悪魔令嬢の冒険者ライフ

文字の大きさ
上 下
17 / 31

第17話 冒険者ギルド

しおりを挟む
 イステリアの冒険者ギルドは、クロエの家からそれほど遠くない街外れに在った。
 冒険者のイメージは、どこの国でも荒れくれ者や日雇い労働者の様な底辺の印象が強く、一部の上級冒険者ですら、王国の騎士と比べられて、脛に傷のある者達だと考えられている。

 そのせいで、冒険者ギルドの立地も街の中心地から離れており、治安も決して良いとは言えない場所だ。

 だが、実際のところ、世間の印象はあながち間違ってはいない。

 冒険者は、身分や過去の経歴に関係無く誰でもなる事ができる仕事であり、ギルドから依頼を斡旋してもらい、達成条件をクリアした場合に報酬を受け取る日雇いの様な仕事だ。
 冒険譚に出て来る様な魔物との戦闘やダンジョンの探索といった仕事もあるが、下水道の清掃や商人の護衛にお金の取り立てなど、冒険者とは言い難い雑用や傭兵の様な仕事の方が多い。

 しかも、危険を伴うものや誰もやりたがらない様な仕事が多く、金に困った冒険者が日銭稼ぎの為に働いているという夢の無い仕事だ。

 最初は、クロエも冒険者の現実に愕然としたが、どんな仕事も人の為になる業務であり、誰かがやらなければならない仕事だと理解してからは、むしろ冒険者の役割の重要性を実感した。
 
 冒険者ギルドは、堅牢な石造りの建物で、一階には依頼書が張り出された大きな掲示板があり、受けたい依頼書を持って受付に行けば良い。
 他にも魔物の素材買取窓口や武器の貸出しに依頼受付の窓口などがある。
 また、商談や仲間集めの為の酒場が併設されており、冒険者や飲んだくれ達が騒いでいた。

「ここも王都とあまり変わらないのね」

 見慣れた光景に、ホッとため息が出た。

 クロエは、真っ直ぐに受付カウンターへ向かう。
 美しいクロエを見る冒険者達の目がギラついているが、無視して、金髪の受付嬢の前に立った。



「依頼ですか?」

 受付嬢は、十代半ばの若い少女を見て、冒険者ギルドに依頼しにきたのだと勘違いしている様だ。

「いえ、冒険者登録をしに来ました」

 本来、クロエはシエロ王国の冒険者ギルドでAランクの資格を持っており、そのランクは他の国に行っても引き継がれるはずだった。
 しかし、最高ランクのAランク冒険者は、国に数える程度しか存在しない精鋭であり、そんなAランク冒険者が突然現れたら、目立つことは想像に難くない。
 また、記録からシエロ王国から来たことも分かってしまうので、正体がバレてしまう可能性も高い。
 シエロ王国では、ハートフィリア家の娘である事は隠していたが、用心するに越したことはない。

 今までの冒険者の経歴を捨て、新規に登録し直す事で、イステリアの冒険者として、一からやり直す事にした。

「失礼ですが・・・ご両親は了承していますか?」

 受付嬢は、怪訝な視線をクロエに向ける。

 ・・・懐かしいな。

 クロエは、13歳の時に初めて冒険者ギルドに登録をしに行った時の事を思い出していた。

「・・・両親はいません」

 クロエは、3年前と同じ手を使う事にした。



 クロエは、少し俯いて、暗い顔をする。
 冒険者になる若い少年少女の殆どが孤児であり、両親を失って、独りで生きて行く為に、仕方無く冒険者になる者が多かった。
 それ故に、受付嬢も状況を察して、悲しそうな表情を浮かべて、登録用紙を渡してくれた。

 若い少年少女の冒険者は、その殆どが1年以内に死ぬ。
 未成熟な身体では、過酷な冒険者の仕事に耐えられない上に、無鉄砲に危険な魔物退治の依頼を受けて、命を落とす者が後を経たない。
 
「こちらが、冒険者の登録証になります」

 受付嬢が渡してくれたのは、鉄のプレートだった。
 プレートには、クロエと名前が刻まれており、冒険者ランクと身分を証明してくれる。

 因みに、冒険者ランクは、AからDの4段階に分かれており、プレートの種類で見分けがつく様になっている。

 金:Aランク
 銀:Bランク
 銅:Cランク
 鉄:Dランク

 クロエは、新人なので、鉄のプレートであるDランクからスタートする事になった。

「・・・懐かしいな」

 クロエも3年前は、Dランクからスタートした。
 たった3年でAランクにまで駆け上ったが、今回は急いでランクを上げる必要は無い。

 ゆっくり、のんびりと冒険者の仕事を愉しもう。

「ありがとうございます」

 クロエは、受付嬢にお礼を言うと、早速、依頼掲示板を確認する。

 そこには、数百以上の依頼書が貼り出されており、地下水路のネズミ駆除や拐われた子供の捜索に海の魔物退治や海賊船からの護衛やオーソドックスなゴブリン退治まで、様々な依頼があった。

 依頼書の右上にはAからDの印が押されており、受注可能な冒険者のランクが指定されている。

「・・・これって」

 クロエは、気になる依頼を発見して、手に持った。

「私の捜索依頼?」

 依頼書には、クロエ・ハートフィリアの捜索と書かれており、クロエの肖像画が描かれていた。



 依頼主はハートフィリア家であり、人生100回は遊んで暮らせるくらいの報酬が設定されていた。

「・・・これじゃあ、手配書と変わらないじゃない」

 まさか、こんな形で他国にまで顔を晒されるとは思っていなかった。

 クロエは、フードを被り、顔を隠して冒険者ギルドを出た。

「おい、待てよ!」



 突然、背後から声を掛けられて、後ろを振り返ると、銀髪の少年が立っていた。
 血の様な赤い瞳をしており、同じく血の様な真っ赤なロングコートを来た少年は、真っ直ぐにクロエを見つめている。

「・・・何でしょうか?」

 クロエは、怪訝な表情で質問した。

「お前、初心者だろ?」

 少年は、得意気に首から銀のプレートを下げていた。
 十代の少年がBランクになるというのは、非常に珍しく、才能に溢れているのだろう。
 自慢したくなる気持ちも分からなくも無いが、目の前にいるクロエは、16歳でAランクになった化け物であり、その瞳は冷めていた。

「・・・それが何か?」

 新人潰しかな?

「お前、危なっかしいから、俺の仲間に入れてやるよ」

 少年は、偉そうに胸を張り、冒険者パーティーに勧誘してきた。

「いえ、結構です」

 クロエは、軽く会釈して、そのまま去って行く。

「・・・え? ちょっ、断るのか!?」

 少年は、信じられないといった顔で呆然と歩き去るクロエの背中を眺めていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...