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第1章
霊魔の存在
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能天気なテオの声から聞きなれた名前が届く。
テオの大きな背中からソーっと覗いて見れば前方には警戒態勢でこちらを睨んでいるエリスと菲耶の姿が見えた。
2人は何かを庇うように、だがいつでも攻撃できる体勢で腰を落としていた。
「テオ!?シリアも――!!あぁ~よかった。驚かさないでよ・・・。」
「驚愕」
エリスと菲耶は警戒していた体勢から一気に脱力する。相当緊張していたのか顔も強張っていた。
ただならぬ2人の様子にテオとシリアは歩み寄った。
「大丈夫ですか?もしかしておケガとかされているのでは?」
シリアは2人の体を見たがケガをしている様子はない。しかし2人の表情は依然強張っている。
「私たちは大丈夫。大きなケガはしていないわ。でも――。」
そう言うと2人は体を半回転させてためらいがちに後ろを見た。今まで2人の影になっていた場所が見えた時シリアは小さく悲鳴をあげる。テオも2人の影にあったその姿に驚きを隠せない。
2人が庇うように隠していた場所にはロイが横たわっていた。制服の左側は不規則に引き裂かれており、赤黒いシミがベッタリと付いている。
ロイの顔色は悪く脂汗をかきながら浅い呼吸を繰り返し苦痛の表情を浮かべている。
その様子を見たテオはロイに駆け寄った。
「おい、ロイっ!!大丈夫か!!しっかりしろよっ!!オイっ!!」
ロイの耳元で大きく叫ぶ。
「ロイっ!目を開けっ――!」
「うるさいな、この筋肉ダルマっ!!耳元で叫ぶなよっ。あとヤローに心配されても全然嬉しくない!!」
カッと目を開けたロイはテオに向けて拳を突き出した。その拳はテオの右肩あたりに当たったが、力が入っていないためかテオの制服に拳が擦れた音がしただけだった。
とりあえず意識があることに安心したテオとシリアだったが、ロイの様子はそこまで楽観できる状態ではないことをすぐに把握する。
ロイはすぐに目を閉じて静養の姿勢を取る。どうやら相当体がつらいようだ。
その様子を見ていたエリスはロイの状態について話し始めた。
「とりあえず私の回復魔法で止血はできているわ。でも傷が深くて――。出血量も多かったせいか思うように動けなくなってしまったの。あまり動かすのもいけないと思ってここで休憩していたのだけど――。
容赦なく人の気配がここに向かってくるもんだから焦っちゃったわよ。気配を殺して身を潜めていたつもりだけどよくこの場所が分かったわね。」
最後は苦笑するエリスに、菲耶も同意するように頷いている。
(そういえばこの位置を最初に気付いたのはセリカでしたわ。セリカが気付かなかったら私もきっと3人を見つけていなかったでしょう。あれ?確か傀儡の存在に1番早く気づいたのも――。)
「だってクラスメートの顔が見えたから普通に歩いていくだろうよ。何をそんなに警戒してたんだよ。
複製Elementを付けた傀儡たちから逃げてたのか?」
テオの言葉に思考を中断したシリアも疑問を口にした。
「ロイのケガはあの傀儡にやられたのですか?そうだとしたらかなり遠慮が無いというか・・・いくら実戦クラスの課題といえども手厳しいような――。」
2人の質問にエリスは俯きながら口を噤んだ。その顔は心なしか青ざめている。
すると後ろからガサガサと物音を立てながらセリカが顔を出した。
「クラスメートは見つかったのか?」
「あ、セリカ。はい、やっぱり3人いらっしゃいました。あの距離からよくこの場所に3人いると気付きましたね。
エリス、菲耶。私たちと一緒に行動しているセリカです。この場所にまず気付いたのはセリカなんですよ。」
シリアは簡単に経緯を説明した。
「あぁ、確かあなたね。高等部からの外部入学ってクラスで有名だったのは――。
エリス・マークディルワスよ。初めまして。」
エリスはセリカに前に立ち右手を差し出した。
「セリカ・アーツベルクだ。よろしく頼む」
セリカも右手を差し出し2人は握手をする。
菲耶はその様子に頬を染め、潤んだ瞳で見つめている。その視線に気づいたセリカは菲耶にも右手を差し出した。
すると
「艶やかな漆黒の髪――」
「ん?」
右手に何の反応がないことを訝しく感じたセリカは視線を上げた。するとウットリと自分を見つめる菲耶の顔があった。
反応に困り周りを見てみると、テオは(あちゃ~――)と言いながらもニヤニヤしてこちらを見ている。
エリスとシリアも苦笑しつつ様子を見ていた。
「美しい髪を束ねた赤いリボン。細身の体から放たれる気品溢れる佇まい。蜜を含む果実のような唇。色白の肌に大きな涅色の瞳に吸い込まれる――」
「ちょっ!なんだなんだ?」
セリカは、恍惚の表情で体全体を押し付けるように近づく菲耶を何とか右手で制止し距離を保とうした。
この状況が理解できないセリカを救ってくれたかどうかは不明だが、テオの面白がっている声が響く。
「あ~ぁ、セリカ。ソイツは菲耶・邵呉。気に入られちまったな!そうなると誰の言葉も届かないぜ。
菲耶は美しい物好きって有名なんだよ。ただし、同性に限るだけどなっ!初めてエリスに出会った時を思い出すぜ。
エリス、いいのかぁ~。ポジションを奪われちゃっても。」
「ポジションも何も菲耶は仲の良い友達よ。その菲耶にとやかく言う筋合いは無いわよ。」
「チビッ子にはな~んの反応もなかったよなっ!ウシシシシッ!」
「どういう意味ですか、テオっ――!」
「ちょ、見てないで何とかしてくれないか――?」
「麗しさの中に垣間見える強さ――」
「菲耶って男にはカタコトで話すけど、女には普通に話すよな?何でだ?」
「男がキライだからじゃない?」
「菲耶ったら、セリカが困ってますよ」
「ち、近いっ!!そ、それより後ろで倒れている人のことはいいのかっ!!」
埒があかないと悟ったセリカは全員の意識が向くであろう話題を大声で叫んだ。全員の動きがピタッと止まる。
菲耶もセリカへの意識を解き後ろで横たわっているロイの方を向いた。
その隙にセリカは菲耶との距離を取る。
ロイは相変わらず顔色が悪い。早く森から脱出し救護班に診てもらうべきだろう。
「そうだったな。確かにロイをこのままにしておけないな。なぁエリス。お前らはラピス結晶をいくつ手に入れたんだ?」
「今のところ2つ入手できたわ。ロイだけでも脱出させようとしたんだけど、ロイが「オレのことはいいから2人で森を脱出しろ。」ってバカげたこと言うから菲耶と交代でここまで引きずってきたのよ。
ねぇ、水のElementって私以外に使える人いる?」
「それならセリカ、お前確かElementは水精霊だろ?」
先ほどの戦いでセリカが水の矢を放っていたことをテオは思い出した。
「・・・あぁ。確かに私のElementは水だ。」
セリカは短く肯定した。
「良かった!じゃあ回復魔法は使えるわよね。菲耶も私もロイを担いでここまで来たから体力が削られてしまって・・・。
ロイの意識を回復できるまで回復魔法を使いたいけれど、それじゃあ残りのラピス結晶を手に入れるには魔法力が枯渇してしまいそうで悩んでいたの。
とりあえずロイが自力で動けるまで回復してもらえないかしら。」
セリカ以外の全員がエリスの提案に異論はなかった。
ロイが動けるようなれば誰かを付き添わせ森を脱出し、残りの人はそのままラピス結晶を見つければよい。
「私は・・・私は、回復魔法は使えない。」
セリカの発した声は強く吹く風にかき消されそうなほど小さいものだった。その俯き顔は誰とも視線を合わそうとしない。
「回復魔法が使えないって・・・。ウソでしょ?水精霊を使役する時まず会得するのは回復魔法だって中等部で学んだし、そもそも回復魔法は――!」
言葉を続けようとしたエリスは思わず口を噤んだ。セリカの顔は強張り、纏う空気さえ緊張しているように見えた。そのためこれ以上追及してはいけない気がしたのだ。
――何ともいえない沈黙を破ったのはテオだった。
「じゃぁ仕方ねーな!他の方法を考えようぜっ!とりあえず俺がロイを担いで移動するわ。それなら2人は休憩できるだろ。」
テオの無邪気な声が緊張した空気をわずかに軽くする。
実際にセリカはロイの様子をみる為にその場を離れ、エリスは静かに息を吐きだした。
そんなエリスにシリアは自分の回復薬を差し出した。
「エリス、こちらを使ってくださいな。私はまだ魔法力の器に余裕があるし、この先何かあったらそれこそエリスの回復魔法が必要になってくるでしょ?」
ニコっと笑いながら耳打ちするのはセリカへの配慮なのだろう。
エリスは「ありがとう」と言って回復薬を受け取った。
「こんな時、テオの明るさというか能天気なところには助けられるわね。」
「きっと何にも考えてないのですよ、テオは。」
「あれ、何か俺褒められてる?」
「イヤ、褒メテはいないダロ」
「とりあえずセリカが戻ってきましたら動きましょう。ロイも心配です。」
「ええ、そうね・・・。」
再出発に向けそれぞれ準備を始めた時、向こうの茂みから音がする。セリカが戻ってきたのだろう。
「エリスと菲耶、だったか――。」
冷たく無機質な声音だ。その顔はどこか緊張している。
「どうしました、セリカ。ロイに何かありましたか?」
シリアの声に軽く反応するも、セリカの視線はエリスと菲耶に注がれたままだった。
「あの青年、ロイというのか。――ロイの傷は霊魔にやられた傷だな?」
「は!?霊魔だって!!?」
「え?まさか!――エリス、菲耶、本当ですか!?」
テオとシリアはエリスたちの方を見た。そこには青ざめている2人の顔があり、明らかに動揺している。
「ど、どうして・・・?」
エリスの口元はわずかに震えている。俯くエリスに変わりシリアがセリカの方を向いた。
「セリカ、ここは確かに不可解な事が起こるTwilight forestですが学園内です。学園内に霊魔が入って来られるはずがありません!そんなことはありえないんです――!」
しかしその姿は何かを必死に払拭するようにも見えた。
「そうなのか?」
「はい!この学園は強力な魔術師による強い結界の中にあるんです。学園を脅かす存在を排除する魔法力が施されている結界と聞きます。
なので、霊魔はこの学園に入って来られるはずがないんです!」
セリカの意見を肯定すれば自分たちの日常を守ってくれる存在が実は全く機能していないかもしれない、ということだ。疑念がシリアの語調を自然と強くしていた。
しかしセリカは表情を変えなかった。その様子はシリアに強い不安を与えた。
シリアはこの短期間で知ってしまったのだ。セリカは何か根拠がない限りそんな事を言うはずがないことを――。
「何か理由があんのか?」
シリアの青ざめた顔を見てテオはセリカに聞く。テオもセリカが冗談でそんな事を言う人間には見えないということなのだろう。
「ロイの傷跡を見てみろ。」
そう言うとセリカはまたロイの居る茂みに行ってしまった。テオとシリアはセリカの後をついていく。
ロイの顔色は相変わらず悪く、先ほどよりも苦しそうだった。
セリカはロイの左腕の傷が見えるように制服をグイっと開けて見せた。出血はしていないものの痛々しい傷口にシリアは思わず手で顔を覆ってしまう。
テオはより傷口が見えやすい位置に来るとセリカが差す場所を凝視した。
そこには内出血のような、所謂痣があった。ただその痣は皮膚が脈打つかのようにドクンドクンと動いている。
「これって、確か、えーっと・・・」
「魔障痕だ。」
「あぁ、それそれ。魔障痕!って、えーと」
「霊魔の攻撃による痕跡でしたわね。テオ、教本にも書いてありましたわよ。」
「俺は頭脳派より武道派なんだよ!」
「ということはやっぱりロイは霊魔に・・・?」
「あぁ、間違いないだろう。なぁ2人とも――。」
いつの間にかエリスと菲耶がテオたちの背後に立っている。
「えぇ。あれは間違いなく霊魔だった。しかも見たこともない風貌だった・・・。」
意を決したようにエリスは当時の事を話し始めた――。
ロイが2つ目のラピス結晶に意識を向けている時、背後から襲ってきた霊魔にエリスと菲耶は動けずにいた。
体長3メートル程ある巨体は全身毛で覆われていて長い尻尾を有していた。しかしライオンのような獣ではない。それは完全な2足歩行だったのだ。
両手足には鋭く尖った大きな爪があり、それは黒く光る陶器のように光っていた。そして口からはみ出た牙からは涎が滴っていた。
「ただ、あの動きは人間そのものだった。身のこなし方は人間離れしていたけど・・・。」
「肯定。人間をベースにした獣のようだった。」
「霊魔と根拠づける1番の特徴はあったのですか?」
「ええ、勿論。額に霊魔の刻印がしっかりと刻まれていたわ。」
霊魔には体のどこかに印が刻まれる。その印は負の意識を植え付けられている証拠でもあり、霊魔の意識をコントロールする装置のような役割をしている。
「そもそもさ、霊魔って何だっけ・・・?」
「もう、テオ!こんな時にそんな初歩的なことを言わないでよっ!」
「だって、霊魔って定義が抽象的すぎて分からないんだよ!教本には負の意識を植え付けられた精霊で、それを操る咎人の存在があって、印が刻まれているってことしか載っていないし。
授業の実戦で相手しているのは疑似霊魔なんだろ?本物なんて見たことねーしよ。」
「えぇ、確かに私も授業で使われている教材の霊魔しか知らなかった。でも本物と対峙した時すぐに分かった。
あの禍々しさと圧倒的な恐怖感。今思い出すだけでも・・・。」
そう言って自らを抱くようにエリスは身を縮こませる。菲耶はその背中にそっと手をあてた。
「合点がいった。だからあり得ないと言ったのか。」
今までの話を聞いていたセリアが納得したように頷いている。
「どういうことですか、セリカ」
「みんな、霊魔を見たことがないということに合点がいったんだ。この学園には結界が張ってあると言ったな。だから霊魔は入って来られない。
外からの霊魔を遮断してくれている環境下にいるのなら確かに霊魔の存在は希薄だろう。だが――。」
この時全員の思考はほぼ同じであっただろう。居るべきはずがない場所に霊魔がいる。しかも、今自分たちがいるこの場所にだ。
シリアは先ほどの疑念が確信に変わり、また約束されている安全が無くなっているかもしれないということに恐怖を感じ始める。
改めて今が非常事態なんだと気付いたテオが声を荒げた。
「――っ!!何で霊魔にやられたってすぐに言わねーんだよ!」
エリスはビクッと身体を強張らせた。
「エリスを責めるナ!この全身筋肉!!」
「今2人を責めてもそれこそ解決には至りませんわ。とりあえずみんなで森を脱出しましょう。早くこのことを先生たちに伝えなくてはっ!。」
「確かに!!よし、ロイは任せておけ。」
テオはロイを背に乗せた。
「ヨシ!森の出入り口ってどっちだ?」
「それなら私ノElementで目印をつけた」
「それを辿りましょう」
「じゃあ行きましょうか。――って、あれセリカは?」
全員が森の出口の方角に歩もうとしたとき、セリカが居ない事に気付いた。
辺りをキョロキョロと見ると逆方向に進もうとするセリカの後ろ姿が見える。
「ちょ、ちょっと!セリカったら!森の出口はこっちですよ!!」
シリアは慌ててセリカを呼び止めた。
「私はラピス鉱石を見つける。脱出したければすればいい。」
「ちょ、ちょっとあなた、話聞いていた?この森には霊魔がいるのよっ!?それにロイだってすぐに救助してもらわないとっ――!」
エリスもセリカの行動を理解できないとばかりに早口で捲くし立てた。
「話は聞いていた。確かに霊魔が居るかもしれないが遭遇するとは限らない。
あと、私の課題をクリアすることにロイのケガは関係ない。」
セリカの言葉に一瞬でその場の空気が変わった。すぐに反応したのはエリスだ。
「そんな言い方ないんじゃないの。自分の課題の為だったらケガをしているクラスメートなんて関係ないというの?」
「あぁ関係ない。あの教師は1度森から出たら再度入ることは禁止といった。ラピス結晶が足りない今、課題をクリアできない人間が出てくる。だったら探すしかないじゃないか」
「なっ!それはそうだけど――。今は課題どころの問題じゃなくなってるのよ?!」
「それを判断するのは私たちではない。課題遂行の為に動いて何が悪いんだ?」
エリスはグッと黙る。正論といえば正論だ。
セリカは本当に分からないという顔をする。それはただ目の前にある課題を達成するための無垢な表情だった。
「ここにきて単独行動かぁ?流石にそれは危険だぜ?」
「そうですわ。傀儡だけでも手一杯なのに、霊魔の存在が判明した今ここに残るのは賢明ではありませんわ。」
菲耶も頷いている。
「でもよ、確かにラピス結晶が足りないのは本当だしな。まぁ、その時はお前たちに結晶は譲るわ。俺とロイは課題未達成でいいぜ。」
テオはヨイショっと言いながら、後ろに居るロイを背負い直した。
「阿呆。オマエラに譲られても全ク嬉シクない。」
「そうよ、友達を差し置いて自分たちだけ課題達成なんて全然納得できないわ。」
「協調性を重んじたってことでみんなクリアってうまい話には――なりませんよね・・・。」
「それはさすがになぁ――ははははははっ!」
「この状況でよく笑エルな、この筋肉ゴリラ」
「これがテオのいいところよ、菲耶。フフ」
「ほ~んと能天気なんだから!」
離れた場所からその様子を見ていたセリカはどこか落ち着かなかった。
「――――友達?協調性?」
ボソッと呟いた単語は馴染みのない発音で空気に溶けていく。
自分が触れてこなかった言葉。それが今目の前の4人を見るとソワソワしてしまう。
チクンと胸に痛みが走った。
(何だ?ケガか?)
違和感の正体を探そうとパタパタと自分の体を触ってみるが異常はない。
(セリカと知り合ってまだ日は浅いですが・・・。決して意地っ張りとかワガママとか、そんな感情ではなく純粋に課題をクリアすることしか考えてないってことなんでしょうね――。それはそれで違和感を覚えますけども。なんて貪欲でシンプルな思考・・・まるで感情だけが生まれたての赤ん坊のようですわ。だから今は――)
「ねぇ、セリカ。私たちは出口に向かいますが、その間にまた傀儡たちに襲われるかもしれません。その時やっぱり1人でも多くの戦力が必要になってくると思いますわ。
そこで私たちを助けて頂けないでしょうか。そこで傀儡を倒してラピス結晶を手に入れる事ができれば一石二鳥です。もしラピス結晶が手に入らなくてもセリカは森から出なくても結構です。出口の直前でまた引き返してもらえば課題は続行できます。」
(いかがですか?)とニッコリ笑うシリアにヒューッと口笛を吹くテオ。
エリスは納得できない顔ではいるが、状況を冷静に判断し何も言わなかった。
シリアの提案にしばらく考えていたセリカだったが
「それなら構わない。」
と素直に頷いた。緊張していた空気が少しだけ和らぐ。
「よかったです。では改めて出口に向かいましょう。菲耶、目印を追っていただけますか?」
「了解した。」
「さすが、動物の式神使いだなー。」
「セリカは動物じゃなくってよ!」
「広く言えば動物だぜ?」
「何か言ったか、テオ?」
「うんにゃ。早く脱出しようぜー。」
「――ありがとう、シリア。」
「とんでもないですわ。」
足取りは軽くした6人は森の出口へ向かうために歩き出した。
テオの大きな背中からソーっと覗いて見れば前方には警戒態勢でこちらを睨んでいるエリスと菲耶の姿が見えた。
2人は何かを庇うように、だがいつでも攻撃できる体勢で腰を落としていた。
「テオ!?シリアも――!!あぁ~よかった。驚かさないでよ・・・。」
「驚愕」
エリスと菲耶は警戒していた体勢から一気に脱力する。相当緊張していたのか顔も強張っていた。
ただならぬ2人の様子にテオとシリアは歩み寄った。
「大丈夫ですか?もしかしておケガとかされているのでは?」
シリアは2人の体を見たがケガをしている様子はない。しかし2人の表情は依然強張っている。
「私たちは大丈夫。大きなケガはしていないわ。でも――。」
そう言うと2人は体を半回転させてためらいがちに後ろを見た。今まで2人の影になっていた場所が見えた時シリアは小さく悲鳴をあげる。テオも2人の影にあったその姿に驚きを隠せない。
2人が庇うように隠していた場所にはロイが横たわっていた。制服の左側は不規則に引き裂かれており、赤黒いシミがベッタリと付いている。
ロイの顔色は悪く脂汗をかきながら浅い呼吸を繰り返し苦痛の表情を浮かべている。
その様子を見たテオはロイに駆け寄った。
「おい、ロイっ!!大丈夫か!!しっかりしろよっ!!オイっ!!」
ロイの耳元で大きく叫ぶ。
「ロイっ!目を開けっ――!」
「うるさいな、この筋肉ダルマっ!!耳元で叫ぶなよっ。あとヤローに心配されても全然嬉しくない!!」
カッと目を開けたロイはテオに向けて拳を突き出した。その拳はテオの右肩あたりに当たったが、力が入っていないためかテオの制服に拳が擦れた音がしただけだった。
とりあえず意識があることに安心したテオとシリアだったが、ロイの様子はそこまで楽観できる状態ではないことをすぐに把握する。
ロイはすぐに目を閉じて静養の姿勢を取る。どうやら相当体がつらいようだ。
その様子を見ていたエリスはロイの状態について話し始めた。
「とりあえず私の回復魔法で止血はできているわ。でも傷が深くて――。出血量も多かったせいか思うように動けなくなってしまったの。あまり動かすのもいけないと思ってここで休憩していたのだけど――。
容赦なく人の気配がここに向かってくるもんだから焦っちゃったわよ。気配を殺して身を潜めていたつもりだけどよくこの場所が分かったわね。」
最後は苦笑するエリスに、菲耶も同意するように頷いている。
(そういえばこの位置を最初に気付いたのはセリカでしたわ。セリカが気付かなかったら私もきっと3人を見つけていなかったでしょう。あれ?確か傀儡の存在に1番早く気づいたのも――。)
「だってクラスメートの顔が見えたから普通に歩いていくだろうよ。何をそんなに警戒してたんだよ。
複製Elementを付けた傀儡たちから逃げてたのか?」
テオの言葉に思考を中断したシリアも疑問を口にした。
「ロイのケガはあの傀儡にやられたのですか?そうだとしたらかなり遠慮が無いというか・・・いくら実戦クラスの課題といえども手厳しいような――。」
2人の質問にエリスは俯きながら口を噤んだ。その顔は心なしか青ざめている。
すると後ろからガサガサと物音を立てながらセリカが顔を出した。
「クラスメートは見つかったのか?」
「あ、セリカ。はい、やっぱり3人いらっしゃいました。あの距離からよくこの場所に3人いると気付きましたね。
エリス、菲耶。私たちと一緒に行動しているセリカです。この場所にまず気付いたのはセリカなんですよ。」
シリアは簡単に経緯を説明した。
「あぁ、確かあなたね。高等部からの外部入学ってクラスで有名だったのは――。
エリス・マークディルワスよ。初めまして。」
エリスはセリカに前に立ち右手を差し出した。
「セリカ・アーツベルクだ。よろしく頼む」
セリカも右手を差し出し2人は握手をする。
菲耶はその様子に頬を染め、潤んだ瞳で見つめている。その視線に気づいたセリカは菲耶にも右手を差し出した。
すると
「艶やかな漆黒の髪――」
「ん?」
右手に何の反応がないことを訝しく感じたセリカは視線を上げた。するとウットリと自分を見つめる菲耶の顔があった。
反応に困り周りを見てみると、テオは(あちゃ~――)と言いながらもニヤニヤしてこちらを見ている。
エリスとシリアも苦笑しつつ様子を見ていた。
「美しい髪を束ねた赤いリボン。細身の体から放たれる気品溢れる佇まい。蜜を含む果実のような唇。色白の肌に大きな涅色の瞳に吸い込まれる――」
「ちょっ!なんだなんだ?」
セリカは、恍惚の表情で体全体を押し付けるように近づく菲耶を何とか右手で制止し距離を保とうした。
この状況が理解できないセリカを救ってくれたかどうかは不明だが、テオの面白がっている声が響く。
「あ~ぁ、セリカ。ソイツは菲耶・邵呉。気に入られちまったな!そうなると誰の言葉も届かないぜ。
菲耶は美しい物好きって有名なんだよ。ただし、同性に限るだけどなっ!初めてエリスに出会った時を思い出すぜ。
エリス、いいのかぁ~。ポジションを奪われちゃっても。」
「ポジションも何も菲耶は仲の良い友達よ。その菲耶にとやかく言う筋合いは無いわよ。」
「チビッ子にはな~んの反応もなかったよなっ!ウシシシシッ!」
「どういう意味ですか、テオっ――!」
「ちょ、見てないで何とかしてくれないか――?」
「麗しさの中に垣間見える強さ――」
「菲耶って男にはカタコトで話すけど、女には普通に話すよな?何でだ?」
「男がキライだからじゃない?」
「菲耶ったら、セリカが困ってますよ」
「ち、近いっ!!そ、それより後ろで倒れている人のことはいいのかっ!!」
埒があかないと悟ったセリカは全員の意識が向くであろう話題を大声で叫んだ。全員の動きがピタッと止まる。
菲耶もセリカへの意識を解き後ろで横たわっているロイの方を向いた。
その隙にセリカは菲耶との距離を取る。
ロイは相変わらず顔色が悪い。早く森から脱出し救護班に診てもらうべきだろう。
「そうだったな。確かにロイをこのままにしておけないな。なぁエリス。お前らはラピス結晶をいくつ手に入れたんだ?」
「今のところ2つ入手できたわ。ロイだけでも脱出させようとしたんだけど、ロイが「オレのことはいいから2人で森を脱出しろ。」ってバカげたこと言うから菲耶と交代でここまで引きずってきたのよ。
ねぇ、水のElementって私以外に使える人いる?」
「それならセリカ、お前確かElementは水精霊だろ?」
先ほどの戦いでセリカが水の矢を放っていたことをテオは思い出した。
「・・・あぁ。確かに私のElementは水だ。」
セリカは短く肯定した。
「良かった!じゃあ回復魔法は使えるわよね。菲耶も私もロイを担いでここまで来たから体力が削られてしまって・・・。
ロイの意識を回復できるまで回復魔法を使いたいけれど、それじゃあ残りのラピス結晶を手に入れるには魔法力が枯渇してしまいそうで悩んでいたの。
とりあえずロイが自力で動けるまで回復してもらえないかしら。」
セリカ以外の全員がエリスの提案に異論はなかった。
ロイが動けるようなれば誰かを付き添わせ森を脱出し、残りの人はそのままラピス結晶を見つければよい。
「私は・・・私は、回復魔法は使えない。」
セリカの発した声は強く吹く風にかき消されそうなほど小さいものだった。その俯き顔は誰とも視線を合わそうとしない。
「回復魔法が使えないって・・・。ウソでしょ?水精霊を使役する時まず会得するのは回復魔法だって中等部で学んだし、そもそも回復魔法は――!」
言葉を続けようとしたエリスは思わず口を噤んだ。セリカの顔は強張り、纏う空気さえ緊張しているように見えた。そのためこれ以上追及してはいけない気がしたのだ。
――何ともいえない沈黙を破ったのはテオだった。
「じゃぁ仕方ねーな!他の方法を考えようぜっ!とりあえず俺がロイを担いで移動するわ。それなら2人は休憩できるだろ。」
テオの無邪気な声が緊張した空気をわずかに軽くする。
実際にセリカはロイの様子をみる為にその場を離れ、エリスは静かに息を吐きだした。
そんなエリスにシリアは自分の回復薬を差し出した。
「エリス、こちらを使ってくださいな。私はまだ魔法力の器に余裕があるし、この先何かあったらそれこそエリスの回復魔法が必要になってくるでしょ?」
ニコっと笑いながら耳打ちするのはセリカへの配慮なのだろう。
エリスは「ありがとう」と言って回復薬を受け取った。
「こんな時、テオの明るさというか能天気なところには助けられるわね。」
「きっと何にも考えてないのですよ、テオは。」
「あれ、何か俺褒められてる?」
「イヤ、褒メテはいないダロ」
「とりあえずセリカが戻ってきましたら動きましょう。ロイも心配です。」
「ええ、そうね・・・。」
再出発に向けそれぞれ準備を始めた時、向こうの茂みから音がする。セリカが戻ってきたのだろう。
「エリスと菲耶、だったか――。」
冷たく無機質な声音だ。その顔はどこか緊張している。
「どうしました、セリカ。ロイに何かありましたか?」
シリアの声に軽く反応するも、セリカの視線はエリスと菲耶に注がれたままだった。
「あの青年、ロイというのか。――ロイの傷は霊魔にやられた傷だな?」
「は!?霊魔だって!!?」
「え?まさか!――エリス、菲耶、本当ですか!?」
テオとシリアはエリスたちの方を見た。そこには青ざめている2人の顔があり、明らかに動揺している。
「ど、どうして・・・?」
エリスの口元はわずかに震えている。俯くエリスに変わりシリアがセリカの方を向いた。
「セリカ、ここは確かに不可解な事が起こるTwilight forestですが学園内です。学園内に霊魔が入って来られるはずがありません!そんなことはありえないんです――!」
しかしその姿は何かを必死に払拭するようにも見えた。
「そうなのか?」
「はい!この学園は強力な魔術師による強い結界の中にあるんです。学園を脅かす存在を排除する魔法力が施されている結界と聞きます。
なので、霊魔はこの学園に入って来られるはずがないんです!」
セリカの意見を肯定すれば自分たちの日常を守ってくれる存在が実は全く機能していないかもしれない、ということだ。疑念がシリアの語調を自然と強くしていた。
しかしセリカは表情を変えなかった。その様子はシリアに強い不安を与えた。
シリアはこの短期間で知ってしまったのだ。セリカは何か根拠がない限りそんな事を言うはずがないことを――。
「何か理由があんのか?」
シリアの青ざめた顔を見てテオはセリカに聞く。テオもセリカが冗談でそんな事を言う人間には見えないということなのだろう。
「ロイの傷跡を見てみろ。」
そう言うとセリカはまたロイの居る茂みに行ってしまった。テオとシリアはセリカの後をついていく。
ロイの顔色は相変わらず悪く、先ほどよりも苦しそうだった。
セリカはロイの左腕の傷が見えるように制服をグイっと開けて見せた。出血はしていないものの痛々しい傷口にシリアは思わず手で顔を覆ってしまう。
テオはより傷口が見えやすい位置に来るとセリカが差す場所を凝視した。
そこには内出血のような、所謂痣があった。ただその痣は皮膚が脈打つかのようにドクンドクンと動いている。
「これって、確か、えーっと・・・」
「魔障痕だ。」
「あぁ、それそれ。魔障痕!って、えーと」
「霊魔の攻撃による痕跡でしたわね。テオ、教本にも書いてありましたわよ。」
「俺は頭脳派より武道派なんだよ!」
「ということはやっぱりロイは霊魔に・・・?」
「あぁ、間違いないだろう。なぁ2人とも――。」
いつの間にかエリスと菲耶がテオたちの背後に立っている。
「えぇ。あれは間違いなく霊魔だった。しかも見たこともない風貌だった・・・。」
意を決したようにエリスは当時の事を話し始めた――。
ロイが2つ目のラピス結晶に意識を向けている時、背後から襲ってきた霊魔にエリスと菲耶は動けずにいた。
体長3メートル程ある巨体は全身毛で覆われていて長い尻尾を有していた。しかしライオンのような獣ではない。それは完全な2足歩行だったのだ。
両手足には鋭く尖った大きな爪があり、それは黒く光る陶器のように光っていた。そして口からはみ出た牙からは涎が滴っていた。
「ただ、あの動きは人間そのものだった。身のこなし方は人間離れしていたけど・・・。」
「肯定。人間をベースにした獣のようだった。」
「霊魔と根拠づける1番の特徴はあったのですか?」
「ええ、勿論。額に霊魔の刻印がしっかりと刻まれていたわ。」
霊魔には体のどこかに印が刻まれる。その印は負の意識を植え付けられている証拠でもあり、霊魔の意識をコントロールする装置のような役割をしている。
「そもそもさ、霊魔って何だっけ・・・?」
「もう、テオ!こんな時にそんな初歩的なことを言わないでよっ!」
「だって、霊魔って定義が抽象的すぎて分からないんだよ!教本には負の意識を植え付けられた精霊で、それを操る咎人の存在があって、印が刻まれているってことしか載っていないし。
授業の実戦で相手しているのは疑似霊魔なんだろ?本物なんて見たことねーしよ。」
「えぇ、確かに私も授業で使われている教材の霊魔しか知らなかった。でも本物と対峙した時すぐに分かった。
あの禍々しさと圧倒的な恐怖感。今思い出すだけでも・・・。」
そう言って自らを抱くようにエリスは身を縮こませる。菲耶はその背中にそっと手をあてた。
「合点がいった。だからあり得ないと言ったのか。」
今までの話を聞いていたセリアが納得したように頷いている。
「どういうことですか、セリカ」
「みんな、霊魔を見たことがないということに合点がいったんだ。この学園には結界が張ってあると言ったな。だから霊魔は入って来られない。
外からの霊魔を遮断してくれている環境下にいるのなら確かに霊魔の存在は希薄だろう。だが――。」
この時全員の思考はほぼ同じであっただろう。居るべきはずがない場所に霊魔がいる。しかも、今自分たちがいるこの場所にだ。
シリアは先ほどの疑念が確信に変わり、また約束されている安全が無くなっているかもしれないということに恐怖を感じ始める。
改めて今が非常事態なんだと気付いたテオが声を荒げた。
「――っ!!何で霊魔にやられたってすぐに言わねーんだよ!」
エリスはビクッと身体を強張らせた。
「エリスを責めるナ!この全身筋肉!!」
「今2人を責めてもそれこそ解決には至りませんわ。とりあえずみんなで森を脱出しましょう。早くこのことを先生たちに伝えなくてはっ!。」
「確かに!!よし、ロイは任せておけ。」
テオはロイを背に乗せた。
「ヨシ!森の出入り口ってどっちだ?」
「それなら私ノElementで目印をつけた」
「それを辿りましょう」
「じゃあ行きましょうか。――って、あれセリカは?」
全員が森の出口の方角に歩もうとしたとき、セリカが居ない事に気付いた。
辺りをキョロキョロと見ると逆方向に進もうとするセリカの後ろ姿が見える。
「ちょ、ちょっと!セリカったら!森の出口はこっちですよ!!」
シリアは慌ててセリカを呼び止めた。
「私はラピス鉱石を見つける。脱出したければすればいい。」
「ちょ、ちょっとあなた、話聞いていた?この森には霊魔がいるのよっ!?それにロイだってすぐに救助してもらわないとっ――!」
エリスもセリカの行動を理解できないとばかりに早口で捲くし立てた。
「話は聞いていた。確かに霊魔が居るかもしれないが遭遇するとは限らない。
あと、私の課題をクリアすることにロイのケガは関係ない。」
セリカの言葉に一瞬でその場の空気が変わった。すぐに反応したのはエリスだ。
「そんな言い方ないんじゃないの。自分の課題の為だったらケガをしているクラスメートなんて関係ないというの?」
「あぁ関係ない。あの教師は1度森から出たら再度入ることは禁止といった。ラピス結晶が足りない今、課題をクリアできない人間が出てくる。だったら探すしかないじゃないか」
「なっ!それはそうだけど――。今は課題どころの問題じゃなくなってるのよ?!」
「それを判断するのは私たちではない。課題遂行の為に動いて何が悪いんだ?」
エリスはグッと黙る。正論といえば正論だ。
セリカは本当に分からないという顔をする。それはただ目の前にある課題を達成するための無垢な表情だった。
「ここにきて単独行動かぁ?流石にそれは危険だぜ?」
「そうですわ。傀儡だけでも手一杯なのに、霊魔の存在が判明した今ここに残るのは賢明ではありませんわ。」
菲耶も頷いている。
「でもよ、確かにラピス結晶が足りないのは本当だしな。まぁ、その時はお前たちに結晶は譲るわ。俺とロイは課題未達成でいいぜ。」
テオはヨイショっと言いながら、後ろに居るロイを背負い直した。
「阿呆。オマエラに譲られても全ク嬉シクない。」
「そうよ、友達を差し置いて自分たちだけ課題達成なんて全然納得できないわ。」
「協調性を重んじたってことでみんなクリアってうまい話には――なりませんよね・・・。」
「それはさすがになぁ――ははははははっ!」
「この状況でよく笑エルな、この筋肉ゴリラ」
「これがテオのいいところよ、菲耶。フフ」
「ほ~んと能天気なんだから!」
離れた場所からその様子を見ていたセリカはどこか落ち着かなかった。
「――――友達?協調性?」
ボソッと呟いた単語は馴染みのない発音で空気に溶けていく。
自分が触れてこなかった言葉。それが今目の前の4人を見るとソワソワしてしまう。
チクンと胸に痛みが走った。
(何だ?ケガか?)
違和感の正体を探そうとパタパタと自分の体を触ってみるが異常はない。
(セリカと知り合ってまだ日は浅いですが・・・。決して意地っ張りとかワガママとか、そんな感情ではなく純粋に課題をクリアすることしか考えてないってことなんでしょうね――。それはそれで違和感を覚えますけども。なんて貪欲でシンプルな思考・・・まるで感情だけが生まれたての赤ん坊のようですわ。だから今は――)
「ねぇ、セリカ。私たちは出口に向かいますが、その間にまた傀儡たちに襲われるかもしれません。その時やっぱり1人でも多くの戦力が必要になってくると思いますわ。
そこで私たちを助けて頂けないでしょうか。そこで傀儡を倒してラピス結晶を手に入れる事ができれば一石二鳥です。もしラピス結晶が手に入らなくてもセリカは森から出なくても結構です。出口の直前でまた引き返してもらえば課題は続行できます。」
(いかがですか?)とニッコリ笑うシリアにヒューッと口笛を吹くテオ。
エリスは納得できない顔ではいるが、状況を冷静に判断し何も言わなかった。
シリアの提案にしばらく考えていたセリカだったが
「それなら構わない。」
と素直に頷いた。緊張していた空気が少しだけ和らぐ。
「よかったです。では改めて出口に向かいましょう。菲耶、目印を追っていただけますか?」
「了解した。」
「さすが、動物の式神使いだなー。」
「セリカは動物じゃなくってよ!」
「広く言えば動物だぜ?」
「何か言ったか、テオ?」
「うんにゃ。早く脱出しようぜー。」
「――ありがとう、シリア。」
「とんでもないですわ。」
足取りは軽くした6人は森の出口へ向かうために歩き出した。
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