公爵令嬢の破滅願望:呪われた運命

第2話 呪いの始まり

クロエが悪魔召喚の儀式に失敗してから数日が経過した。彼女の胸には、得体の知れない重苦しい感覚が常にまとわりついていた。あの夜の儀式のことを誰にも話していないが、クロエは自らが何か重大な過ちを犯したことを薄々感じ取っていた。

儀式を終えてからというもの、クロエは悪夢に悩まされるようになった。夢の中で彼女は、自分が闇に飲み込まれ、無数の手が彼女の体を引き裂こうとしている。そして、その手からは逃れられず、恐怖と快楽が混じり合った感覚に支配される。目覚めると冷や汗で体がびっしょりと濡れており、鼓動が速くなるのを抑えることができなかった。

その日も、クロエは夢から覚めた後も心のざわめきが消えず、何かに取り憑かれたような感覚に苛まれていた。彼女は鏡の前に立ち、自分の顔を見つめた。美しさは変わらない。しかし、その瞳の奥には、以前にはなかった狂気と欲望が宿っているのがはっきりと見て取れた。

「これは…一体…？」

彼女は呟いたが、答えは返ってこなかった。ただ、自分の心が少しずつ蝕まれていくのを感じるばかりだった。クロエは冷静さを取り戻そうと、深呼吸を繰り返した。彼女は強い。かつて誰よりも強大な魔力を持ち、数々の困難を乗り越えてきたのだから、こんなもので自分を失うわけにはいかないと自らに言い聞かせた。

だが、その決意はすぐに揺らぐことになる。クロエはふと、自分の内側から聞こえる不気味な囁きに気づいた。それはまるで自分の心の奥底から湧き出てくる声のようで、彼女の理性を次第に壊し始めた。

「破滅を求めろ…もっと堕ちていけ…」

その声は次第に大きくなり、クロエの頭の中を占領していく。彼女は耳を塞いだが、その声は止むことがなかった。むしろ、彼女が抵抗すればするほど、その囁きは彼女の心に深く入り込み、彼女の意識を侵食していく。

クロエはその場に崩れ落ち、両手で頭を抱えた。彼女は理性を失いそうなほどの恐怖と、自らの意思に反して湧き上がってくる甘美な破滅への渇望に苛まれた。彼女の心の中で、破滅への欲望が徐々に大きくなり、それが彼女を支配しようとしているのを感じた。

さらにもう一つ、別の感覚が彼女を苦しめた。それは、自らが辱められ、屈辱を味わうことへの異常なまでの渇望だった。彼女は今までの人生で、誇り高く生きてきた。屈辱や屈服は彼女の辞書には存在しなかったはずだ。しかし今は、その屈辱を望む自分自身がいることに気づき、恐怖と同時に奇妙な安心感を覚えた。

「どうして…こんなことに…」

クロエは自問するが、その答えは既に彼女の心の中にあった。あの夜、彼女は禁断の力に手を出し、その結果としてこの呪いを受けたのだ。破滅願望と陵辱願望。この二つの呪いは、彼女の心を次第に支配し、彼女を堕落させるために存在している。

クロエは意識を失いかけながらも、その呪いの影響を自覚した。彼女はこのままでは、自らの力と誇りをすべて失い、破滅への道を進んでしまうことになる。しかし、その破滅への誘惑はあまりにも甘美で、彼女の理性は次第にそれに抗うことが難しくなっていた。

「私は…私のままで…いられるのか？」

その問いに対する答えを見つけられないまま、クロエは床に倒れ込んだ。彼女の心の中で、二つの欲望が激しく渦巻き、彼女の運命を決定づけるべく動き始めた。

その日以降、クロエの人生は少しずつ狂い始める。彼女はかつての誇り高き公爵令嬢ではなく、破滅と屈辱を求める呪われた存在へと変貌していくのだった。