分の右腕でもあるこの副会長には通じなかったようだ。
 シェティスにたしなめられたミトラはいつもの笑顔で作った。

 「うちの生徒会メンバーは優秀だからね。僕の出番はないよ。」
 「何言っているのよ。あなたが中心でしょ。――待って、もう1度当日のゲストセキュリティについて確認を。」

 ミトラに気をかけながらも、シェティスは会議中の内容に耳を傾けていたようだ。もう何度目かも分からない確認事項を、その透き通る声で復唱している。

 (いやいや、本当に、僕なんかいなくても・・・。)

 頼もしい副会長の進行のおかげで、この日の会議は閉会した。
 部屋に残ったのが、生徒会プリンシパルのメンバーだけなのを確認したミトラは思い切り腰を伸ばす。

 「お疲れさまです、ミトラ会長。大丈夫ですか?」
 「あぁ、ありがとうシュリ。大丈夫だよ、みんなが頑張ってくれているからね。」
 「ミトラさん、紅茶飲みますか?」

 無遠慮に見上げるノノリの瞳は大きくて丸い。ミトラはノノリの小さな頭に手を乗せた。

 「いや、今はいいかな。ありがとう、ノノリ。」

 見上げるノノリの顔は冴えない。ミトラは再びいつもの笑顔を見せた。

 「ノノリの淹れる紅茶は美味しいから、ついつい仕事をサボってしまいそうなんだ。これからもう少し目を通しておきた書類があるからね。」
 「じゃあ、それが終わったら淹れます!ミトラさんが好きな茶葉を用意するです!」
 「うん。俄然やる気が出るよ。楽しみにしているね。」

 ノノリの笑顔にミトラもホッとする。

 「アイバンとシュリは、引き続き進捗状況を精査して遅れているところへ支援に行って。ノノリは議事録と報告書をまとめておいて。」
 「はい。」

 声をそろえた3人が部屋から出ると、ミトラはゆっくりと椅子に座った。

 「そんなにわかりやすいかな、僕は。」
 「目の下にそんなクマを作られたら誰だって気づくわよ。それに、生徒会プリンシパルのメンバーはあなたが大好きだから。」
 「光栄だね。」
 「議事録と現段階の進捗状況は私が確認するわ。あなたは少し休んで。」
 「そういうわけにはいかないよ。みんなだって疲れているはずだ。こんなタイミングで属性魔法評議会エレメントキャンソル、しかも運営側だからね。」
 「視野の広い統率力を上が見せてくれればいいんだけど。」
 「あの老人たちにそんな能力はないさ。面倒事はすべて丸投げ。かといって結果を残さないと影響が及ぶのは生徒たちだ。僕たちは体の良い操り人形のようなものさ。」
 「サージュベルの魔法研究は、依然高い水準を保っているわ。魔法域レギオンだって安定している。これ以上何を望むの?」
 「甘い蜜を吸った人間の欲は限度を知らないんだよ。どれだけの見えない資金が元老院に流れているか、想像しただけでゾッとするね。」
 「ミトラ――」
 「それより――」

 シェティスの言葉をミトラは遮った。

 「それより、アシェリナは予定通りのスケジュールで来校できそうかい?」

 何か言いたげな視線を送ったシェティスだったが、軽くため息をつきタブレットを取り出す。

 「問題ないわ。予定通り明日の午前に来校予定よ。SPを付けるか聞いたけど、一蹴されたわ。」
 「ふふ。彼には必要ないよ。逆にこっちが守られてしまう。」

 目尻を下げたミトラの顔は、いつもの鉄壁の笑顔ではなかった。

 「嬉しそうね、ミトラ。アシェリナ様にお会いするのは久しぶりじゃないの?」
 「ふふ、そうだね。あの人がサージュベル学園の英雄なんて――」
 
 不意に途切れた言葉にシェティスはミトラを見た。そこにはもうさっきの笑顔は見られない。

 「だから――」
 「うん。」
 「だからこそ、彼には属性魔法評議会エレメントキャンソルに参加してほしくなかった・・・!」

 ミトラは拳を強く握り、悔しそうに声を震わせる。

 「こんなしがらみだらけの場に、アシェリナ様は来ないと思っていたけど・・・。
 でも、きっと参加を決めたのはあなたが今ここで頑張っているからじゃないの、ミトラ。」
 「・・・。」

 うつむいたミトラの表情は見えない。シェティスは扉に手をかけた。

 「英雄様にそんな疲れた顔を見せる気?」
 「え?」
 「3時間後に迎えにくるわ。それまでは待機しておいて。」
 「シェティス――」
 「休むことも仕事の1つよ。業務のパフォーマンスを上げるためにね。これは副会長命令です。」
 「・・・。」
 「まだまだ準備はあるんだから。仕事をたくさん持ってくるから覚悟しておいてね。」
 「・・・ふふ、分かったよ。」

 ミトラが可笑しそうに笑う。シェティスはそのまま部屋を出ていった。
 1人残されたミトラは空を仰いだ。

 「・・・本当に僕は助けられてばかりだ。」

 右手で左肩をさする。制服の擦れた音が淋しげに響いた。

 「それでも、木偶の坊なりの意地は見せてやるさ。」

 そうつぶやくと、部屋に飾られた時計を見る。
 2時間ほどの仮眠を決めたミトラは自室に引き上げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香
ファンタジー
ある日、リィカの住む村が大量の魔物に襲われた。恐怖から魔力を暴走させそうになったとき前世の記憶が蘇り、奇跡的に暴走を制御する。その後、国立の学園へと入学。王族や貴族と遭遇しつつも無事に一年が過ぎたとき、魔王が誕生した。そして、召喚された勇者が、前世の夫と息子であったことに驚くことになる。 【改稿】2026/01/01、第一章の36話までを大幅改稿しました。 これまで一人称だった第一章を三人称へと改稿。その後の話も徐々に三人称へ改稿していきます。話の展開など色々変わっていますが、大きな話の流れは変更ありません。 ・都合により、リィカの前世「凪沙」を「渚沙」へ変更していきます(徐々に変更予定)。 ・12から16話までにあったレーナニアの過去編は、第十六章(第二部)へ移動となりました。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

処理中です...