堕ちた令嬢と冥界の契約

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第5話 冒険者の世界へ

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翌朝、クロエ・ハートフィリアは早朝の静けさに包まれた森の家を後にして、イステリアの街へと向かっていた。今日は、冒険者として新たな生活を始めるために、冒険者ギルドで登録を行う日だ。これからの生活の糧を得るために、ギルドに所属することは不可欠だった。

「冒険者として生きる……これが私の新しい人生の始まり」

彼女は森の中の細い道を歩きながら、決意を新たにしていた。貴族としての過去を捨て、自分の力で生き抜くために、冒険者としての活動をスタートさせなければならない。ギルドで登録すれば、仕事を受けることができ、収入を得ていくことができるはずだ。

イステリアの街は、港の喧騒に包まれながらも、冒険者たちの活気が溢れる場所でもあった。道を歩くたびに、剣を携えた冒険者や、魔法使いの姿が目に入る。クロエはその中に混じりながら、ギルドの建物へと足を運んだ。

ギルドの入り口に着くと、大きな木製の扉が彼女を迎えていた。その扉を開けると、冒険者たちのざわめきが一斉に耳に飛び込んできた。賑やかな酒場のような雰囲気が広がっており、様々な武器を持った冒険者たちが、ギルドの中で談笑したり、酒を飲んだりしている。

クロエは少しだけ緊張しながらも、カウンターに向かって歩き出した。冒険者ギルドは荒くれ者が多いと聞いていたが、実際にその通りだった。ギルドの中は、鍛え抜かれた身体を誇示するような男たちや、経験豊富そうな冒険者たちで溢れていた。

「さて、登録はどこで……」

クロエがカウンターに近づこうとしたその時、不意に背後から大きな手が彼女のお尻を叩いた。

「へへっ、お嬢ちゃん、こんな所で何してるんだ?貴族の道楽で冒険者でも始めに来たのか?」

振り返ると、そこには汚れた鎧を着た、いかにも下品そうな冒険者が立っていた。彼はにやにやとした笑みを浮かべながら、クロエを嘲るように見下ろしていた。周囲には、同じような風貌の男たちが数人おり、彼らもまた、クロエを品定めするような目で見ていた。

クロエは瞬時にその無礼な行動に対して怒りが込み上げたが、ここで感情的になるわけにはいかないと自分を抑えた。

「冒険者登録をしに来ただけよ。それに、触るな」

彼女は冷静さを保ちながら、言葉を返した。しかし、男たちはその態度を面白がるように笑い出した。

「おいおい、そう怒るなって。お前みたいな小娘が、冒険者になれると思ってんのか? ここはそんな甘い世界じゃないぞ」

別の男が笑いながら言葉を投げかけてくる。彼らの態度はあまりにも品がなく、クロエにとっては不快極まりなかったが、ここで彼らに対して強く反発するのは得策ではないと彼女は考えた。

「うるさいわね。私がどうしようと、あんたたちには関係ないでしょう?」

クロエは毅然とした態度で男たちを見返した。彼女は過去に貴族として育ってきたプライドがあり、決して弱さを見せたくなかった。それがどれほどの逆境にあろうとも、屈しないという決意を彼女の中に湧き上がらせていた。

男たちはクロエの態度に驚いたのか、一瞬言葉を失ったが、すぐに再び嘲笑を浮かべた。

「気が強いな、まあせいぜい頑張れよ、お嬢ちゃん。お前みたいな細い体じゃ、すぐに食い物にされちまうぜ」

その言葉に周囲の男たちも下品な笑い声を上げた。クロエはその場を無視し、カウンターへ向かって歩き続けた。彼らの言葉には、彼女の気持ちを動かす力などない。

---

カウンターの向こう側には、中年の女性が立っていた。彼女はクロエの姿を一瞥し、淡々とした声で話しかけてきた。

「冒険者登録かい? 名前と年齢を教えてもらえる?」

クロエは小さく息をつき、気を取り直して答えた。

「クロエ・ハート……いえ、クロエ・ノワール。18歳です」

彼女はハートフィリアという貴族の名前を使うことを避け、偽名を名乗った。今は少しでも目立たないようにすることが重要だと考えていた。

「クロエ・ノワールね……はい、登録完了よ」

女性は書類を手渡しながら、クロエに冒険者ギルドの規則や仕事の仕方について簡単な説明を始めた。

「最初は簡単な仕事から始めることになるわ。依頼内容は掲示板に貼られているから、自分で選んで依頼を受けるといい。ただし、報酬は依頼の難易度と成功率に応じて変わるから注意してね」

クロエは黙ってうなずき、ギルドカードを受け取った。これで彼女は正式に冒険者として登録された。これからは、冒険者としての第一歩を踏み出し、自分の力で生き抜いていくしかない。

「ありがとう」

カウンターの女性に一礼すると、クロエはその場を後にした。背後から聞こえる冒険者たちの下品な笑い声や囁き声を無視しながら、彼女はギルドの出口に向かって歩いていった。

「これからが本当の勝負……」

クロエは自分にそう言い聞かせながら、再び外の光の中へと一歩踏み出した。貴族の名を捨て、孤独な戦いが今始まろうとしている。どんな困難が待ち受けていようとも、彼女は決して屈しない決意を胸に抱いていた。
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