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第2章
新たな課題
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秋風にほんの少し冬の匂いが混ざっている。
冬の匂いというのは今までの過去の匂いだ。畑を焼く煙に匂いだったり、湿った土に匂いだったり、空気に混じる埃っぽさだったり――。
思い出す季節と匂いが1人1人違うのは周りの木々たちが少しずつ複雑に色を変える様に似ている。
久しぶりに登校したセリカは、クラスメートたちの制服が半袖から長袖に変わっていたり、早い者はセーターを着ていたりと衣替えをした姿に冬の訪れを感じることとなった。
(確かに肌寒いと思った。私も明日から長袖にしよう。)
たった6日間、学校を休んでいただけなのに随分長く時間が経過したように感じる。
露出した腕をさすりながら教室のドアを開ければ、聞き慣れた声が出迎えてくれた。
「あぁーーっ!セリカァ!!」
声の主はシリアだった。制服が長袖になっている。駆け足で寄ってきて、遠慮のない力でセリカを抱きしめた。
「セリカァ!心配しましたわ!もうおケガの具合はよろしいのですか!?」
首を90度に上げたシリアは涙を浮かべていた。その様子にセリカの気持ちが温かくなる。
「心配かけてすまない。このとおり回復した。シリア、どうやらたくさん世話になったみたいだな。ありがとう。」
シリアの潤んだ目に優しく笑うセリカの顔が映っている。その姿がどんどんと崩れていけば、シリアの目から涙が溢れだした。
「そんな、当然のことですわ!」
セリカを抱きしめる腕の力が強くなった。シリアの帽子を軽く触ると肌触りのいい生地の感触がした。
「よぉ、セリカ。もう大丈夫なのか?」
次に声を掛けてきたのはテオだ。テオの制服は半袖のままである。
「あぁ、もう平気だ。」
「そりゃ、良かった。スゲー血が出ていたから心配したぜ。」
テオはセリカの耳元に近づく。
「あのことは聞いたか?」
周りには聞こえない小さな声だった。
「ジン先生とライオス先生から聞いた。咎人や霊魔のことは箝口令が敷かれていると。」
シリアに視線を向けたままセリカも小声で会話をする。
「そーゆーことだ。オレたちも説明して欲しいことが山ほどあったが質問さえも禁止だと。」
「あれから、アイバンさんもシュリさんもお姿を見ていませんの。まぁ、生徒会《プリンシパル》のメンバーはあまり表に出ないことが多いのですが。」
「そうか。」
セリカの脳裏にアイバンとシュリの魔法がよみがえってくる。2人の魔法力は本当にすごかった。
「2人は私を助ける為に奔走してくれたらしいな。一言お礼を伝えたい。」
「えぇ、2人もきっとセリカに会いたいと思ってくださいますわ。」
涙を拭ったシリアがニコッと笑う。
「そうだな。検体を採取できたのもお前の魔法のおかげみたいだしな。」
「検体?」
「なんだ、ライオス先生から聞いてないのか?」
「ある程度のことは聞いたはずなんだが・・・。検体とは何のことだ?」
テオは再び小声で耳打ちする。
「生徒会メンバー2人は、オレたちの避難誘導の他に、例の霊魔の検体を採取することも目的の1つだったらしいぞ。全員で森から脱出する時にシュリさんがそのことに気付いたんだ。」
「ライオス先生から検体の採取をお願いされていた、とおっしゃっていましたね。」
シリアも小声で当時の説明に加わった。
「そうそう。毛でも血でも細胞なら何でもいいらしいんだけどな。でも霊魔の死体って、ボロボロの砂になって風で飛ばされてしまったんだよ、サラサラサラーって。その辺を全員で探したんだけど、飛散しまくった血も誰のか分からなくて毛も残ってなくて。途方に暮れていたよな。」
「そうなんです。日も暮れてきて辺りが暗くなってきたから余計に焦ってしまって・・・。その時、エリスが思い出したんです。セリカが霊魔と戦った時に、爪を凍らせてそれごと薙ぎ払ったって。セリカ、スゴイですね!」
シリアから称賛の眼差しで見つめられているが、セリカはうろ覚えだ。
「そ、うだったのかな・・・。」
「なんだよ、ハッキリ覚えていないのかよ。」
「必死だったからな、あの時は・・・。それで、その爪はあったのか?」
「はい。エリスの案内で現場を探したら氷漬けにされていた霊魔の爪が残っていたんです。」
「氷漬けだったから状態も良かったそうだ。シュリさんたちも喜んでいたよ。さすがセリカだな。」
「私は大したことはしていない。無我夢中で霊魔に立ち向かっただけだ。」
「出た出た、セリカのツンデレ!」
テオが大きく笑った。
「セリカはツンツンツンデレ、ぐらいですわね。」
「ツン、デレ?何だそれは・・・?」
シリアも笑っている。聞き慣れない言葉でセリカは会話についていけない。
「あの時は、ちょっと人間らしいセリカの姿を見られたのにな。通常運転に戻っちまったな。」
「でもたまに見せるデレもかわいいですよ、セリカ!」
完全にテオとシリアのペースだ。
「いや、だから――」
「なんだか盛り上がってるね~!!」
「お、ロイ!」
「ちーっす!」
ロイはピースを作って近づいてくる。ハーフパンツは相変わらずだが、厚手のトレーナーに衣替えをしている。
「お互い意識がある状態では初めましてだね~!ロイ・メイヒューです!」
ロイはセリカに右手を差し出した。
「そうか、確かに初対面だな。セリカ・アーツベルクだ。よろしく。」
差し出された手を優しく取り握手を交わす。するとロイは、セリカの顔をマジマジと覗き込んだ。
「ふぅーん、セリカ美人だね~。色も白くて目も大きい。ね、アドレス交換しよ~!」
ロイの手元には端末が握られている。
そこにロイの首を羽交い絞めするようにテオが後ろから腕を回した。
「イダダダダダダッッ――!!」
「セリカ、気を付けろ。コイツは女のことになると節操が無いから。」
「ムッツリに言われたくないよっ!自分だってシリアに――イダダダダダダダッ!締まってる!締まってるってっ!!」
「特にコイツはこの顔を利用して年上キラーだから。余計な事言うなよ、オマエ・・・!」
「分かった、分かったからっ!」
テオとロイの様子にシリアは笑っている。どうやら日常の光景らしい。
その時、セリカはふと思い出した。
「そういえば、ロイ。魔障痕は消えたのか?」
2人の動きがピタッと止まる。そして辺りをキョロキョロと見回した。
「おっと、すまない・・・。」
セリカは思わず自分の口を押さえた。大きな声では言えないワードだと気付いたからだ。幸いにも教室に変化は見られない。
テオから解放されたロイは咳払いをする。この筋肉ダルマッと、小さな声でテオを睨むと、そのままの声量で話し始めた。
「うん。魔障痕はもう消えてるよ。でも、シュリさんに回復してもらって意識を取り戻してからもドクンドクンと疼いてた。痛くはなかったけど気持ちいいもんじゃないね、アレ~。」
ロイは当時の疼きを思い出すように、左腕をグッと握った。
「完全に疼きが消えたのは、あの霊魔が砂になっていった時だったかな。霊魔が消滅すれば魔障痕も消滅する・・・。身をもって体験したよ。」
セリカを除く3人の脳裏には、砂になった霊魔から若い男性の姿が現れた描写が思い出された。あれは誰だったのか、結局分からず終いだ。
「そうか、それはよかったよ。」
その時チャイムが鳴った。HRの始まる時間だ。
ロイは手を振って自分の席に戻っていった。テオもシリアもそれぞれが席に着き始めるのを見て、セリカも自分の席へ座った。
教室のドアが開き姿を現したのはライオスだ。誰も驚く様子が無いところを見ると、ジンの謹慎処分はクラス全員が知っているのだろう。
「みなさん、おはようございます。今日からセリカさんが復学しました。体調に問題もなく安心しました。」
クラスの視線がセリカに集まっている。セリカは気にすることなく教卓を見据えた。
「実戦クラスも全員揃ったので、今後のことについて再度確認をしておきますね。」
ライオスがニッコリとセリカの方を見て笑う。
「しばらくはこの前のような実習はありません。その代わり座学に勤しんでもらいます。」
(座学?勉学のことか?)
「これから数週間は魔法学をはじめエレメント構築、魔法の成り立ち、召喚使役方法をはじめ、さまざまな技術に精通してもらうため大容量の知識を頭に入れてもらいます。勿論、初等部や中等部の復習も忘れずに。1か月後のテストに向けてしっかりと励んでくださいね。成績の悪い人は追試もありますからそのつもりで。」
(ん?)
「勿論、成績評価と一緒にポイントの加算もされます。前回の『Twilight forest《静かなる森》』の実習は無効となったので全員の転科は免除されました。しかしその分、ポイントも加算されていません。少ない実習でのポイント無効は今後に響きますので、このテストでしっかり稼いでくださいね。」
(んん?)
「は~い。では、さっそく自然学とエレメント構築の交互理論の勉強を始めますね。みなさん、教科書を開いてください。」
ガタガタと慌ただしく机からテキストとタブレットを出す音がする。既にライオスの前にあるスクリーンには、難解な数式が表示されていた。
(えぇ、と・・・。)
完全に出遅れたセリカは、急に始まった授業の半分も理解できぬまま思考を停止させていた。
冬の匂いというのは今までの過去の匂いだ。畑を焼く煙に匂いだったり、湿った土に匂いだったり、空気に混じる埃っぽさだったり――。
思い出す季節と匂いが1人1人違うのは周りの木々たちが少しずつ複雑に色を変える様に似ている。
久しぶりに登校したセリカは、クラスメートたちの制服が半袖から長袖に変わっていたり、早い者はセーターを着ていたりと衣替えをした姿に冬の訪れを感じることとなった。
(確かに肌寒いと思った。私も明日から長袖にしよう。)
たった6日間、学校を休んでいただけなのに随分長く時間が経過したように感じる。
露出した腕をさすりながら教室のドアを開ければ、聞き慣れた声が出迎えてくれた。
「あぁーーっ!セリカァ!!」
声の主はシリアだった。制服が長袖になっている。駆け足で寄ってきて、遠慮のない力でセリカを抱きしめた。
「セリカァ!心配しましたわ!もうおケガの具合はよろしいのですか!?」
首を90度に上げたシリアは涙を浮かべていた。その様子にセリカの気持ちが温かくなる。
「心配かけてすまない。このとおり回復した。シリア、どうやらたくさん世話になったみたいだな。ありがとう。」
シリアの潤んだ目に優しく笑うセリカの顔が映っている。その姿がどんどんと崩れていけば、シリアの目から涙が溢れだした。
「そんな、当然のことですわ!」
セリカを抱きしめる腕の力が強くなった。シリアの帽子を軽く触ると肌触りのいい生地の感触がした。
「よぉ、セリカ。もう大丈夫なのか?」
次に声を掛けてきたのはテオだ。テオの制服は半袖のままである。
「あぁ、もう平気だ。」
「そりゃ、良かった。スゲー血が出ていたから心配したぜ。」
テオはセリカの耳元に近づく。
「あのことは聞いたか?」
周りには聞こえない小さな声だった。
「ジン先生とライオス先生から聞いた。咎人や霊魔のことは箝口令が敷かれていると。」
シリアに視線を向けたままセリカも小声で会話をする。
「そーゆーことだ。オレたちも説明して欲しいことが山ほどあったが質問さえも禁止だと。」
「あれから、アイバンさんもシュリさんもお姿を見ていませんの。まぁ、生徒会《プリンシパル》のメンバーはあまり表に出ないことが多いのですが。」
「そうか。」
セリカの脳裏にアイバンとシュリの魔法がよみがえってくる。2人の魔法力は本当にすごかった。
「2人は私を助ける為に奔走してくれたらしいな。一言お礼を伝えたい。」
「えぇ、2人もきっとセリカに会いたいと思ってくださいますわ。」
涙を拭ったシリアがニコッと笑う。
「そうだな。検体を採取できたのもお前の魔法のおかげみたいだしな。」
「検体?」
「なんだ、ライオス先生から聞いてないのか?」
「ある程度のことは聞いたはずなんだが・・・。検体とは何のことだ?」
テオは再び小声で耳打ちする。
「生徒会メンバー2人は、オレたちの避難誘導の他に、例の霊魔の検体を採取することも目的の1つだったらしいぞ。全員で森から脱出する時にシュリさんがそのことに気付いたんだ。」
「ライオス先生から検体の採取をお願いされていた、とおっしゃっていましたね。」
シリアも小声で当時の説明に加わった。
「そうそう。毛でも血でも細胞なら何でもいいらしいんだけどな。でも霊魔の死体って、ボロボロの砂になって風で飛ばされてしまったんだよ、サラサラサラーって。その辺を全員で探したんだけど、飛散しまくった血も誰のか分からなくて毛も残ってなくて。途方に暮れていたよな。」
「そうなんです。日も暮れてきて辺りが暗くなってきたから余計に焦ってしまって・・・。その時、エリスが思い出したんです。セリカが霊魔と戦った時に、爪を凍らせてそれごと薙ぎ払ったって。セリカ、スゴイですね!」
シリアから称賛の眼差しで見つめられているが、セリカはうろ覚えだ。
「そ、うだったのかな・・・。」
「なんだよ、ハッキリ覚えていないのかよ。」
「必死だったからな、あの時は・・・。それで、その爪はあったのか?」
「はい。エリスの案内で現場を探したら氷漬けにされていた霊魔の爪が残っていたんです。」
「氷漬けだったから状態も良かったそうだ。シュリさんたちも喜んでいたよ。さすがセリカだな。」
「私は大したことはしていない。無我夢中で霊魔に立ち向かっただけだ。」
「出た出た、セリカのツンデレ!」
テオが大きく笑った。
「セリカはツンツンツンデレ、ぐらいですわね。」
「ツン、デレ?何だそれは・・・?」
シリアも笑っている。聞き慣れない言葉でセリカは会話についていけない。
「あの時は、ちょっと人間らしいセリカの姿を見られたのにな。通常運転に戻っちまったな。」
「でもたまに見せるデレもかわいいですよ、セリカ!」
完全にテオとシリアのペースだ。
「いや、だから――」
「なんだか盛り上がってるね~!!」
「お、ロイ!」
「ちーっす!」
ロイはピースを作って近づいてくる。ハーフパンツは相変わらずだが、厚手のトレーナーに衣替えをしている。
「お互い意識がある状態では初めましてだね~!ロイ・メイヒューです!」
ロイはセリカに右手を差し出した。
「そうか、確かに初対面だな。セリカ・アーツベルクだ。よろしく。」
差し出された手を優しく取り握手を交わす。するとロイは、セリカの顔をマジマジと覗き込んだ。
「ふぅーん、セリカ美人だね~。色も白くて目も大きい。ね、アドレス交換しよ~!」
ロイの手元には端末が握られている。
そこにロイの首を羽交い絞めするようにテオが後ろから腕を回した。
「イダダダダダダッッ――!!」
「セリカ、気を付けろ。コイツは女のことになると節操が無いから。」
「ムッツリに言われたくないよっ!自分だってシリアに――イダダダダダダダッ!締まってる!締まってるってっ!!」
「特にコイツはこの顔を利用して年上キラーだから。余計な事言うなよ、オマエ・・・!」
「分かった、分かったからっ!」
テオとロイの様子にシリアは笑っている。どうやら日常の光景らしい。
その時、セリカはふと思い出した。
「そういえば、ロイ。魔障痕は消えたのか?」
2人の動きがピタッと止まる。そして辺りをキョロキョロと見回した。
「おっと、すまない・・・。」
セリカは思わず自分の口を押さえた。大きな声では言えないワードだと気付いたからだ。幸いにも教室に変化は見られない。
テオから解放されたロイは咳払いをする。この筋肉ダルマッと、小さな声でテオを睨むと、そのままの声量で話し始めた。
「うん。魔障痕はもう消えてるよ。でも、シュリさんに回復してもらって意識を取り戻してからもドクンドクンと疼いてた。痛くはなかったけど気持ちいいもんじゃないね、アレ~。」
ロイは当時の疼きを思い出すように、左腕をグッと握った。
「完全に疼きが消えたのは、あの霊魔が砂になっていった時だったかな。霊魔が消滅すれば魔障痕も消滅する・・・。身をもって体験したよ。」
セリカを除く3人の脳裏には、砂になった霊魔から若い男性の姿が現れた描写が思い出された。あれは誰だったのか、結局分からず終いだ。
「そうか、それはよかったよ。」
その時チャイムが鳴った。HRの始まる時間だ。
ロイは手を振って自分の席に戻っていった。テオもシリアもそれぞれが席に着き始めるのを見て、セリカも自分の席へ座った。
教室のドアが開き姿を現したのはライオスだ。誰も驚く様子が無いところを見ると、ジンの謹慎処分はクラス全員が知っているのだろう。
「みなさん、おはようございます。今日からセリカさんが復学しました。体調に問題もなく安心しました。」
クラスの視線がセリカに集まっている。セリカは気にすることなく教卓を見据えた。
「実戦クラスも全員揃ったので、今後のことについて再度確認をしておきますね。」
ライオスがニッコリとセリカの方を見て笑う。
「しばらくはこの前のような実習はありません。その代わり座学に勤しんでもらいます。」
(座学?勉学のことか?)
「これから数週間は魔法学をはじめエレメント構築、魔法の成り立ち、召喚使役方法をはじめ、さまざまな技術に精通してもらうため大容量の知識を頭に入れてもらいます。勿論、初等部や中等部の復習も忘れずに。1か月後のテストに向けてしっかりと励んでくださいね。成績の悪い人は追試もありますからそのつもりで。」
(ん?)
「勿論、成績評価と一緒にポイントの加算もされます。前回の『Twilight forest《静かなる森》』の実習は無効となったので全員の転科は免除されました。しかしその分、ポイントも加算されていません。少ない実習でのポイント無効は今後に響きますので、このテストでしっかり稼いでくださいね。」
(んん?)
「は~い。では、さっそく自然学とエレメント構築の交互理論の勉強を始めますね。みなさん、教科書を開いてください。」
ガタガタと慌ただしく机からテキストとタブレットを出す音がする。既にライオスの前にあるスクリーンには、難解な数式が表示されていた。
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