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第2章2部
クエスト受託
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「こ~んな、物好きなクエストを受ける子がいたんだね。自分で受注して忘れてたよ。」
あははは~とシャノハは笑みをこぼした。
「 魔術中央図書館――通称ACL から借りてきて欲しい本があるんだ。行く方法や期間は特に設けてないからお任せね~。
借りてくる資料のリストは後から端末に送っておくよ。
え~~っと、 修練クラスのジェシド・ウォーグと 実戦クラスのシリア・クルーゼ、同じく 実戦クラスのセリカ・アーツベルクね・・・。」
シャノハは、慣れた手つきで受託書に3人の名前を登録していった。
「何か質問はあるかい?」
シャノハの問いに、ジェシドが素早く手を挙げた。
「はい!!あ、あの・・・僕、シャノハ博士に憧れていて・・・博士の論文も全部読ませてもらって、研究も多角的な視点から切り込む考えに感動して、あの本当にスゴイと思っていて!」
イメージはどうあれ、自分の憧れている人が目の前にいるのだ。ジェシドは顔を赤らめながら必死に自分の気持ちを伝えようとしているが、緊張のせいで空回りしている。
「光栄だね。」
しかしシャノハは、緊張するジェシドの気持ちを汲みニッコリと笑った。
「こ、こちらこそ光栄です!このようなクエストを受注して頂いて、シャノハ博士の研究文献に少しでも携われるなんて!」
「ちょっとゴタゴタして資料を借りに行く時間もないんだよね~。ほら、色々とあったから~後処理とかね・・・。」
その細目が、シリアとセリカの2人を捉えたことに誰も気づくはずもない。
「君は僕の研究に興味があるんだ?」
ヨレヨレの白衣のポケットに片手を突っ込んだシャノハは、ジェシドの方に体を向けた。
「は、はい!!特にエレメント遺伝子について好学していて、シャノハ博士の論文も大変興味深く拝読させてもらっています!」
ふ~~ん、と言いながらシャノハは不敵な笑みを浮かべる。
「嬉しいねぇ~。エレメント遺伝子は文献も少なく立証案件も足りなすぎる。まぁ、確かに追及すれば禁忌領域に手を伸ばしかねない始祖の研究だ。
なぜ人はエレメントを使えるのか、精霊はいつどこから居たのか、魔法力の器とは何か、精霊の使役のオリジンとは・・・。魔障痕の細胞組織と霊魔の思想概念の繋がりとは、掘り下げれば掘り下げるだけ瀰漫し、己の思考を壊しかねない・・・。」
顔は笑っているはずなのに、シャノハの奥底から芽吹く迫力に3人は息を呑んだ。
「1番効率的なのは、人を生きたまま開くことさ。痛覚に反応がエレメントにどう作用するかも調べなければいけない。もちろん、霊魔だって例外ではない。あらゆる種類の霊魔を解剖して――」
「あ、あの・・・。」
ジェシドがおそるおそる声を掛けたその時、シャノハが出てきた壁が再び淡く薄く光りだした。そして、壁の一部分からある物がシャノハに向かって投げつけられ直撃したのだ。
「アターーーッ!!」
ゴスッという低い音と共にシャノハは、そのまま廊下に倒れ込んでしまった。
シャノハに投げつけられた物をシリアは両手で拾い上げた。
「とっても分厚い辞書ですわ・・・。重さは3キロ以上はあるかと。」
「素晴らしいコントロールだな。」
そこから投げられたであろう壁を見てみると、すでに光は失われている。
ジェシドは壁を恐々と触ってみた。
「壁の奥に部屋があるのか。それを特別な構築術で見えないようにしている。すごい技術だ・・・。」
「イタタタタ・・・。ごめんごめん、話が脱線してしまったようだ。エレメント遺伝子を追求する人は珍しいから興奮しちゃった。とりあえず、受託のサインはしておいたよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「そうだ。せっかくACLへ行くんだ。興味のある文献があるなら君も利用したらいい。入館利用の許可証も発行しておこう。」
「い、いいんですかっ!?」
思ってもない提案にジェシドは鼻息を荒くする。
「いいよー。エレメント遺伝子に興味を持つ者同士、思う存分勉学に励みたまえ。それに、何か新しい発見があるかもしれない。」
ニヤリと笑う細い目の奥に鈍色の光が見えた気がしたのはセリカだけだろうか。
しかし、シャノハはクッキリと皺の残る笑顔を見せると、よろしくー。と言って腰に手を当てながら立ち上がり、薄汚い壁に手を当てた。
壁に淡く薄い光が再び現れると、シャノハはそのまま姿を消してしまった。
ジェシドは消えた壁を再び触ってみる。しかし、無機質な感触だけが手に残るだけだった。
「一体どんな技術なんだろう・・・。やっぱりすごい人だ!」
「スゴイ人なんでしょうけど。何というかイメージが違いすぎましたわね・・・。」
「捉えどころのない人物だな。でもこれで、クエストには行けるんだろ、ジェシド。」
「うん!・・・ただ、問題は残っているけどね。」
「 劫火峡谷、だったな。その場所を通る方法を考えなければならない。」
「うん。まずは 劫火峡谷について調べようと思う。」
「付き合いますわ。」
「ありがとう!」
意気揚々と弾む3人の声は少しずつ小さくなっていく。その影から、クスクスクスクスッ・・・、と笑う妖精の羽の光が仄かに光を残していた。
1,2,3秒・・・レイアはゆっくりと瞼を開ける。雑然としているいつもの研究室だ。
「いったいなぁ、もうー。あんな分厚い魔法書を投げつけるなんて・・・。」
直撃した頭を摩りながら不満げにシャノハはつぶやいた。
「悪いクセが出ておったぞ。止めてやっただけ有難いと思え。」
レイアは先ほど淹れたダージリンティーを口に運んだ。紅茶は少し冷めている。
「エレメント遺伝子を専攻している生徒は珍しいからね。ついつい――」
「ウソをつけ。」
レイアはピシャリとシャノハの言葉を遮った。
「赤いリボンをした髪の長い女子生徒・・・。あやつじゃろ?」
レイアは片方の口角を上げ得意げに笑っている。
「クエストを受注するなんて回りくどいことをするのう。命令すればよいではないか。お前の体を――」
「それじゃあ!」
今度はシャノハがレイアの言葉を強く遮った。
「それじゃあ本当の研究成果は出ないんだよねぇー。」
シャノハはニッコリと笑っている。が、レイアは全身の毛を逆立てるように警戒した。
「それよりも、自分だって興味あるんじゃないの、レイアちゃん。あの森で採取した爪を未だに研究しているの、知っているよー。」
「・・・。」
「気にしなくていいよ。数あるエレメントを調べ尽くしている君だって分かるはずがないんだ。その辺の一般人と精霊が混合したエレメントなんて。」
レイアは不満げにその小さな唇を尖らせた。
「一般人のエレメントなんてデータベース化してないからね。あんな霊魔に時間を割いている場合じゃないんだよ、こっちは。
それに、こんな汚れた検体情報に希少なメモリを圧迫されたくないんだよねー。」
シャノハは手で拳を作り、腰をトントンと叩きながらため息をついた。
「それよりも・・・」
シャノハは、乱雑な紙の中から薄いファイルを素早く取り上げる。
ニャッ!とレイアが小さく鳴き、ファイルを取り返そうとするも一歩及ばなかった。
「爪を凍らせていた氷!こっちの方が断然魅力的だ!」
爪を調べるフリをしながら、セリカが使用したエレメントについて調べていた事はどうやらお見通しだったようだ。
「ファイルを返せっ!まだ立証条件が揃っておらん。」
「そんな事分かってるよ。ただ立証なんて彼女がいないと始まらないでしょ。この先の研究計画は立っていないはずだよ。」
図星をつかれたレイアはグッと黙ったが、素直には頷けない。
「ではなぜ、あの娘をクエストにやった?どこから仕組んだかは知らんが、あの娘をクエスト巻き込むことは織り込み済みなのじゃろ?」
セリカとジェシドの出会いからクエスト協力への筋書きは、シャノハの手によって紡がれた1本の糸だとレイアは思っているのだ。そしてその件について、シャノハは否定も肯定もしなかった。
「聞くより見た方がイメージはしやすい。経験に勝るものはない。思い出は視覚だけで作られるものではない。ということかな。」
「なんじゃと?」
「経験は彼女の為だ。そしてその彼女の経験はいつか僕たちの研究材料になる。回りくどい事が、実は近道だったりするんだよ、レイアちゃん。」
気取りながらウィンクをするシャノハにレイアは舌打ちを打った。そして、机の上にあったカヌレを口に放り入れ一口で食べてしまう。
「さて、それよりもだ・・・」
その間にレイアのお菓子を食べる手は止まらない。小さなカヌレを一口、また一口と口に放り入れていく。リスのように頬を膨らませて食べる姿は愛らしささえ覚えてしまう。
「このカヌレは僕が行列に並んで買ってきた有名菓子処のカヌレだけども・・・。」
レイアの手は止まらない。次々とカヌレがレイアの口に消えていく。そして、残り1個になったカヌレに2人は同時に手を伸ばした。
しかし今度はレイアの方が早かった。菓子への執着心がシャノハのスピードを上回ったともいえるだろう。
レイアは手に取った最後のカヌレを素早く口に入れると、満足げな顔をして紅茶を一気に飲み干した。
「僕の・・・僕のカヌレが・・・・!」
「美味かったのぅ。紅茶との相性が抜群じゃったわい。」
そう言うと、レイアは自分の研究室に入り大きな音を立てて扉を閉めてしまった。
扉には『音を立てるな。入るな。起こすな。』と書いてある張り紙が、扉を閉めた時の衝撃によりカサカサと揺れている。
空になった菓子箱を見ながらシャノハはガックリと肩を落とした。しかし、彼女なりのせめてもの反撃だろうと思うと、自然と顔はほころんでしまう。
最近できたお菓子の店はマカロンの種類が豊富らしい。人気店なので再び行列に並ぶはめになるだろうが、シャノハは片方が違うスリッパを軽快に鳴らし、その店への地図を頭に思い描いた。
あははは~とシャノハは笑みをこぼした。
「 魔術中央図書館――通称ACL から借りてきて欲しい本があるんだ。行く方法や期間は特に設けてないからお任せね~。
借りてくる資料のリストは後から端末に送っておくよ。
え~~っと、 修練クラスのジェシド・ウォーグと 実戦クラスのシリア・クルーゼ、同じく 実戦クラスのセリカ・アーツベルクね・・・。」
シャノハは、慣れた手つきで受託書に3人の名前を登録していった。
「何か質問はあるかい?」
シャノハの問いに、ジェシドが素早く手を挙げた。
「はい!!あ、あの・・・僕、シャノハ博士に憧れていて・・・博士の論文も全部読ませてもらって、研究も多角的な視点から切り込む考えに感動して、あの本当にスゴイと思っていて!」
イメージはどうあれ、自分の憧れている人が目の前にいるのだ。ジェシドは顔を赤らめながら必死に自分の気持ちを伝えようとしているが、緊張のせいで空回りしている。
「光栄だね。」
しかしシャノハは、緊張するジェシドの気持ちを汲みニッコリと笑った。
「こ、こちらこそ光栄です!このようなクエストを受注して頂いて、シャノハ博士の研究文献に少しでも携われるなんて!」
「ちょっとゴタゴタして資料を借りに行く時間もないんだよね~。ほら、色々とあったから~後処理とかね・・・。」
その細目が、シリアとセリカの2人を捉えたことに誰も気づくはずもない。
「君は僕の研究に興味があるんだ?」
ヨレヨレの白衣のポケットに片手を突っ込んだシャノハは、ジェシドの方に体を向けた。
「は、はい!!特にエレメント遺伝子について好学していて、シャノハ博士の論文も大変興味深く拝読させてもらっています!」
ふ~~ん、と言いながらシャノハは不敵な笑みを浮かべる。
「嬉しいねぇ~。エレメント遺伝子は文献も少なく立証案件も足りなすぎる。まぁ、確かに追及すれば禁忌領域に手を伸ばしかねない始祖の研究だ。
なぜ人はエレメントを使えるのか、精霊はいつどこから居たのか、魔法力の器とは何か、精霊の使役のオリジンとは・・・。魔障痕の細胞組織と霊魔の思想概念の繋がりとは、掘り下げれば掘り下げるだけ瀰漫し、己の思考を壊しかねない・・・。」
顔は笑っているはずなのに、シャノハの奥底から芽吹く迫力に3人は息を呑んだ。
「1番効率的なのは、人を生きたまま開くことさ。痛覚に反応がエレメントにどう作用するかも調べなければいけない。もちろん、霊魔だって例外ではない。あらゆる種類の霊魔を解剖して――」
「あ、あの・・・。」
ジェシドがおそるおそる声を掛けたその時、シャノハが出てきた壁が再び淡く薄く光りだした。そして、壁の一部分からある物がシャノハに向かって投げつけられ直撃したのだ。
「アターーーッ!!」
ゴスッという低い音と共にシャノハは、そのまま廊下に倒れ込んでしまった。
シャノハに投げつけられた物をシリアは両手で拾い上げた。
「とっても分厚い辞書ですわ・・・。重さは3キロ以上はあるかと。」
「素晴らしいコントロールだな。」
そこから投げられたであろう壁を見てみると、すでに光は失われている。
ジェシドは壁を恐々と触ってみた。
「壁の奥に部屋があるのか。それを特別な構築術で見えないようにしている。すごい技術だ・・・。」
「イタタタタ・・・。ごめんごめん、話が脱線してしまったようだ。エレメント遺伝子を追求する人は珍しいから興奮しちゃった。とりあえず、受託のサインはしておいたよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「そうだ。せっかくACLへ行くんだ。興味のある文献があるなら君も利用したらいい。入館利用の許可証も発行しておこう。」
「い、いいんですかっ!?」
思ってもない提案にジェシドは鼻息を荒くする。
「いいよー。エレメント遺伝子に興味を持つ者同士、思う存分勉学に励みたまえ。それに、何か新しい発見があるかもしれない。」
ニヤリと笑う細い目の奥に鈍色の光が見えた気がしたのはセリカだけだろうか。
しかし、シャノハはクッキリと皺の残る笑顔を見せると、よろしくー。と言って腰に手を当てながら立ち上がり、薄汚い壁に手を当てた。
壁に淡く薄い光が再び現れると、シャノハはそのまま姿を消してしまった。
ジェシドは消えた壁を再び触ってみる。しかし、無機質な感触だけが手に残るだけだった。
「一体どんな技術なんだろう・・・。やっぱりすごい人だ!」
「スゴイ人なんでしょうけど。何というかイメージが違いすぎましたわね・・・。」
「捉えどころのない人物だな。でもこれで、クエストには行けるんだろ、ジェシド。」
「うん!・・・ただ、問題は残っているけどね。」
「 劫火峡谷、だったな。その場所を通る方法を考えなければならない。」
「うん。まずは 劫火峡谷について調べようと思う。」
「付き合いますわ。」
「ありがとう!」
意気揚々と弾む3人の声は少しずつ小さくなっていく。その影から、クスクスクスクスッ・・・、と笑う妖精の羽の光が仄かに光を残していた。
1,2,3秒・・・レイアはゆっくりと瞼を開ける。雑然としているいつもの研究室だ。
「いったいなぁ、もうー。あんな分厚い魔法書を投げつけるなんて・・・。」
直撃した頭を摩りながら不満げにシャノハはつぶやいた。
「悪いクセが出ておったぞ。止めてやっただけ有難いと思え。」
レイアは先ほど淹れたダージリンティーを口に運んだ。紅茶は少し冷めている。
「エレメント遺伝子を専攻している生徒は珍しいからね。ついつい――」
「ウソをつけ。」
レイアはピシャリとシャノハの言葉を遮った。
「赤いリボンをした髪の長い女子生徒・・・。あやつじゃろ?」
レイアは片方の口角を上げ得意げに笑っている。
「クエストを受注するなんて回りくどいことをするのう。命令すればよいではないか。お前の体を――」
「それじゃあ!」
今度はシャノハがレイアの言葉を強く遮った。
「それじゃあ本当の研究成果は出ないんだよねぇー。」
シャノハはニッコリと笑っている。が、レイアは全身の毛を逆立てるように警戒した。
「それよりも、自分だって興味あるんじゃないの、レイアちゃん。あの森で採取した爪を未だに研究しているの、知っているよー。」
「・・・。」
「気にしなくていいよ。数あるエレメントを調べ尽くしている君だって分かるはずがないんだ。その辺の一般人と精霊が混合したエレメントなんて。」
レイアは不満げにその小さな唇を尖らせた。
「一般人のエレメントなんてデータベース化してないからね。あんな霊魔に時間を割いている場合じゃないんだよ、こっちは。
それに、こんな汚れた検体情報に希少なメモリを圧迫されたくないんだよねー。」
シャノハは手で拳を作り、腰をトントンと叩きながらため息をついた。
「それよりも・・・」
シャノハは、乱雑な紙の中から薄いファイルを素早く取り上げる。
ニャッ!とレイアが小さく鳴き、ファイルを取り返そうとするも一歩及ばなかった。
「爪を凍らせていた氷!こっちの方が断然魅力的だ!」
爪を調べるフリをしながら、セリカが使用したエレメントについて調べていた事はどうやらお見通しだったようだ。
「ファイルを返せっ!まだ立証条件が揃っておらん。」
「そんな事分かってるよ。ただ立証なんて彼女がいないと始まらないでしょ。この先の研究計画は立っていないはずだよ。」
図星をつかれたレイアはグッと黙ったが、素直には頷けない。
「ではなぜ、あの娘をクエストにやった?どこから仕組んだかは知らんが、あの娘をクエスト巻き込むことは織り込み済みなのじゃろ?」
セリカとジェシドの出会いからクエスト協力への筋書きは、シャノハの手によって紡がれた1本の糸だとレイアは思っているのだ。そしてその件について、シャノハは否定も肯定もしなかった。
「聞くより見た方がイメージはしやすい。経験に勝るものはない。思い出は視覚だけで作られるものではない。ということかな。」
「なんじゃと?」
「経験は彼女の為だ。そしてその彼女の経験はいつか僕たちの研究材料になる。回りくどい事が、実は近道だったりするんだよ、レイアちゃん。」
気取りながらウィンクをするシャノハにレイアは舌打ちを打った。そして、机の上にあったカヌレを口に放り入れ一口で食べてしまう。
「さて、それよりもだ・・・」
その間にレイアのお菓子を食べる手は止まらない。小さなカヌレを一口、また一口と口に放り入れていく。リスのように頬を膨らませて食べる姿は愛らしささえ覚えてしまう。
「このカヌレは僕が行列に並んで買ってきた有名菓子処のカヌレだけども・・・。」
レイアの手は止まらない。次々とカヌレがレイアの口に消えていく。そして、残り1個になったカヌレに2人は同時に手を伸ばした。
しかし今度はレイアの方が早かった。菓子への執着心がシャノハのスピードを上回ったともいえるだろう。
レイアは手に取った最後のカヌレを素早く口に入れると、満足げな顔をして紅茶を一気に飲み干した。
「僕の・・・僕のカヌレが・・・・!」
「美味かったのぅ。紅茶との相性が抜群じゃったわい。」
そう言うと、レイアは自分の研究室に入り大きな音を立てて扉を閉めてしまった。
扉には『音を立てるな。入るな。起こすな。』と書いてある張り紙が、扉を閉めた時の衝撃によりカサカサと揺れている。
空になった菓子箱を見ながらシャノハはガックリと肩を落とした。しかし、彼女なりのせめてもの反撃だろうと思うと、自然と顔はほころんでしまう。
最近できたお菓子の店はマカロンの種類が豊富らしい。人気店なので再び行列に並ぶはめになるだろうが、シャノハは片方が違うスリッパを軽快に鳴らし、その店への地図を頭に思い描いた。
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