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第3章
絆の拳
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「シリア。」
「え、テオ――?」
シリアの淡く柔らかそうな唇に、自身の口を重ねようとした時だった。
「お邪魔しまーす!」
遠慮のない派手なドアの開閉音に、2人は慌てて身体を離す。
「おぉわっ!!!」
「オ、オルジッ!!」
部屋に入ってきたのはオルジだった。制服を脱ぎ、私服に身を包んだ彼は少しだけ大人っぽく見える。
「なっ・・・!な、おま・・・お前、ノックしろよっ!!」
「どうしたの?顔真っ赤だよ、テオ。」
オルジはニヤニヤしている。
「あ、赤くねーよっ!!」
「わ、わたくし、飲み物を買ってきますわっ!!」
跳ねるように立ち上がり、オルジの横をすり抜けたシリアの顔も赤い。オルジは自然と顔がほころんだ。
「元気そうじゃん、テオ。」
オルジは部屋をグルリと見回しながら言った。
「立派な部屋だね。フルソラさんが手配してくれんだって?」
「・・・っ、そうだよ、功労者だからとか言って個室を用意してくれたんだよ。・・・それより、今さらお見舞いに来たのかよ。今まで顔を見せなかったのに。」
目を吊り上げたテオの顔は変わらず赤みがさしている。それは先ほどの動揺なのか、自分に対しての怒りなのか。
「僕がお見舞いに来なくて寂しかったのか?」
「んなっ!なわけ、あるかよっ!!」
テオが腕を組み、思いきり顔を背けた時、オルジはベッドにある物を放り投げた。
「グ、グローブ・・・?」
そこには黒色を基調とした肌触りのよさそうなグローブがある。オレンジのラインが際立って明るく見えた。
「それを開発していたんだ。だからすぐに来れなかった。」
オルジはさっきまでシリアが座っていた椅子に腰かけた。
「テオの新しいグローブだよ。オレンジのラインが気に入っている。」
「オルジ・・・。」
「相談も無く学園を辞めて悪かったと思ってるよ。でも・・・結構前から決めていたんだ。」
「前って・・・?」
「さっき、シリアから聞いただろ?」
「・・・おまっ!」
(コイツ、やっぱりタイミングを計って入ってきやがったなっ!!)
再び目を吊り上げるテオが可笑しくて、オルジは笑いをこらえることができなかった。
「あははっはははっ!!ゴリラみたい!」
「な・・・!なんだとっ・・・!」
テオはオルジを掴もうとしたが、まだ体を自由に動かせない。
「ちっ!!くそっ・・・!!」
悔しそうに呟くテオは自分の拳をベッドにぶつける。その音はひどく頼りないものだった。
「・・・こっぴどくやられちゃったね。」
急に沈んだオルジの声にテオは顔を上げる。彼の目はもう笑っていない。
「フルソラさんに全部聞いたよ。救援が来なかったら僕たちは全滅していただろう。」
「・・・。」
「敵の実力を見誤った。テオのオーバーヒートに気付けなかった。シリアやジェシドさんのフォローができなかった。反省点を挙げればキリがない。」
「そんなの・・・。」
「村の人を・・・おばあさんを助けることができなかった。」
「・・・っ!」
2人の間に重い空気が漂う。
「・・・ばあちゃんは・・・村の人は・・・?」
「学園と連合の調査隊の人たちが手厚く埋葬してくれたそうだ。」
「連合・・・?なんでそこまでの組織が?」
「ジェシドさんの論文とシャノハ博士の立証を踏まえ、今回の事態を重くみた連合が直々に動き出したそうだ。
子どもたちの安全はもちろん、不可解な失踪事件が増えている報告もあり、各地域により一層の強化調査隊を編成し駐屯するよう呼び掛けているよ。上級魔術師も広範囲にわたって配置されるそうだよ。」
「なんかスゲーことになってるな・・・。」
「これまでに解明されなかった咎人と霊魔による悪行が、予想以上に速く世界に遍満していることに焦ったんだろう。今回の件は、魔術師《ウィザード》界に大きな変革をもたらしたんだ。」
「変革・・・。」
「どうやら、咎人と霊魔の一掃に本腰を入れるようだよ。その為に、各魔術師育成機関にも声が掛かっている。その業界でナンバーワンを誇るサージュベル学園もその1つさ。」
「そんな情報、どこで聞いたんだよ。」
オルジはテオの持つグローブを見た。
「今お世話になっているファクトリーの人から聞いたんだ。学園とは違う独自ルートの情報っていうのかな・・・。それに、僕の魔法に興味を持ってくれて、よくしてもらってるよ。」
「・・・。」
「テオの話をしたんだ。怪力バカの幼馴染がいるって。魔法力の強さだけで魔術師を目指している筋肉バカで、僕が魔法力を調整しないとすぐに魔法力の器が枯れちゃうバカなやつがいるって。」
「はぁっ!?お前、バカって何回言う気だよっ!?」
「そしたらさ――」
「おい、無視かよっ!?」
「そしたら、それはお前さんのせいだって。」
「えっ?」
「お前さんが、その幼馴染の成長を止めているんだって、言われたよ。優秀なサポーターが傍に居れば、その分ソイツの魔術師への道は遠くなるだろうってね。」
「・・・。」
「中等部の時にも、同じようなことを言われていたね。」
「・・・聞いてたんだな。」
「うん。その時のテオの顔ったら・・・。」
「腹が立ったんだ。オルジがオレの邪魔をしているみたいな言い方されたから。」
「きっと、その先生は分かっていたんだよ。僕が魔術師になれないって。」
「・・・っ!そ、そんなこと――」
テオはハッとする。オルジの眼に一切の曇りが見られなかったからだ。
「僕は確かに人のエレメントの力をコントロールすることに長けていると思う。でもそれだけでは、ダメなんだ・・・。」
「オルジ・・・。」
「フォローだけでは魔術師にはなれない。前に出て戦わなくてはいけないんだ。今回のテオやシリアのようにね。
僕は・・・2人が背中を預けられるような魔術師になりたかった。
でも、そんな願望だけで生きていける世界ではないと、改めて思い知らされたよ。」
「でもっ、でもよぉ・・・!」
テオはベッドのシーツを強く握りしめる。それは自分も強く感じたことだったからだ。
「テオ、あの時のことを覚えているか?」
「あの時?」
「バミの木の木版の水分率を、魔法で調整する課題の時さ。」
「あ、あぁ・・・。」
あの時のことはよく覚えている。クラスメートに愛想を尽かされ困っていたテオをオルジが全力で助けてくれた。
2人の力を合わせれば最強の魔術師になれると確信した日でもあったからだ。
「当時から、周りの生徒の魔法力の大きさや伸びしろに焦りを感じていた。実戦《バトル》クラスを目指すべきがどうか、迷っていた時だった。・・・あの時も、テオの魔法力の強さに、僕は劣等感を抱いていたんだ。」
「え・・・?」
「僕が魔術師を諦めようかと話した時、テオは言ったよね。僕のコントロール力は『使い方』や『戦い方』次第で、大きな武器になるとかならないとか、2人で最強の魔術師になんちゃらかんちゃら、とか・・・。」
「覚えてないんかい。」
「そんなことを、恥ずかしげもなく話してくれたよね。」
「何だよ、別に恥ずかしくねーよ。オレは本気でそう思ってるよ!」
「うん。本気で言ってくれているのが分かった。だから、テオは僕の一筋の希望の光だったんだ。」
「オルジ・・・。」
「シリアが聞いたら、また他力本願だって怒られちゃうね。」
椅子が固い。オルジは楽な姿勢に座りなおす。
「僕のエレメントは特別強いわけでもないし、魔法力の器もこれ以上拡張されないだろう。だから、魔術師は難しいと思う。でも、僕は僕なりの戦い方を探そうと思うんだ。」
「戦い方・・・?」
「うん・・・!このグローブなんだけど、前のようにテオの魔法力を調整する機能は無いからね。」
「へ?」
テオのマヌケな反応にオルジはニヤリ笑う。
「これからはテオがこのグローブを育て、性能を練り上げて自分と同化させるんだ!」
「育てる・・・?同化・・・?」
「うん。テオの魔法力の器はまだまだ成長途中だ。それに合わせるような道具は、その人の限界点を無理やり決めてしまう。それでは本当の力を発揮することはできない。だから、自分の身体の一部として動かせるようにグローブを育てるんだよ。『扱う』という概念を捨てるんだ。」
「そんなことが――」
「できる!テオだったらできる。」
オルジの眼はキラキラしている。
「その為に、僕の風精霊のエレメントを組み込んだ素材を使っている。軽量化を計るためにね。そしてこのオレンジライン!これはファクトリーにあるエレメント付随装置という特殊機械で、土精霊の上級属性変化である『生育』を付帯させたんだ!
これに伴い、グローブが使い手のエレメントの火力に呼応して成長するという素晴らしい性能を持たせることに成功した。なにも、火精霊だけに拘る必要はなかったんだ。四元素の精霊たちに長所と短所を活かせば、無限の可能性が生まれる!」
「オ、オルジ・・・?」
「だから、これはまだまだ試作品。だからテオには、この性能を試して感想を聞かせて欲しい。改良していけば、より強力な道具の要素となるかもしれないっ!いいかい、テオッ!!」
目の前に迫ったオルジの頬は紅潮している。テオはグイツとそれを押しのけた。
「わ、分かった。分からないけど、分かったって!」
「どっちなんだよっ!」
「いや、とりあえず、このグローブを使ってみて感想を言えばいいんだろ?」
「そう!内容は細かく教えてよ。どんな時に1番力を発揮できたとか、グローブが変化した時は何が原因だったか――」
「おいおい、戦いながらそんなこと覚えてられないぞっ!」
「・・・確かにそうか。テオは頭より先に体が動くもんね。じゃあ、とりあえず印象に残ったこと1個ずつでいいから。それぐらい、筋肉バカのテオでも覚えておけるでしょ?」
「筋肉バカって何だよっ!ってか、さっきからバカバカ言い過ぎじゃないかっ!?」
「仕方ないな。テオ用にレポートの項目を分かりやすいようにリスト化するか。」
オルジは小型のタブレットを取り出し、ブツブツ言いながらメモを取りはじめた。
「って、おい、聞いてるのかっ!お前、親しき中にも礼儀ありだぞ、おい、オルジっ!」
「聞いてるよ~・・・。そうだ、効果のテスト評価も作ってみよう。比べられる素材は多い方がいいから・・・。それと、え、グローブの素材のことが聞きたいって言った!?」
「へっ?」
「え、付随装置の仕組み聞きたいって言った?」
「んっぶふっ・・・!!」
「えっ、なに?キモチワルイ笑いをして・・・それより、さっきなんて――」
「ぶふっ、ふふははっはっはっはははっ!!んなこと、一言も言って、ねぇよ・・・どんな耳、してんだよ、お前、ふはははははっっ!」
堪えきれないテオの笑いは、ここが病室だということを忘れるほど大声量だった。
「ちょっ・・・!うるさっ、うるさいよ、テオッ!!」
「だって、だってお前、全然わけ分かんないこと・・・あっははっははっはははっ!」
テオの話を聞いていなかった自分に非があるため、オルジはそれ以上のことを言えない。大人しくテオが落ち着くのを待つしかない。
「あ~ぁ・・・。なんかさ、久しぶりに見たよ。お前のそんな顔。」
「顔・・・?」
「ああ。最近ずっとしかめっ面でさ、眉間に皺寄せて・・・こーんな顔してさー。」
そう言うと、テオはとびきりの変顔をオルジにして見せた。
「なっ・・・!僕はそんな顔してないよっ!!」
「いいや、してたね。辛気臭い顔で不機嫌でさ。でも、久しぶりに活き活きとした顔が見れたよ。」
「・・・うん。ファクトリーで試行錯誤しながらアイテムを作るの、面白いよ。」
「そうか・・・。」
テオは少し寂し気な顔でうつむいた。そしてチラリとオルジを見た。
何か言いたげなテオを前に、オルジは小さくため息をつく。
「なに?何か言いたいことでもあるのか?」
「・・・うん、いや・・・・。」
「ハッキリ言いなよ。」
「・・・うん。・・・いや、オレはその、オルジの邪魔をしたんだよな・・・劣等感を抱いたり、魔術師を諦め、たのは・・・その、オレの所為なんだよな・・・」
背中を丸めるテオの図体はそれでも大きいのに、今にも消えそうなか細い声だった。
テオの根底にある引っ掛かりはこれだったのかと、オルジは大袈裟に大きなため息をつく。
「だって!だって、オレが・・・お前を巻き込んで、勝手にオレたち2人なら、って・・・」
「言っただろ?テオは僕の一筋の希望の光だったって。」
「え・・・?」
「希望の光を目標に歩んでいたんだ。でも、確かに僕は挫折した。」
テオはビクリと小さく体を揺らす。
「だから、僕は希望の光を追うのではなく、希望そのものの光になることにした。」
「・・・え?」
「テオ。2人で最強の魔術師にはなれなかったけど、僕は僕の世界でお前の横に立つよ。」
「オレの・・・横?」
「うん!戦う魔術師の為に、霊魔たちの被害に遭う人々の為に、僕は挑戦する。それは最強の魔術師になるお前と同じ場所に立つということだ。背中合わせじゃない、僕はテオたちの横で、僕なりの戦いをする!」
「オルジ・・・。」
「テオの光を道しるべに、僕の光を見つけたんだ。それって、最高で最強の相棒じゃないか。」
「・・・!」
オルジは思いきりの笑顔を見せる。そして拳を突き出した。
「負けないからな、テオ。」
「・・・ふん。すぐに差をつけてやるよっ!」
テオも拳を突き出す。2人は力強く拳をぶつけ合い、そしてまた大きく笑った。
その笑い声を病室のドアの外で聞いていたシリアは、溢れる涙をグッと堪え笑顔を作る。
そして、勢いよく病室へ入っていった。あの頃と変わらぬ、屈託のない笑顔をする優しく不器用な男の子たちのもとへ。
「え、テオ――?」
シリアの淡く柔らかそうな唇に、自身の口を重ねようとした時だった。
「お邪魔しまーす!」
遠慮のない派手なドアの開閉音に、2人は慌てて身体を離す。
「おぉわっ!!!」
「オ、オルジッ!!」
部屋に入ってきたのはオルジだった。制服を脱ぎ、私服に身を包んだ彼は少しだけ大人っぽく見える。
「なっ・・・!な、おま・・・お前、ノックしろよっ!!」
「どうしたの?顔真っ赤だよ、テオ。」
オルジはニヤニヤしている。
「あ、赤くねーよっ!!」
「わ、わたくし、飲み物を買ってきますわっ!!」
跳ねるように立ち上がり、オルジの横をすり抜けたシリアの顔も赤い。オルジは自然と顔がほころんだ。
「元気そうじゃん、テオ。」
オルジは部屋をグルリと見回しながら言った。
「立派な部屋だね。フルソラさんが手配してくれんだって?」
「・・・っ、そうだよ、功労者だからとか言って個室を用意してくれたんだよ。・・・それより、今さらお見舞いに来たのかよ。今まで顔を見せなかったのに。」
目を吊り上げたテオの顔は変わらず赤みがさしている。それは先ほどの動揺なのか、自分に対しての怒りなのか。
「僕がお見舞いに来なくて寂しかったのか?」
「んなっ!なわけ、あるかよっ!!」
テオが腕を組み、思いきり顔を背けた時、オルジはベッドにある物を放り投げた。
「グ、グローブ・・・?」
そこには黒色を基調とした肌触りのよさそうなグローブがある。オレンジのラインが際立って明るく見えた。
「それを開発していたんだ。だからすぐに来れなかった。」
オルジはさっきまでシリアが座っていた椅子に腰かけた。
「テオの新しいグローブだよ。オレンジのラインが気に入っている。」
「オルジ・・・。」
「相談も無く学園を辞めて悪かったと思ってるよ。でも・・・結構前から決めていたんだ。」
「前って・・・?」
「さっき、シリアから聞いただろ?」
「・・・おまっ!」
(コイツ、やっぱりタイミングを計って入ってきやがったなっ!!)
再び目を吊り上げるテオが可笑しくて、オルジは笑いをこらえることができなかった。
「あははっはははっ!!ゴリラみたい!」
「な・・・!なんだとっ・・・!」
テオはオルジを掴もうとしたが、まだ体を自由に動かせない。
「ちっ!!くそっ・・・!!」
悔しそうに呟くテオは自分の拳をベッドにぶつける。その音はひどく頼りないものだった。
「・・・こっぴどくやられちゃったね。」
急に沈んだオルジの声にテオは顔を上げる。彼の目はもう笑っていない。
「フルソラさんに全部聞いたよ。救援が来なかったら僕たちは全滅していただろう。」
「・・・。」
「敵の実力を見誤った。テオのオーバーヒートに気付けなかった。シリアやジェシドさんのフォローができなかった。反省点を挙げればキリがない。」
「そんなの・・・。」
「村の人を・・・おばあさんを助けることができなかった。」
「・・・っ!」
2人の間に重い空気が漂う。
「・・・ばあちゃんは・・・村の人は・・・?」
「学園と連合の調査隊の人たちが手厚く埋葬してくれたそうだ。」
「連合・・・?なんでそこまでの組織が?」
「ジェシドさんの論文とシャノハ博士の立証を踏まえ、今回の事態を重くみた連合が直々に動き出したそうだ。
子どもたちの安全はもちろん、不可解な失踪事件が増えている報告もあり、各地域により一層の強化調査隊を編成し駐屯するよう呼び掛けているよ。上級魔術師も広範囲にわたって配置されるそうだよ。」
「なんかスゲーことになってるな・・・。」
「これまでに解明されなかった咎人と霊魔による悪行が、予想以上に速く世界に遍満していることに焦ったんだろう。今回の件は、魔術師《ウィザード》界に大きな変革をもたらしたんだ。」
「変革・・・。」
「どうやら、咎人と霊魔の一掃に本腰を入れるようだよ。その為に、各魔術師育成機関にも声が掛かっている。その業界でナンバーワンを誇るサージュベル学園もその1つさ。」
「そんな情報、どこで聞いたんだよ。」
オルジはテオの持つグローブを見た。
「今お世話になっているファクトリーの人から聞いたんだ。学園とは違う独自ルートの情報っていうのかな・・・。それに、僕の魔法に興味を持ってくれて、よくしてもらってるよ。」
「・・・。」
「テオの話をしたんだ。怪力バカの幼馴染がいるって。魔法力の強さだけで魔術師を目指している筋肉バカで、僕が魔法力を調整しないとすぐに魔法力の器が枯れちゃうバカなやつがいるって。」
「はぁっ!?お前、バカって何回言う気だよっ!?」
「そしたらさ――」
「おい、無視かよっ!?」
「そしたら、それはお前さんのせいだって。」
「えっ?」
「お前さんが、その幼馴染の成長を止めているんだって、言われたよ。優秀なサポーターが傍に居れば、その分ソイツの魔術師への道は遠くなるだろうってね。」
「・・・。」
「中等部の時にも、同じようなことを言われていたね。」
「・・・聞いてたんだな。」
「うん。その時のテオの顔ったら・・・。」
「腹が立ったんだ。オルジがオレの邪魔をしているみたいな言い方されたから。」
「きっと、その先生は分かっていたんだよ。僕が魔術師になれないって。」
「・・・っ!そ、そんなこと――」
テオはハッとする。オルジの眼に一切の曇りが見られなかったからだ。
「僕は確かに人のエレメントの力をコントロールすることに長けていると思う。でもそれだけでは、ダメなんだ・・・。」
「オルジ・・・。」
「フォローだけでは魔術師にはなれない。前に出て戦わなくてはいけないんだ。今回のテオやシリアのようにね。
僕は・・・2人が背中を預けられるような魔術師になりたかった。
でも、そんな願望だけで生きていける世界ではないと、改めて思い知らされたよ。」
「でもっ、でもよぉ・・・!」
テオはベッドのシーツを強く握りしめる。それは自分も強く感じたことだったからだ。
「テオ、あの時のことを覚えているか?」
「あの時?」
「バミの木の木版の水分率を、魔法で調整する課題の時さ。」
「あ、あぁ・・・。」
あの時のことはよく覚えている。クラスメートに愛想を尽かされ困っていたテオをオルジが全力で助けてくれた。
2人の力を合わせれば最強の魔術師になれると確信した日でもあったからだ。
「当時から、周りの生徒の魔法力の大きさや伸びしろに焦りを感じていた。実戦《バトル》クラスを目指すべきがどうか、迷っていた時だった。・・・あの時も、テオの魔法力の強さに、僕は劣等感を抱いていたんだ。」
「え・・・?」
「僕が魔術師を諦めようかと話した時、テオは言ったよね。僕のコントロール力は『使い方』や『戦い方』次第で、大きな武器になるとかならないとか、2人で最強の魔術師になんちゃらかんちゃら、とか・・・。」
「覚えてないんかい。」
「そんなことを、恥ずかしげもなく話してくれたよね。」
「何だよ、別に恥ずかしくねーよ。オレは本気でそう思ってるよ!」
「うん。本気で言ってくれているのが分かった。だから、テオは僕の一筋の希望の光だったんだ。」
「オルジ・・・。」
「シリアが聞いたら、また他力本願だって怒られちゃうね。」
椅子が固い。オルジは楽な姿勢に座りなおす。
「僕のエレメントは特別強いわけでもないし、魔法力の器もこれ以上拡張されないだろう。だから、魔術師は難しいと思う。でも、僕は僕なりの戦い方を探そうと思うんだ。」
「戦い方・・・?」
「うん・・・!このグローブなんだけど、前のようにテオの魔法力を調整する機能は無いからね。」
「へ?」
テオのマヌケな反応にオルジはニヤリ笑う。
「これからはテオがこのグローブを育て、性能を練り上げて自分と同化させるんだ!」
「育てる・・・?同化・・・?」
「うん。テオの魔法力の器はまだまだ成長途中だ。それに合わせるような道具は、その人の限界点を無理やり決めてしまう。それでは本当の力を発揮することはできない。だから、自分の身体の一部として動かせるようにグローブを育てるんだよ。『扱う』という概念を捨てるんだ。」
「そんなことが――」
「できる!テオだったらできる。」
オルジの眼はキラキラしている。
「その為に、僕の風精霊のエレメントを組み込んだ素材を使っている。軽量化を計るためにね。そしてこのオレンジライン!これはファクトリーにあるエレメント付随装置という特殊機械で、土精霊の上級属性変化である『生育』を付帯させたんだ!
これに伴い、グローブが使い手のエレメントの火力に呼応して成長するという素晴らしい性能を持たせることに成功した。なにも、火精霊だけに拘る必要はなかったんだ。四元素の精霊たちに長所と短所を活かせば、無限の可能性が生まれる!」
「オ、オルジ・・・?」
「だから、これはまだまだ試作品。だからテオには、この性能を試して感想を聞かせて欲しい。改良していけば、より強力な道具の要素となるかもしれないっ!いいかい、テオッ!!」
目の前に迫ったオルジの頬は紅潮している。テオはグイツとそれを押しのけた。
「わ、分かった。分からないけど、分かったって!」
「どっちなんだよっ!」
「いや、とりあえず、このグローブを使ってみて感想を言えばいいんだろ?」
「そう!内容は細かく教えてよ。どんな時に1番力を発揮できたとか、グローブが変化した時は何が原因だったか――」
「おいおい、戦いながらそんなこと覚えてられないぞっ!」
「・・・確かにそうか。テオは頭より先に体が動くもんね。じゃあ、とりあえず印象に残ったこと1個ずつでいいから。それぐらい、筋肉バカのテオでも覚えておけるでしょ?」
「筋肉バカって何だよっ!ってか、さっきからバカバカ言い過ぎじゃないかっ!?」
「仕方ないな。テオ用にレポートの項目を分かりやすいようにリスト化するか。」
オルジは小型のタブレットを取り出し、ブツブツ言いながらメモを取りはじめた。
「って、おい、聞いてるのかっ!お前、親しき中にも礼儀ありだぞ、おい、オルジっ!」
「聞いてるよ~・・・。そうだ、効果のテスト評価も作ってみよう。比べられる素材は多い方がいいから・・・。それと、え、グローブの素材のことが聞きたいって言った!?」
「へっ?」
「え、付随装置の仕組み聞きたいって言った?」
「んっぶふっ・・・!!」
「えっ、なに?キモチワルイ笑いをして・・・それより、さっきなんて――」
「ぶふっ、ふふははっはっはっはははっ!!んなこと、一言も言って、ねぇよ・・・どんな耳、してんだよ、お前、ふはははははっっ!」
堪えきれないテオの笑いは、ここが病室だということを忘れるほど大声量だった。
「ちょっ・・・!うるさっ、うるさいよ、テオッ!!」
「だって、だってお前、全然わけ分かんないこと・・・あっははっははっはははっ!」
テオの話を聞いていなかった自分に非があるため、オルジはそれ以上のことを言えない。大人しくテオが落ち着くのを待つしかない。
「あ~ぁ・・・。なんかさ、久しぶりに見たよ。お前のそんな顔。」
「顔・・・?」
「ああ。最近ずっとしかめっ面でさ、眉間に皺寄せて・・・こーんな顔してさー。」
そう言うと、テオはとびきりの変顔をオルジにして見せた。
「なっ・・・!僕はそんな顔してないよっ!!」
「いいや、してたね。辛気臭い顔で不機嫌でさ。でも、久しぶりに活き活きとした顔が見れたよ。」
「・・・うん。ファクトリーで試行錯誤しながらアイテムを作るの、面白いよ。」
「そうか・・・。」
テオは少し寂し気な顔でうつむいた。そしてチラリとオルジを見た。
何か言いたげなテオを前に、オルジは小さくため息をつく。
「なに?何か言いたいことでもあるのか?」
「・・・うん、いや・・・・。」
「ハッキリ言いなよ。」
「・・・うん。・・・いや、オレはその、オルジの邪魔をしたんだよな・・・劣等感を抱いたり、魔術師を諦め、たのは・・・その、オレの所為なんだよな・・・」
背中を丸めるテオの図体はそれでも大きいのに、今にも消えそうなか細い声だった。
テオの根底にある引っ掛かりはこれだったのかと、オルジは大袈裟に大きなため息をつく。
「だって!だって、オレが・・・お前を巻き込んで、勝手にオレたち2人なら、って・・・」
「言っただろ?テオは僕の一筋の希望の光だったって。」
「え・・・?」
「希望の光を目標に歩んでいたんだ。でも、確かに僕は挫折した。」
テオはビクリと小さく体を揺らす。
「だから、僕は希望の光を追うのではなく、希望そのものの光になることにした。」
「・・・え?」
「テオ。2人で最強の魔術師にはなれなかったけど、僕は僕の世界でお前の横に立つよ。」
「オレの・・・横?」
「うん!戦う魔術師の為に、霊魔たちの被害に遭う人々の為に、僕は挑戦する。それは最強の魔術師になるお前と同じ場所に立つということだ。背中合わせじゃない、僕はテオたちの横で、僕なりの戦いをする!」
「オルジ・・・。」
「テオの光を道しるべに、僕の光を見つけたんだ。それって、最高で最強の相棒じゃないか。」
「・・・!」
オルジは思いきりの笑顔を見せる。そして拳を突き出した。
「負けないからな、テオ。」
「・・・ふん。すぐに差をつけてやるよっ!」
テオも拳を突き出す。2人は力強く拳をぶつけ合い、そしてまた大きく笑った。
その笑い声を病室のドアの外で聞いていたシリアは、溢れる涙をグッと堪え笑顔を作る。
そして、勢いよく病室へ入っていった。あの頃と変わらぬ、屈託のない笑顔をする優しく不器用な男の子たちのもとへ。
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