幻惑の令嬢と公爵の魔犬たち:家畜に堕ちた令嬢

第6話 自己の運命を受け入れる決断

夜の静けさが、アリシアの心を一層重くさせていた。公爵の屋敷は闇に包まれ、月の光が窓から差し込むだけだった。彼女は寝床で丸くなりながら、自分の運命に思いを巡らせていた。

日々の屈辱、耐えがたい躾、他の犬たちとの力関係、そして何よりも、隷属の首輪による拘束。それらすべてが彼女を苦しめていたが、いつしか彼女はそれに順応し始めていた。公爵の側で過ごす時間は、次第に彼女に安らぎをもたらすようになっていた。だが、その安らぎが彼女をさらに苦しめた。なぜなら、それは彼女が人間としての自分を忘れかけている証拠だったからだ。

その夜、アリシアは何か異変を感じた。首輪がわずかに緩み、彼女の中に封じられていた魔力が一瞬だけ戻ってくるのを感じたのだ。これが彼女の最後のチャンスかもしれない。アリシアは胸が高鳴るのを感じた。

「今なら…」

彼女は立ち上がり、屋敷の中を静かに歩き始めた。公爵や使用人たちは皆、眠りについている。アリシアは庭に出て、夜空を見上げた。冷たい風が頬を撫で、彼女の決意を揺さぶるように感じた。

この首輪が緩んでいる間に、彼女は元の姿に戻ることができる。公爵に自分の正体を明かし、人間としての生活を取り戻すことができるかもしれない。しかし、その一方で、彼女は公爵との現在の生活にある種の安らぎと満足感を感じている自分に気づいていた。

公爵は彼女をクロエとして愛してくれている。彼の優しい手が撫でるたびに、彼女は心の中で温かな感情が芽生えていくのを感じていた。もし自分が正体を明かしたら、彼の反応はどうなるだろうか。彼は裏切られたと感じるだろうか。それとも、彼女を元の姿でも受け入れてくれるだろうか。

だが、アリシアの心は次第に、正体を明かすという選択肢から離れていった。彼女はクロエとして過ごす時間に慣れ、自分の中に新たなアイデンティティが芽生えていることを感じていた。過去の自分に戻ることは、もう望んでいないのかもしれないという考えが、彼女の心に広がり始めた。

アリシアは深く息を吸い込み、月光に照らされた庭を見つめた。そして、決断を下した。

「もう人間に戻る必要はない」

彼女はそっと目を閉じ、魔力が再び封じ込められていくのを感じた。隷属の首輪は再びその力を強め、彼女の魔術を完全に抑え込んだ。だが、彼女の心には不思議な安堵感が広がっていた。彼女は自らの運命を受け入れ、クロエとして生きることを選んだのだ。

夜が明けると、アリシアは再び公爵の膝の上にいた。彼はいつものように彼女を撫でながら、穏やかな声で話しかけてきた。

「クロエ、お前は本当に不思議な犬だ。なぜか、お前といると心が安らぐ」

彼女はその言葉を心の中で反芻し、優しい気持ちに包まれた。これが彼女の新たな人生だ。人間としての自分を捨て去り、クロエとして公爵の側で生きていく。それが彼女が選んだ道だった。

アリシアはその瞬間、自分の選択に満足していることに気づいた。彼女は公爵との新たな生活を受け入れ、過去を捨て去った。そして、新たな運命に身を委ねることを決意したのだった。

物語は、この決断によってアリシアが完全にクロエとしての生活を受け入れ、彼女が公爵との絆を深めながら新たな人生を歩んでいく姿を描きながら、次の展開へと続いていく。