3 / 132
第1章
魔術師の卵たち
しおりを挟む
入学式が終わり再び教室へ入ろうとしたセリカにそれは突如起こった。
「キャッ!」
と驚いた小さな声と、軽い衝撃がお腹に当たったのだ。
(――黒い 角?)
眼下には確かに黒い 角のような物が見える。ただそれは柔らかく折れ曲がっているようだ。曲がった先は丸い円盤のような物も見える。
「っ、ちょっと!どこ見てるんですか!?」
ヒュッっと黒い 角と丸い円盤は形を崩す。代わりに見えたのは涙目で見上げる少女の顔。首を90度の角度で曲げ、セリカを睨み上げている。
先ほどの黒い角と丸い円盤は彼女が被っている帽子のようだ。それはハロウィンなんかで見る魔女が被る帽子のようだった。
「あなた身長が高いですね!アレですか、私が小さすぎて見えなかったんですか!?」
栗色の毛はやわらかくウェーブがかかっている。ツインテールで結ばれたその髪はフワフワっと揺れ彼女の幼さを強調していた。
(ポメラニアンみたい・・・)
セリカは昔絵本でみた小型犬を思い出した。
自分を凝視し何も発しないクラスメートに少女はさらに重ねて大きな声で言う。
「ちょっと!あなた聞いてます!?それとも私が小さすぎて声も届かないんですか!あと、首が痛いです!」
さらに高い声の音にハッとしたセリカは、慌てて少女との距離を取った。
「あ、ぶつかってすまない。あと、あなたは見えているし声も聞こえている。首は大丈夫か?」
セリカはそう言って正面から彼女を見た。
身長は初等部の高学年ぐらいだ。クルンとした大きな目はかすかに潤んでいる。目元にはそばかすがあり、興奮しているのか頬はかすかに紅潮している。
動物の形をした付箋らしき物を胸元に差し、鼻を手で擦りながら彼女もセリカの目を覗き込むように見ている。
セリカが素直に謝り自分を配慮してくれたことで彼女の怒りも収まったようだ。
「私の事が小さくて認識できていないのかと思ってしまいました。私の名前はシリアよ。シリア・クルーゼ。よろしくです。」
シリアは右手をセリカに差し出した。フクフクとした小さな手は握手を求めているのだろう。
セリカも右手を差し出し握手をした。
「私はセリカだ。セリカ・アーツベルク。よろしく頼む。
シリア、ここは高等部だ。校舎を間違えていないか?」
素朴に感じていた疑問を聞くとシリアは先ほどよりさらに頬を赤くして言った。
「間違えてないわよ、失礼ねっ!確かに私は小さいけどれっきとした16歳よっ!」
再び憤ったシリアは怒気迫る勢いでセリカに言った。怒りでなのか、涙目でその頬はプルプル震えている。
「す、すまない。あまりにも小さくて可愛かったから――。」
シリアの気迫に動揺して両手を軽く挙げる。どうやらシリアは自分が小さい事にコンプレックスを抱いているのだろう。そのコンプレックスを的確についてしまったようだ。
あたふたとシリアの機嫌を取っていると大きな影が2人に近づいてきた。
「よぉーぅ、シリア。相変わらずチビだなぁ。校舎を間違えてはいませんかぁ?」
シシシッと愉快に笑いながら2人の前に立ったのは、セリカより頭1つ分程身長が高い男子学生だった。
赤褐色のかかった髪はツーブロックで短く刈り上げられている。制服の上からでも分かる程、ガタイもしっかりしている。右耳にはリングのピアス。それに両手にはグローブをつけていた。
セリカとシリアの会話が聞こえていたのだろう。先ほどのセリカの言葉を真似してシリアに話しかけている。
「テオッ!あなたまで!ここでも私をからかうのっ!?」
シリアの意識はこのテオと呼ばれる男子学生に向いたようだ。背の小さいシリアと背の高いテオが言い争っている姿はまるで親子のように見える。
「テオ、と言ったか――シリアはこう見えて16歳らしいんだ。だから校舎も間違っていない。誤解しないでくれ。」
シリアの怒りの沸点がここまで上がったのは、自分の発言がきっかけだと責任を感じたセリカはテオに伝えた。
一瞬ポカンとした表情でセリカを見たテオは、さらに大きな声を出して笑った。
「ぷっ、あははっはっ!知ってるよ。コイツとは初等部から一緒だからな。とはいっても身長は初等部から全然伸びてない様子だけどなっ!」
それを聞いたシリアはさらに顔を赤くして今にもテオに殴り掛かりそうな勢いだ。
体格差から見てシリアに勝ち目はないだろうと止めに入ろうとしたセリカを、しかしテオは手で制した。
「大丈夫だよ。これがいつものことだから。シシシッ。俺はテオ・ストライガー。よろしくな。というか、あんた見たことない顔だな。外部から来たのか?」
テオの質問に、シリアは怒りよりも興味が勝ったようだ。
「あら、そういえばそうですね。私たちは初等部からこの学園にいるけど、セリカは外部入学してきたの?」
「あ、あぁ。そんなところだ。」
入学の手続きはヴァースキに任せていた。というより入学に際しての情報はセリカには与えられていない。ただ彼の「高等部へ行け」という言葉に従ったまでだ。
情報を知っていたとしてもきっと選択は認められなかっただろう。
「へぇー。すげぇな!!セリカっていったか。じゃあお前結構やるんだなっ!」
テオは右手の拳を握り左手の手のひらを殴る動作でセリカを見た。その目はどこか闘志のような影を含ませている。
「やる・・・とは、何のことだ?」
言葉の意味が分からず2人に問い返すと、シリアとテオは思わず顔を見合わせる。
「おいおい、ここが何のクラスなのか知っているのか?」
「セリカって天然さん?それとも本当に何も知らないのですか?」
「あ、あぁ・・・。だから色々と教えてもらえると助かる。ここは何か特別なクラスなのか?」
テオは傍にあった机に軽く腰をかけた。
「このクラスは高等部の中で実戦を得意とする者が集まった 実戦クラスだ。この学園は初等部・中等部・高等部で構成されていて、まずは初等部でエレメントと魔法力の器の大きさを知るんだ。」
(器の大きさ。確かおっしょうが教えてくれたな。)
魔法力の器とは、人それぞれが持つ魔法力を溜めておくことができる場所をいう。器の大きさは生まれつき決まっていて、それに伴い魔法の強さが決まるのだ。
「器が大きければより精霊の力の量も増え強力な魔法が使えるだろ。だから器を大きくしようと訓練するんだ。訓練すれば器も成長し大きくなる。より威力の強い魔法も使えるようになるんだ」
「でもあえて器を大きくしようとしない人もいるのです。争いを拒んだり何かを生み出す才能に長けていたり。そんな人たちは自分の得意な分野でエレメントを使い生活しているんです。
あちらに見える校舎に教室をかまえる 創造クラスもその1つですわ。」
シリアは窓の方に視線を移した。視線の先には庭を隔て別校舎が見える。どうやらそちらに 創造クラスがあるのだろう。
「 創造クラスの奴らが作ったアイテムってすっごいんだぜ!作ったアイテムに自身のエレメントをエンチャントすることだってできるんだぜ!」
テオは自身が身に付けているグローブをセリカに見せた。そのグローブは指を覆う部分が無く指ぬきグローブと呼ばれる物だった。
「テオが付けているグローブもそのクラスの者が作ったのか?」
「あぁ。俺の親友が作った自慢の一品よっ!」
テオはニヒヒと笑いながら大切なものを扱うようにグローブを触る。
「 創造クラスのほとんどが日用品や装飾品を作り担う職業に就いているんですの。回復薬のような薬品も彼らたちの技術ですわ。」
「そうなのか。大した技術だな。じゃあ私たち 実戦クラスは、何を得意とするんだ?」
「そりゃあ 実戦クラスだぜ!?霊魔を倒して人々の安全を守るに決まってるじゃん!」
何を当たり前のことをと言わんばかりにテオは腕を組んだ。
「学園に入ったころは初等部のほとんどが 実戦クラスに憧れるんだ。なんたってヒーローだからな!会長も言ってただろう?霊魔のこと。
原因不明な事件だって増えている。その陰には、霊魔を操る咎人の存在があるんだ。そいつらを倒して人々の暮らしを守る魔術師 になるにはこのクラスに入るのが1番の近道だからな。
実際にクラスが選択できるのは中等部からだけど、クラスのほとんどが 実戦クラス希望なんだよ。」
しかし、ここでテオの表情に影が潜む。
「でも 実戦クラスは実際に実戦が主になる。もちろんケガをしたり、もしかしたら命を落とすことだってあるんだ。
シビアな 現場に求められるのはやっぱり魔法力が強いやつだ。学園だってその辺にいたっては慎重だな。
だから、 実戦クラスを希望しても入れないやつの方が多いんだ。このクラスを夢見て頑張った奴らも、技量が伴わなかったら振り落とされて別の科に転科させられてしまうことも少なくないんだ。」
声も先ほどの覇気を感じさせない。既にテオはセリカを見ていなかった。
朝は雲一つ無かった空だが、いつのまにか雲が太陽を隠そうとしていた。
続く言葉が無いことを確認したシリアは、テオとは対照的に明るい声をだした。
「だから!そんな 実戦クラスに外部から編入して来られるセリカは相当魔法力が強いってことなのでしょっ!?とっても興味深いですわ!ね、テオッ!」
シリアはテオの背中をバンッと叩く。大きな音はしたものの、テオの大きな背中はシリアが叩いてもそこまでダメージが通ったように見えない。
「おおっ!!そうだそうだっ!どれほどの魔法なのかぜひ見てみたいぜっ!よし、セリカ。いっちょ手合わせすっか!」
グルンと向き直ったテオに先ほどの昏さは感じない。どうやらテオは相当好戦的な性格のようだ。
「いや、テオと戦う理由はないし、ここで暴れると場所的に危険だ。」
急に矛先を向けられたセリカだが手合わせに応じる気はない。軽い冗談として言ったテオが面食らった表情をする。
「さすがに冗談だぜ。セリカって何か調子狂うなぁー。」
拍子抜けたようにテオが笑っていると教室のドアがガラッと開いた。
「席につけー。静かにしろー」
現れたのは入学式前に教室に入ってきた白衣を着た教師だ。みんな、バタバタと自分の席に戻り口をつぐむ。
「先ほど紹介があったようにこのクラスを担当することになったジンだ。よろしく。
さて、早速だがお前たちにはある課題をしてもらう。クラスの奴らのエレメントを知るのにも丁度いい機会だろう。」
(――課題?)
(テストみたいなもんかな――?)
教室が僅かにザワつきはじめる。ジンは片方の口角を上げニヤッと笑った。
「Twilight forest|《静かなる森》で模擬実戦をしてもらう。課題をクリアできなかった奴はこのクラスから転科してもらう。」
「キャッ!」
と驚いた小さな声と、軽い衝撃がお腹に当たったのだ。
(――黒い 角?)
眼下には確かに黒い 角のような物が見える。ただそれは柔らかく折れ曲がっているようだ。曲がった先は丸い円盤のような物も見える。
「っ、ちょっと!どこ見てるんですか!?」
ヒュッっと黒い 角と丸い円盤は形を崩す。代わりに見えたのは涙目で見上げる少女の顔。首を90度の角度で曲げ、セリカを睨み上げている。
先ほどの黒い角と丸い円盤は彼女が被っている帽子のようだ。それはハロウィンなんかで見る魔女が被る帽子のようだった。
「あなた身長が高いですね!アレですか、私が小さすぎて見えなかったんですか!?」
栗色の毛はやわらかくウェーブがかかっている。ツインテールで結ばれたその髪はフワフワっと揺れ彼女の幼さを強調していた。
(ポメラニアンみたい・・・)
セリカは昔絵本でみた小型犬を思い出した。
自分を凝視し何も発しないクラスメートに少女はさらに重ねて大きな声で言う。
「ちょっと!あなた聞いてます!?それとも私が小さすぎて声も届かないんですか!あと、首が痛いです!」
さらに高い声の音にハッとしたセリカは、慌てて少女との距離を取った。
「あ、ぶつかってすまない。あと、あなたは見えているし声も聞こえている。首は大丈夫か?」
セリカはそう言って正面から彼女を見た。
身長は初等部の高学年ぐらいだ。クルンとした大きな目はかすかに潤んでいる。目元にはそばかすがあり、興奮しているのか頬はかすかに紅潮している。
動物の形をした付箋らしき物を胸元に差し、鼻を手で擦りながら彼女もセリカの目を覗き込むように見ている。
セリカが素直に謝り自分を配慮してくれたことで彼女の怒りも収まったようだ。
「私の事が小さくて認識できていないのかと思ってしまいました。私の名前はシリアよ。シリア・クルーゼ。よろしくです。」
シリアは右手をセリカに差し出した。フクフクとした小さな手は握手を求めているのだろう。
セリカも右手を差し出し握手をした。
「私はセリカだ。セリカ・アーツベルク。よろしく頼む。
シリア、ここは高等部だ。校舎を間違えていないか?」
素朴に感じていた疑問を聞くとシリアは先ほどよりさらに頬を赤くして言った。
「間違えてないわよ、失礼ねっ!確かに私は小さいけどれっきとした16歳よっ!」
再び憤ったシリアは怒気迫る勢いでセリカに言った。怒りでなのか、涙目でその頬はプルプル震えている。
「す、すまない。あまりにも小さくて可愛かったから――。」
シリアの気迫に動揺して両手を軽く挙げる。どうやらシリアは自分が小さい事にコンプレックスを抱いているのだろう。そのコンプレックスを的確についてしまったようだ。
あたふたとシリアの機嫌を取っていると大きな影が2人に近づいてきた。
「よぉーぅ、シリア。相変わらずチビだなぁ。校舎を間違えてはいませんかぁ?」
シシシッと愉快に笑いながら2人の前に立ったのは、セリカより頭1つ分程身長が高い男子学生だった。
赤褐色のかかった髪はツーブロックで短く刈り上げられている。制服の上からでも分かる程、ガタイもしっかりしている。右耳にはリングのピアス。それに両手にはグローブをつけていた。
セリカとシリアの会話が聞こえていたのだろう。先ほどのセリカの言葉を真似してシリアに話しかけている。
「テオッ!あなたまで!ここでも私をからかうのっ!?」
シリアの意識はこのテオと呼ばれる男子学生に向いたようだ。背の小さいシリアと背の高いテオが言い争っている姿はまるで親子のように見える。
「テオ、と言ったか――シリアはこう見えて16歳らしいんだ。だから校舎も間違っていない。誤解しないでくれ。」
シリアの怒りの沸点がここまで上がったのは、自分の発言がきっかけだと責任を感じたセリカはテオに伝えた。
一瞬ポカンとした表情でセリカを見たテオは、さらに大きな声を出して笑った。
「ぷっ、あははっはっ!知ってるよ。コイツとは初等部から一緒だからな。とはいっても身長は初等部から全然伸びてない様子だけどなっ!」
それを聞いたシリアはさらに顔を赤くして今にもテオに殴り掛かりそうな勢いだ。
体格差から見てシリアに勝ち目はないだろうと止めに入ろうとしたセリカを、しかしテオは手で制した。
「大丈夫だよ。これがいつものことだから。シシシッ。俺はテオ・ストライガー。よろしくな。というか、あんた見たことない顔だな。外部から来たのか?」
テオの質問に、シリアは怒りよりも興味が勝ったようだ。
「あら、そういえばそうですね。私たちは初等部からこの学園にいるけど、セリカは外部入学してきたの?」
「あ、あぁ。そんなところだ。」
入学の手続きはヴァースキに任せていた。というより入学に際しての情報はセリカには与えられていない。ただ彼の「高等部へ行け」という言葉に従ったまでだ。
情報を知っていたとしてもきっと選択は認められなかっただろう。
「へぇー。すげぇな!!セリカっていったか。じゃあお前結構やるんだなっ!」
テオは右手の拳を握り左手の手のひらを殴る動作でセリカを見た。その目はどこか闘志のような影を含ませている。
「やる・・・とは、何のことだ?」
言葉の意味が分からず2人に問い返すと、シリアとテオは思わず顔を見合わせる。
「おいおい、ここが何のクラスなのか知っているのか?」
「セリカって天然さん?それとも本当に何も知らないのですか?」
「あ、あぁ・・・。だから色々と教えてもらえると助かる。ここは何か特別なクラスなのか?」
テオは傍にあった机に軽く腰をかけた。
「このクラスは高等部の中で実戦を得意とする者が集まった 実戦クラスだ。この学園は初等部・中等部・高等部で構成されていて、まずは初等部でエレメントと魔法力の器の大きさを知るんだ。」
(器の大きさ。確かおっしょうが教えてくれたな。)
魔法力の器とは、人それぞれが持つ魔法力を溜めておくことができる場所をいう。器の大きさは生まれつき決まっていて、それに伴い魔法の強さが決まるのだ。
「器が大きければより精霊の力の量も増え強力な魔法が使えるだろ。だから器を大きくしようと訓練するんだ。訓練すれば器も成長し大きくなる。より威力の強い魔法も使えるようになるんだ」
「でもあえて器を大きくしようとしない人もいるのです。争いを拒んだり何かを生み出す才能に長けていたり。そんな人たちは自分の得意な分野でエレメントを使い生活しているんです。
あちらに見える校舎に教室をかまえる 創造クラスもその1つですわ。」
シリアは窓の方に視線を移した。視線の先には庭を隔て別校舎が見える。どうやらそちらに 創造クラスがあるのだろう。
「 創造クラスの奴らが作ったアイテムってすっごいんだぜ!作ったアイテムに自身のエレメントをエンチャントすることだってできるんだぜ!」
テオは自身が身に付けているグローブをセリカに見せた。そのグローブは指を覆う部分が無く指ぬきグローブと呼ばれる物だった。
「テオが付けているグローブもそのクラスの者が作ったのか?」
「あぁ。俺の親友が作った自慢の一品よっ!」
テオはニヒヒと笑いながら大切なものを扱うようにグローブを触る。
「 創造クラスのほとんどが日用品や装飾品を作り担う職業に就いているんですの。回復薬のような薬品も彼らたちの技術ですわ。」
「そうなのか。大した技術だな。じゃあ私たち 実戦クラスは、何を得意とするんだ?」
「そりゃあ 実戦クラスだぜ!?霊魔を倒して人々の安全を守るに決まってるじゃん!」
何を当たり前のことをと言わんばかりにテオは腕を組んだ。
「学園に入ったころは初等部のほとんどが 実戦クラスに憧れるんだ。なんたってヒーローだからな!会長も言ってただろう?霊魔のこと。
原因不明な事件だって増えている。その陰には、霊魔を操る咎人の存在があるんだ。そいつらを倒して人々の暮らしを守る魔術師 になるにはこのクラスに入るのが1番の近道だからな。
実際にクラスが選択できるのは中等部からだけど、クラスのほとんどが 実戦クラス希望なんだよ。」
しかし、ここでテオの表情に影が潜む。
「でも 実戦クラスは実際に実戦が主になる。もちろんケガをしたり、もしかしたら命を落とすことだってあるんだ。
シビアな 現場に求められるのはやっぱり魔法力が強いやつだ。学園だってその辺にいたっては慎重だな。
だから、 実戦クラスを希望しても入れないやつの方が多いんだ。このクラスを夢見て頑張った奴らも、技量が伴わなかったら振り落とされて別の科に転科させられてしまうことも少なくないんだ。」
声も先ほどの覇気を感じさせない。既にテオはセリカを見ていなかった。
朝は雲一つ無かった空だが、いつのまにか雲が太陽を隠そうとしていた。
続く言葉が無いことを確認したシリアは、テオとは対照的に明るい声をだした。
「だから!そんな 実戦クラスに外部から編入して来られるセリカは相当魔法力が強いってことなのでしょっ!?とっても興味深いですわ!ね、テオッ!」
シリアはテオの背中をバンッと叩く。大きな音はしたものの、テオの大きな背中はシリアが叩いてもそこまでダメージが通ったように見えない。
「おおっ!!そうだそうだっ!どれほどの魔法なのかぜひ見てみたいぜっ!よし、セリカ。いっちょ手合わせすっか!」
グルンと向き直ったテオに先ほどの昏さは感じない。どうやらテオは相当好戦的な性格のようだ。
「いや、テオと戦う理由はないし、ここで暴れると場所的に危険だ。」
急に矛先を向けられたセリカだが手合わせに応じる気はない。軽い冗談として言ったテオが面食らった表情をする。
「さすがに冗談だぜ。セリカって何か調子狂うなぁー。」
拍子抜けたようにテオが笑っていると教室のドアがガラッと開いた。
「席につけー。静かにしろー」
現れたのは入学式前に教室に入ってきた白衣を着た教師だ。みんな、バタバタと自分の席に戻り口をつぐむ。
「先ほど紹介があったようにこのクラスを担当することになったジンだ。よろしく。
さて、早速だがお前たちにはある課題をしてもらう。クラスの奴らのエレメントを知るのにも丁度いい機会だろう。」
(――課題?)
(テストみたいなもんかな――?)
教室が僅かにザワつきはじめる。ジンは片方の口角を上げニヤッと笑った。
「Twilight forest|《静かなる森》で模擬実戦をしてもらう。課題をクリアできなかった奴はこのクラスから転科してもらう。」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる