闇に堕ちた公爵令嬢:ゴブリンの呪印

第8話 逃走の失敗

クロエの心は限界に達していた。毎晩、ゴブリンの命令に従い、屈辱的な行動を強いられる日々が続いていた。昼間は社交界や魔術学園で貴族の令嬢として振る舞いながらも、夜になると全てを脱ぎ捨て、透明化してゴブリンの洞窟へ向かう生活。クロエの心はそのギャップに押し潰されそうになっていた。

「これ以上、こんな生活は耐えられない…」

クロエは決意を固めた。今夜こそ、この呪われた運命から逃れるのだ、と。ゴブリンの呪印による支配に抗うために、彼女は一か八かの逃走を計画していた。

夜が訪れると、クロエはいつも通り家族が眠りにつくのを待った。全てが静まり返った瞬間、彼女は決意を胸に秘めて行動を開始した。衣服を全て脱ぎ去り、闇の中で透明化の魔法を発動させる。その瞬間、彼女の身体は闇に溶け込み、目に見えない存在となった。

「ここから抜け出して、遠くへ…」

クロエは恐る恐る屋敷を抜け出し、屋敷の裏手にある森の中へと向かった。彼女は何度も振り返りながら、ゴブリンの気配がないことを確認し、逃走を続けた。

透明化しているおかげで、誰にも気づかれることはなかった。しかし、彼女の心は焦りと恐怖でいっぱいだった。もしもゴブリンに見つかれば、彼女の運命はさらに悲惨なものになるだろう。クロエは足早に森の奥深くへと進んでいった。

しかし、その時だった。

突然、全身を貫くような激しい痛みがクロエを襲った。呪印が熱く燃え上がるように輝き、彼女の魔力が一瞬で封じられてしまった。透明化の魔法が解け、クロエの身体は闇の中に浮かび上がった。

「こんな…はずじゃ…！」

彼女は息を切らしながら、その場に崩れ落ちた。ゴブリンは彼女の行動を全て見透かしていたのだ。逃走を試みることさえ許されない。呪印が彼女の行動を制限し、透明化の魔法すらも無力化してしまったのだ。

その時、森の闇からにじみ出るように、ゴブリンが現れた。冷笑を浮かべたその顔が、クロエの前に迫ってくる。クロエはその場で恐怖に震えたが、立ち上がることすらできなかった。

「愚かだな、クロエ。逃げられると思ったのか？」

ゴブリンの声が、クロエの心に冷たい刃のように突き刺さった。彼女は何も言い返すことができなかった。全身が力を失い、ただ呆然とその場に座り込んでいるしかなかった。

「お前には従う以外の選択肢はない。それを忘れたのか？」

クロエの髪を掴み、ゴブリンは彼女を無理やり立ち上がらせた。彼女は痛みに顔を歪めながらも、抗うことができない。呪印の支配が、彼女の意志を完全に縛り付けていた。

「いいか、クロエ。お前は私のものだ。どこへも行かせはしない。」

ゴブリンの冷たい声が耳元で囁かれる。クロエは涙を流しながら、無力感と屈辱感に打ちひしがれていた。逃げることは許されない。彼女の逃走は完全に失敗し、逆にゴブリンの支配をより強く感じさせられる結果となった。

その夜、クロエは再びゴブリンの命令に従い、洞窟へと戻るしかなかった。彼女は自分の無力さを痛感し、心の中で何かが壊れる音を聞いたような気がした。

「これが…私の運命なのか…」

クロエはもう一度透明化の魔法を使い、自分自身の身体が再び闇に溶け込むのを感じながら、深い絶望の淵へと沈んでいった。彼女の逃走は失敗し、これからも屈辱的な日々が続いていくことを悟ったのであった。