エレメント ウィザード

あさぎ

文字の大きさ
69 / 135
第2章4部

言えぬ本音

しおりを挟む
 十分な水量がゆるゆると流れる川は、底の砂利や砂が透き通って見えるほど輝き流れている。蛇行が繰り返された川の先には轟轟と燃える岩壁が見えた。
 川の水に手を浸せば、そこまで冷たいわけでもない温度に思わずため息がこぼれる。
 テオは川の水を両手でたっぷりと掬うと勢いよく顔に浴びせた。何度も何度も顔を洗い、そのままの勢いで頭を突っ込ませた。ゴクリゴクリと水を飲み喉を潤わせる。息が苦しくなり頭を上げると、大きく呼吸をし再び頭を突っ込ませた。

 「っっぷはーー!!うめぇっーー!!」
 「っちょっ・・・!テオッ!!服が濡れるんだけどっ!!」
 「大丈夫だって。濡れてもこの気温だ。すぐに乾くだろ!」

 そう言うと再び頭を何度も振った。オルジはテオから距離をとり、迫力ある目の前の風景に目を細める。

 劫火渓谷デフェールキャニオンに入った2人は険しい山道の中にあった河原で休憩をしているところだった。
 壊滅状態の村で、形ある亡骸を埋葬するため土を掘り石を集めた。慣れない作業に体はもちろん、心も疲弊していた。
 川の水は冷たくはなかったが浄い水が身体を巡り、細胞が湧き立つような感覚に陥った。

 「婆ちゃんの言った通りだな。そのまま飲んでもすげーうまい!」
 「冷たくもないけど、熱湯というわけでもないんだね。こんなに暑い環境の中流れているのに。」

 オルジは首を流れる汗をぬぐう。

 「オレたちが劫火渓谷デフェールキャニオンの中で歩けるのも、セリカたちが譲ってくれた火蜥蜴ひとかげの粉のおかげだな。」

 テオは地面に足を伸ばして座り、手を後ろにつけた状態で空を見上げた。
 埋葬を終えた村から劫火渓谷デフェールキャニオンまで歩いてきた2人は、未だに霊魔の姿を確認できていない。足跡や岩肌を注意深く見てきたが、痕跡すら見つけられなかった。

 「獣とスーツ・・・か・・・。」

 テオと同様に空を見上げながらオルジは呟く。最後の力を振り絞って残してくれた村人のメッセージだ。

 「一体、どういう意味なんだろうね。」

 しかし、隣にいるテオからの反応はない。

 「テオ、聞いているのか?」

 不審に思ったオルジは隣を見た。そこには真剣な眼差しで空を見上げるテオの横顔があった。オルジは鼻でため息をつく。

 「何か気になることでもあったの?」

 聞こえていないわけではない。その様子から、テオが何かを考えていることに気付いたのだ。

 「2つの村を見て思ったんだけどさ・・・。」
 「うん。」
 「大人の亡骸しかなかった。」
 「え・・・?」
 「キレイに残っている亡骸の方が少なかったけどさ・・・でもそれは全部大人だった。」

 オルジは壊滅状態だった2つの村の様子を思い出した。確かに埋葬した数少ない遺体は全て大人だったと思う。だが、千切られた人間の四肢や細胞の一部がそうであったかは断言できなかった。
 それでも、テオがそう言うならそうなのかもしれない。いつもは冗談ばかりでおどけているように見えるが、視野の広い着眼点や、混乱する場こそ冷静に対処できる能力を自分が1番認めているからだ。

 「大人しかいない村だったとか。」
 「家の中にはぬいぐるみや子供用の服もあった。」

 (あの場面でそんなところまで見ていたのか・・・。)

 自分は生存者を確認するだけで手一杯だったのに・・・と素直に感心したが、それを口に出すことはせず新たな選択肢を考える。

 「子供は学校に行っていた、もしくは僕たちみたいに学校の寮に入っているとか。」
 「それはあるかもしれない。けど、まだ学校に行っていない年齢の子の影すら無いのは、逆に違和感が残る。」
 「・・・確かに。」

 沈黙が流れた。確固たる情報がない今、2人には仮説しか並べられないのだ。

 「・・・学園はいつ動いてくれるかな。」
 「・・・さぁな。」
 「ちょっと・・・いや、結構ショックなんだ。・・・こんな時、学園はすぐに動いてくれるって、すぐに応援を寄越して村の人たちの安全を守ってくれるって信じてたから。」
 「・・・そうだな。」
 態度には出さないがテオも同じ気持ちなのだろう。自分たちは魔術師ウィザードの卵であり、窮地を救うヒーローになる為にあの学園にいるのだから。

 「ちゃんと上に報告して、討伐隊を編成してくれるよね。」
 「・・・。」
 「たまたま、上級魔術師ハイウィザードが足りなくてこっちに回せないんだよね。」
 「・・・。」
 「・・・・・・・。」
 「・・・。」
 「・・・今までは疑問すら抱かなかったけどさ。」

 長い沈黙を破ったのはテオだ。

 「なんつーか、隠されている部分が結構あるってことが分かってきた。」

 ひどく言葉足らずだ。しかしテオと長い時間を過ごしてきたオルジには、その言葉の真意を掴むことは難しいことではなかった。

 「サージュベル学園のこと?」

 テオは地面から手を放し軽く払う。そして前のめりに胡坐をかいた。
 更にオルジは、テオが考えていることを言い当てる。

 「この間のTwilight forest沈黙の森で起きた箝口令のこととか?」

 テオに否定の様子はない。どうやら的を射たようだ。

 Twilight forest沈黙の森で起きた一連の事件を、オルジには話していた。いくら学園から箝口令が敷かれていても当事者の自分たちに何も説明のない状況に腹を立てていたというのもある。
 そもそも、テオには親友のオルジに隠し事をするという選択はなかったのだ。

 「疑問しか残らねーよ。あの3人はどこの誰だったのか。なんであの傀儡たちを操れていたのか。あのガキはなぜエレメントを2つ使えていたのか。俺たちが最期に見た霊魔は、どうして人の姿をして消えたのか。あれだけの事があって説明も無いっては無いよなー。先生たちも「調査中だ」ってはぐらかすし。」

 テオは手元にあった小石を拾って川へ投げる。それは見事な放物線を描き、小さな水しぶきと共に吸い込まれて消えていった。

 「さっきお前は『上に報告して』って言ったけど、サージュベル学園のトップを見たことあるか?」

 オルジは首を振る。

 「元老院という管轄組織があるっていうのは聞いたことがある。でも姿を見たことが無い。」
 「そうなんだよな。普通、式典とかイベントにはトップの挨拶とかあるもんじゃねーのかな。校長とか、学園長とか。あの学園には初等部から居るけどそういえば1度も見たことがない。考えたらそれって結構異様だよな。」
 「最初からその状態だったから疑問を抱くことすらない。一種の刷り込みだよね。」
 「そーゆー学園の運営組織図・・・?っていうのが霞まくっていて、こーゆー時に何を信じればいいか分からなくなっちまうんだよな。」
 「確かにこんな緊急事態の時、誰が上級魔術師ハイウィザードに依頼してどこに報告するのか、僕らはプロセスすら知らないんだよね。」
 「あぁ。さっきの緊急連絡用端末で繋がった機械音みたいな姉ちゃんも一体誰なんだよ。先生か?生徒会プリンシパルか?それとも学園の外の人間か?」
 「・・・分からない。」
 「だろ?俺たちは魔術師ウィザードになる為の知識や教養は、これでもか!ってぐらい教え込まれている。でも学園の内情を何一つ知らないんだ。
 それって、学園にとって都合のいい操り人形の一部なっているようで・・・すごく納得がいかねーし、不本意だ。」

 言葉にすると怒りが湧いてきたのか、手元にあった小石を乱暴に掴むと、再び川に向かって勢いよく放り投げた。

 「テオはあんな事があった後だから余計にそう思うのかもしれないね。」
 「・・・。」
 「・・・。」

 目の前の川は変わらず水しぶきをあげながら流れている。規則的なリズムで岩にぶつかる水面には、絶え間なく空気の粒が生まれ反射して光っていた。

 「・・・ずるいよな。」
 「・・・は?」

 さすがのオルジも口を開けた。脈絡のないテオの言葉を解読できなかったからだ。
 突拍子のない発言も多いが、そもそも飾らない彼の単純な言葉には裏が無い。そんなテオの発言の意図が分からず、少なからず動揺したのだ。

 「なんのことだよ?」
 「・・・。」
 「テオ・・・?」

 テオは眉間に皺をよせ口を尖らせる。明らかに「私は不機嫌ですよ。」アピールだ。
 これが自分の好きな女の子だったら、きっと可愛く好ましく思うのかもしれない。しかし、相手は長年の親友である巨体だ。

 「何が言いたいんだよ?」

 アピールをするだけで口を割ろうとしないテオに腹が立ちはじめた時だった。
 テオの口が僅かに動く。

 「え・・・?聞こえないって!」
 「・・・んで、・・・くれなんだよ・・・。」

 重要な部分が聞こえない。いや、聞かれないようにしているのか。

 「なんだってっ!?」

 思わず声がとがる。

 「・・・っ!何で俺に何も話してくれなんだよっっ!!?」

 とがったオルジの声をはるかに凌ぐ大きな声でテオは叫んだ。オルジは目を丸くする。

 「なんでお前はオレのことを全部分かるのに、言わなくても伝わるのに・・・オレは分からないんだよっ!」
 「・・・!?」
 「なんで1人で決めて・・・オレになんの相談もしないんだよっ!」

 オルジはやっと理解した。自分が修練ラッククラスに落ち、創造クリエイトクラスに這い上がる様子が無いことを怒っているのだ。

 「なっ・・・!・・・今言うことじゃないだろうっ!」

 テオの荒々しい態度に感化されたオルジも無意識に声が大きくなった。

 「関係ねーよ!オレはずっとずっとずっと腹が立ってんだからなっ!」

 テオの中でこの問題はずっとくすぶっていたのだろう。それが何のきっかけかは分からないが急に溢れだしたのだ。

 「創造クリエイトクラスに入ったことに文句はねーよ。でも、修練ラッククラスから創造クリエイトクラスにさえ戻ろうとしないなんて、学園を辞めるつもりなのか、お前はっ!」
 「・・・っ!!」

 オルジは思わず口を噤んだ。その様子にテオはますます怒りを増長させていく。

 「一生懸命やった結果で修練ラッククラスに入ったのなら仕方ないって言えるかもしれないけど、お前の場合は成果も出さず努力もしなかった結果だろ?
 どうしてそんな投げやりなんだよ!!」
 「・・・。」
 「約束したじゃねーか!一緒に最強の魔術師ウィザードになるって!俺たち2人ならなれるってあの時言ったじゃねーかよっ!!」

 オルジは目の前を流れる川に目を向けた。
 ゆらゆらと動く水面に映るのは、希望に満ち溢れていたかつての幼き自分の顔だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香
ファンタジー
ある日、リィカの住む村が大量の魔物に襲われた。恐怖から魔力を暴走させそうになったとき前世の記憶が蘇り、奇跡的に暴走を制御する。その後、国立の学園へと入学。王族や貴族と遭遇しつつも無事に一年が過ぎたとき、魔王が誕生した。そして、召喚された勇者が、前世の夫と息子であったことに驚くことになる。 【改稿】2026/01/01、第一章の36話までを大幅改稿しました。 これまで一人称だった第一章を三人称へと改稿。その後の話も徐々に三人称へ改稿していきます。話の展開など色々変わっていますが、大きな話の流れは変更ありません。 ・都合により、リィカの前世「凪沙」を「渚沙」へ変更していきます(徐々に変更予定)。 ・12から16話までにあったレーナニアの過去編は、第十六章(第二部)へ移動となりました。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

処理中です...