元公爵令嬢の冒険者ライフ

神

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第28話　激闘

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まるで天が落ちてきたかの様な威圧感だった。
凄まじい重圧で大地が揺れ、大気が震える。

「う、動けないニャ！？」

まるで全身が鉛になったかの様に重く、背中から脂汗が溢れ出る。
呼吸が苦しく、まるで水中に沈んでいくかの様だ。

それは、圧倒的なプレッシャーと刺すような殺気のせいだけでは無い。

オーラの性質は、指紋の様に個人差があり、炎や雷の様に特殊な効果を持つ場合がある。

亡霊の騎士ファントムナイトのオーラが持つ性質は重力だった。

亡霊の騎士ファントムナイトは、半径20m圏内に超重力空間を創り出しており、範囲内に入ったモノは10倍の重力で押し潰される為、真面に立ち上がる事すら出来なくなる。

ウェアウルフの超人的な筋力と耐久力により、何とか耐えているが、超重力空間の中では、ユナの体重は400kgを優に超えていた。

空気が重い・・・岩石でも背負っているみたいニャ！？

普通の人間なら自重で肺が押し潰されてもおかしくない状況だが、ユナは不屈の精神力により膝を着かずにいた。

「膝を着かぬとは・・・やりおる！」

しかし、真面に歩く事も出来ないこの状況で亡霊の騎士ファントムナイトの攻撃を避ける事は不可能だった。

振り下ろされる刃は濃密なオーラを纏っており、真面に喰らえば死は免れない。

「にゃら・・・吹き飛ばしてやるニャ！」

その瞬間、ユナを中心に力強い風が吹き荒れる。
通常の風とは違う嵐の様な暴風は、ユナの両腕に巻き付き、竜巻を生成する。

凄まじい摩擦で雷が発生し、真空の刃が周囲を切り刻んで行く。

「双嵐撃そうらんげきニャ！」

亡霊の騎士ファントムナイトの大剣による一撃とユナの嵐を纏いし両腕が衝突した瞬間、衝撃波と共に爆発が生じた。

凄まじい竜巻の回転は大剣を真空の刃で削り取り、ギャリギャリと火花を撒き散らし、荒狂う雷が地面や木々を焦がす。

衝撃波は、辺り一面を更地にしてしまう程の威力で、ぶつかり合った瞬間、反発するかの様に双方が弾け飛んだ。

数十メートル以上吹き飛ばされたユナは、木々をへし折りながら何度も地面を転がり、巨大な岩に背中をぶつけて漸く止まる事が出来た。

背中に激痛が走り、呼吸が止まりそうになると同時に、両腕に違和感を覚える。

腕が・・・折れてるニャ？

ユナの両腕は完全に骨が粉砕しており、壊れた操り人形の様にブラブラと垂れ下がっていた。

「・・・ッ！？」

全身がズタズタに切り裂かれており、大量の血が地面を赤く染めていた。

こんな大怪我したのは久しぶりだニャ。

立ち上がる事も出来ずに、ユナは顔を上げて前を見た。

亡霊の騎士ファントムナイトも同じ様に吹き飛ばされており、左腕は粉砕され、装甲が剥がれ、大剣も真ん中で折れていた。

「ふむ、獣如きと互角とは・・・情け無くなるワイ」

亡霊の騎士ファントムナイトのセリフにイラッとするが、軽口を叩く余裕も無いユナは、深呼吸をして傷の回復に集中する。

「何ボーっと突っ立ってるのよ！さっさとトドメを刺しなさい！」

遠くからクロエが叫んでいるのが聴こえる。

先程の衝撃に巻き込まれたのか、かなり遠くまで吹き飛ばされた様で、ヨロヨロとフラつきながら木にもたれかかっていた。

ウチが生きてるから、随分と焦っているみたいニャ。

必死にトドメを刺す様に亡霊の騎士ファントムナイトに命令を下すクロエの姿を見て、ユナはゆっくりと立ち上がった。

「あんニャロ！」

怒りと気合いで立ったが、まだ頭がクラクラと揺れており、目眩がする。

ウェアウルフが持つ超回復の力により、ズタズタに引き裂かれた傷口は徐々に塞がり始めており、折れた腕も繋がり始めていた。

もう少しで良いから・・・回復する時間が必要ニャ。

満身創痍のユナは、荒い息を吐きながらも、その瞳から闘志は消えていなかった。

「ふむ・・・どうしたものか」

亡霊の騎士ファントムナイトは、何かを考え込むかの様に顎に手を当てて、ユナとクロエを見比べていた。

亡霊の騎士ファントムナイトもかなりのダメージを負っているものの、生身の肉体では無いので、痛みや疲労は無く、片腕と折れた剣でも十分に戦う事が可能だった。

今の状況で襲われたら・・・不味いニャ。

警戒と緊張からユナの頬を冷や汗が伝った。

「アンタを召喚するのに、どんだけ生命力を使ったと思っているのよ！？しっかり最後まで仕事しなさいよね！言うこと聞かないと、無に帰すわよ？」

遠くでは、相変わらずクロエが叫いており、微動だにしない亡霊の騎士ファントムナイトに文句を垂れていた。

相変わらず生意気な女だニャ。

生意気なクロエに召喚された亡霊の騎士ファントムナイトに少しだけ同情しそうになる。

すると、亡霊の騎士ファントムナイトは折れた大剣を自らの胸に向けた。

「ふむ・・・生意気な小娘に効く良い嫌がらせを思い付いたワイ」

そう言い残して、亡霊の騎士ファントムナイトは、自らの胸を貫いて自決した。

「・・・は？」

核を破壊された亡霊の騎士ファントムナイトは、黒い塵となって消えてしまった。

余りに予想外な行動に理解が追いつかず、クロエは唖然とした表情で放心していた。

「ニャハッ！」

その光景を見ていたユナが満面の笑みを浮かべた。

理由は分からないけど・・・厄介なブリキの騎士は居なくなったみたいニャ。

ユナは両腕を見て、拳を握ったり、開いたりして動作を確認する。

折れた骨はくっ付いたニャ。

傷口も・・・問題無いニャ。

脳内ではアドレナリンが溢れ出ており、興奮が抑えられない。

まるで獣の様な目付きでクロエを睨んだ瞬間、クロエの顔が青ざめていくのが分かった。

「・・・ヤバ」

クロエは、咄嗟に逃げ出そうと踵を返した。

「逃すわけ無いニャ！」

一瞬にして距離を詰めたユナは、右手をクロエの顔の真横を掠めて木の幹に壁ドンして行く手を阻んだ。

「そんな・・・もう、力が・・・」

クロエは力を使い果たしたのか、抵抗も出来ずにその場にへたり込む。

「ニャハハ！随分と派手に反抗してくれたニャ？」

ユナは、クロエの胸ぐらを掴んで持ち上げると、顔と顔がくっ付く距離に近付けて、黄金の瞳を覗き込む。

「これから時間をかけてゆっくり、骨の髄まで、魂すらも支配してやるニャ！毎朝、ウチの足の指を一本一本まで、舌で舐めるのが日課になる様に躾けてやるから覚悟するニャ！」

クロエの表情が絶望に染まっていく瞬間、ユナはかつてない幸福感で満たされていた。

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