悪魔令嬢の冒険者ライフ

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第6話 夜の森

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 魔物図鑑を読み終えたクロエは吐き気が込み上げる。

「うぇ・・・気持ち悪い」

 余りに非人道的な実験に胸糞悪くなる。
 悪魔より悪魔な所業に怒りが込み上げた。
 被験者となった淫魔サキュバスには同情するが、実験結果自体は、決して無視できる内容では無かった。

 それは、そのままクロエにも当てはまる事になるからだ。
 クロエが淫魔サキュバスに変化してから、既に4日が経過しており、当然だが、一度も交尾を行ってはいない。
 空腹状態に近い感覚は自覚しており、身体が怠い。

 このまま行くと、あと数日の内に、飢餓状態になってしまう。

 先程までは、雄の精子なんて飲めないし、交尾なんて無理だと諦めていたが、このままでは、理性を失って、性欲に支配されてしまうかも知れないと考えると、そうも言ってられない気がしてきた。

「ハァ~、見ず知らずの人と交尾なんて・・・無理でしょ」

 クロエは、自分が見ず知らずの男に媚を売り、精子を恵んでくれと懇願する姿を想像して、自己嫌悪で死にたくなった。
 他人に娼婦の様に扱われて、見下されるのは、耐え難い屈辱だ。
 言葉が通じる同族だからこそ、感じる劣等感や屈辱感、羞恥心と言うものがあるのだ。

「それに・・・こんな森の中に人間が居るわけないよね?」

 ここは、シエロ王国とイステリア王国の国境を隔てるヘラの大森林であり、広大な土地と多種多様な魔物が生息している危険地帯である。
 旅人や商人も滅多に寄り付かない森の中であり、人が住む様な場所では無い。

 最初から、クロエには、人間の精力を喰らう事は選択肢に無かった。

「取り敢えず、国境を超えてから考えよう」

 馬車が破壊されてしまった以上、徒歩で森を横断しないといけない。
 王都では、クロエが失踪した事は既に問題となっているはずだ。
 捜索隊が編成され、検問が敷かれるのも時間の問題だろう。
 それに、クロエに毒を盛った犯人が追手を放っている可能性もある。

 捕まらない為にも、出来るだけ早く、国境を越えたい。

 禁断症状の問題はあるが、先ずは国外へ脱出する事を優先する事にした。

 クロエは、深い森の奥へと歩き出した。

 鬱蒼とした森の中は、木々が生茂り、空を葉が覆い隠している為、昼間でも薄暗い。

「ハァッ、ハァッ、何だろう・・・体力が落ちたのかな?」

 3時間ほど歩いた所で、クロエは息が上がって、一休みする事にした。
 騎士の訓練や冒険者活動で鍛えられたクロエは、当然だが、体力にも自信があった。
 しかし、慣れない森の中を歩いているせいか、直ぐに息が上がってしまう。

「それに・・・魔力が、殆ど無い?」

 クロエは、魔力で身体強化を試みるが、ガス欠状態に近く、上手く魔力が練れない事に気付いた。
 本来、クロエの魔術師としての実力は、魔塔主と同等であり、殆ど無尽蔵とも言えるくらいの魔力を体内に保有している。
 それ故に、黒騎士ゴーレムを大量に創り出しても、魔力切れになった事は一度も無い。

「やっぱり・・・淫魔サキュバスになったせいだよね?」

 淫魔サキュバスのエネルギー源である精力を吸収していない事で、クロエは、大幅に体力が低下し、魔力が枯渇してしまった様だ。

「精力を吸収しないと、どんどん弱体化するって事?」

 これは、思った以上に深刻かも知れない。
 魔力が無くなれば、クロエの武器はダガーナイフだけになるが、体力まで低下している今、クロエの戦闘力は、普通の村娘と変わらない程度にまで、下がっていた。

 そんな状態で危険地帯であるヘラの大森林の奥深くにいるのは、自殺行為だ。

「・・・取り敢えず、今日はこの辺で休もう」

 既に陽も傾き始めており、辺りは暗くなり始めていた。
 夜の森は、危険度が格段に上がる。
 視界は悪くなり、危険な魔獣達の活動時間に入るので、無闇に歩き回るのは遭遇リスクが上がってしまう。
 
 クロエは、適当な平地を見つけると、薪を集めて、火を起こし、王都で購入した皮のテントを組み立てた。
 中は思ったより広く、身長160cmのクロエはゆったりと寝転がれるくらいだ。

 地面には、最高級の毛皮を敷いて、毛布に包まった。
 夜は冷える上に、体温は地面に奪われるので、寒さ対策は必須だ。

「取り敢えず、体力の消耗を抑えないと・・・」

 身体が鉛の様に重く、疲れが溜まっていた。
 本来なら、黒騎士を見張りに出しておくのだが、魔力が殆ど残っていない上に、飢餓状態で意識が朦朧としており、護衛も無しに、深い眠りについてしまった。

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