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第7話 宿屋
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倉庫の片付けを始めて、1時間以上が経過していた。
一つ一つ重たい木箱を持ち上げて、棚に運び入れるのは、身体強化を使用しても、重労働である事には変わりは無い。
木箱を運ぶクロエの額からは滝の様に汗が流れ出ていた。
ワイシャツは汗で張り付き、パンツまでグッショリと濡れて気持ちが悪い。
それでも、負けん気が強いクロエは、最後までやり遂げようと、黙々と作業を続けていた。
その表情は真剣そのもので、少しでも気を抜いたら身体強化の効果が切れてしまいそうだった。
身体強化を1時間以上継続して発動した事は無かったが、想像以上に集中力が必要で、全身に纏う魔力をコントロールし続けなければ、バランスを崩してしまう。
また、体力の消耗以上に魔力消費が激しく、全身が気怠い。
「や、やっと終わった」
結局、全ての荷物を棚に仕舞うのに、2時間以上掛かってしまったが、なんとかやり遂げる事が出来た。
筋肉が痙攣して手足はガクガクと震えており、立っているだけでも辛い。
「おや、本当に全部片付けたのかい?」
クロエの様子を見にきた店主は、整理された倉庫を見て驚きの声を上げた。
まさか、クロエ一人で全ての荷物を片付けられるとは思っていなかった様で、感心した様に棚を見上げていた。
「ふぅ・・・これで依頼は完了よ!」
冒険者ギルドに戻ったクロエは、受付の老人に店主から貰った依頼完了のサインを見せた。
「報酬の5,000イエンだ」
受付の老人から手渡された金を握りしめたクロエは満面の笑みを浮かべた。
「これが、私が稼いだお金・・・エヘヘ」
初めて自らの手で金を稼いだという事が嬉しくて仕方がなかった。
早速、今夜の泊まる宿を探す為にクロエは大通りに向かった。
「・・・宿屋って、こんなに高かったんだ」
安宿だと思って入った宿屋は、どれも一泊3万イエン以上の値段で、到底、今のクロエには払えず、受付で門前払いをされてしまった。
お金が無くて追い出される事がこんなに恥ずかしい事だとは考えた事も無かった。
街角の窓ガラスに映る自分の姿が視界に入ると、クロエは立ち止まって、自分の姿を眺めた。
白いシャツは泥と汗でぐちゃぐちゃに汚れており、スカートはぼろぼろで、髪の毛も汗で張り付いて見窄らしく見えた。
周りを見れば、煌びやかな服装の貴族令嬢や身なりを整えた裕福層の人間が多く行き交っており、今の自分が酷く場違いに感じて恥ずかしくなってきた。
「・・・もっと安い宿を探さないと」
先程まで自分で金を稼いだ事に浮かれていたクロエの表情は曇ってしまっていた。
一生懸命働いても、この程度の宿にも泊まれない価値しか自分には無いんだと、自信を喪失してしまいそうになる。
小銭を稼いで喜んでいた自分が恥ずかしくなり、暗く人通りの少ない貧民街へと足が進んで行った。
結局、クロエが泊まることになった宿は、路地裏にある薄汚れたボロい宿屋だった。
「・・・汚い」
嫌な目付きをした宿屋の主人に案内された部屋は薄汚いワンルームの部屋だった。
部屋の掃除はされておらず、床は物やゴミが散らかりっぱなしで、ベッドは汚らしいシミや汚れがこびり付いていて臭い。
前に使っていた客の忘れ物やゴミがそのまま放置されており、管理などされていない。
「こんな場所で寝たら、病気にならないかしら?」
クロエは、顔を青ざめながらも、疲労感に耐えられずベッドの上に座り込んだ。
こんなゴミ屋敷の様な部屋ですら、一泊3,000イエンもした。
しかも、宿屋の主人が夜食として渡してくれたのは、硬いパンと具の無い薄いスープだけだ。
公爵家で食べていた柔らかい白パンとは違い顎が疲れる程の硬さで、中々噛み切れないし、飲み込むのに苦労した。
スープもお湯の様に薄味だが、胃の中を膨らませるためだけに飲み干した。
「もう・・・限界」
腹が満たされた事で、一気に睡魔が襲ってきた。
激しい疲労感と心労でもう何もしたく無い。
クロエは、そのまま倒れ込む様に眠りについた。
翌朝、クロエは、全身の痛みと倦怠感で目を覚ました。
「うぅ~、身体中が軋んでる見たい」
倉庫の片付けは、想像以上に身体に負担が掛かっていた様だ。
暫く立ち上がる事も出来そうに無いので、治癒魔術で、少しずつ筋肉の損傷を回復する事にした。
「なんだか・・・痒い」
治癒魔術で筋肉痛の痛みが和らぐと、今度は全身に痒みを感じてきた。
「汚いベッドで寝たからかな?」
不潔で不衛生なベッドで寝たせいか、全身が痒くて仕方がない。
ダニやノミなどの虫や菌が繁殖しているのかも知れない。
「そう言えば、昨日は風呂も入ってなかったわね」
クロエは、身体を洗うために渡されていた桶に水を溜めて入る事にした。
「ウゥッ!?冷たい!」
公爵家の広くて暖かいお風呂とは違い水は冷たく、桶はクロエが何とか下半身が入る狭さだ。
それでも身体を洗わないよりはマシだ。
下着姿になったクロエは、水に浸かって、ゆっくりと全身の汚れを洗い流していった。
しかし、桶から上がろうとして、ワイシャツとスカートが泥と汗で汚れている事を思い出した。
「せっかく身体を洗っても、汚い服を着たら意味がないわね・・・そうだ!浄化魔術を使えば良いじゃん!」
クロエの持つ光属性の魔力には、治癒以外にも汚れや病を治す浄化の効果があった。
公爵家にいた時は使う必要も機会も無かったので、すっかり忘れていた。
一つ一つ重たい木箱を持ち上げて、棚に運び入れるのは、身体強化を使用しても、重労働である事には変わりは無い。
木箱を運ぶクロエの額からは滝の様に汗が流れ出ていた。
ワイシャツは汗で張り付き、パンツまでグッショリと濡れて気持ちが悪い。
それでも、負けん気が強いクロエは、最後までやり遂げようと、黙々と作業を続けていた。
その表情は真剣そのもので、少しでも気を抜いたら身体強化の効果が切れてしまいそうだった。
身体強化を1時間以上継続して発動した事は無かったが、想像以上に集中力が必要で、全身に纏う魔力をコントロールし続けなければ、バランスを崩してしまう。
また、体力の消耗以上に魔力消費が激しく、全身が気怠い。
「や、やっと終わった」
結局、全ての荷物を棚に仕舞うのに、2時間以上掛かってしまったが、なんとかやり遂げる事が出来た。
筋肉が痙攣して手足はガクガクと震えており、立っているだけでも辛い。
「おや、本当に全部片付けたのかい?」
クロエの様子を見にきた店主は、整理された倉庫を見て驚きの声を上げた。
まさか、クロエ一人で全ての荷物を片付けられるとは思っていなかった様で、感心した様に棚を見上げていた。
「ふぅ・・・これで依頼は完了よ!」
冒険者ギルドに戻ったクロエは、受付の老人に店主から貰った依頼完了のサインを見せた。
「報酬の5,000イエンだ」
受付の老人から手渡された金を握りしめたクロエは満面の笑みを浮かべた。
「これが、私が稼いだお金・・・エヘヘ」
初めて自らの手で金を稼いだという事が嬉しくて仕方がなかった。
早速、今夜の泊まる宿を探す為にクロエは大通りに向かった。
「・・・宿屋って、こんなに高かったんだ」
安宿だと思って入った宿屋は、どれも一泊3万イエン以上の値段で、到底、今のクロエには払えず、受付で門前払いをされてしまった。
お金が無くて追い出される事がこんなに恥ずかしい事だとは考えた事も無かった。
街角の窓ガラスに映る自分の姿が視界に入ると、クロエは立ち止まって、自分の姿を眺めた。
白いシャツは泥と汗でぐちゃぐちゃに汚れており、スカートはぼろぼろで、髪の毛も汗で張り付いて見窄らしく見えた。
周りを見れば、煌びやかな服装の貴族令嬢や身なりを整えた裕福層の人間が多く行き交っており、今の自分が酷く場違いに感じて恥ずかしくなってきた。
「・・・もっと安い宿を探さないと」
先程まで自分で金を稼いだ事に浮かれていたクロエの表情は曇ってしまっていた。
一生懸命働いても、この程度の宿にも泊まれない価値しか自分には無いんだと、自信を喪失してしまいそうになる。
小銭を稼いで喜んでいた自分が恥ずかしくなり、暗く人通りの少ない貧民街へと足が進んで行った。
結局、クロエが泊まることになった宿は、路地裏にある薄汚れたボロい宿屋だった。
「・・・汚い」
嫌な目付きをした宿屋の主人に案内された部屋は薄汚いワンルームの部屋だった。
部屋の掃除はされておらず、床は物やゴミが散らかりっぱなしで、ベッドは汚らしいシミや汚れがこびり付いていて臭い。
前に使っていた客の忘れ物やゴミがそのまま放置されており、管理などされていない。
「こんな場所で寝たら、病気にならないかしら?」
クロエは、顔を青ざめながらも、疲労感に耐えられずベッドの上に座り込んだ。
こんなゴミ屋敷の様な部屋ですら、一泊3,000イエンもした。
しかも、宿屋の主人が夜食として渡してくれたのは、硬いパンと具の無い薄いスープだけだ。
公爵家で食べていた柔らかい白パンとは違い顎が疲れる程の硬さで、中々噛み切れないし、飲み込むのに苦労した。
スープもお湯の様に薄味だが、胃の中を膨らませるためだけに飲み干した。
「もう・・・限界」
腹が満たされた事で、一気に睡魔が襲ってきた。
激しい疲労感と心労でもう何もしたく無い。
クロエは、そのまま倒れ込む様に眠りについた。
翌朝、クロエは、全身の痛みと倦怠感で目を覚ました。
「うぅ~、身体中が軋んでる見たい」
倉庫の片付けは、想像以上に身体に負担が掛かっていた様だ。
暫く立ち上がる事も出来そうに無いので、治癒魔術で、少しずつ筋肉の損傷を回復する事にした。
「なんだか・・・痒い」
治癒魔術で筋肉痛の痛みが和らぐと、今度は全身に痒みを感じてきた。
「汚いベッドで寝たからかな?」
不潔で不衛生なベッドで寝たせいか、全身が痒くて仕方がない。
ダニやノミなどの虫や菌が繁殖しているのかも知れない。
「そう言えば、昨日は風呂も入ってなかったわね」
クロエは、身体を洗うために渡されていた桶に水を溜めて入る事にした。
「ウゥッ!?冷たい!」
公爵家の広くて暖かいお風呂とは違い水は冷たく、桶はクロエが何とか下半身が入る狭さだ。
それでも身体を洗わないよりはマシだ。
下着姿になったクロエは、水に浸かって、ゆっくりと全身の汚れを洗い流していった。
しかし、桶から上がろうとして、ワイシャツとスカートが泥と汗で汚れている事を思い出した。
「せっかく身体を洗っても、汚い服を着たら意味がないわね・・・そうだ!浄化魔術を使えば良いじゃん!」
クロエの持つ光属性の魔力には、治癒以外にも汚れや病を治す浄化の効果があった。
公爵家にいた時は使う必要も機会も無かったので、すっかり忘れていた。
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