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第4話 黒騎士
しおりを挟む火竜が放った灼熱のブレスは、ヘラの大森林の一部を吹き飛ばし、燃え盛る炎で包み込んだ。
凄まじい爆炎の中、クロエが召喚した黒騎士は、火竜の炎を受け切っていた。
最高級の鉱石であるアダマンタイトの大楯は、火竜のブレスを受けても、傷一つ付いてはいない。
黒騎士に守られながら、クロエはダガーナイフで冷気を放ち、自身の周りを炎の熱から守っていた。
「いきなり攻撃してくるなんて・・・所詮はトカゲね」
いきなり即死級の攻撃をされて、怒りが込み上げたクロエは、竜に対する最大の侮辱であるトカゲ呼ばわりをする。
「我に向かって・・・トカゲだと!?」
火竜の全身が怒りで燃え上がる。
再び、火竜が喉奥に爆炎を溜めた瞬間、大剣を装備した黒騎士が、上空に現れ、火竜の右翼を斬り落とした。
「グオオオオ!?」
火竜にとって翼は天空を支配する為の要であり、その痛みは腕を失うより痛いはずだ。
「次は脚ね」
更にもう一体の黒騎士が現れると、巨大な戦斧で火竜の右後脚に叩き込んだ。
大木の様な太い竜の太ももに、巨大な戦斧が突き刺さる。
火竜の鱗は、鋼鉄より硬く、通常の武器では弾き返されてしまう。
しかし、アダマンタイトの武器は世界一硬い鉱石であり、竜の鱗を軽々と砕いてしまう。
「淫魔風情が!」
火竜は、怒りに任せて右腕を振るい、鋭い鉤爪でクロエを狙う。
ガキンッ!
しかし、大楯を装備した黒騎士のガードは硬く、クロエには届かない。
ザクッ!
その隙を突いて、大剣が火竜の脇腹を抉る。
更に別の黒騎士が戦斧で左脚の腱を斬り裂いた。
「ギィヤアアアアアアアア!?」
悲痛な叫び声を上げて、火竜が地面に倒れる。
それでも、喉奥に溜めた業火を放とうと口を開き、クロエを向いた。
しかし、真上から降ってきた長槍を持つ黒騎士が火竜の頭を貫き、地面に串刺した。
「森を燃やすのは、ダメだよ」
クロエは、黄金に輝く瞳で、真っ直ぐに火竜の真っ赤な瞳を見る。
「ガフッ・・・淫魔如きに」
火竜の紅い瞳から光が消えて絶命した。
「ハァー、死ぬかと思ったよ」
最初のブレスを防げなければ、クロエは即死していた。
魂属性の魔力で創り出した黒騎士は、強い。
しかし、あくまでクロエ自身は生身の人間であり、多少剣術は使えるが、火竜のブレスを受け切れる様な肉体は持ち合わせていない。
今回の様な不意打ちには、弱い。
「取り敢えず、火竜の死体は高く売れそうだし、持っていこうかな」
クロエは、収納指輪を死体に翳すと、光の粒子となって吸い込まれた。
ぐうぅ~。
戦いで疲れたからか、お腹が鳴ってしまった。
気付けば、昨日の朝から何も食べていない。
淫魔になったから、腹が減らなくなったのかと思っていたが、やはり、空腹は感じる様だ。
それがまだ、自分が人間である事の証明の様に感じて、嬉しくもあった。
「取り敢えず、ご飯にしよう」
乗合馬車は、火竜に破壊されてしまったし、馬も死んでいるので、これからは徒歩で進まないといけない。
だが、別に急ぐ旅でも無いので、のんびり進めば良い。
ある程度の食糧は買い込んで来たが、イステリアまでどのくらい掛かるか分からないので、火竜に焼かれた馬を食べる事にした。
「ちゃんと命は有効活用しないとね」
ダガーナイフでお腹を裂き、内臓を取り出して、皮を剥がす。
頭や手足を切り落として、血を抜き、肉をパーツごとに分けていく。
もちろん、汚れるのは嫌なので、作業は全て黒騎士にやらさせた。
火竜に焼かれて焦げ付いた部位を捨てて、残りを収納指輪に保管した。
別の黒騎士に薪を集めさせて、炎のルーン文字が刻まれたダガーナイフで、火を起こす。
趣味で冒険者をしていたので、サバイバルの知識はそれなりにあった。
馬の足を焚き火でじっくりと焼き上げながら、塩と胡椒を振りかけて味付けをする。
美味しそうな匂いが漂ってきた。
「頂きます!」
クロエは、大きな馬の脚に齧り付いた。
赤みで淡白な味だが、悪く無い。
大きな口を開けて肉に齧り付く姿は、とてもじゃないが、クロエが公爵令嬢だと言われても信じられない。
クロエ自身、貴族の生活より、趣味で冒険者の仕事をしている時の方が充実していた。
こっちの生活の方が自分に合っていたのかも知れないと、改めて実感する。
「・・・ご馳走様でした」
食べ終えたクロエは、馬に感謝の言葉を送る。
しかし、何故か浮かない顔をしていた。
味は美味しかったし、お腹は膨れた。
しかし、何故か満たされない。
満腹感はあるのに、身体は飢えているかの様に力が入らない。
「・・・まさか、悪魔になったから?」
もしかしたら、悪魔は人間の食事では、エネルギーを摂れない可能性があることに気付いた。
クロエは、半魔である事から、人間の食事でも一定の栄養補給は可能だが、悪魔としての食事をしないと、必要なエネルギーが補給できないのかも知れない。
クロエは、魔術学園で購入した魔物図鑑を取り出した。
「淫魔の生態については・・・あった!」
ページを捲り、淫魔の説明が書かれたページを開いた。
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