元公爵令嬢の冒険者ライフ

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第9話 下水道

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下水道の浄化を開始して、既に1時間が経過していた。

何度も糞溜に落ちたクロエは、自身の浄化は諦めて、汚物塗れになることも気にせず、下水道の浄化に集中していた。

思った通り、浄化魔術は下水道清掃に最適だった。
光を当てた場所から汚れが剥がれ落ち、見る見る汚水が清水に変わっていくので、1時間でかなり奥深くまで進む事が出来た。



しかし、浄化魔術は魔力を体外へ放出するので、魔力を体内で循環させる身体強化と比べて燃費が悪く、既に魔力が尽きかけていた。

「フゥ・・・そろそろ潮時ね」



魔力欠乏症になれば、頭痛、目眩、吐き気、脱力感、昏睡などといった症状が出て、最悪死に至る可能性があるので、無理は禁物だ。

「それにしても、まだまだ先があるって、どれだけ広いのよ?」

港町であるカナンの下水道は何層にも分かれており、最終的には海へと繋がっている。
そのせいか、時折、貝の様な軟体生物やタコの触手の様な生物が床や壁を這っており、次第に数が増えていた。

「海の魔物が流れ込んで来たりしないわよね?」

当然、柵などで魔物の侵入を防ぐ措置は取っているとは思うが、小さな生物の侵入まで完全に防ぐ事は出来ない。

そして、残念な事にクロエの予感は当たっていた。

首筋に嫌な気配を感じたクロエは、背後を振り返る。

「キャアッ!?な、何よこれ!?」

それは、巨大な触手型モンスターだった。
天井から垂れ下がる様に無数の触手がうねうねと蠢いており、頭上からクロエに襲い掛かった。



「き、気持ち悪い!」

触手の表皮はヌルヌルとした粘液を纏っており、蛇の様に身体に絡み付いてきた。
そのまま床に押し倒されたクロエは、瞬く間に手足を拘束されて、身動きを封じられた。



「アッ・・やだ!服の中に入って来ないでよ!」

触手は、何かを探すかの様に服の隙間から侵入し、クロエの身体を弄り始めた。

「ちょっと、待って!そこはダメだから!」

触手型モンスターの種類は多岐に渡っており、固有名称を持たない種類も多い為、一般的に総称して触手型モンスターと呼ばれている。
触手型モンスターの共通する習性として、異種族の雌を苗床にして繁殖を繰り返す事が確認されていた。

魔術学園の図書館で読んだ魔物図鑑の知識を思い出したクロエは、血の気が引いていく音がした。

「もしかして、私、今・・・触手の苗床にされかけてるの!?」

触手型モンスターは、獲物を捕縛すると、生きたまま巣穴に持ち帰り、腸内に卵を植え付けて、死ぬまで孕み袋として触手を産ませ続ける。



「嫌!死にたくない!」

クロエは、必死に頭をフル回転して、触手の拘束から抜け出す方法を考えた。

「フゥンンッ!」

身体強化をして無理矢理引き剥がそうとするが、触手は一本一本がクロエの腕より太く、筋肉繊維の束の様な構造をしており、引き千切る事も出来ない。

「アッ・・ダメッ!ヒャアッ!?」

その間に触手は徐々にクロエの穴に近付きつつあった。

クロエが使える光属性は下級までであり、攻撃に使える魔術は未だ使えない。
そこで、クロエは、自分が持つもう一つの属性である闇属性を思い出した。

「どうしよう・・・使っても大丈夫かな?」

しかし、クロエは闇属性の使用を躊躇していた。

闇属性は、強力な副作用を伴う事から、魔術学園では闇属性の使用を禁止していたからだ。

「ふグゥッ!?」

遂に触手の先が、クロエのお尻の穴に触れた瞬間、クロエの中で覚悟が決まった。

「このまま触手の苗床にされるくらいなら使ってやるわ・・・生命力吸収エナジードレイン!」

体内に眠る闇属性の魔力を開放した瞬間、クロエの全身を禍々しい闇のオーラが包み込んだ。
闇属性の性質は負のエネルギーであり、生き物に触れる事で生命力を奪い吸収する効果があった。

「ギギィッ!?」

当然、クロエの全身に巻き付いていた触手は、闇のオーラに触れており、踠き苦しみ出した。
それと同時に、クロエは凄まじい快感と興奮で脳が朦朧とする。

触手から奪った生命力は、当然、クロエの体の中に吸収されていき駆け巡る。
全身が太陽の様にカッと熱くなり、力が漲って来るのと同時に、飢えと渇きを覚えた。
まるで乾いた砂漠に水を垂らしたかの様に、喉の渇きは満たされず、もっと命を吸わせろと肉体が叫んでいる。

生命の味はこの上なく甘美で、媚薬の様に快感と興奮を齎らすと同時に、強力な中毒性を持っていた。

「アハッ・・・美味しい!」

クロエは、黄金色の瞳を輝かせて、笑みを浮かべた。
奪った生命力を魔力に変換する事で、闇のオーラが一気に膨れ上がる。

膨大な闇のオーラに包み込まれた触手は、徐々に萎んでいき、最後には干からびたミイラの様に変わり果てていた。

「あれ・・・倒したの?」

生命力を吸い尽くされた触手の死体を見て、クロエは残念そうな表情を浮かべた。

「・・・もっと吸いたかったのに」

クロエの喉の渇きは、満たされてはいなかった。
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