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第2章4部
テオとオルジ
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『だから強いんだって、テオ~!これで何度目だよ!』
『僕たちの魔法の強さに合わせないと、いつまで経っても無理だって!』
『分かってるよ!!』
『分かってないから何回やっても出来ないんだろ!?もう僕は付き合えない。別の人とやろーっと。』
『僕も抜ける。いつまでもテオに付き合ってられないよ!』
『あ、オイ、ちょっと待てよっ!!』
一緒に課題をやっていた2人は、背を向け実習室から出て行ってしまった。
残されたテオは途方に暮れる。
『ちぇっ!!なんだよ、全部オレ1人のせいにしやがって!あいつらだって全然魔法をコントロールできてないくせにっ!!』
テオは怒りに任せ、目の前にあった椅子を思い切り蹴り上げた。椅子はその衝撃により、静かな教室により一層大きな音を立てながら倒れてしまった。
『クソッ!!!!』
倒れた椅子から目を逸らしたテオは、自分の手のひらを見つめる。
力のコントロールが苦手なことは理解していた。それを培う課題で幾度も失敗を繰り返し、愛想を尽かされることは今日が初めてではない。
『クソ・・・』
怒りよりも情けなさが押し寄せてくる。
その時、カタンという音と共に、先ほど倒した椅子が元の状態に直っていた。
『またかい、テオ。』
顔を向けなくても声で存在を確認したテオはそっぽ向く。
『相変わらず同調が苦手だね。力任せに魔法を使ってもこの課題はクリアできないよ。』
『・・・んなこと言われなくても分かってるよ、オルジ。』
そこにはオルジが呆れた顔で立っていた。そして机の上に放置してある手のひらサイズの濡れた木板をテオの前に置いた。
『このバミの木の木板には特殊な油分が含まれている。火だけでは完全に乾燥させることはできないよ。』
出された課題とは、魔法を使い、濡れた木板を乾燥させ水分率を0.08%以下にすることだった。
1つのエレメントでは乾燥させることはできず、複数人で協力し合わなければならない。その上、魔法の力加減を調整しないと燃えてしまったり、水分率を下げきることができないので、見た目以上に繊細な作業を必要とするのだ。
『分かってるよ。でもあいつら、木板が燃えてしまうのを全部オレの所為にしやがって。あいつらだって全然魔法を使えていないから出来ないのによー!』
再びイライラし始めたテオは木板を思い切りぶん投げた。湿気を帯びた木板がゴンと音を立てて壁にぶつかった。
『ほら、そういうところ。』
呆れたため息をついたオルジは、木板を拾いにいく。
『テオは感情の起伏が魔法に伝わりやすいんだ。この作業はゆっくりと木板の様子を観察しながら微調整しないと出来ないんだよ。
木板を乾燥させる作業に焦れて集中力を切らしたんじゃない?早く終わらそうとしたんじゃない?』
テオは口を尖らせる。どうやら図星のようだ。
『他の魔法の流れを感じ取って加減しないと、テオの魔法力だったらすぐに燃えちゃうよ。図体と一緒で火力もでかいんだから。』
『なんだとっ!?』
『この課題、今日が締め切りのはずだけど間に合うの?』
「ぐっ・・・』
『締め切り厳守で、もし出来なかったら追試だよ。』
『・・・。』
テオの頭が自然と下がってゆく。オルジは拾ってきた木板をテオの机の上に置くと、机を挟んだ反対側の席に座った。
『ほら、やるよ。』
『へ・・・?』
『締め切りの時間までまだあるでしょ。ほら。』
『オルジ・・・お前・・・。』
『・・・。』
『お前もまだこの課題ができていな――』
『僕は既に終わらしているからね、この課題!』
『へ・・・?』
『アホ面。』
『はぁっ、何だとっ!?・・・って、もしかして手伝ってくれるのか?』
『・・・別に1回だけとは言われてないし。復習は何回繰り返してもいいわけだし。』
『オルジ・・・』
『言っとくけど、2つのエレメントしか無いから相当難しいよ。せめてもう1人のエレメントがあればすぐに終わるかもしれないけど、今から協力してくれる人を探す時間もないし。』
『望むところだ!』
テオはオルジが座る反対側の席に勢いよく座った。
『よし、やるぞ!』
『うん。まずは木板の状態を把握するんだ。どの程度の火力を出せば乾燥できるか魔法を使いながら観察するんだよ。』
『頭では分かっているつもりだけど、それが超難しいんだよな。』
『とりあえずテオは感覚でやってみていいよ。』
『へ?それだったらすぐに燃えちまうぞ。』
『それを燃えないように僕がコントロールする。頭で分かっているつもりって言うけど、結局は理解できてないんだから。』
『はぁっ!!?何だと、お前っ!!』
『テオは頭じゃなく体で覚えていくタイプってことだよ。ほら、時間がないから早くして。』
『ちぇっ・・・!』
テオは木板に手を添える。そして集中し始めた。木板がゆらゆらと動き始めるとその上からオルジが手を添える。
2人の手の中にある木板からゆっくりと煙が発生し始める、と思った瞬間、ボウッと音を立てて消し炭となってしまった。
『失敗しちまった・・・。』
『テオ、もう1回するよ。』
『・・・おう!』
テオが魔法を込める。木板が燃えないギリギリの加減をオルジが保つ。それは何度も何度も繰り返された。
既に先ほどのクラスメートが投げ出した回数をとうに超えている。2人の顔には汗と疲れが滲み出ていた。
再び木板が燃え、サラサラと散っていく。
『テオ・・・もういち――』
『オルジ、もういいよ。』
低い声音に顔を上げれば、テオが情けない顔をして俯いていた。
『付き合わせちまって悪かった。もう時間もないし、諦めるよ。確かに加点はないけど追試を受けるし。』
『弱音吐いてるぐらいならもう1度やるよ、ほら。』
『いや、もう本当にいいって。出来ないのは仕方ねーじゃん。』
『・・・何言ってるんだよ。早く準備して。』
『でも・・・でも!もう、お前の魔法力が枯渇しそうじゃん!』
オルジは顔を上げない。テオの魔法力をコントロールする分、負担が大きいことは否めないのだ。
『分かってるなら集中して、さっさと終わらせよう。』
『これ以上は無理だって!』
『無理かどうかはテオが決めることじゃない、2人が決めることだ!!僕はまだ無理だと思っていない!!』
普段、声を荒げないオルジが鼻の穴を大きくして立ち叫んだ。
テオは思わずのけぞってしまう。
『そこまでの火力を出し続ける魔法力がありながら何を諦めてるのさ!つべこべ言わず集中しろよっ!』
『・・・オ、オルジ・・・。』
オルジが勢いよく座ると、椅子がガタンと音を立てた。
『魔術師の素質は魔法力の器の大きさにある。それだけを言うならテオの器は非の打ち所がない。しかもこれからだって成長する。
それなのに・・・僕よりも可能性があるお前が先に諦めるなよっ!』
『オルジ・・・』
『僕は火力を出せないがコントロールは得意だ。コツは掴んだし、もう少しでテオの魔法をバランスよく散らせる。テオだってそろそろ要領を掴んできているだろ?』
確かに最初に比べ、木板の状態を冷静に見極めることができ始めている。あとは細かな調整だけだ。
『僕の器と力は魔術師に向いていないのかもしれないけど・・・。』
オルジはギュッと唇を噛む。そしてテオの方に身を乗り出した。
『そんな僕が必死にやっているのに投げ出そうとするなよっ!しようとしない努力で魔術師を諦めるのかっ!!』
はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・と息を荒くしたオルジは悔しそうな顔でテオを睨んだ。その必死の形相に、テオは唾を飲み込んだ。
『・・・悪い。せっかく手伝ってもらってるのに。』
『悔しいけど、テオの言うとおりもう僕の器には余裕がない。挑戦できてもせいぜいあと2回だろう。』
『・・・分かった。絶対成功させる。』
テオの瞳に光が宿る。その瞳を見たオルジは口元にわずかな笑みを浮かべた。
『頼んだよ。』
『おう!!』
濡れた木板にテオが手をかざし集中する。さらにその上からオルジも手をかざした。
木板がゆらゆらと揺れ始め煙がくすぶりはじめる。2人は瞬きするのさえ忘れ、集中する。
そこに、一筋の煙が途切れることなくゆっくりと立ち昇ってゆく。
『テオ・・・!ここからは力を一定に・・・!!』
『分かってる・・・!』
2人の額から落ちる汗が机を濡らす。オルジはかざしていた両手を片手に変え、片方の手首を掴んだ。
(クソ・・・テオの力に・・・引っ張られる・・・!)
『ふ・・・っ・・・ぐっ・・・!』
テオは今までない程集中している。集中している分、魔法の濃度が濃くなっているのを感じた。
魔法が一点に集まれば、そこから性質が変わりまたコントロールが難しくなるだろう。テオの魔法力に合わせ均等に魔法を分散させなければならない。
『くっ・・・そこから・・少しずつ力を・・・緩めて・・・。』
木板がカタカタと音を変え始めた。動きの速さも変わっている。
『もぅ・・・ちょい・・・!緩めるなよ、テオ・・・!』
『・・・ふっ・・・ぅぅ・・・!!』
些細なタイミングで木板は再び炭と化すだろう。そうすれば今までの時間がすべて水の泡だ。
(置いて行かれて・・・たまるかっ・・・!)
オルジは今一度集中する。
そして・・・
『・・・テオ、解けっ!!!!』
『んが・・・っ!!』
オルジの合図に、テオの魔法が一気に消失する。その反動で木板は大きく2人の頭上へ弾け飛んだ。
カーーーンッ!と、先ほどとは明らかに違う高い音を立てて、木板は床に落ちた。2人の絶妙な力加減で、木板が理想的な形へと姿を変えた瞬間だった。
はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・
静かな部屋に2人の呼吸が一際大きく響き渡る。
オルジは弾け飛んだ木板を拾い上げた。そして、木板を指で何度か弾くと、コンコンと乾いた音が鳴った。
『・・・上出来だよ、テオ』
まだ放心状態であるテオの元へ行くと、木板を顔の前に差し出す。
『課題クリアだ。もう時間がないよ。早く提出してきなよ。』
ハッとしたテオは時計をみやった。
『本当だっ、行ってくる!!オルジはここで待ってろよっ!!!』
バタバタと盛大な足音を立てて教室から出て行くと、残されたオルジはその場に崩れるように座り込んだ。
『・・・もう動けないっつーの。アホテオ。』
挑戦できる回数を2回とは言ったが、正直ギリギリだった。次はなかっただろう。
魔法をコントロールする分、オルジの方が負担は大きい。しかし同じ時間、魔法を放出し続けた点では同じ条件のはずだ。まだ走る余裕さえあるテオと、満身創痍の自分の姿に、どうしても分厚い壁を感じてしまう。
壁に寄りかかり休息しているオルジの耳に、再びバタバタとした足音が聞こえてきた。
『オルジッ!!!!』
遠慮のない扉の開閉音と、耳に劈く声量が今まで静かだった周りの空気を一瞬で壊してしまう。
『・・・っるさいな!もう少し静かに入って来れないの!?本当に図体だけじゃなく、存在も煩いんだから!』
『はぁ、はぁ、はぁ、何だとっ・・・!お礼を言うためにわざわざ急いで帰ってきたんだろ!?』
『頼んでないし。・・・それでどうだったの?』
テオはニカッと笑い親指を立てる。
『水分率0.04%!ここまで下げられたのは俺たちが初めてだって!!』
『あっそ。よかったね。これで追試は免れたね。』
『おぅ!』
テオはオルジの元へ駆け寄った。そして、壁にもたれかかり足を投げ出して隣に座る。
『ありがとな、オルジ。お前のおかげだ。』
『何だよ、気持ち悪い。テオのエレメントの特徴は小さな頃から知ってるから調節なんて余裕だったよ。テオがグラグラと安定させないから時間がかかったんだろ。』
『いや、課題合格もそうなんだけど。折れかけた気持ちに喝をいれてくれたからさ。』
『!?』
顔に赤みが帯びる。あの時は必死だったが、今思い返せば随分と恥ずかしい事を口走った気がする。
思わず顔を背けるオルジだったが、テオはお構いなしに続けた。
『やっぱり幼馴染だからやりやすかった。というか、安心感があった。オルジならオレに絶対合わせてくれるって自信があったからかな。』
『・・・。』
『やっぱりオルジはすげーよ。オレだけじゃなく、どんな相手にも合わせられる。オレにもそんな技術があればなー。』
技術は、努力と経験である程度は補える。しかし天性のものはどう足掻いたって手に入らないことをオルジは既に知っていた。
『こんなこと、やろうと思えば誰にでもできるさ。その場の空気に見合った態度で振舞えるようになるのと一緒さ。
それよりも僕は、今以上に魔法力を溜められる大きな器が欲しいよ。』
走りだすテオと座り込む自分の姿を思い出し、思わず卑屈になってしまう。
『僕はきっと・・・魔術師にはなれな――』
『んなことねーよ!!!』
思わず耳を押さえる。至近距離からの大声に耳がキーンとなった。
『ちょっ・・・!うるさいな!もう少し声の音量を――』
『関係ねーよ!器の大きさなんて!』
反論は届いていないのか、テオは声量そのままに身を乗り出した。
『お前、さっき言ったよな。『僕の器と力は魔術師に向いていないのかもしれないけど・・・。』って!それは違うぞ。』
『な、何がだよ・・・!』
『オレは確かに力はあるかもしれない。でもそれをコントロールする力はからっきしだ。
じゃあ魔術師はその両方を持ってないとなれないのか?それだったらオレも魔術師に向いてないってことになるじゃねーか。』
『揚げ足をとるなよ。』
『誰の魔法でも合わせられるオルジのコントロール力は才能だよ。人に個性があるように、魔法にも個性やクセがある。それを読み取って、その場で最大限の力が出るようにサポートできるのは誰にだってできることじゃねーよ!お前のでっかい武器なんだよ!』
『!!』
『オレ知ってるぞ。その整合性のスキルをアイテムに付加することが出来るんじゃないかって、先生に提案されてただろ?』
『なっ!?・・・何で知ってるんだよ・・・』
『たまたま聞こえたんだよ。お前、嬉しそうな顔してたじゃん!』
『嬉しそうって・・・。まぁ、面白そうだとは思ったけど・・・。』
『だろ?オルジは器用だから絶対作れるって!』
『・・・。』
『オレにも作ってくれよな!オレの魔法が安定して使えるようになるアイテムを!予約だからなっ!』
『予約って・・・まだ何も考えてないのに。』
『ほら!お前だって使い方や工夫次第で、最強の魔術師になる可能性だって全然あるじゃねーか!』
『・・・そうかな。』
『あぁ!オレは今回、お前に助けられた!お前の力を必要とする人はこれからどんどん現れるぞ!』
『・・・僕の武器・・・僕は誰かの力になれる・・・?』
『なれる!オレが保証するっ!』
テオの単純さが自分にもうつったのだろうか。鼻息を荒くして、曇りなき眼で力説するテオの言葉は、オルジの乾いた心を少しずつ潤していく。
弱々しい自分の姿を、「それでもいい。」と言ってもらえたようで素直に嬉しかったのだ。
『オレの力とオルジの力が合わされば、絶対に魔術師になれる!オレとお前が揃えば鬼に金棒じゃん!』
『鬼に金棒・・・?』
『シリアに教えてもらった。とりあえずなんか最強ってことらしい!』
『ぷっ・・・何それ・・・ふははっ・・・!!・・・なれるかな?こんな僕でも。』
『あぁ、2人で最強の魔術師になろうぜっ!』
テオが拳を突き出す。
『・・・仕方ないな。テオの安定しない魔法に合わせられるのは僕ぐらいだから付き合ってやってもいいかな。』
『はぁっ!?これから鍛錬するんだよ!お前だって魔法力の器を大きくする努力しろよ!』
『言われなくても。』
2人は顔を見合わせる。そして拳と拳を軽くぶつけ合うと、再び笑いだした。
希望に満ちていた自分の顔は、波打つ川に消えていく。
再び水面に現れたのは、苦渋に満ちた己の顔だった。
「おい、オルジッ!!聞いてるのかっ!!?」
顔を上げると、怒号の声とは裏腹に眉を下げ、困った顔のテオと目が合った。
それはあの時オルジが見た、教師と会話していたテオの顔と重なる。
しかし、それは突如として中断された。
オルジはハッと空を見る。
「おい、オルジ――」
「テオ、話はあとだ。」
あまりにも真剣な声音に、テオも思わず黙った。そして訝し気に見つめるオルジの目線を追う。
「あっ・・・!」
テオも気づいたようだ。
方向は川の下流。2人が今まで歩いてきた道の空だ。黒煙と灰色の煙が無秩序に立ち昇っている。
「あの方向は・・・」
オルジが言い終わるより先に、既にテオは駆け出していた。
「婆ちゃんたちの村の方向だ!急げ、オルジッ!!」
オルジも慌てて後を追う。
駆け出した靴に弾かれた小石が、川に小さな波紋を残した。
『僕たちの魔法の強さに合わせないと、いつまで経っても無理だって!』
『分かってるよ!!』
『分かってないから何回やっても出来ないんだろ!?もう僕は付き合えない。別の人とやろーっと。』
『僕も抜ける。いつまでもテオに付き合ってられないよ!』
『あ、オイ、ちょっと待てよっ!!』
一緒に課題をやっていた2人は、背を向け実習室から出て行ってしまった。
残されたテオは途方に暮れる。
『ちぇっ!!なんだよ、全部オレ1人のせいにしやがって!あいつらだって全然魔法をコントロールできてないくせにっ!!』
テオは怒りに任せ、目の前にあった椅子を思い切り蹴り上げた。椅子はその衝撃により、静かな教室により一層大きな音を立てながら倒れてしまった。
『クソッ!!!!』
倒れた椅子から目を逸らしたテオは、自分の手のひらを見つめる。
力のコントロールが苦手なことは理解していた。それを培う課題で幾度も失敗を繰り返し、愛想を尽かされることは今日が初めてではない。
『クソ・・・』
怒りよりも情けなさが押し寄せてくる。
その時、カタンという音と共に、先ほど倒した椅子が元の状態に直っていた。
『またかい、テオ。』
顔を向けなくても声で存在を確認したテオはそっぽ向く。
『相変わらず同調が苦手だね。力任せに魔法を使ってもこの課題はクリアできないよ。』
『・・・んなこと言われなくても分かってるよ、オルジ。』
そこにはオルジが呆れた顔で立っていた。そして机の上に放置してある手のひらサイズの濡れた木板をテオの前に置いた。
『このバミの木の木板には特殊な油分が含まれている。火だけでは完全に乾燥させることはできないよ。』
出された課題とは、魔法を使い、濡れた木板を乾燥させ水分率を0.08%以下にすることだった。
1つのエレメントでは乾燥させることはできず、複数人で協力し合わなければならない。その上、魔法の力加減を調整しないと燃えてしまったり、水分率を下げきることができないので、見た目以上に繊細な作業を必要とするのだ。
『分かってるよ。でもあいつら、木板が燃えてしまうのを全部オレの所為にしやがって。あいつらだって全然魔法を使えていないから出来ないのによー!』
再びイライラし始めたテオは木板を思い切りぶん投げた。湿気を帯びた木板がゴンと音を立てて壁にぶつかった。
『ほら、そういうところ。』
呆れたため息をついたオルジは、木板を拾いにいく。
『テオは感情の起伏が魔法に伝わりやすいんだ。この作業はゆっくりと木板の様子を観察しながら微調整しないと出来ないんだよ。
木板を乾燥させる作業に焦れて集中力を切らしたんじゃない?早く終わらそうとしたんじゃない?』
テオは口を尖らせる。どうやら図星のようだ。
『他の魔法の流れを感じ取って加減しないと、テオの魔法力だったらすぐに燃えちゃうよ。図体と一緒で火力もでかいんだから。』
『なんだとっ!?』
『この課題、今日が締め切りのはずだけど間に合うの?』
「ぐっ・・・』
『締め切り厳守で、もし出来なかったら追試だよ。』
『・・・。』
テオの頭が自然と下がってゆく。オルジは拾ってきた木板をテオの机の上に置くと、机を挟んだ反対側の席に座った。
『ほら、やるよ。』
『へ・・・?』
『締め切りの時間までまだあるでしょ。ほら。』
『オルジ・・・お前・・・。』
『・・・。』
『お前もまだこの課題ができていな――』
『僕は既に終わらしているからね、この課題!』
『へ・・・?』
『アホ面。』
『はぁっ、何だとっ!?・・・って、もしかして手伝ってくれるのか?』
『・・・別に1回だけとは言われてないし。復習は何回繰り返してもいいわけだし。』
『オルジ・・・』
『言っとくけど、2つのエレメントしか無いから相当難しいよ。せめてもう1人のエレメントがあればすぐに終わるかもしれないけど、今から協力してくれる人を探す時間もないし。』
『望むところだ!』
テオはオルジが座る反対側の席に勢いよく座った。
『よし、やるぞ!』
『うん。まずは木板の状態を把握するんだ。どの程度の火力を出せば乾燥できるか魔法を使いながら観察するんだよ。』
『頭では分かっているつもりだけど、それが超難しいんだよな。』
『とりあえずテオは感覚でやってみていいよ。』
『へ?それだったらすぐに燃えちまうぞ。』
『それを燃えないように僕がコントロールする。頭で分かっているつもりって言うけど、結局は理解できてないんだから。』
『はぁっ!!?何だと、お前っ!!』
『テオは頭じゃなく体で覚えていくタイプってことだよ。ほら、時間がないから早くして。』
『ちぇっ・・・!』
テオは木板に手を添える。そして集中し始めた。木板がゆらゆらと動き始めるとその上からオルジが手を添える。
2人の手の中にある木板からゆっくりと煙が発生し始める、と思った瞬間、ボウッと音を立てて消し炭となってしまった。
『失敗しちまった・・・。』
『テオ、もう1回するよ。』
『・・・おう!』
テオが魔法を込める。木板が燃えないギリギリの加減をオルジが保つ。それは何度も何度も繰り返された。
既に先ほどのクラスメートが投げ出した回数をとうに超えている。2人の顔には汗と疲れが滲み出ていた。
再び木板が燃え、サラサラと散っていく。
『テオ・・・もういち――』
『オルジ、もういいよ。』
低い声音に顔を上げれば、テオが情けない顔をして俯いていた。
『付き合わせちまって悪かった。もう時間もないし、諦めるよ。確かに加点はないけど追試を受けるし。』
『弱音吐いてるぐらいならもう1度やるよ、ほら。』
『いや、もう本当にいいって。出来ないのは仕方ねーじゃん。』
『・・・何言ってるんだよ。早く準備して。』
『でも・・・でも!もう、お前の魔法力が枯渇しそうじゃん!』
オルジは顔を上げない。テオの魔法力をコントロールする分、負担が大きいことは否めないのだ。
『分かってるなら集中して、さっさと終わらせよう。』
『これ以上は無理だって!』
『無理かどうかはテオが決めることじゃない、2人が決めることだ!!僕はまだ無理だと思っていない!!』
普段、声を荒げないオルジが鼻の穴を大きくして立ち叫んだ。
テオは思わずのけぞってしまう。
『そこまでの火力を出し続ける魔法力がありながら何を諦めてるのさ!つべこべ言わず集中しろよっ!』
『・・・オ、オルジ・・・。』
オルジが勢いよく座ると、椅子がガタンと音を立てた。
『魔術師の素質は魔法力の器の大きさにある。それだけを言うならテオの器は非の打ち所がない。しかもこれからだって成長する。
それなのに・・・僕よりも可能性があるお前が先に諦めるなよっ!』
『オルジ・・・』
『僕は火力を出せないがコントロールは得意だ。コツは掴んだし、もう少しでテオの魔法をバランスよく散らせる。テオだってそろそろ要領を掴んできているだろ?』
確かに最初に比べ、木板の状態を冷静に見極めることができ始めている。あとは細かな調整だけだ。
『僕の器と力は魔術師に向いていないのかもしれないけど・・・。』
オルジはギュッと唇を噛む。そしてテオの方に身を乗り出した。
『そんな僕が必死にやっているのに投げ出そうとするなよっ!しようとしない努力で魔術師を諦めるのかっ!!』
はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・と息を荒くしたオルジは悔しそうな顔でテオを睨んだ。その必死の形相に、テオは唾を飲み込んだ。
『・・・悪い。せっかく手伝ってもらってるのに。』
『悔しいけど、テオの言うとおりもう僕の器には余裕がない。挑戦できてもせいぜいあと2回だろう。』
『・・・分かった。絶対成功させる。』
テオの瞳に光が宿る。その瞳を見たオルジは口元にわずかな笑みを浮かべた。
『頼んだよ。』
『おう!!』
濡れた木板にテオが手をかざし集中する。さらにその上からオルジも手をかざした。
木板がゆらゆらと揺れ始め煙がくすぶりはじめる。2人は瞬きするのさえ忘れ、集中する。
そこに、一筋の煙が途切れることなくゆっくりと立ち昇ってゆく。
『テオ・・・!ここからは力を一定に・・・!!』
『分かってる・・・!』
2人の額から落ちる汗が机を濡らす。オルジはかざしていた両手を片手に変え、片方の手首を掴んだ。
(クソ・・・テオの力に・・・引っ張られる・・・!)
『ふ・・・っ・・・ぐっ・・・!』
テオは今までない程集中している。集中している分、魔法の濃度が濃くなっているのを感じた。
魔法が一点に集まれば、そこから性質が変わりまたコントロールが難しくなるだろう。テオの魔法力に合わせ均等に魔法を分散させなければならない。
『くっ・・・そこから・・少しずつ力を・・・緩めて・・・。』
木板がカタカタと音を変え始めた。動きの速さも変わっている。
『もぅ・・・ちょい・・・!緩めるなよ、テオ・・・!』
『・・・ふっ・・・ぅぅ・・・!!』
些細なタイミングで木板は再び炭と化すだろう。そうすれば今までの時間がすべて水の泡だ。
(置いて行かれて・・・たまるかっ・・・!)
オルジは今一度集中する。
そして・・・
『・・・テオ、解けっ!!!!』
『んが・・・っ!!』
オルジの合図に、テオの魔法が一気に消失する。その反動で木板は大きく2人の頭上へ弾け飛んだ。
カーーーンッ!と、先ほどとは明らかに違う高い音を立てて、木板は床に落ちた。2人の絶妙な力加減で、木板が理想的な形へと姿を変えた瞬間だった。
はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・
静かな部屋に2人の呼吸が一際大きく響き渡る。
オルジは弾け飛んだ木板を拾い上げた。そして、木板を指で何度か弾くと、コンコンと乾いた音が鳴った。
『・・・上出来だよ、テオ』
まだ放心状態であるテオの元へ行くと、木板を顔の前に差し出す。
『課題クリアだ。もう時間がないよ。早く提出してきなよ。』
ハッとしたテオは時計をみやった。
『本当だっ、行ってくる!!オルジはここで待ってろよっ!!!』
バタバタと盛大な足音を立てて教室から出て行くと、残されたオルジはその場に崩れるように座り込んだ。
『・・・もう動けないっつーの。アホテオ。』
挑戦できる回数を2回とは言ったが、正直ギリギリだった。次はなかっただろう。
魔法をコントロールする分、オルジの方が負担は大きい。しかし同じ時間、魔法を放出し続けた点では同じ条件のはずだ。まだ走る余裕さえあるテオと、満身創痍の自分の姿に、どうしても分厚い壁を感じてしまう。
壁に寄りかかり休息しているオルジの耳に、再びバタバタとした足音が聞こえてきた。
『オルジッ!!!!』
遠慮のない扉の開閉音と、耳に劈く声量が今まで静かだった周りの空気を一瞬で壊してしまう。
『・・・っるさいな!もう少し静かに入って来れないの!?本当に図体だけじゃなく、存在も煩いんだから!』
『はぁ、はぁ、はぁ、何だとっ・・・!お礼を言うためにわざわざ急いで帰ってきたんだろ!?』
『頼んでないし。・・・それでどうだったの?』
テオはニカッと笑い親指を立てる。
『水分率0.04%!ここまで下げられたのは俺たちが初めてだって!!』
『あっそ。よかったね。これで追試は免れたね。』
『おぅ!』
テオはオルジの元へ駆け寄った。そして、壁にもたれかかり足を投げ出して隣に座る。
『ありがとな、オルジ。お前のおかげだ。』
『何だよ、気持ち悪い。テオのエレメントの特徴は小さな頃から知ってるから調節なんて余裕だったよ。テオがグラグラと安定させないから時間がかかったんだろ。』
『いや、課題合格もそうなんだけど。折れかけた気持ちに喝をいれてくれたからさ。』
『!?』
顔に赤みが帯びる。あの時は必死だったが、今思い返せば随分と恥ずかしい事を口走った気がする。
思わず顔を背けるオルジだったが、テオはお構いなしに続けた。
『やっぱり幼馴染だからやりやすかった。というか、安心感があった。オルジならオレに絶対合わせてくれるって自信があったからかな。』
『・・・。』
『やっぱりオルジはすげーよ。オレだけじゃなく、どんな相手にも合わせられる。オレにもそんな技術があればなー。』
技術は、努力と経験である程度は補える。しかし天性のものはどう足掻いたって手に入らないことをオルジは既に知っていた。
『こんなこと、やろうと思えば誰にでもできるさ。その場の空気に見合った態度で振舞えるようになるのと一緒さ。
それよりも僕は、今以上に魔法力を溜められる大きな器が欲しいよ。』
走りだすテオと座り込む自分の姿を思い出し、思わず卑屈になってしまう。
『僕はきっと・・・魔術師にはなれな――』
『んなことねーよ!!!』
思わず耳を押さえる。至近距離からの大声に耳がキーンとなった。
『ちょっ・・・!うるさいな!もう少し声の音量を――』
『関係ねーよ!器の大きさなんて!』
反論は届いていないのか、テオは声量そのままに身を乗り出した。
『お前、さっき言ったよな。『僕の器と力は魔術師に向いていないのかもしれないけど・・・。』って!それは違うぞ。』
『な、何がだよ・・・!』
『オレは確かに力はあるかもしれない。でもそれをコントロールする力はからっきしだ。
じゃあ魔術師はその両方を持ってないとなれないのか?それだったらオレも魔術師に向いてないってことになるじゃねーか。』
『揚げ足をとるなよ。』
『誰の魔法でも合わせられるオルジのコントロール力は才能だよ。人に個性があるように、魔法にも個性やクセがある。それを読み取って、その場で最大限の力が出るようにサポートできるのは誰にだってできることじゃねーよ!お前のでっかい武器なんだよ!』
『!!』
『オレ知ってるぞ。その整合性のスキルをアイテムに付加することが出来るんじゃないかって、先生に提案されてただろ?』
『なっ!?・・・何で知ってるんだよ・・・』
『たまたま聞こえたんだよ。お前、嬉しそうな顔してたじゃん!』
『嬉しそうって・・・。まぁ、面白そうだとは思ったけど・・・。』
『だろ?オルジは器用だから絶対作れるって!』
『・・・。』
『オレにも作ってくれよな!オレの魔法が安定して使えるようになるアイテムを!予約だからなっ!』
『予約って・・・まだ何も考えてないのに。』
『ほら!お前だって使い方や工夫次第で、最強の魔術師になる可能性だって全然あるじゃねーか!』
『・・・そうかな。』
『あぁ!オレは今回、お前に助けられた!お前の力を必要とする人はこれからどんどん現れるぞ!』
『・・・僕の武器・・・僕は誰かの力になれる・・・?』
『なれる!オレが保証するっ!』
テオの単純さが自分にもうつったのだろうか。鼻息を荒くして、曇りなき眼で力説するテオの言葉は、オルジの乾いた心を少しずつ潤していく。
弱々しい自分の姿を、「それでもいい。」と言ってもらえたようで素直に嬉しかったのだ。
『オレの力とオルジの力が合わされば、絶対に魔術師になれる!オレとお前が揃えば鬼に金棒じゃん!』
『鬼に金棒・・・?』
『シリアに教えてもらった。とりあえずなんか最強ってことらしい!』
『ぷっ・・・何それ・・・ふははっ・・・!!・・・なれるかな?こんな僕でも。』
『あぁ、2人で最強の魔術師になろうぜっ!』
テオが拳を突き出す。
『・・・仕方ないな。テオの安定しない魔法に合わせられるのは僕ぐらいだから付き合ってやってもいいかな。』
『はぁっ!?これから鍛錬するんだよ!お前だって魔法力の器を大きくする努力しろよ!』
『言われなくても。』
2人は顔を見合わせる。そして拳と拳を軽くぶつけ合うと、再び笑いだした。
希望に満ちていた自分の顔は、波打つ川に消えていく。
再び水面に現れたのは、苦渋に満ちた己の顔だった。
「おい、オルジッ!!聞いてるのかっ!!?」
顔を上げると、怒号の声とは裏腹に眉を下げ、困った顔のテオと目が合った。
それはあの時オルジが見た、教師と会話していたテオの顔と重なる。
しかし、それは突如として中断された。
オルジはハッと空を見る。
「おい、オルジ――」
「テオ、話はあとだ。」
あまりにも真剣な声音に、テオも思わず黙った。そして訝し気に見つめるオルジの目線を追う。
「あっ・・・!」
テオも気づいたようだ。
方向は川の下流。2人が今まで歩いてきた道の空だ。黒煙と灰色の煙が無秩序に立ち昇っている。
「あの方向は・・・」
オルジが言い終わるより先に、既にテオは駆け出していた。
「婆ちゃんたちの村の方向だ!急げ、オルジッ!!」
オルジも慌てて後を追う。
駆け出した靴に弾かれた小石が、川に小さな波紋を残した。
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