元公爵令嬢の冒険者ライフ

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第6話 見習い冒険者

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冒険者登録に必要な情報は想像していた以上に少ない。
渡された登録用紙の記載欄は「名前」、「年齢」、「特技」、「魔力属性」の4つの項目だけであり、名前以外は必須では無い。

冒険者になる人間は、流れ者や孤児に元犯罪者なども多く、虚偽の記載をしたり身分を偽る事は当たり前なので、細かく書かせたところで、余り意味は無いのだ。

冒険者ギルドは、依頼人と冒険者の仲介をするだけであり、依頼を完遂してくれるなら、冒険者が何者であろうと関係無い。

あくまで、冒険者に求められるのは、依頼を遂行する実力だけであり、実績に基づいて与えられるランクだけが正義の実力主義の世界だ。

「15歳か・・・若いな」

老人はクロエが提出した用紙を確認すると、少し驚いた様に目を見開いた。

「希少属性の複数持ちか・・・余り他人には言わねー方が良いぞ?」

クロエが提出した用紙には魔力属性の欄に光と闇属性が記載されていた。

魔力自体は殆どの人間が体内に保有しているが、殆どは無属性の魔力であり、訓練したところで、基礎魔術程度までしか習得することは出来ない。

しかし、1割の確率で魔力に属性が付与されて生まれてくる者達がいる。
魔力属性には、火・風・水・土の四大属性に光と闇の希少属性を加えた6つの属性が存在する。

属性持ちの99%は四大属性のいずれかであり、残り1%の確率で光か闇属性が生まれる。

つまり、希少属性を持つ者は1000人に1人しか生まれない。
更に2つの属性を持つ複数持ちは0.001%の確率となっており、希少属性を2つ持っている存在はクロエ以外には確認されていない。

そんな希少属性の複数持ちの美少女が居ると分かれば、色んな意味で目立ち過ぎる。
貴族や奴隷商人、海賊や他の冒険者から狙われる可能性も高いと考えた老人は、直ぐに用紙を魔導具の様な装置に読み込ませた。

「冒険者証だ・・・失くすなよ」

受付の老人から渡されたのは、魔鉱石で作られた金属のプレートだった。

プレートの表面には「D」と記載されており、裏面を見ると「クロエ」の名が刻まれていた。

冒険者は、5つの段階にランク付けされており、Dは最も低い見習い冒険者の証だった。

Sランク:英雄
Aランク:精鋭
Bランク:熟練
Cランク:一般
Dランク:見習い

「アハハ・・・これで私も冒険者の一員になったのね!」

まだ、何も成し遂げてはいない見習いだが、全てを失ったクロエにとって、身分が出来たという事がどうしようも無く嬉しかった。
やはり、自分が何者でも無くなると言うのは不安だ。
やっと地に足が着いた様な気がして、ホッとした瞬間、クロエのお腹がグゥ~と鳴った。

「そう言えば、朝から何も食べてないんだった」

クロエは、空腹なお腹を抑えて、恥ずかしそうに頬を赤く染める。

「取り敢えず、仕事を受けてご飯代だけでも稼がないと!」

クロエは、掲示板に貼り出された依頼書を一つ一つ吟味して行く。
依頼書の右上には、ランクが表示されており、難易度により、受注できる冒険者の最低ランクが決められていた。

しかし、Dランクの依頼となると、どれも雑用の様な依頼が多く、金払いも悪いモノが多かった。

「下水道掃除にドブネズミの駆除か・・・夜の森に入るのは危険だから、薬草採取は無理だし・・・どうしよう」

想像していた以上に冒険者の依頼は重労働だったり、危険だったりと、普通の人が受けたがらない様な仕事が多かった。

それは、ある意味必然だ。
誰もやりたがらない仕事だからこそ、金を払えば何でもする冒険者に依頼するのだ。

楽な仕事をわざわざ金を払ってまで冒険者に依頼する酔狂な者はいない。

武器も防具も無い状態で魔物退治なんて出来るわけもなく、雑用と言えば、下水道の掃除や倉庫の片付けなどしか無く、選択肢は限られている。

「・・・倉庫の整理か」

クロエが受注した依頼は、雑貨屋の倉庫の片付けだった。
報酬は5,000イエンと安いが、今のクロエには、それくらいしか出来そうな仕事が見つからなかった。

「倉庫の片付けに来ました冒険者のクロエです」

クロエは、依頼の雑貨屋に着くと、店主のおばちゃんに挨拶をした。



「お前さんが冒険者?」

屈強な冒険者の男が来ると思っていた店主は、クロエの小柄で細い身体をジロジロと見つめた後、あからさまに残念そうな表情を浮かべた。

「そうよ!何か文句でもあるの?」

店主の態度にムッとしたクロエは、傲慢で負けん気が強い性格のせいで、つい口調が強くなってしまう。

「そんな細い手足で仕事なんて出来るのかい?」

店主のおばちゃんは、不満そうに質問する。

「当たり前でしょ!さっさと倉庫に案内しなさい!」

相手が平民の商人だからか、つい貴族だった時の癖で偉そうな態度になってしまっていた。

「はぁ、しょうがないね・・・払った金の分はしっかり働いておくれよ!」

店主のおばちゃんは、溜息を吐いてクロエを倉庫に案内した。

「ここの箱を全部棚に並べたら依頼完了だよ」

店主が指差したのは、乱雑に積み上げられた木箱の山だった。

「ここの箱を全部って・・・百個近く有るんだけど?」

想像していた以上に量が多く、クロエの頬がひくついた。

「じゃあ、頑張んな!」

そう言い残して、店主のおばちゃんは、店に戻って行ってしまった。

「取り敢えず、やるしかないわね!」

空腹を我慢して、クロエは気合いを入れて、木箱を持ち上げようとした。

「ンンッ!」

しかし、木箱は重く、一つ20kg以上あり、クロエの細い腕では、持ち上げる事すら出来ない。

「・・・ここで諦めたら笑い者よ」

先程、出来ると豪語してしまった以上、今更無理だなんて言えない。
それに、依頼を完遂出来なければ、当然、報酬は貰えないし、夜ご飯すら食べることが出来なくなる。

諦めるという選択肢は、クロエには無い。

「こんな事なら、もっと鍛えておけば・・・そうだ!身体強化すれば良いじゃん!?」

クロエは、全身に魔力を纏い身体強化を発動した。
路地裏で襲われた時とは違い、今回は緊急時では無いので、魔力を絞り、力を微調整する事で肉体への負担を最小限に抑えて、木箱を持ち上げるのに必要な分だけ強化した。

全身に力が漲り、体が軽くなる。

「や、やった!持ち上がった!」

先程まではビクともしなかった木箱が簡単に持ち上げる事が出来たクロエは、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
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