エレメント ウィザード

あさぎ

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第3章2部

属性魔法評議会

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 ――属性魔法評議会エレメントキャンソル――
 連合ユニオンから選ばれた4つの機関が1年に1度集結する意見交換の場。
 各機関の代表が現状における問題や懸案を話し合い議論することで、意思共有を明確化することを目的とした交流の機会である。
 主催場所は4つの機関を当番制とし、その年の運営は開催機関代表が取り締まり公平性を図ることとする。

 表示された説明を読み終えたシリアはタブレットをパタリと閉じた。

 「それで、今年の属性魔法評議会エレメントキャンソルが、このサージュベル学園で行われるということなんだな。だから、最近学園が慌ただしいのか。」
 「えぇ、そうですわ。主催機関として他の機関の代表の方を招くわけですから、やはり力が入るのでしょうね。」
 「しかも、今回は咎人と霊魔の歪んだ関係性が発覚してから初めての評議会だからなー。連合ユニオンも注視しているだろうし、話し合いの場が荒れそうで面倒くさそー。」
 「不謹慎ですわよ、テオ。」

 シリアが窘めるとテオは小さく舌を出した。
 セリカが教室の窓から下を見下ろすと、忙しなく動く女子生徒2人が廊下を渡り隣の棟へ消えていく。

 「この学園の代表といったら――」
 「もちろん、生徒会プリンシパルだよー。」

 自身の髪の毛をクルクルと触りながら現れたのは、大きめのパーカーに身を包んだロイだ。

 「あら、ロイ。そのヘアクリップ可愛いですわね。」
 「へへ、ありがとー。」
 「どうせ、どっかのお姉さまからの貢ぎ物だろ。」
 「羨ましいの、テオ?」
 「羨ましくねーよ、この節操無しが。」
 「生徒会プリンシパルって、アイバンとシュリたちか?」
 「相変わらずぶれないね、セリカは。」
 
 パーカーのポケットに手を突っ込んだロイは、少し寒そうに身震いして見せた。

 「代表は会長のミトラさんだよ。運営は生徒会プリンシパルが担ってるけど、テオの言う通り、今回は連合ユニオンも絡んでるからそれなりの準備が必要みたい。人手が足りないから、評議会準備のボランティアも募集しているみたいだよ。点数は少ないけどクエストも受注されてるみたいだね。」
 「さすが詳しいですわね、ロイ。」
 「それもお姉さま方から聞いた情報か?」
 「羨ましいの、テオ?」
 「だから羨ましくねーって!」
 「確かエリスと菲耶フェイも参加すると言っていましたわね。」
 「そうそう。生徒会プリンシパルの傍で働けるってなかなかない機会だし、エリスは生徒会プリンシパルに強い憧れを持っているから。」
 「ふーん、すごいな、エリスと菲耶フェイは。」
 「セリカは参加しないの?」
 「私はそういうのに向いていないな。」
 「あー。それは分かる気がする。」

 にっこりと笑うロイに悪意は感じない。

 「出た、ロイの毒吐きスマイル。」
 「でも、不思議と許せちゃうのですよね。・・・そういえば、セリカ。上級魔術師ハイウィザードについて調べてるって言っていましたが、何か分かりましたか?」
 「上級魔術師ハイウィザードについて?何でまた?」

 ロイが意外そうな声を出した。

 「単純に興味が湧いたんだ。私たちが目指す魔術師ウィザードをさらに超える力を持つ上級魔術師ハイウィザードという存在に。どんな魔法力があって、どこまで精霊の力を使役できるのか、他にも、まぁ色々と・・・。」
 「ふーん。この学園の先生たちの4割は上級魔術師ハイウィザードだよ。」
 「えっ、そうなのか?」
 「そりゃあ、サージュベル学園そのものが育成機関として魔術師ウィザードの排出率も、実績も群を抜いているからね。そこで教鞭を執るということは、当たり前にそれなりの実力が必要ってことなんじゃない。」
 「ジン先生やライオス先生もか?」
 「ライオス先生は上級魔術師ハイウィザードだよ。でも確かジン先生は違ったはず。結構な実力を持ってるはずなんだけどね。」
 「フルソラ教授も上級魔術師ハイウィザードでしたわよね?」
 「ハイスペだよねーあの人。上級魔術師ハイウィザードな上に医療メディカルクラスの教授だよ。」
 「はいすっぺ?」
 「ハイスペックの略ですわ、セリカ。まぁ、優秀ってことですわね。」
 「そうそう。上級魔術師ハイウィザードといえば、とっておきの情報があるよ。」

 ロイがにんまりと笑う。

 「なんだよ、ロイ。」
 「実は、今度の属性魔法評議会エレメントキャンソルに合わせてアシェリナさんが戻ってくるらしいよ。」
 「えっ!アシェリナ様ですか!?」

 シリアの甲高い声が辺りに響いた。

 「シーッ!!シリア、声がでかい!」
 「あ、大変失礼しましたわ・・・。」

 シリアは恐縮したように身を縮こませた。

 「誰だ、アシェリナ様って。」
 「セリカは相変わらずこういうことに疎いね。」
 「あぁ、聞いたことのない名前だ。」
 「アシェリナ様とは、世界で活躍する上級魔術師ハイウィザードですわ。数多の霊魔を一瞬でなぎ倒す圧倒的な力と、どんな攻撃をも華麗に往なすそのお姿は、誰もが憧れと羨望を抱く、唯一無二の存在なのです!」

 シリアは小さく、しかし興奮を隠せない様子ではしゃいでいる。その様子にテオは小さく舌打ちをした。

 「なんで、アシェリナが戻ってくるんだよ。」
 「呼び捨てなんて失礼ですわよ、テオ!アシェリナ様は、私たちからしたら自慢の先輩であり英雄ですのよ!」
 「そう。アシェリナさんはこのサージュベル学園の卒業生で、この世界で最も活躍する上級魔術師ハイウィザードの1人なんだ。常により難易度が高いクエストや仕事に携わっているから普通だったら絶対に会うことはできない崇高な人なんだよ。」
 「そんな人が何で?」
 「さっきテオも言ったように、今回の属性魔法評議会エレメントキャンソルで最重要とされる議題は咎人と霊魔のことだろう。
 ジェシドさんが発表した論文で明らかになった霊魔製造に人間、特に子供を素材とすることが世界に広まった今、連合ユニオンからの指示で各機関は自分たちの魔法域レギオンを守るためにこの議題に対しての対応を明確にしなければならなくなった。勿論、連合ユニオンからの使者だって送られてくるだろう。より有効な手段や対処方法を発表することで、連合ユニオンへアピールすることも含まれているんじゃないかな?」
 「なるほどな。自分たちが他の魔法域レギオンより優秀であることを見せつけるために、世界で活躍するアシェリナを表舞台に出すことでけん制しようってところか。」
 「そんな・・・。大事な話し合いの場に見栄や誇示を示すなんて――。」
 「キレイごとだけじゃ機関は運営できないってことだよ。」

 ロイが肩をすくめる。そんな中、セリカだけが腑に落ちない顔をしていた。

 「魔法域レギオン?アピール?」
 「セリカ、魔法域レギオンとはこの世界を大きく東西南北に分けた領域のことですわ。連合ユニオンに選ばれたそれぞれの場所を統治する国や機関が4つに分散していて、このサージュベル学園は南の魔法域レギオンを統治する機関となっていますの。」
 「じゃあ、他の3つの魔法域レギオンにもこの学園みたいな機関があって、その代表が今回ここに集まるってことか。」
 「そういうことだね。選ばれたそれぞれの機関は、自分たちの領域の環境を充足させ、安寧と平穏を約束するんだ。でもそれには、それなりの資源や活動に対しての財源が必要となってくる。それはどこから生まれると思う?」
 「どこだ?」
 「連合ユニオンだよ。連合ユニオンは4つの魔法域レギオンを比べて、充実度に基づき評価と順位付けをするんだ。もちろん、評価が高いほど援助する資金も多くなる。
 各機関は、研究開発費や防衛費、環境維持費など魔法域レギオンを守るために膨大な資金が必要だから、連合ユニオンからの援助は喉から手が出るほど欲しい金策ってことなんだ。」
 「だから4つの魔法域レギオンは協力関係というよりは、ライバル関係に近いかもな。より金をもらうために自分たちの評価を上げることに躍起になってるってことだ。」
 「なるほどな。それで今回の議会に来る連合ユニオンの使者にアピールするってことか。」
 「自分たちにより有利なカードを用意することで、差別化を図り優位に立とうとする。なんとも堅苦しい政治的な構想が渦巻いているよなー。」
 「なんだか・・・悲しいですわ、そんなの。4つの機関が協力すれば今起きている困難な問題にもきっと立ち向かえるでしょうに。」

 シリアはキュッと帽子をかぶり直した。

 「では、サージュベル学園のカードがそのアシェリナという人物ということなのだな。」
 「そのとおり。でもせっかくだから、アシェリナさんの武勇伝とか難攻不落のクエストをクリアした話とか聞きたいところだよね。」
 「おお、おもしろそう!俺も聞きたいっ!」
 「私は実用的な魔法構築のお話を聞きたいですわっ!」

 3人が盛り上がるなか、セリカは再び下を見下ろした。今度は大量の資料を持った男子学生と女子学生が足早に廊下を駆け抜けていく。
 忙《せわ》しい雰囲気が漂う学園に不穏な影が忍び寄っていることは、この時はまだ誰も知る由もなかった。
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