闇に堕ちた公爵令嬢:ゴブリンの呪印

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第3話 偽りの微笑み

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クロエは朝の光が差し込む中、学園の校門をくぐった。いつも通りの穏やかな朝。彼女の表情には微笑が浮かんでいるが、その心はまるで薄氷の上を歩いているかのように不安定だった。昨夜もゴブリンの命令に従わざるを得ず、屈辱にまみれた夜を過ごしたことを、誰にも知られることなく、今こうして平然と振る舞わなければならない。

学園の生徒たちは、彼女の笑顔に応じて自然に集まり、彼女を中心に会話の輪ができる。クロエはその一員として、楽しげに友人たちと談笑していた。しかし、その笑顔はすべて偽りであり、胸の奥底には重く暗い秘密が沈んでいる。

「クロエ、今日も一段と綺麗ね。新しいドレス?それとも魔術の影響かしら?」

友人のエレナがそう言って微笑む。クロエは微笑みを返しながら、心の中で自分を押し殺す。

「ありがとう、エレナ。でも、特別なことは何もないわ。ただ、少しだけ工夫しただけ。」

言葉を交わすたび、クロエは自分の中に広がる虚しさを感じていた。彼女はみんなに笑顔を見せ、普通の生活を演じているが、心の中ではゴブリンの存在が重くのしかかっている。彼が屋敷にいることを考えるだけで、身体が強ばり、心臓が早鐘のように打ち始める。

午前の授業が終わり、クロエは次の教室へと向かう途中、ふと自分の背後に誰かの視線を感じた。振り返ると、そこには第一王子のレインハルトが立っていた。彼はいつも通りの優雅な笑みを浮かべていたが、その眼差しにはクロエを見つめる鋭い光が宿っていた。

「クロエ、少し時間をもらえるかな?」

王子の声は穏やかだったが、その声に込められた微かな違和感を、クロエは感じ取った。彼はいつもと変わらぬ態度で話しかけてくるが、その奥に何かを探ろうとしているような気配があった。

「もちろん、殿下。何かご用ですか?」

クロエは微笑みを浮かべながら答えたが、内心は緊張で張り詰めていた。もし王子が彼女の秘密に気づいていたらどうしようか。もし、ゴブリンの存在が露見してしまったら…。その考えが頭をよぎり、クロエは息を詰めた。

「最近、君が少し疲れているように見えるんだ。何か心配事でもあるのか?」

王子は優しく問いかけた。彼の眼差しは真剣で、クロエの内心を見透かそうとしているように感じられた。クロエはその視線から逃れることができず、心の中で冷や汗が流れるのを感じた。

「いいえ、殿下。少し学業に集中しすぎたのかもしれません。心配には及びませんわ。」

クロエは何とか言葉を絞り出し、王子に笑顔を見せた。その笑顔は完璧なものだったが、内心では心臓が激しく鼓動していた。もし、この場で王子に何かを察されてしまえば、すべてが終わってしまうかもしれない。そう思うと、恐怖で身体が震えそうになるのを必死に堪えた。

「そうか…。無理はしないでくれ。君が困っていることがあれば、何でも言ってほしい。僕は君を助けたいんだ。」

王子は優しい声でそう言い、クロエの手を軽く握った。その瞬間、クロエの心に一筋の痛みが走った。彼の優しさが、彼女にとってどれほど重荷であるかを痛感したからだ。クロエは、王子に対して真実を打ち明けることができない自分を激しく責めた。

「ありがとう、殿下。とても心強いお言葉です。」

クロエはそう答えたが、その声はどこか震えていた。王子がその微妙な変化に気づいたかどうかはわからない。だが、クロエはすぐにその場を立ち去りたくなった。彼の前でこれ以上、偽りの笑顔を保ち続けることができそうになかったからだ。

その日の午後、クロエは授業に集中するふりをしながら、頭の中では別のことを考えていた。夜になれば、再びゴブリンの命令に従わなければならない。その屈辱的な行動が、彼女の精神を蝕んでいくのがわかる。そして、昼間は何事もなかったかのように、こうして学園で普通の生活を送らなければならない。クロエは自分が二つの異なる世界の間で引き裂かれていくような感覚に陥っていた。

授業が終わり、屋敷へと帰る道すがら、クロエは心の中で重荷を感じていた。ゴブリンが今も屋敷にいる。その事実が彼女を苦しめていた。夜が訪れれば、再び屈辱的な命令を受け、それに従わなければならない。クロエはそれを考えるだけで、胸が押しつぶされそうになるのを感じた。

「偽りの微笑み…。」

クロエは自分の中でその言葉を呟いた。今、自分が見せている笑顔は、すべて偽りのものだ。誰にも本当のことを話せないまま、彼女はこの重荷を背負い続けるしかない。クロエは屋敷へと向かう足を重くしながら、自分の運命を受け入れるしかないことを痛感していた。
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