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第1章3部
発覚
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新しくできた小さな水たまりに、細いラインの波紋が揺れる。ひとたび森が騒げば、葉にしがみついた水滴が重力に逆らえずパタパタと音を立てて落ちていった。夕立が降った後のように、空気がひんやりとしている。
水分を含んだ土の感触が靴底から伝わってくれば、雨具を身に付けて歩いた、家の裏山を思い出す。
雨具の裾から伝う水が足を濡らすのも、ビニール製の雨具から香る独特な匂いも嫌いだった。でも、恵の雨を吸い込み、生き生きと葉を振り、茎を天に伸ばす植物を見るのは好きだった。
「なぁ、ファルナ。さっき、人探しはできてるってどういう意味?あと、ゼロはどこ行ったんだ?」
「その問いの答えはほぼ、同じ場所にあるな。」
「は?分かるように言えよっ!」
「お、ちょっとは回復してきたかい、ガロ君♪」
「茶化すなってっ!」
呼吸が正常に戻ってきたとはいえ、ケガをしている状態で頭に血を上げるのもよくないだろうと、ファルナは質問に答えることにした。
「あ~はいはい。分かったから興奮するなよ。
今回の人探しの件だけど、オマエには探す人物の外見的特徴しか伝えられてないんだ。」
――色づいた葉っぱがヒラリと目の前を落ちていく。見たことのある葉の形に上を見上げると、4,5メートルあるカエデの木がひっそりと、でも存在感ある佇まいで立っていた。
存在感を際立たせているのは、紅く紅葉しているからだろう。陽の加減か、種類によってかは知らないが、目の前にあるカエデの木だけ燃えるように色づいている。
「は?なんでオレだけ?」
――懐かしいと思うのは、その木が幼少期から見慣れた木だったからだろう。確か祖母の家に帰省した時にも、このカエデの木が庭に生えていた。
被ったフードに水滴が落ちる感覚がした。
「まぁまぁ。人探しっていうのは、本当にこの学園にいるのか、っていう確認の為のものだ。だから、連れて帰ってこい。っていう命令までは下されてないだろう?」
「確かに。でも霊魔を連れていけって。試したいからって。」
「試作品を試したいのは本当だよ。例のやり方で使役した霊魔がちゃんと使えるか確認したかったんだよ。」
――落葉したカエデを踏みしめ、さらに先に進む。もう少しで目的の場所に着くだろう。
「もし、オマエが目的の人物を探せていたら、自分で動くつもりだったはずだぜ。」
「ゼロが?」
――まず見えたのは、ダークブラウンの靴だった。艶やかな光沢が、まだ使用して間もないことを物語っている。この短時間で付いた土や汚れが、より靴の新しさを際立たせていた。
無防備に晒されている、白く柔らかそうな太ももには、鋭利な刃物で突き刺されたような傷や、切り裂かれた傷が何ヵ所にも及んでいる。そこから流れ出る血を、思いのまま舐め取りたい衝動に駆られる。
「あぁ。何事にも動じないドライな男が初めて執着、いや、あれはもう粘着だな――する姿を見たよ。」
「その相手っていうのが、今回の人探しの対象?」
――赤黒い血痕が彼女の制服を汚していた。それは彼女自身のケガの血か。それとも、霊魔へ攻撃した時に飛散した汚《けが》れた血か。
後者なら、体内に血を流さないようする研究項目を追加しなければいけないだろう。
「そうだ。長い髪を赤いリボンで結わえ、色白な肌に闇夜の瞳。」
――長く伸びる艶やかな黒髪が、首から肩にかけしなやかに流れていた。うつ伏せのまま動けない彼女の背中には、赤褐色の髪をした長身の男が、手を当てて話しかけている。
「細身の身体に、意志の強そうな顔。そして、耳には黒色のカフス。」
「それって――!」
セリカがその気配に気付いた時には、ゼロの容赦のない蹴りがテオを吹き飛ばしていた。
「がっ――!!!!」
「テオッ!!」
受け身が取れぬまま吹き飛ばされたテオは、近くの巨木に思い切り体を叩きつけられる。
「な!――っ何をするっ!?」
セリカは首をグイと上げ、テオを吹き飛ばした相手を思い切り睨んだ。そこには、あの全身ローブの男が、静かにセリカを見下ろしていた。
「そう。芹禾・アーツベルクだ。」
水分を含んだ土の感触が靴底から伝わってくれば、雨具を身に付けて歩いた、家の裏山を思い出す。
雨具の裾から伝う水が足を濡らすのも、ビニール製の雨具から香る独特な匂いも嫌いだった。でも、恵の雨を吸い込み、生き生きと葉を振り、茎を天に伸ばす植物を見るのは好きだった。
「なぁ、ファルナ。さっき、人探しはできてるってどういう意味?あと、ゼロはどこ行ったんだ?」
「その問いの答えはほぼ、同じ場所にあるな。」
「は?分かるように言えよっ!」
「お、ちょっとは回復してきたかい、ガロ君♪」
「茶化すなってっ!」
呼吸が正常に戻ってきたとはいえ、ケガをしている状態で頭に血を上げるのもよくないだろうと、ファルナは質問に答えることにした。
「あ~はいはい。分かったから興奮するなよ。
今回の人探しの件だけど、オマエには探す人物の外見的特徴しか伝えられてないんだ。」
――色づいた葉っぱがヒラリと目の前を落ちていく。見たことのある葉の形に上を見上げると、4,5メートルあるカエデの木がひっそりと、でも存在感ある佇まいで立っていた。
存在感を際立たせているのは、紅く紅葉しているからだろう。陽の加減か、種類によってかは知らないが、目の前にあるカエデの木だけ燃えるように色づいている。
「は?なんでオレだけ?」
――懐かしいと思うのは、その木が幼少期から見慣れた木だったからだろう。確か祖母の家に帰省した時にも、このカエデの木が庭に生えていた。
被ったフードに水滴が落ちる感覚がした。
「まぁまぁ。人探しっていうのは、本当にこの学園にいるのか、っていう確認の為のものだ。だから、連れて帰ってこい。っていう命令までは下されてないだろう?」
「確かに。でも霊魔を連れていけって。試したいからって。」
「試作品を試したいのは本当だよ。例のやり方で使役した霊魔がちゃんと使えるか確認したかったんだよ。」
――落葉したカエデを踏みしめ、さらに先に進む。もう少しで目的の場所に着くだろう。
「もし、オマエが目的の人物を探せていたら、自分で動くつもりだったはずだぜ。」
「ゼロが?」
――まず見えたのは、ダークブラウンの靴だった。艶やかな光沢が、まだ使用して間もないことを物語っている。この短時間で付いた土や汚れが、より靴の新しさを際立たせていた。
無防備に晒されている、白く柔らかそうな太ももには、鋭利な刃物で突き刺されたような傷や、切り裂かれた傷が何ヵ所にも及んでいる。そこから流れ出る血を、思いのまま舐め取りたい衝動に駆られる。
「あぁ。何事にも動じないドライな男が初めて執着、いや、あれはもう粘着だな――する姿を見たよ。」
「その相手っていうのが、今回の人探しの対象?」
――赤黒い血痕が彼女の制服を汚していた。それは彼女自身のケガの血か。それとも、霊魔へ攻撃した時に飛散した汚《けが》れた血か。
後者なら、体内に血を流さないようする研究項目を追加しなければいけないだろう。
「そうだ。長い髪を赤いリボンで結わえ、色白な肌に闇夜の瞳。」
――長く伸びる艶やかな黒髪が、首から肩にかけしなやかに流れていた。うつ伏せのまま動けない彼女の背中には、赤褐色の髪をした長身の男が、手を当てて話しかけている。
「細身の身体に、意志の強そうな顔。そして、耳には黒色のカフス。」
「それって――!」
セリカがその気配に気付いた時には、ゼロの容赦のない蹴りがテオを吹き飛ばしていた。
「がっ――!!!!」
「テオッ!!」
受け身が取れぬまま吹き飛ばされたテオは、近くの巨木に思い切り体を叩きつけられる。
「な!――っ何をするっ!?」
セリカは首をグイと上げ、テオを吹き飛ばした相手を思い切り睨んだ。そこには、あの全身ローブの男が、静かにセリカを見下ろしていた。
「そう。芹禾・アーツベルクだ。」
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