堕ちた令嬢と冥界の契約

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第23話 屈辱的な誘惑

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冷たい牢獄の中、クロエ・ハートフィリアは全裸のまま、鉄格子の中で震えていた。誇り高い侯爵令嬢だった頃の自分を思い返し、そのすべてが失われたことを痛感するたび、心の奥底から湧き上がる屈辱感と絶望に押しつぶされそうになっていた。

捕まり、盗みを働いた罪で牢獄に入れられた今、彼女に残されたのはほんのわずかなプライドだけだった。だが、それも刻一刻と削り取られているように感じていた。

「このままでは終わらない……何とか、ここから出なければ……」

彼女は震えながら自分にそう言い聞かせた。冒険者の助けを期待することなどできない。彼は、クロエを利用して盗みを働かせた張本人であり、彼女が捕まったことで何らかのリスクを負うこともないだろう。

「私が、自分で……何とかするしかない」

牢の中にいる限り、クロエには何もできない。しかし、彼女はすぐに考え始めた。この状況を逆転させるために、唯一の手段がある――それは、看守を利用することだった。

クロエは、毎日牢を見回りに来る看守の姿を思い浮かべた。彼は粗野で鈍そうな男だったが、隙を見せることも多かった。彼女は、自分の美貌を使って看守を誘惑し、何とかしてここから抜け出す道を見つけることができるのではないかと考えた。

「私には……それしかない……」

彼女は自分の全裸の体を見つめ、誇りがさらに削られる感覚を味わいながらも、覚悟を決めた。もはやこの状況から逃れるには、他に選択肢は残されていなかった。

その日の夕方、看守が再びクロエの牢の前に現れた。彼は粗末な食事を持ってきて、無言でそれを差し出した。クロエは食事を受け取るふりをしながら、看守に優雅な微笑みを浮かべた。

「ねえ……お願い、助けてくれないかしら?」

彼女の声は柔らかく、誘惑するような調子で、視線をしっかりと看守に向けていた。クロエはかつて、自分の美貌で多くの男性を魅了してきた。今回も、それが通用するかもしれないと信じていた。

「こんなところで一人でいるのは……とても寂しいの」

彼女は体をわずかに動かし、全裸のままの自分の体を意識的に見せつけるようにした。肌が牢の冷たい空気に触れ、鳥肌が立つのを感じたが、彼女は微笑みを崩さなかった。自分の魅力を武器に使うことで、看守を籠絡できると信じていたのだ。



「あなたなら、私を助けてくれるわよね?」

彼女は甘い声でささやいた。だが、看守の反応は予想とは全く異なっていた。彼は一瞬、クロエの言葉に驚いたように目を見開いたが、次の瞬間、彼の口元には冷笑が浮かんだ。

「おいおい……冗談だろ?」

看守は鼻で笑い、クロエを軽蔑するような目で見下ろした。

「そんなことを言って、俺を誘惑するつもりか?いい身分だな、お嬢さん。そんなふうにして助けてもらえると思ってるのか?」

彼の言葉に、クロエは心臓が凍りつくような感覚を覚えた。彼は全く相手にしておらず、むしろ彼女の試みを馬鹿にしていた。クロエは一瞬、自分がどれほど無力で哀れな存在に成り下がっているかを思い知らされた。

「お前みたいな高慢な貴族が、こんなことをするとはな。まったく笑わせるよ。だがな……俺はそんな安い手には乗らないんだよ」

看守はさらに嘲笑を深め、牢の外からクロエを指差した。

「自分の美貌で何とかなると思ってたか?お前はただの囚人だ。どれだけ上等な体をしていようが、俺にとっては何の価値もない」

クロエはその言葉に打ちのめされた。彼女の最後の希望が、完全に打ち砕かれたのだ。自分がここまで堕ちたことに対しての羞恥と、看守の冷酷な言葉が彼女の心をえぐった。

「……お願い……」

彼女はかすかな声でそう言ったが、看守はそれすらも聞き流し、無視した。そして彼は笑いを抑えながら、牢の扉を叩いて立ち去った。

「いい夢見てろよ、お嬢さん。ここから出ることなんてありゃしない」

扉が閉まる音が牢獄内に響き渡り、クロエは再び冷たい床の上に座り込んだ。全裸のままで、彼女は屈辱に打ちひしがれていた。美貌で状況を変えられると思っていた自分が、今や完全に打ち砕かれ、無力な存在としてここにいることを痛感していた。

「……私は……どうすればいいの……」

クロエの心には、さらなる絶望が押し寄せていた。
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