エレメント ウィザード

あさぎ

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第1章

魔術師の卵たち

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 入学式が終わり再び教室へ入ろうとしたセリカにそれは突如起こった。

 「キャッ!」

 と驚いた小さな声と、軽い衝撃がお腹に当たったのだ。

 (――黒いつの?)

 眼下には確かに黒いつののような物が見える。ただそれは柔らかく折れ曲がっているようだ。曲がった先は丸い円盤のような物も見える。

 「っ、ちょっと!どこ見てるんですか!?」

 ヒュッっと黒いつのと丸い円盤は形を崩す。代わりに見えたのは涙目で見上げる少女の顔。首を90度の角度で曲げ、セリカを睨み上げている。
 先ほどの黒い角と丸い円盤は彼女が被っている帽子のようだ。それはハロウィンなんかで見る魔女が被る帽子のようだった。

 「あなた身長が高いですね!アレですか、私が小さすぎて見えなかったんですか!?」

 栗色の毛はやわらかくウェーブがかかっている。ツインテールで結ばれたその髪はフワフワっと揺れ彼女の幼さを強調していた。

 (ポメラニアンみたい・・・)

 セリカは昔絵本でみた小型犬を思い出した。
 自分を凝視し何も発しないクラスメートに少女はさらに重ねて大きな声で言う。

 「ちょっと!あなた聞いてます!?それとも私が小さすぎて声も届かないんですか!あと、首が痛いです!」

 さらに高い声の音にハッとしたセリカは、慌てて少女との距離を取った。

 「あ、ぶつかってすまない。あと、あなたは見えているし声も聞こえている。首は大丈夫か?」

 セリカはそう言って正面から彼女を見た。
 身長は初等部の高学年ぐらいだ。クルンとした大きな目はかすかに潤んでおり、その目元にはそばかすがあった。興奮しているのか頬がかすかに紅潮している。
 動物の形をした付箋らしき物を胸元に差し、鼻を手で擦りながら彼女もセリカの目を覗き込むように見ている。
 セリカが素直に謝り自分を配慮してくれたことで彼女の怒りは収まったようだ。

 「私の事が小さくて認識できていないのかと思ってしまいました。私の名前はシリアよ。シリア・クルーゼ。よろしくです。」

 シリアは手を差し出した。フクフクとした小さな手は握手を求めているのだろう。
 セリカも右手を差し出し握手をした。

 「私はセリカだ。セリカ・アーツベルク。よろしく頼む。でもシリア、ここは高等部だ。校舎を間違えていないか?」
 「間違えてないわよ、失礼ねっ!確かに私は小さいけどれっきとした16歳よっ!」

 再び憤ったシリアは怒気迫る勢いでセリカに迫った。怒りでなのか、涙目でその頬はプルプルと震えている。

 「す、すまない。あまりにも小さくて可愛かったから――。」

 シリアの気迫に動揺して両手を軽く挙げる。どうやらシリアは自分が小さい事にコンプレックスを抱いているのだろう。そのコンプレックスを的確についてしまったようだ。
 あたふたとシリアの機嫌を取っていると大きな影が2人に近づいてきた。

 「よぉーぅ、シリア。相変わらずチビだなぁ。校舎を間違えてはいませんかぁ?」
 
 シシシッと愉快に笑いながら2人の前に立ったのは、セリカより頭1つ分程身長が高い男子学生だった。
 赤褐色のかかった髪はツーブロックで短く刈り上げられている。制服の上からでも分かる程、ガタイもしっかりしている。右耳にはリングのピアス。それに両手にはグローブをつけていた。
 セリカとシリアの会話が聞こえていたのだろう。先ほどのセリカの言葉を真似すると、シリアの頭を軽く小突いた。

 「テオッ、あなたまで!ここでも私をからかうのっ!?」

 シリアの意識はこのテオと呼ばれる男子学生に向いたようだ。背の小さいシリアと背の高いテオが言い争っている姿はまるで親子のように見える。

 「テオ、と言ったか。シリアはこう見えて16歳らしいんだ。だから校舎も間違っていない。誤解しないでくれ。」

 シリアの怒りの沸点がここまで上がったのは自分の発言がきっかけだ。責任を感じたセリカの発言に、一瞬ポカンとしたテオは、さらに大きな声を出して笑った。

 「ぷっ、あははっはっ!知ってるよ。コイツとは初等部から一緒だからな。とはいっても身長は初等部から全然伸びてない様子だけどなっ!」

 それを聞いたシリアはさらに顔を赤くして今にもテオに殴り掛かりそうな勢いだ。 
 体格差から見てシリアに勝ち目はないだろうと止めに入ろうとしたセリカを、しかしテオは手で制した。

 「大丈夫だよ。これがいつものことだから。シシシッ。俺はテオ・ストライガー。よろしくな。というか、あんた見たことない顔だな。外部から来たのか?」

 テオの質問に、シリアは怒りよりも興味が勝ったようだ。

 「あら、そういえばそうですね。私たちは初等部からこの学園にいるけど、セリカは外部入学してきたの?」
 「あ、あぁ。そんなところだ。」

 入学の手続きはヴァースキに任せていた。というより入学に際しての情報はセリカには与えられていない。ただ彼の「高等部へ行け」という言葉に従ったまでだ。
 情報を知っていたとしてもきっと選択は認められなかっただろう。

 「へぇー。すげぇな!!セリカっていったか。じゃあ、お前結構やるんだなっ!」

 テオは右手の拳を握り左手の手のひらを殴る動作でセリカを見る。その目はどこか闘志のような影を含ませていた。

 「やる・・・?何のことだ?」

 言葉の意味が分からず2人に問い返すと、シリアとテオは思わず顔を見合わせる。

 「おいおい、ここが何のクラスなのか知っているのか?」
 「セリカって天然さん?それとも本当に何も知らないのですか?」
 「あ、あぁ・・・。だから色々と教えてもらえると助かる。ここは何か特別なクラスなのか?」
 「このクラスは高等部の中で実戦を得意とする者が集まった実戦バトルクラスだ。この学園は初等部・中等部・高等部で構成されていて、まずは初等部でエレメントと魔法力の器の大きさを知るんだ。」

 (器の大きさ。確かおっしょうが教えてくれたな。)

 魔法力の器とは、人それぞれが持つ魔法力を溜めておくことができる場所をいう。器の大きさは生まれつき決まっていて、それに伴い魔法の強さが決まるのだ。

 「器が大きければより精霊の力の量も増え強力な魔法が使えるだろ。だから器を大きくしようと訓練するんだ。訓練すれば器も成長し大きくなる。より威力の強い魔法も使えるようになるんだ。」
 「でもあえて器を大きくしようとしない人もいるのです。争いを拒んだり何かを生み出す才能に長けていたり。そんな人たちは自分の得意な分野でエレメントを使い生活しているんです。あちらに見える校舎に教室をかまえる創造クリエイトクラスもその1つですわ。」

 シリアは窓の方に視線を移した。視線の先には庭を隔て別校舎が見える。どうやらそちらに創造クリエイトクラスがあるのだろう。

 「創造クリエイトクラスの奴らが作ったアイテムってすっごいんだぜ!作ったアイテムに自身のエレメントをエンチャントすることだってできるんだぜ!」

 テオは自身が身に付けているグローブをセリカに見せた。そのグローブは指を覆う部分が無く指ぬきグローブと呼ばれる物だった。

 「テオが付けているグローブもそのクラスの者が作ったのか?」
 「あぁ。俺の親友が作った自慢の一品よっ!」
 
 テオはニヒヒと笑いながら大切なものを扱うようにグローブを触る。

 「創造クリエイトクラスのほとんどが日用品や装飾品を作り担う職業に就いているんですの。回復薬ポーションのような薬品も彼らたちの技術ですわ。」
 「そうなのか。大した技術だな。じゃあ私たち実戦バトルクラスは、何を得意とするんだ?」
 「そりゃあ実戦バトルクラスだぜ!?霊魔を倒して人々の安全を守るに決まってるじゃん!」

 何を当たり前のことをと言わんばかりにテオは腕を組んだ。

 「学園に入ったころは初等部のほとんどが実戦バトルクラスに憧れるんだ。なんたってヒーローだからな!会長も霊魔のこと言ってただろう?原因不明な事件だって増えている。その陰には、霊魔を操る咎人の存在があるんだ。そいつらを倒して人々の暮らしを守る魔術師ウィザードになるには、このクラスに入るのが1番の近道なんだ。実際にクラスが選択できるのは中等部からだけど、クラスのほとんどが実戦バトルクラス希望なんだよ。」

 しかし、ここでテオの表情に影が潜んだ。

 「でも実戦バトルクラスは実際に実戦が主になる。もちろんケガをしたり、もしかしたら命を落とすことだってあるんだ。
 シビアな現場に求められるのはやっぱり魔法力が強いやつだ。学園だってその辺にいたっては慎重だな。
 だから、実戦バトルクラスを希望しても入れないやつの方が多いんだ。このクラスを夢見て頑張った奴らも、技量が伴わなかったら振り落とされて別の科に転科させられてしまうことも少なくないんだ。」

 声も先ほどの覇気を感じさせない。既にテオはセリカを見ていなかった。
 朝は雲一つ無かった空だが、いつのまにか雲が太陽を隠そうとしていた。
 続く言葉が無いことを確認したシリアは、テオとは対照的に明るい声をだした。

 「だから!そんな実戦バトルクラスに外部から編入して来られるセリカは相当魔法力が強いってことなのでしょっ!?とっても興味深いですわ!ね、テオッ!」

 シリアはテオの背中をバンッと叩く。大きな音はしたものの、テオの大きな背中はシリアが叩いてもそこまでダメージが通ったように見えない。

 「おおっ!!そうだそうだっ!どれほどの魔法なのかぜひ見てみたいぜっ!よし、セリカ。いっちょ手合わせすっか!」

 グルンと向き直ったテオに先ほどの昏さは感じない。どうやらテオは相当好戦的な性格のようだ。

 「いや、テオと戦う理由はないし、ここで暴れると場所的に危険だ。」

 急に矛先を向けられたセリカだが手合わせに応じる気はない。軽い冗談として言ったテオが面食らった表情をする。

 「さすがに冗談だぜ。セリカって何か調子狂うなぁー。」

 拍子抜けたようにテオが笑っていると教室のドアがガラッと開いた。
 
 「席につけー。静かにしろー」

 現れたのは入学式前に教室に入ってきた白衣を着た教師だ。みんな、バタバタと自分の席に戻り口をつぐむ。

 「先ほど紹介があったようにこのクラスを担当することになったジンだ。よろしく。
 さて、早速だがお前たちにはある課題をしてもらう。クラスの奴らのエレメントを知るのにも丁度いい機会だろう。」

 (――課題?)
 (テストみたいなもんかな――?)

 教室が僅かにザワつきはじめるなか、ジンは片方の口角を上げニヤッと笑った。

 「Twilight forest|《静かなる森》で模擬実戦をしてもらう。課題をクリアできなかった奴はこのクラスから転科してもらう。」
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