幻惑の令嬢と公爵の魔犬たち:家畜に堕ちた令嬢

第5話 公爵との絆

時間が流れるにつれて、アリシアは公爵の屋敷での生活に少しずつ適応していった。彼女の体は人間のままでありながら、見た目は犬として映る状態が続いていた。隷属の首輪により彼女の魔力は封じられ、逃れる術もなく、彼女は「クロエ」として生きることを強いられていた。

公爵、レオニード・グレイヴァーは冷酷で知られていたが、クロエに対しては徐々に態度が変わり始めた。最初はただの珍しい犬として扱っていたが、次第に彼女に対して特別な興味を持ち始めたのだ。公爵はクロエを他の犬たちよりも可愛がり、共に過ごす時間が増えていった。

ある日、公爵はクロエを連れて、屋敷の広大な庭を歩いていた。秋の風が静かに吹き、木々の葉が黄金色に輝いていた。クロエ（アリシア）はその風景を見つめながら、公爵の横を歩いていた。彼女は相変わらず犬として振る舞わなければならなかったが、内心では彼とのこの時間が少しずつ心地よいものになっている自分に気づいていた。

「お前は不思議な犬だな、クロエ。」

公爵が静かに呟くと、クロエは彼を見上げた。彼の目には、いつも冷たさが漂っていたが、その日はどこか柔らかさを感じさせる光が宿っていた。公爵は立ち止まり、クロエをそっと撫でた。

「お前の瞳…どこかで見たような気がする。とても美しく、そして…何かを語っているようだ。」

アリシアは内心で緊張を感じた。彼女の黄金色の瞳は、犬の姿に見えても、彼女自身の本質を反映していた。その瞳を見つめられるたびに、自分の正体がばれてしまうのではないかという恐怖が彼女を襲った。しかし、公爵はそれ以上言葉を続けることはなく、ただ優しく彼女を撫で続けた。

その夜、アリシアは公爵の部屋に招かれた。彼は暖炉の前に座り、クロエを膝に乗せて静かに過ごしていた。外は冷え込んでいたが、暖炉の火が部屋を暖かく包んでいた。公爵は何かを考え込むようにして、クロエの毛を撫でながら、静かに口を開いた。

「クロエ、お前は一体何者なんだろうな。普通の犬とは違う気がする。まるで…人間のように、感情を持っているようだ。」

アリシアの心臓が一瞬跳ね上がった。彼は何かを感じ取っているのだろうか？彼女は息を潜めながら、彼の言葉に耳を傾けた。だが、公爵はそれ以上言葉を続けることはなく、ただクロエの頭を撫で続けた。

その日から、公爵とクロエの間には、微妙な絆が生まれ始めた。彼はクロエに対して次第に親しみを感じるようになり、クロエもまた、公爵の優しさに触れるたびに、彼に対する感情が変わっていくのを感じていた。彼女は次第に、この生活に安らぎを見出すようになり、自分が人間としての生活に戻るべきか、それともこのまま犬として生きるべきか、激しい葛藤に悩まされるようになっていった。

公爵は、クロエと過ごす時間をますます大切にするようになり、彼女の存在が彼にとって特別なものになりつつあることに気づき始めていた。しかし、彼はその感情の正体が何なのかを理解できずにいた。ただ一つ確かなことは、彼にとってクロエがかけがえのない存在になりつつあるということだった。

アリシアもまた、自分が公爵に対して抱く感情に戸惑いを覚えていた。彼女はこのままクロエとして生きることに満足してしまうのか、それとも元の姿に戻ることを望むのか、自分自身でも答えを見つけることができなかった。

二人の絆は、静かに、しかし確実に深まっていった。そしてその絆が、やがて彼女の運命を大きく左右する決断へと繋がっていくことになるのだった。