エレメント ウィザード

あさぎ

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第1章3部

結末

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 「──ということよ。」

 悔しそうに睨むファルナたちはまだ納得していなかった。

 「それが、何故オレたちが魔法が使えないということに結びつく?」
 「あの音ね。機械音にも似たあの音に一縷の望みを賭けてみたの。
 確証はなかった。それでも、この状況は学園にも伝わっていると仮定し、何かしらの合図と受け取ったのよ。」
 「えっ!そうだったのっ!?」

 アイバンの本気の驚きにシュリは頭を抱える。しかし、すぐにファルナたちに視界を戻した。

 「とりあえず人質の保護を優先したかった。この子を回収すればそのまま撤退するつもりだったけど・・・。まさか、丸っきり魔法が使えなくなっているなんてね。
 さぁ、勝負はついたわ!そちらの少年も引き渡してもらう。観念なさいっ!」
 「誰が、オマエたちのとこに行くか、バーカッ!!!」

 ガロは思いっきりアッカンベーと舌を出した。

 「なら仕方ない!無理やりにでもっ──!!」

 シュリとアイバンが攻撃態勢に入った時だった。絹江さんがモゾモゾと動きはじめると、中からくぐもった声が聴こえてきたのだ。

 「・・・・・ん、なんだ、あたたかい・・・・毛布?」
 「セリカッ!!気が付きましたの!?」
 
 セリカの元にシリアが駆け寄り、シュリとアイバンも一瞬気を取られた時だった。

 「行くぞ。」

 ローブを翻してゼロが背を向ける。そして、ポケットからカチャリと音を立てて取り出したのは透明のキューブ型をした石だった。
 透明の中には明るい薄い黄色が混じっているそれを、目の前にあった巨木に投げつけたのだ。

 「一体何をするつもり!?」

 巨木に投げつけられた石はその衝撃によりあっさりと粉々になる。その瞬間、石から眩い光が溢れだし、辺りを煌々と照らしはじめた。
 光によって近くの巨木には、大きく濃い影が真っすぐに伸びていく。
 その影にゼロは手のひらをかざすと意識を集中しはじめた。
 すると、真っすぐに伸びた影が伸びたり縮んだり歪な形を繰り返しどんどんと大きくなっていく。そして、人1人がスッポリと潜れる程の大きさで伸縮を止めると、平面だった影に奥行きができポッカリと空間が現れたのだ。

 「何をしたんだ、アイツ!?」
 「魔法は使えないはずなのに・・・!?」

 目の前で起きた現象を、シュリとアイバンは見たことがない。

 「暗影扉ヴィネゲートが開いたってことは、無効化の対象は四元素だけみたいだな。あ~ぁ、光のエレメントストーンもったいねー。これ作るのに、どんだけ絞り取らないといけないか。」

 呟くファルナにゼロの眼光が光る。

 「他に脱出する方法が?」
 「ねーよ!あざぁっっす!ガロ、行くぞ!」
 「チッ──!!」

 ファルナはシュリたちを睨むガロの背中を押す。ガロの姿が空間に吸い込まれ、ファルナもその空間に入ろうとしたとき、パサッとした布の音が聞こえた。
 後ろを振り返ればゼロがフードを脱ぎ、乱れていた髪を触っている。その見事な銀髪は、そこに居た誰もを釘付けにした。
 グシャグシャと髪を整えたゼロはもう1度セリカの方をじっと見つめる。そして朧げなセリカと視線が合うと、長いローブを翻し暗闇の空間に消えていってしまった。

 「あっ!オイ、待てやっ!!」

 とアイバンが駆け出した時にはゼロの背中が空間に消え、禍々しい気配と共に暗い影がゆっくりと閉じていくところだった。

 そして再び森に静寂が訪れる。聞こえるのは風に揺れる木々の音だけだった。
 ゼロたちの気配が完全に消えた直後、シリアはペタンと座り込んでしまった。

 「大丈夫か、魔女っ子ちゃん!?」

 アイバンはすかさずシリアに手を伸ばす。

 「は、はい。こ、怖かった・・・・ですぅ~!」

 緊張の糸が切れたのか、シリアの目に溜まった涙が一気に溢れだした。すでに鼻が真っ赤になっている。

 「お、おぃ!泣くなって!よく頑張ったぞ!ナイスプレイだったぞ、絹江さん!!」

 オロオロしながら宥めるアイバンがおかしくて、シュリの笑い声が風に乗る。
 いつの間にか森を覆っていた余所余所しさも消え、空に差し込む緋色の光が長い1日の終わりを告げようとしていた。


 「──チッ!最後にやられたぜ、チクショウッ!」

 ガロは鼻息を荒くした。

 「霊魔を失い、希少である光のエレメントストーンも失い、さらには芹禾も手に入れられなかったかぁ~。」

 セリカを呼び捨てにされたゼロの鋭い視線は、すでに端末を操作しているファルナには届かなかった。

 「でもさ、ゼロ。何で最後にフードを脱いだんだ?顔を晒すの、あんまり好きじゃないんだろ?」

 あぁ~、こっちもレアアイテムをドロップしてないかぁ~!!と端末の画面を見ながらファルナが疑問を口にした。

 「・・・。──ない。」
 「あ?なんて?」
 「・・・オレは、顔に自信はなくはない。」
 「あ?」

 真面目な顔をして呟くゼロに、ファルナはただ眉をひそめるだけだった。
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