堕ちた令嬢と冥界の契約

第49話 冥界の新たな契約

クロエ・ハートフィリアは、スケルトンの軍勢とともに港での戦闘に勝利し、ドワーフの貿易船を占領した。彼女はマスケット銃という新たな武器を手に入れ、さらに強力な力を得ていたが、それだけでは飽き足りなかった。彼女の心の中には、これまで味わってきた屈辱と苦痛が燃え続けており、復讐心がますます強まっていた。

その復讐心は、彼女の魔力――闇属性の力をますます強化していった。戦闘で兵士たちの命を奪うたびに、クロエの中の闇の力は増大し、まるで彼女の魂と一体化するかのように成長していた。

---

港での戦闘が終わった後、クロエはひとり静かに船の甲板に立ち、闇の力がさらに強くなっていることを感じていた。

「この力……私の中で、何かが変わっている……」

クロエはその変化を感じ取りながら、自分の体に流れる魔力の波動がかつてないほどに強烈になっていることに気づいた。彼女はこれまでスケルトンたちという下級のアンデッドを召喚してきたが、その力はもはや新たな段階へと進もうとしていた。

そのとき、彼女の目の前に冥界からの使者――見えない存在が現れた。かつて彼女が結んだ契約は、今や彼女の力に応じて変わりつつあった。

---

「クロエ・ハートフィリア……お前の力は冥界の契約を超越しつつある」

その声は低く響き、彼女の意識に直接語りかけてきた。クロエはその声に耳を澄ませ、心の中で応じた。

「私はもっと強くなりたい……誰にも支配されず、私自身の力で全てを征服するために……」

冥界の存在は彼女の願いを聞き入れ、新たな契約が上書きされていくのをクロエは感じた。これまでの契約を超越する力が、彼女に与えられようとしていた。

「お前の力にふさわしい新たな存在……ファントムナイトを召喚する力を授けよう」

その言葉が響いた瞬間、クロエの体を黒い霧のような闇が包み込んだ。そして、彼女の中に新たな力――冥界とさらに強固な契約が結ばれたことを示す力が湧き上がった。

---

クロエはその場で新たな召喚を試みた。両手を掲げ、深く呼吸を整えながら呪文を唱える。

「冥界の深淵より、影の騎士よ。我が力に応じて姿を現せ……ファントムナイト！」

その瞬間、黒い霧がクロエの周囲に渦巻き、闇の中から漆黒の鎧を纏った巨大な騎士が姿を現した。その姿は、まるで死の影そのものであり、ファントムナイトはクロエに忠実に跪いた。

---

ファントムナイトは漆黒の全身鎧に包まれ、その目には赤い炎が灯っていた。その体は霊体のように影と一体化しており、物理的な攻撃が通じにくい存在だった。彼は無言で立ち上がり、デスナイトにも匹敵する強大な力を持っていた。

「これが……私の新たな力……」

クロエはその強力なアンデッドを前に、力が全身に満ちていくのを感じた。ファントムナイトは影のように姿を消したかと思うと、再び現れ、瞬時に敵を襲うことができる。その速度と力は、スケルトンたちとは桁違いであり、彼女の軍勢をさらに強力にする存在だった。

---

港に残っていた最後の抵抗勢力、貴族の増援が船に到着した。彼らはマスケット銃の攻撃を受けつつも、クロエを捕らえようと必死に迫ってきた。

だが、クロエはもはや恐れることはなかった。

「ファントムナイト、彼らを排除しなさい」

その言葉が発せられた瞬間、ファントムナイトは影のように素早く敵の前に現れた。兵士たちはその不気味な姿に怯み、次の瞬間にはファントムナイトの強烈な一撃を浴び、次々と倒されていった。

ファントムナイトは物理的な攻撃をかわしながら、霊体の力で自由に移動し、兵士たちを翻弄していた。その力は圧倒的であり、まるで死の化身が兵士たちの命を刈り取っているかのようだった。

---

「これで……終わりよ」

クロエは冷たく言い放ち、ファントムナイトが最後の敵を打ち倒すのを見届けた。彼女の復讐心はますます強まり、その力は限界を超えて新たな高みへと到達していた。

これまでの屈辱を乗り越え、彼女は冥界の新たな力――ファントムナイトという強力なアンデッドを従え、さらに強力な存在へと変わりつつあった。誰にも屈しない力を手に入れたクロエは、今や自らの復讐と自由への道を進み続ける決意を固めていた。

「次は……私を裏切ったすべての者たちに、この力を思い知らせてやる」

クロエの目には、冷たい決意が宿り、彼女はファントムナイトとともに、さらに遠い未来を見据えながら、歩みを進めていった。